地獄のエリア810(ハチヒトマル)~ 魔法王国の少女と機械帝国の少年兵   作:三流FLASH職人

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第21話 敵国で見て、知って、経験する

 パッ、パパッ、ジジジジジ……

 

 工場に火花が咲き、天井までを瞬くように照らす。その花のすぐ側にいるのは、私カリナ(中身は兵士(ステア))と、この工場主の親子。

 

「よしよし。さすが帝国の兵士さん、飲み込みが早いねぇ」

「どうもー」

 私は今、エンジンを下ろしたバギーカーの下の骨組みの『ようせつ』と言う直しをやっている。もろくなってひび割れた鉄の棒に、別の鉄を溶かして流し込む作業。

 

 なんでも機械帝国の力の根源である『電気(エレキ)』とかいう力を使って、鉄を瞬時にスパークさせて溶かして、割れ目に流し込んで固める作業みたい……なにこれ、まるで魔法じゃないの、などと思いながらも、バギーカーの中に頭を突っ込んで、目に見えるひび割れに鉄の火花をあてがい、もろそうな所を埋めて行く。

 

 ちなみに火花が飛ぶ瞬間はめちゃくちゃまぶしい、なのでギャラン君がかぶっていたゴーグルを使わせてもらっている。被った時は何も見えないほどん真っ暗けっけだったけど、なるほどこの作業の時には無いと辛いわね。

 

 一通り補強が終わると、今度は下ろしたバギーカーのエンジンの分解だ。この二人の目的は、バギーカーに積まれているエンジンを解体して、その優秀さの秘密を知ることで、自分たちが作っている鳥機械が積むエンジンへの参考にしたいそうだ。

 ひとつひとつネジを回して外し、外についている色んな小さな部品を取り除いていく。

 

(……それにしても)

 こうして機械の分解なんて作業をしていると、思う事がふたつある。ひとつはこの体、ステア・リード君の体のたくましさや頑丈さだ。ネジを外すスパナを回す力の強さや、重い部品を持ち上げる時なんかに特にそれを感じる。この力強さこそが、男の人の所以(ゆえん)なんだなぁ、と実感せざるを得ない。

 

 もうひとつ驚くのは、この機械帝国の生み出した機械の精密さ、その組み合わせの見事な発想と、完成度の高さだった。

 そもそもこのネジっていう発想からしてすごい。鉄の棒に螺旋の切り込みを入れて、回す方向で締めたり緩めたりするだけでもどれだけー、って思う。

 

 しかもこのエンジンっていう機械は、地面の中から掘り出した『燃える水』を使い、中でひたすら爆発を繰り返していて、それを使ってぐるぐる回る力を生み出してるんだとか……王国じゃ絶対出ない発想よね。コレも帝国の魔法?

 

「うぉー、すごいなこりゃ。こんなところ肉抜きしてるがや」

「このざいりょう、かるーい。なんでできてるの?」

 親子二人が外した部品を吟味しては感心しきりだ。なんでもこのバギーカーは帝国首都の大きな『せいさんがいしゃ』とかいう集団チームの作ったもので、その仕組みは普通の人では絶対にまねできないほど進んでいるそうだ。

 

 でも、それを分解して自分のエンジンの改造をいろいろ決めているこの二人も、やっぱすごくない? 未だに私なんかじゃチンプンカンプンだし。

 

 結局、解体したエンジンをふたたび合体させて、バギーカーに積み直した頃には、もうすっかり日も暮れていた。

 

「ステアにーちゃん、ひしょうたいかいの日までドラゲインにいるの?」

「うーん、わかんないよ。一応エリア810の兵士なんだし、仲間の所に帰って戦わなきゃいけないし」

 私の返しにがっかりするギャラン君。なんでも大会で機械に乗るのはこのギャラン君だそうだ、体重が軽い程飛ぶには有利なので、お父さんより彼が乗る方がより記録が期待で切るとの事。

 

 なのでその雄姿をぜひとも見て欲しいようだ。

 

