勇者、世を毀す   作:kozmo78

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ある戦士、悪夢を視る

 

 

──────………

─────……

────…

 

 

 

………ガハァッ!?」

 

 

“……………”

 

 

『っぐぅ……! …貴様如きにぃッ吾輩が敗北するなんて……っ?!』

 

 

“……………”

 

 

 

「(…あぁ、意識が…飛…んで……たか……戦況…は……?)」

 

 

 

 

 瞳を開いて、揺れる視界に捉えたのは2人の影だった。

 

 

 手前に居るのは血に濡れた直剣を手に構えた、俺の相棒。

 

 

 その奥に見えるは……この手で殺す事を幾度も願った、全人類の宿敵魔王。

 

 

 

 確かな情報を得るために起き上がろうとするが、どうやら無理そうだ。

 

 

 声だけでも……いや、肺が潰れて息も吸えないな。

 

 

 …手や足も、微塵も動かせない。そもそも五体不満足って感じだ。

 

 

 右腕と右足はセリーネを庇って吹き飛んだったっけな。

 

 

 彼女に治癒魔法を強引に掛け続けてもらい片足のまま戦ってたが………

 

 

 今となっちゃあ痛覚すら一緒に無くなってくれたようだ。

 

 

 

『勇者よ……貴様が吾輩を殺そうと無駄だァ……』

 

 

『支配者を失おうとっ……人類が魔族の上に立つことは無い…!』

 

 

『人類が生み出す歪み・・こそォ…魔族が現出する起因……』

 

 

『吾輩亡き後、愚かな人類の争いが第二第三の王を生むだけだ……ッ!』

 

 

『…共存共栄など叶わぬこの世界に……っ貴様は何を望むというのだ……?』

 

 

“……………”

 

 

 

 聞こえるのは息も絶え絶えの魔王の声。

 

 

 死も間近って時に糞ほど聞き慣れた戯言ばかり唱えている。

 

 

 

 魔王討伐を目指して数年、血反吐を吐く程の苦難を乗り越えてきた。

 

 

 …魔族に奪われてきたモノは取り戻せないのは判っていても、だ。

 

 

 この城を焼き払おうと灰と化した俺の故郷は帰ってこない。

 

 

 立ち塞がる魔将共の命を奪おうとセリーネの過去の傷は癒せない。

 

 

 相棒もブラドもそうだ、今更何を得ようとこれまでの悪夢は搔き消せない。

 

 

 

 だが、それで良いんだ。

 

 

 俺達が魔王を殺せば……人類にとっての夜明けとなる。

 

 

 魔族の根絶は出来なくとも魔王の打破が叶うなら……

 

 

 ここで潰える俺の人生も報われる。

 

 

 

 相対する2人の他の気配は無い。

 

 

 城内の魔族は全員殺したのに魔力探知も反応しないな。

 

 

 …ってことは、セリーネもブラドも死んじまったのか。

 

 

 辿り着いた結末がコレ……俺加えて3人の命と引き換えに魔王の命かよ。

 

 

 涙も出ねぇな。…垂れ流せるのは血だけだ。

 

 

 

『…死に往く仇敵に返す言葉も無し……かっ……』

 

 

『慈悲深き勇者も…所詮人の子だなァ……!』

 

 

『貴様に生き恥を晒す気も無い……っグフッ!』

 

 

“……………”

 

 

『止めなどっ……貴様に刺されるのなら己が手で…っ!』

 

 

 

 …朧気にしか瞳に映らないが魔王が自刃する、のか。

 

 

 奴の思い通りに生涯を遂げるなど俺が許す訳が無い。

 

 

 しかし………駄目だな。

 

 

 事を起こそうと身動ぎすれば奴の最後を視れずに野垂れ死ぬだけ。

 

 

 …相棒がどう最期を見届けるか、俺は受け入れるしかない。

 

 

 奴が悪態つこうと相棒の本質は俺が一番理解してる。

 

 

 この世で魔族を幾度も殺そうが、相棒は過剰な仕打ちに手を染めなかった。

 

 

 たとえ魔王だろうと今際の際の相手に追討ちはしないかもな………

 

 

 まぁ仕方ないか、ソレでも。

 

 

 “勇者”と呼ばれるに相応しいその優しさが、

 

 

 魔族蔓延るこの世を救うまでに俺達を導いてくれたんだ。

 

 

 相棒が望む結果なら何だって……───────

 

 

 

『さらばだ、憎き人間よ────……ガハァッ?!!』

 

 

“……………”

 

 

『っき、貴様ァ……っ!』

 

 

「(何だ……もしや相棒が…最後を……?)」

 

 

“…………望 が聞 たいと言っ たよな?”

