地獄のエリア810(ハチヒトマル)~ 魔法王国の少女と機械帝国の少年兵   作:三流FLASH職人

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鳥人間コンテスト開始~


第24話 飛翔大会

 私、カリナ(体はステア)がこのドラゲインに来てから約ひと月。あれからずっとこの帝都に滞在して、色んな経験をしてきた。

 

 ステアから聞いてた彼の友達にばったり出会って、少々の不自然さを疑われつつもなんとかバレすに切り抜けたり、機械帝国の『子供を作る技術』である国民生産センターを見学して、実質私たち魔法王国の『魔法胎樹』とあまり変わらない事にわりとがっかりしたり、この国の濃い食べ物に慣れたせいか体重が増えてしまい、ステア君に返す前に元に戻そうと連日運動を続けたりと、なかなかに波乱万丈な毎日だった。

 

 で、とうとう明日は大イベントの飛翔大会の開催だ。私はアトン大将軍の紹介で、審査員の一人に抜擢された、最前線のエリア810で戦う(ステア)に、その性能の吟味をしてほしいとの建前があるみたい。

 

 他にもあの技術開発課のハルさん達も審査に加わっている。とはいえ彼らはこの大会自体、あまり乗り気じゃないみたいだったけど……やっぱ色々と『裏の事情』を知ってるからみたい。

 つまりこの大会が、王族の力を示す為の出来レースである事を。

 

 今日は一日フリーなので、私は参加受付所に行って、エントリーしてる人の名簿をチェックする……えーっと、あ、あった!

「やっぱ来てたんだ。ジャッコさんとギャラン君!」

 私が旅の途中で出会った、マグガイア工房の親子さん。これは是非とも激励に行かなければ!

 

 帳簿に乗っている宿屋を探して、彼らにあてがわれている部屋のドアをノックする。

「どなたですかな?」

「私です、ステア・リードです。その節はお世話になりました」

「あー、ステアのにーちゃんだー!!」

 

 中からどたどた駆け寄って来る足音が聞こえたかと思ったら、バタンと勢いよくドアが開かれ、中からギャラン君が抱き付いてきた。

 

 あはは、なんかちっちゃい男の子に抱き着かれるのって特別感があるわぁ、王国じゃ絶対に経験できないよねコレ。

 

 挨拶を交わした後、ふたりはニヤニヤしながら荷車に乗っている荷物、シーツをかけた物の前に私を誘導する。

「これが、飛翔機械ですか?」

「へっへー。じしんさくだよー!」

「では御開帳と生きますか!」

 

 ふたりが、ふわさっ、とシーツを取る。中から現れたその純白の機械に思わず声が漏れる!

「うわ、キレイ……まるで白鳥ね」

「にーちゃん、なんでおどろくと、ヘンないいかたになるの?」

 

 あ、しまった。また女としての素が出ちゃった。でも無理もない、この機械は真ん中にエンジンを載せていて、左右にはまるで白鳥の羽のような翼が左右に広がっていて、いかにも『飛びそう』な予感を与えてくれる。エンジンの後ろには子供用のイスがあり、ここにギャラン君が乗って操縦するんだろう。

 

 逆にエンジンの前には、なにか三ツ又の風車みたいなものが付いてる。

「これ、何?」

「プロペラと言ってのう、ぐるぐる回して空気をかいて前に進むんじゃ。ほれ、船のスクリューの空気バージョンみたいなもんじゃよ」

 

 あーなるほど。あのバギーカーが水上モードになった時も、一番後ろにこんな風な、ぐるぐる回る風車みたいなのが付いていたなぁ、でも水ならともかく、空気をかいて飛べるのかなぁ。

 

「テストはしたんですか?」

「あー、それがのう。時間がのうて、エンジンとプロペラは回したんじゃが、まだ飛ぶテストはやっとらんのじゃ」

「だいじょーうぶ、まーかせてよ。すっごく風をかくんだから」

 

 にかっ! と笑うギャラン君だけど、テストなしかぁ。それで上手くいくんだろうか。そういえばアトン大将軍様にも「出場は止めておいた方がいい」なんて言われてたけど……

 

 この二人を見て、止められる人はいないよねぇ。どうかケガだけはしないでね。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 一夜明けて、いよいよ飛翔大会の日がやって来た。

 

 舞台はドラゲイン本土と要塞島を結ぶあの橋の上だ。欄干の一部が取り外され、そこから海に向かって飛び立って、要塞島の周りをぐるりと回って橋まで戻って来るコースになっている。

 

 でもハルさん曰く、一周できる機械はあの王子の機械ぐらいで、他の選手たちはみんな海に落っこちるだろう、って教えられた。うーん、魔女ならホウキに乗って10周くらい楽勝なんだけどなー。

 

 ちなみに選手も審査員も、王族や上級の軍属は要塞島側に、下級兵士と民間人は本土側に陣取っている。向こうの審査員は貴族の偉いさんや軍の最高幹部、アトンさんもあそこにいて、こっち側の審査員はゲストの私と、ハルさん始め開発部のみんなが務める。

 

 出場選手も向こうとこっちから一人づつ橋を渡り、真ん中の空き部分から交互にチャレンジすることになっている。

 

 パパパパー・パラッパパッパラー・ドンドンドンッ!

