彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 初めましての方は初めまして。一介の三文小説家でございます。今は文章の幅を広げる為、様々な物を書いております。この度は、私のような文章泥棒の道楽に許可を頂いたGREEN GREENS様に最大限の感謝を表明しつつ、かの少年の青春時代を綴ろうと思います。


魔女

「あの人は魔法だった。そして、或る意味では嵐のような人だった」

「え……?」

 

 犯罪組織やスフィアローパーズとの闘いを終え、自宅でリンの世界の友人達の話を聞いていたリコは、思いがけない言葉に瞠目する。

 悪友三人とは違う関係を築いていた人物がいるとリンが話し、リンの事を知りたかったリコはその話も聞きたがった。

 

 そして出てきたのが上述の言葉である。

 

「なんというか……普段は実用主義のくせして、一度スイッチが入ると頭の中が非現実的な事でいっぱいになる人だったんだ。或る意味一番会話が成り立つし、或る意味では一番話が通じない人だったね……」

(確かに今までの人とは少し違うタイプかも……?)

「歌とヴァイオリンが上手でね。当時の僕と同い年なのに、CDデビューまでしていたんだ」

(なんか本当に凄そうな人だな……)

「それに、とても綺麗な女の子だったよ」

「リンに女の子の知り合いがいたの!?」

「ちょっと失礼だね!」

 

 今までの悪友三人の話では、助けた女の子は結局脳筋の友達と付き合っていたし、その脳筋に対してご襲儀(誤字に非ず)をかましていたから、女っ気が全くないのかと思っていたリコは素で驚いてしまった。

 

「いや、まあ、最初に言っておくと付き合ってたとかではないんだ。そりゃまあ、二人で演奏したり、二人で出かけたりもしたけどネ……?」

(それは付き合ってるって言わないの?)

 

 ついでに言うなら二人で踊ったりだってした。だが、どこまでも甘美なその時間は、恋というにはあまりにも非現実的だった。

 

 言葉の星彩が光を塞ぐ。黙っているはずの星々が、その瞬間だけは手を叩いているかのようだった。シリウスの心臓を持つ彼女は夜空にソネットを奏で、その音楽的な年代記の中に、リンはいた。

 

「正直、僕が出会った人の中でもトップ3には入るくらい衝撃的な人だったね。声も演奏も、恒星のような心臓もあまりにも綺麗で、彼女は幻想世界の住人なんじゃないかって思ったくらいだ」

(そんな人がいるの……?)

 

 リコはリンの評価に少し戦慄する。そこまで非現実的な女性を彼女は知らなかった。同時に、リンの話に出てきた学校では生き辛そうだとも思った。人生経験がそれほど無い故に詳しいことまでは想像できなかったが、その女性のような〝異端〟は受容されない事は想像がついてしまったから。

 

「そうだね。学校ではあまり好かれてはいなかったと思う。『音楽家』なんて前例の無い道に進もうとする彼女を教師は煙たがっていたし、オマケに実績もあるから頭ごなしに否定もできない。正しく眼の上のたんこぶってわけさ」

「そんな……」

「生徒からも受けが悪かったね。あそこまで音楽的で文学的で芸術的な人はそうそういない。さっき話した女王様気取りなんかは露骨に嫌ってたな。まあ、成績でも性格でも勝てる部分が一ミリも無いっていう嫉妬だったけど」

「…………」

「言ってしまえば大衆というのは素晴らしく寛容なのさ。天才以外の全てを許すからね」

(逆説的に大衆は狭量だって言ってない?)

 

 と、そこでリンの表情が暗くなる。同時に、どこまでリコに話すか考えあぐねているようにも見えた。

 

「……彼女は苦しんでいたよ。有象無象からの評価なんて、言葉を選ばずに言えばどうでも良かったんだと思う」

 

――――私は虚構の安らぎを与え、兵士を戦場に送り出し、帰って来た彼らを埋葬する。私は演奏者であり、虐殺者です。

 

 在りし日の彼女の言葉を思い出すリン。彼女の業苦に満ちた声や、哀しみに溢れた演奏は近くにいた殆どの人間に理解されなかった。

 一方で、リコは先程の自殺未遂の少女の話を聞いた時と同じくらいには衝撃を受けた。演奏者であり虐殺者であるとはどういうことなのか、リコには分からない。

 

「僕は彼女の行っていた事は『救済』だと思ってる。でも、彼女はそれを『虐殺』と呼んだ。学校の外の世間が彼女を称賛すればするほど、彼女は『断罪』を求めるようになった」

「ま……待って待って! 情報量が多すぎて訳が分からないよ!」

 

 リコの言葉にリンはハッとした。どうも、件の少女の事になると熱が入ってしまう。

 