「大会は一か月後だよ、そのくらいならいいんじゃないかな?」

 父のジャッコさんがそう言ってくれる。彼にとっても帝国の正規兵が応援してくれると力が入るとの事。魔女と戦うこの国の兵士は、市民にとっての英雄的存在なんだって。

 

 ……まぁ、実際にはその魔女と仲良くしてるんだけどね。

 

 

 翌朝、私は帝都に向けて出発すべく、このマグガイア工房を後にした。手を振って見送る二人に「できるだけ大会まで居るようにするねー」と返すと、ギャラン君が嬉々として飛び跳ねていた。これは何か理由を付けてでも、大会を見ないとねー。

 

「って、うわ! すごい……本当に良くなってる!」

 補強したバギーカーを運転して驚いた。今までよりずっと操縦しやすくなっただけじゃなく、エンジンまでずっと軽快に回り、今までよりもずんずん進んでくれる。

 

 それに……それを操縦してる私もまた、よりこの機械の事を分かっている。それがますます、この車を手足のように動かす事が出来てる気がしていた。

 それは、ただ念じれば飛べた魔法の力とは明らかに違う、自分で()()()()使()()()()()事への充実感だった。

 

 今まで、当たり前のように使っていた魔法。でもそれはこうして、手を油にまみれさせ、火花で鉄を繋いで、体内での爆発を実感して動かす機械に対して、あまりにも()()()()()()()力だった。

 

(魔法って……何なのかなぁ)

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

「はいよー。ニキアのスープとイラニのパン、それぞれ二人前ねー」

「あ、ありがとうございます」

 僕、ステア・リード(中身は魔女(カリナ))は、あれから出発して丸一日馬車を走らせ、日も落ちたので通りがかった街で一泊する事にして、宿屋で食事をとっているのだが……

 

「しかしそんだけよく食べられるねぇ、お嬢ちゃん正規の魔女さんだろ、太って飛べなくなっても知らないよ~」

 そう言ってコロコロ笑いながら去っていく給仕さん。そう、彼女には見えてないのだ。僕のヒザにちょこんと乗っかってる女の子、ナーナの事が。

 

 この街に入ってから、ナーナを目視する人は誰も居なかった。彼女の言う通り、女性にはその姿が見えないだけじゃなく、認識する事すら叶わないのだ。今もパンとスープを僕の膝の上でがっつくナーナを、彼女に食べられて減っていくパンやスープを、誰も()()()()()()()()のだ。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそーさまーしたー」

 明らかに僕より大きな声でそう言う彼女の声すら誰も聞いていない。本当に一体何なんだろうか、この女の子は。

 

「食後の散歩に行くけど、ナーナはどうする?」

「いくー!」

 両手をぐっと突き上げ、その勢いでふわりと浮かぶナーナ。ホントに綿毛みたいな子だなぁ。

 

 夜の街を歩いて見て回る。まず思うのは、本当にどっちを見ても女性ばっかだという事だ、僕たち機械帝国のまるで逆で、女性しかいない世界はなんか空気からして違う気がする。透明感があるというか、熱が無いというか……。

 

 で、もうひとつ特徴的なのが、自然にある物を上手く使って生活してると言う事だ。そもそも家からして、ほとんど自然に生えている木を大黒柱代わりにしてるし、道も人が歩いた後にだけ草が生えてない所がそのまま道になっている、いわゆる獣道の人間バージョンだ。ましてホウキで飛んでる人も多いので、ますます道路の意味が薄れている感じがする。

 

 そして、その街並みに魔法が見事に溶け込んでいるのも印象深い。歩かずに飛ぶ魔女は勿論のこと、明かりも火も水も大抵は魔法でまかなっており、無駄に力を使うことなく社会が成り立っている感じがすごくする。便利で楽そうだけど、その分エネルギッシュな感じに欠ける世界だな、なんて思った。

 