 ジャーンジャーンジャーン・ポロピロポロン♪

 

 ラッパや太鼓、シンバルやハープの音が響き渡る……って、この音大きすぎない?

 

”さぁ、それでは記念すべき機械帝国の飛翔大会、その第一回を開催いたします!”

 

 ひぇ!? 耳に痛いほどの大声が会場に鳴り響いた。そういえば帝国には声や音を大きく聞かせる機械があるって言ってたけど……これかー、スゴイなぁ色々。

 

 その後、皇帝陛下の訓示や、機械を作る集団(メーカーっていうらしい)の偉いさんの挨拶を経て、最後にアトンさんが軍代表として訓辞を述べる。

「打倒魔法王国の為に寛容なのは、空を我らが支配する事だ! 諸君らの奮闘に期待するものである!」

 

 拍手とシュプレヒコールが巻き起こる。うーん、実はアトンさんにその気が無いって知ったら大変なことになるだろうなぁ……

 

”それでは、エントリーナンバー1番! 機械帝国軍人、ガガラ・カクラキン選手、どうぞ!”

 

 いきなりガガラさんの出番だ。要塞島の門から出て来たのは、左右に翼を広げた横長の機械。その姿を見たこっち側の選手や観客が、その姿に思わず声を漏らす。

「なにあれ、めっちゃ翼長い!」

「あんなのでバランス取れるのか?」

「翼の強度が持たんだろ、アレじゃ」

 

 そう、その翼は左右にすっごく長いのだ。端から端まで7~8mはあるだろうか、でも真ん中、人が乗る所には前後2m足らずのサイズしかない。前後に比べて左右があまりにも広すぎない?

 

 ちなみにガガラさんは中央に座って、両足でペダルをぐるぐる漕いでいる。このドラゲインで見た『じてんしゃ』っていう、二つの輪で走る機械のそれを使って、鎖で繋いだ後ろのプロペラをぐるぐる回してる……なんか疲れそうだなー。

 

「では、スタートっ!」

 

 拡声器の声と共に、橋から海に向かって飛び出すガガラさんの大翼。その瞬間にぐっ、と沈んで、そのまま落下するかと思いきや、機械はふわりと持ち直して、勢いのままに海の上を進んでいく。

「お、おおおおおおっ!」

「す、すげぇ」

 

 こっち側の観客から驚きの声が上がる。ガガラさんの大きな翼は、風を受けて今にも折れそうになりながらも、風をしっかりと受け止めて機体を持ち上げ、彼が必死にこいでいるプロペラが前へ前へと風をかいて進む。

 

「いいね、さすが帝国軍人の機体だな」

「ワイヤーが効いているから翼が強度を保ててる、これはかなり行くぞ」

 

 ハルさん達がアゴをなでて感心する。そういやみなさんは今までの内輪の飛翔大会も見てるんだった……つまり、あの形が()()なの?

 

 やがて力尽きて海に落下するガガラさんと大翼。そこに小船が数隻近づいていき、彼と機械にロープを繋いで引き上げつつ、飛んだ距離を測定する。

 

”只今の記録、256メートルッ!”

 

 おおおー! と向こうとこちらの両方から歓声が上がる。うん、すごかった。魔法が使えない状態で人が飛ぼうとしたら、ここまで大掛かりな機械が必要なんだなぁ。

 

「ちょっとー、マジかよ」

「なんだありゃ……俺帰ろうかなぁ」

 

 と、民間側に並んでいる選手たちがぼやいていた。彼らの機体は軒並み小さめで、今見たガガラさんの大きな翼ですら飛び続けられずに落っこちたのを見て、自分たちの力不足を認識してるみたい。

 

 そして、その不安は現実となった。民間から参加した一番手の人は、なんと手製の翼を両腕に装備して、鳥の真似をして必死に羽ばたきながら落下していった。

”只今の記録、1メートル”

 

 会場からは笑いが起きるが、参加者にとっては他人事じゃ無かった。

 

