地獄のエリア810(ハチヒトマル)~ 魔法王国の少女と機械帝国の少年兵   作:三流FLASH職人

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第51話 真実を知った時は、もう遅かった

 エリア810、隠し村。そこは今までの平穏が嘘のように、歓喜や悲鳴や動揺が渦巻いていた。

 

 男性のほぼ全員が、魔法を使えるようになっていたのだ。彼らの傍らに一人ずつ浮かぶ精霊のような少女、ナーナの加護によって。

 

 そして、それと引き換えに、この隠し村で生きてきた人たちの大切な恋愛儀式、()()()()()が、この瞬間に潰えた。

 男性全員が、生殖能力を失ってしまった。つまり()()()()()()()()()()()のだ。

 

「イヤッホーィ! 飛べるぜ飛べるぜ、ホウキに乗ってすっ飛ぶぜぇーっ!」

「おお! これが炎の魔法か……すごいものだな」

「ゴレムかぁ、これ使えば力仕事楽勝だよな。サンキューなお嬢ちゃん」

 ナーナに教えられるまま、早速魔法を使っている男たちは、その超常の力に酔いしれ、溺れていく。

 

「ちょっとアンタ……うそ、でしょ?」

「おい、ワシのムスコよ、打ち止めになってしまうとはなさけない!」

「おいこらぁこの小娘、俺のオトコを返せえぇぇぇぇ!」

「私って……魅力なかったのね。そんなに縮こまって」

「ちっ、ちがう! この娘が憑りついてからこうなったんだよぉー」

「どこにそんな娘いるのよ、よよよよよ……」

 その一方で、男性がAD(ふのう)になった事で、愛し合う夫婦や恋人同士が、そこかしこで破局を迎えていた。

 

 僕ステア(体はカリナ)とカリナ(体はステア)。それから事情を把握しているドラッシャさん夫妻やケニュさんが各所に別れて人を集め、今の状況を説明して回る。今、男がどんどん不能になっているのは、西の魔法の森から大量発生したこの精霊ナーナの影響なのだと。

 

 だけど、ナーナが見えない女性にはなかなか信じて貰えず、魔法が使えるようになった男性には「それなら、まぁいいか」とあまり執着されないケースが多い。

 

 

 地獄のエリア810。その実態は帝国兵と魔女が戦うフリして仲良くしていた。そして引退した人たちはこの隠し村に住み付き、カップルを得て子を産み育む。そんな本来の人間の営みを取り戻した『エリア810(ハート)』とまで揶揄される楽園だった。

 

 でも、それがいともあっけなく、音を立てて壊れていった。

 

「ねぇ、だったら……」

 一度集合した僕達に、ケニュさんがこんな提案をしてきた。

「男性のアレを元気にする魔法とか、発明すればいいわけよね」

 ずどどどどっ、と僕達は派手にずっこけた。いや、なにその愉快な解決法は。

 

 ……いや、もしそれが出来るんなら、確かに問題は解決するなぁ。

 

「そういや、魔法王国じゃゴレムステーキを男のアレに見立てて……おえええええ」

 男性器代わりにゴレム肉を使ってナニしていた女盗賊さんたちいたよなぁ。思い出したら怖気がしてきたよ。

 でも確かに勃たない男性のアレにゴレム棒のようになる魔法をかけたら、元気になる、のか?

 

「ラドール皇太子夫人! 男性を満足させるって言うか、より虜にする魔法を使ってたわ!」

 カリナが、あっ! と思い出してそう発する。彼女曰くラドール夫人は男性に通常時以上のエクスタシーを感じさせる魔法を使えるんだとか。

 

 ケニュさん、案外天才かも知れない。

 

「戦場へ戻ろう! 聖母マミー・ドゥルチ様やラドール皇太子夫人なら、その魔法を実現できるかもしれない!」

「そうね、とりあえず状況を報告して対策を練って貰わないと!」

 

 僕がカリナを乗せ、ドラッシャさんの奥さんがダンナを乗っけて、ケニュさんは単独でホウキを操って戦場の野営地へとすっ飛んでいく。魔女の本拠地『魔樹の館』もあそこに来るって言ってたし、まずはあそこで判断を仰ごう!