「ごめん。でも、彼女をこれ以上簡単に説明できる気がしないんだ」

「うん……それは何となく分かるよ。でも、時間をかけてでも聞いてみたい人の話だったな」

 

 そんなリコの言葉に嬉しくなるリン。

 

 リンにとって、その少女は魔女だった。と言っても、決して否定的な意味ではない。確かに周りから嫌われているという意味でも魔女だったが、リンにとっては彼女の存在は魔法だった。

 

 今、己を、彼女を証明する言葉に魂があるか、目指している己の価値に、存在に確信があるか。それはリンには分からない。けれど、これは魔法だという事は確信している。生きた日々を忘れたリンの奇跡だ。

 

 この世界は私の物だ。そのように振舞っていた演奏者。しかし、それは決して彼女が傍若無人に振舞っていたわけではない。

 

 彼女の周りでは世界がこれまでとは違って見えた。シェイクスピアの歌劇に迷い込んだかのような、そんな幻想世界を魅せてくれた彼女にはとても感謝している。

 

 

 

 

 

 彼女に出会った日、 リンは珍しく一人で帰っていた。悪友三人がそれぞれ用事が有ったり、教師に呼び出されたりなどして都合が合わなかったのである。だが、「どうして自分と一緒に帰ってくれないのか」などという面倒くさい女のような思考回路は皆無であった。

 

 隙があれば罵倒や悪口が飛び交う上、周囲からは本当に友達なのか疑われる事も少なくないが、このような気安い関係であるために付き合いやすいのは確かである。

 

 そして、いつもと違う時間に帰路に就き、音楽室の前を通りがかったとき、リンは思わぬ人物と会う事になる。

 

「~~♪」

 

 音楽室から歌声が聞こえる。いつもなら聞こえることの無い声に、リンは興味を惹かれる。別に音楽室なのだから、歌声が聞こえてくること自体は不思議ではない。ただ、その歌声があまりにも美しかったのである。

 

「失礼しまーす……」

 

 小声で挨拶をしながら音楽室に入るリン。そこにいたのは、リンが通う高校の制服を着た女神だった。

 

 彼女の事自体はリンも知っている。高校生でありながら難関と呼ばれるコンテストで最優秀賞を取り、CDデビューまでした天才ヴァイオリニスト。その演奏と美貌で数多の聴衆を虜にした時の人。この学園に彼女がいるという話題が暫く絶えなかったため、リンも名前と容姿だけは知っている。

この時は歌まで上手いとは知らなかったが、その卓越した音楽センスは充分に感じ取る事が出来た。

 

「…………」

 

 リンが無言で歌を聞いていると、歌姫は旋律を止め、来客に反応した彼女はリンに話しかける。

 

「音楽室、使いますか?」

「い、いや、そういうわけではないんだけど……」

「……?」

 

 彼女は可愛らしく首を傾げる。そして、リンは釣られるように心境を話した。

 

「ただ、君の歌があまりにも綺麗だったから……」

 

 彼女は少しだけ驚いたような表情をしたあと、ふわりと笑って答えた。

 

「ありがとうございます」

 

 その後、リンは彼女と少し話して帰った。内容は他愛も無いもので、歌姫の箸休めにちょうど良いものであった。しかしながら、リンはリンで用事がある。この音楽室に立ち寄ったのもイレギュラーな事態だ。

 すると、彼女はリンの無事を祈って歌い続けると言う。

 

「どうか、嵐に遭遇したとしても、私の祈りの歌が癒しになりますように」

 

 きっと生涯忘れる事は出来ないだろう。あの小夜風(さよかぜ)アヤメという演奏者を。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、でも一つ不満だったことがあるんだ」

「え……ここにきて?」

「彼女が鉄鬼から庇ってくれた事は殆ど無かったよ……」

(筋違いにも程がある怨みだ……)

 

――――慈悲は義務のように与えられるものではありません。

 

 馬鹿をやらかした時に、笑っていない笑顔で告げられた無慈悲な言葉は今でもリンの記憶に残っていた。

 




>今回のサブタイトルの元ネタ

 花譜さんの楽曲である『魔女』より。

>魔女

 今回の『魔女』はリン君を別世界に誘う魔法使いとしての側面も、周囲から煙たがられているという意味の魔女としての側面も含んでいます。

>小夜風アヤメ

 オリキャラ。名前と発言から、私の作品を既読の方は既に元ネタに気付いているかもしれません。或る意味、後述の人物と同じように人類のバグ枠となる彼女ですが、どんな旋律を齎すのやら。

>鉄鬼

 詳細は本家様の第四話『STAGE1-3 桃源郷エイリアン』を参照してください。今後、登場予定です。
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