 現にその後も、()()()()の参加者は、大きな翼や扇形の落下傘(パラシュートって言うらしい)なんかである程度の距離を飛んで見せたのに対し、こっちの民間側の参加者は、離陸とともに落下してて『飛ぶ』というには程遠かった。

 

「こうなるのが分かってたからなぁ」

 ハルさんが思わず漏らす。帝国の王族や軍属の側も最初はそうだったらしい。失敗を糧にさまざまな研究改良を続けて、ようやくここまで飛べるようになったんだとか。

 

 なのでそのノウハウの無い民間からの参加者は、ただ落っこちるばっかりだ。そう思うとこのイベントが何の夢もない、王族や貴族側の力の誇示の場にしか見えてこなかった。

 彼らがこの大会に消極的だったのは、こういう事情があったからなんだ。

 

 ざばあぁぁぁん!

 

 民間側の参加者がまた一人落っこちた。なんか一メートルくらいの柱の左右に翼が付いてて、中のエンジンでがっしゅがっしゅと羽ばたかせていたんだけど、さすがにアレは飛ぶはずもないわよねぇ……。

 

「おい、しっかりしろ!」

「機械の下敷きになって足を折ってるぞ、ゆっくり運べ!」

 

 そくり、と背筋が凍った。落ちた先が海だから大事にはならないと思ってたけど、機械と一緒に落ちる以上、こういう事は充分にあるんだ。

 

(……ギャラン君!)

 彼もエンジン付きの機械のはず。まして高速で回転するプロペラもついてる。もし彼が落っこちて、エンジンの下敷きになったり、外れたプロペラが体に当たったりしたら、大変なことになる!

 

 私はこの時初めて、アトンさんが「棄権させなさい」と言った意味が分かった。

 

 審査員席を立ち、橋のたもとに向かって駆け出す。マグガイア工房の出番はこの後すぐだ……今なら止められる!

 

「ギャラン君、ジャッコさんっ! 飛んじゃ駄目、棄権して!」

「なんでー?」

「翼が小さすぎるの。それじゃ落っこちちゃう、ケガするよ!」

「じゃがのう、エントリーした以上、棄権したら違約金を払わねばならんのじゃよ」

 え……何それ。聞いてないよ。

 

「この大会は打倒魔女を謳っておるでな。棄権するのは非協力的な行為と取られるのじゃろう」

「そんな……だからって」

「違約金はワシらに払える額ではない。最初の軍人の飛行を見た時から飛べぬのは分かっておったが、それでもやめるわけにはいかぬのじゃ」

「なんでー? ぜったいとべるよー」

 

 胸の奥に、まるで毒でも流し込まれたようなイヤな感じがした。

 

 機械帝国の事情、王族や貴族のメンツ、そして『魔女を超えたい、空を飛びたい』という帝国の人の思い。そんな束縛にがんじがらめにされて、ギャラン君はこの危険なチャレンジを止めることが出来ないのだ!

 

(どうして……どうして?)

 

(私たち()()が、あんなに()()()()()()()()のが、いけない、の?)

 

”ワッシャー選手の記録、175m!”

 彼らの一つ前の、向こう側の選手が飛行を終えた。次は……

 

”マグガイア工房、ギャラン・マグガイア選手、発射台へ!”

 

 白鳥のような機械を押して進むふたりの背中を見送りながら、私はただ呆然と立ち尽くすしか無かった。

 

「あ、いたいた。ステア君、審査員席に戻って!」

 かけつけたハルさんに手を引かれて席に戻る私。その間も私の心臓はバクバクと早鐘を打ち続けていた。

 

 お願い、ケガしないで!

 

 発射台についた彼らの機体『白鳥号』がエンジンを始動する。プロペラが豪快に回り始め、バババババという音と共に、後方に強烈な風を巻き起こす。

 

「惜しいな、いいエンジンとプロペラじゃないか」

「あれで翼がもっと長けりゃなぁ」

 ハルさん達が白鳥号を見て残念そうにそう漏らす。彼らの目から見てもあの左右1メートルほどの翼じゃどうにもならないのが分かってるみたいだ。

 

 ”スタートっ!”

 合図とともに、後方でブレーキレバーを握っていたジャッコさんが、それをぐっ、と引き下ろす。瞬間、プロペラがかき出す力によって、。白鳥号は前方に力強く走り出し……そして、空中に投げ出された。

 

(お願い、飛んでっ!)

 

 手を噛み合わせて祈る。その向こうに見えたのは……

 

 

――両方の翼がへし折れて、橋から真っすぐに落下していく白鳥号の姿だった――

 

 

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