 

     ◇           ◇           ◇    

 

「なんだと、本当かそれは!」

「そんな、事が……本当に?」

 戦場まで戻って事の次第を報告する。魔法王国から来た新人魔女、あの四聖魔女ミールさんの血を引くハラマさんが触媒となって、大量のナーナを生み出そうとしている事。それが世界に放たれれば、世界中の男が魔法を使えるようになり、引き換えに性交不能の体になってしまう。

 そうなれば、世界の在り様そのものが変わってしまう事を。

 

「だから男を勃たせる魔法とか開発できません? そうすればとりあえず男女の営みは保たれますから!」

 ケニュさんが聖母様とラドール夫人に懇願する。彼女は機械帝国にガガラさんという想い人がいて、遠距離恋愛であるが故にかなり溜め込んでいるみたいだ。せっかく再会できても()()()()()()()()じゃさぞがっかりだろう。

 

「私の『快感の渦(エクスタシア)』は、あくまで精神に作用する魔法よ。男性の肉体に影響は与えられないわ」

「ゴレム魔法を応用して、固さだけなら復活させられるかもしれないわね」

 ラドール夫人のほうはダメみたいだけど、聖母様の検討するゴレム魔法の方は可能性がありそうだ。

 

 ……というか、何とも生々しい話だなぁ。今更だけど女の人って結構こういう話を平然とするのな、男の前でも。

 

 まぁでもそれならということで、聖母様やケニュさんに他の魔女さん達、あと研究のサンプルとしてドラッシャさんが奥さんと一緒に魔樹の館に入っていく。あの中には魔法研究の部屋がって、僕とカリナの体を元に戻す研究もしていたんだけど、やっぱ今はあっちが優先だよねぇ。

 

 僕とカリナは、ナギア皇太子やラドールさんを含めた帝国兵のみんなに色々と状況を知らせていた。イオタ司令官やギア隊長なんかは、男が勃たなくなる事よりもむしろ、男性が魔法を使えることで世界のパワーバランスが崩れる事の方を懸念していた。

「機械帝国が魔法の存在をそうそう認めるとは思えんが……男性にも使えるとなれば意識改革もあるやもしれんな」

「そうなれば魔法王国への侵攻もより過激になるかもしれん。そのへんアトン大将軍が上手くコントロールしてくだされば良いのだが」

「あるいは男が魔法を使えたら、魔女たちへの嫌悪や恐怖も和らぐだろう。なら女性へお近づきになりたいと思うものじゃないか?」

「でも現状、あの娘に憑りつかれた男は勃たないしなぁ」

 

 ナーナが憑りついた男性のアレが魔法で解決するなら、残る問題は両国の戦争だ。

 男女公平になってよかったよかったで和平すればいいけど、両国に根付いた相手への敵愾心を考えたらそう簡単にはいかないだろう。

 

 そんな事を喧々囂々(けんけんごうごう)と話し合っていた時だった。ひとりの男性がホウキに乗って野営地にやって来た。来た方向からして隠し村の誰かだろうと思っていたら、先日引退したばかりの、元第十小隊の兵站係、ニックさんだった。

 

「なぁステア、みんな……ちょっと気になったんだが」

 深刻な顔をしてそう言う彼に、全員が興味深げに耳を傾ける。

「隠し村でな、一部の男はこの娘に憑かれても、魔法が使えないんだよ」

 

 え? と顔を見合わせる皆。ナーナが憑りついたら全員が魔法を使えるようになるわけじゃ、ないのか?