 

 

 

 自らの手で死ぬ筈だった魔王を……相棒が持つ白銀の刃が貫いた。

 

 

 少し後ろに離れた俺にも届く奴の血飛沫。

 

 

 致命に至る一撃だと、目視せずとも冷えた人肌越しに伝わる。

 

 

 …相棒が有無を言わさずに仕留めた、のか。

 

 

 

 ……ああ、駄目だ……意識が遠のきそうになる。

 

 

 見届けねば。

 

 

 目的は果たしたのにこれじゃあ死んでも死にきれない。

 

 

 ぼやけて瞳に映らなくとも。

 

 

 無音に等しい程にこの耳が声を聴き洩らしても。

 

 

 相棒に感謝の一つも言えなくとも。

 

 

 …刻みつけよう、この消えゆく命に。

 

 

 あの世に行っても…旅路の結末を忘れないように────……

 

 

 

“…冥 の土産 教え やるよ”

 

 

『………ぐっ……うぁ……っ………』

 

 

“ の望 は……”

 

 

 

 

“僕 外の全 を すこと よ”

 

 

『なっ……ぐぅあッ……────

 

 

「…………え?」

 

 

 

 なんて、言った……?

 

 

 今更…俺が声を出せたことなど……どうだっていい………

 

 

 何を、するだって………?

 

 

 絶対に相棒が……アイツが言う訳ないことを…

 

 

 死にかけの頭が…聞き間違えたんだって……

 

 

 

“……ふふっ”

 

“は っ、 ハハッ   ハハハっ、ア ハハ ハ!”

 

“…な 、 レキス?”

 

 

「…………っ?!」

 

 

“聞 てた…… なぁ?”

 

“フッ、 うかそう ぁ……聞こ ちゃったかぁ―… ハハッ!”

 

 

 

 …どうしちまったんだよ、そんな顔して。

 

 

 止めてくれよ。

 

 

 嘘だよな?

 

 

 剣を突き立てないでくれよ。

 

 

 狂ったようにケタケタ笑わないでくれ。

 

 

 仲間にそんな魔力殺気を向けないでくれよ。

 

 

 なんで、

 

 

 どうして、

 

 

 やめてくれ、

 

 

 おかしいだろ、

 

 

 なぁ、

 

 

 

“あ がとう、皆 の冒 はとて 楽しか たよ。そし ………

 

 

 

────……さ ならだ、アレキ ”

 

 

「ぃや……ゃめ…っや……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~…やめろーーーッ!!」

 

 

「ん゛!? 急に叫んでどーしたのアレキス?!」

 

「“やめろ”って……もう目の前だぜ城?」

 

“弱音吐くなんて珍しいんじゃないか?”

 

「………え?」

 

 

 気付けば眼前に襲い掛かる剣先は何時の間にか消えていた。

 

 意識も、思考も、視界も……先程の数秒が嘘だったかのように晴れ渡っていた。気怠くて動きそうにもなかった身体も地に足つけて立ち尽くしてる。

 死んだと思っていたセリーネとブラドも健在だ。紫紺のローブと風に靡く金髪には長旅による綻びはあれど目立つ汚れでもないし、咥えた葉巻と煤に汚れた丈の長い外套にも戦火を浴びた形跡は無い。

 

 …勿論、相棒も。

 

 

「驚いた~……でも仕方ないよ。…私だって、当然怖いし」

 

「ヘッオレもそーだぜ? 見ろ俺の足! 生まれたての子鹿みてーだろ?」

 

「あっ本当だ! アハハッ!」

 

“当然僕も怖いさ。…アレキス、もしここで逃げ出したとしても僕は咎めないよ”

 

「いっ……いや、気にしないでっ…くれ……」

 

 

 既視感のある風景に居るのに狼狽えながら答えるしか出来ない。

 …どう考えたって自分が可笑しい状況だ。一方的に弄られてる間に“今”があの・・時の数刻前……魔王城に攻め込む直前であることに気付いた。

 

 …え、じゃあ……俺が見たのは何だ?