「そこのお嬢ちゃん、良かったら入浴していかないかい?」

 そう声をかけられたのは、街のはずれにある小川のほとりだった。すぐ先は崖になっていて、小川はそこに吸い込まれ滝になって落下している。

 

 老婆がにこにこ手招きしながら手招きしているその側には、『1入浴500マリカ』のカンバンが立てかけてあった。

 

「わーい、おふろーおふろー!」

 止める間もなくナーナが駆け出していく。でも当然その老婆にも彼女は見えておらず、相変わらずこちらに向けてニコニコしてるだけだ。

 

「仕方ないなぁ、ふた……いや、一人だけお願いします」

 そう言って皮の袋から500マリカコインを取り出す。これ一枚で一食済ませられる程度の価値だから、まぁ入浴台としては妥当かな。

 

 まいどありー、とコインを受け取った老婆は、僕を板張りの所に案内すると「じゃ、そこで服を脱いで」と言ってくる。えーと……風呂、どこ?

 いぶかしがりながらも裸になると、その老婆は私の服をかき集めると、そのまま川にぽい! と流した。

「え、え? えええっ!?」

 

「ほっほっほ、ここは洗濯もやっとるのじゃ。ほれ、お前さんも」

 そう言って今度は僕が、どぼぉん、と川に突き落とされた。

「え? なんか、ぬるい?」

 川の水は程よく暖かくて、その上なぜか全身がすっきりと洗われてる気がした。隣では自分の服を流したナーナがきゃっきゃっと水に流されるのを楽しんでいる。

 

 って、この先、滝じゃん!?

 

 そう思った時には僕もナーナも落下していた。ホウキもないし……これヤバいっ!

 

 どっぼおぉぉん!!

 

 幸いと言うか滝壺は深くて、水底に激突するような事は無かった。というか水温が完全にお湯だと思うんだけど……なんか違和感があるなぁ。

 

「ぷはぁっ!」

 なんとか水面まで顔を出す。滝壺のプールの縁に向かって泳ぎながら、僕はその違和感に気付いた。

 

(湯気が……たってない!?)

 そう、感じる温度は明らかにお湯なのに、水面に湯気が見えないのだ。

 

「おや嬢ちゃん、もう上がるんかい?」

 泉の際にいた老婆がそう言ってくる。あれ? この人さっきは上にいなかったかな?

 

「あ、あの……ここのお湯って、湯気が出て無いですけど」

「ああ、そりゃ上にいるワシの姉さの魔法じゃよ。嬢ちゃんの体温が低くされておるから、水がぬくく感じられるんじゃ」

 

 たっ、体温が、低く!?

 

「安心すりゃええ。泉から上がったら元に戻るわさ。ほれ、服の洗濯も終わったぞい」

 老婆が杖を振り上げたと同時、一緒に落ちて来た僕とナーナの服が水面から飛び上がり、近くにあった枯木に次々と引っ掛けられていた。ただ、ナーナの服だけは木に引っかからずに地面に落ちていたが……この老婆でもナーナは認識できないんだなぁ。

 

「せっかくじゃから、もっとゆっくりしてけばええ。ようぬくもってな」

 うーん、これが魔法王国の入浴と言う奴なのか、それともこのお婆さん達のオリジナル魔法での商売なのかな。

 まぁいいや。どうせならゆっくり温まって疲れを……

 

「あら、あなた正規の魔女さん? 珍しいわね」

「聖都レヴィントンでも見ないでしょー、こんな魔法温泉」

「美容にもいいのよ。知れ渡ると混雑して入れなくなるかも、あなた運がいいわ」

 

 目の前には、大勢の裸の女性……あ、あはは……

 

 ぶはぁっ!!

 

 

 目を覚ました時、僕は温泉のほとりに横たえられていて、またナーナに頬をつんつんされていた。

 

「鼻血噴き出して倒れるなんざ、聖都の魔女さんはのぼせやすいんじゃのう、ひょっひょっひょっ」

 

 ……あ、いや。うん、そう言う事にしておこう。

 

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