「年取ったじーさんや、十歳以下の子供なんかは魔法が使えないんだよ。年寄りはともかく子供たちはみんな、どうしてできないの! ってギャン泣きしてるぜ」

 

 魔法は子供にとって特に夢の能力だ。女性なら幼い頃からそれを使えて、聖母様みたいな年齢になっても魔法が使えるのに、ナーナ憑きの男性は年齢制限があるのかな?

 

「勃たないやつは使えない、とか?」

「あーありそう。精通の来てない子供や、枯れちゃったじーさんは使えない、ってコトか」

 あははそりゃそうか、なんて笑いが起こる。その二つの要素は別々なんじゃなくて、連動しているって事……

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

 立ち上がって叫んだのはラドールさんだ。彼女はその顔を青ざめながら、まさかまさかと呟いて、何やら思考をまとめているようだ。

 

「魔法、魔力、ナーナ、男性も使える、勃たなくなる、そして……『ナナの御伽話』」

 ブツブツと唱え続けていた彼女はやがて、悲壮な顔をして顔を上げ、夫のナギア皇太子に、そして帝国兵全員にこう、言葉をこぼした。

 

「ねぇ、まさか……そのナーナって娘が憑りついた男って……その、()()()()()()()()()()()()()、なんてコトは、ないわよ、ね?」

 

 ……え?

 

 ぞくり、と一同に悪寒が走った。勃たなくなるというのは単に固くならないというだけじゃなく……

 

 子種を殺されて、魔力にされている?

 

()()()()()()! 人類を滅ぼすというアレか!!」

 ナギア皇太子が立ち上がってそう叫ぶ。帝国人なら誰もが知ってる、男性を魅了する人造女性により、世界人類が滅びたという怖い話。

 

「そうだよー」

 

 そうあっけらかんと答えたのは、ニックさんに憑いている緑髪のナーナだった。

 

「「えええええっ!?」」

 

 全員がずざっ! と立って後ずさりし、そのナーナを見る。ラドールさんだけには見えてないけど、全員の視線の先を追って見えない存在を感じ取っている。

 

「わたしがくっついたら、おとこのひとは『こどもの()()』をまほうのちからにかえられちゃうのー」

 

 その言葉に男性全員が思わず股間を押さえる。ということは、今聖母様たちが研究している『固さを復活する魔法』が出来たとしても……

 

「ねー、すてあにーちゃん。『ますたー』からのでんごん」

 

 僕に近づいてきたそのナーナがにこりと笑顔を見せる。そう、彼女は緑色の髪の毛の持ち主だ、僕が魔法王国で一緒に旅をした、あの金緑色の髪の毛のナーナにかなり近いイメージがある。

 あのハラマさんの傍らにいた、僕と一緒に旅したナーナ。彼女が『ますたー』なのか?

 

「わたしたちはー、まほうおうこくでみたあのきの、()()にもくっつけるんだよー」

 

「なん、だって……」

 愕然としてそう吐き出すのが精一杯だった。頭の中で考えがぐるぐる回る。僕は、僕は何かを、大事な事を考え違いしてたんじゃないのか?

 

 ハラマさんが男性嫌悪なんで、その彼女がナーナと一緒に組んで()()()撲滅しようとしていると思っていた。女性は魔法王国の魔法胎樹で生み出せるから問題ないと……

 

 でも今、目の前のナーナは、その魔法胎樹にセットされた睾丸にすら取り付けると言ってるんだ。つまり……魔法胎樹でも、もう()()()()()()()()()

 

 あの『ナナの御伽話』のように、人類そのものが……生まれなくなる!

 

 

「お、おい……あれ!」

 ギア隊長が、遠くの空を仰いでそう呟いた。彼の指差す方を見上げて、全員が空を見上げて、西の空を埋め尽くす『それ』を目にする。

 

 それは、あの西の魔力の森から放たれた、数万は下らないであろう……

 

 ――人類を滅ぼす天使、ナーナの大軍だった――

 

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