 

 やけに現実味を帯びた幻だった。

 命を捨ててでも魔王に挑もうとする事実が俺の脳を狂わせてしまったのだろうか?

 吹き飛んだ右腕も血を一滴も流さずに生えているし、貫かれた肺も王都で仕立てた鎧に隠れたままだ。

 時間操作の魔法具などこのパーティの誰も持ち合わせていない、ってか手元にあるなら魔王ももっと簡単に殺せてる。

 

 あー……なら、良かった…のか?

 魔王を討ったことと3人の戦死を天秤に掛ける気は無いが、少なくとも相棒の底気味悪い……あの…………

 

 

……あれ? 何て言ってた? …何故だか数秒前の記憶が抜け落ちてる気がする。

 

 相棒の言葉の節々だけ、記憶の深層まで掘り起こそうとも暗く靄がかっている。

 魔王の事切れる寸前の断末魔まで何となくだが思い返せるのに……まるで脳がアレを思い出すのを拒んでいるかのようだ。

 

 

 …答えの無い問を内々で巡らす俺を余所に何も知らない3人は駄弁り続けている。

 

 俺にとっては一度目になる襲撃において、和やかな雰囲気なんて存在せず門番と会敵するまで喋りもしなかった。

 しかし今では最早『急にアレキスが素っ頓狂なこと言い出したなー』程度の扱いだ。

 死と隣り合わせだってのに軽口を絶えない何時もの眺めが、幻に囚われていた俺を現実に連れ戻してくれる。

 

 

“2人はどうだい? いっそ皆で逃げ出そうか?”

 

「いーやっ、足は震えてもオレの意思は揺るがないぜ?」

 

「…私も戦うよ! 魔王を討つって、貴方が私をそう言って誘ってくれたんでしょ?」

 

「そうだぜ? 我らがリーダーが詰んないこと言ってくれるなよな?」

 

“ハハッそうだね。…アレキス、出来れば僕達と共に戦ってほしいんだ”

 

「………あ、あぁ…」

 

“一緒に魔王を倒そう。僕達で世界を変えようじゃないか?”

 

 

 …ははっ。やっぱり相棒は相棒のままだ、狂気じみたあの笑顔は虚像に過ぎなかったんだよ。

 

 俺が初めて逢った時と変わらない、全ての裏を見透かすような瞳。

 誰もその通り名を否まない、“勇者”に相応しい凛とした面構え。

 差し伸べるその手は誰よりも魔族を仕留めたのに傷一つ無い。

 

 だから俺はお前に惚れ込んだんだ、相棒こそ世界を救う英雄に成れるんだって。

 

 勝手に独りで苦しんでたのが阿保らしい。只の妄想なんかで曇る程、俺の信頼は濁っちゃいない。

 

 

「心配させて悪かった。俺は逃げねーよ」

 

“ふふ、…ありがとう・・・・・”

 

「…ッ?!」

 

“ん?”

 

「…いっ、いや武者震いだ……っ何の問題も無い」

 

“そうかい? じゃあ……決着つけに行こうか”

 

 

 相棒の何気ない感謝があの悪夢を呼び起こしたけど即座に喉奥で留める。

 

 …もう、忘れてしまおう。これから繰り広げる死闘が浮ついた思考を書き換えてくれる筈。再び死の淵に足を延ばすとしても為すことは依然変わらない。

 

 この3人と共に、魔王を討つ。

 …ソレだけは成し遂げてみせねば。

 

 

 

 

 

 

 

…地獄と見違う燃え尽きる世界にただ一人、俺は後悔していた

 

 

…魔王討伐への道程は途切れず、そして実を結んだ

 

 

…しかし────…人類の行く末は破滅であった

 

 

…誰もが疑った

 

 

…俺だって疑いたかった

 

 

…その“人類史上最も人間を殺した大罪人”が

 

 

 

 

 

 

““人類史上最も偉大な“勇者”なのだから””

 

 

 

 

 

 

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