タイトルの元ネタは桜庭和樹氏の小説より。物語本体ではなく、砂糖菓子と実弾の対比という点にフォウカスしました。
それと、リン君にヘイトが向きそうなので先に謝っておきます。GREEN GREENS様に怒られないか戦々恐々としながら書いております。
死んだ眼で爆弾を片手に口を開く。サヨナラだ人類、みんな吹き飛んでしまえばいい。
在りし日のリンの心情を記録するなら、このようになるだろう。
人間とは、斯くも簡単に破壊衝動を抱くらしいということを、リンは幼少の時分で学んでしまった。
リンはある種の天才だった。嘗ては神童と呼ばれた事もある。知識の吸収が早くて、頭の回転も早く、矛盾や非効率的な方法を省いて効率よく物事を進める提案もよくやっていた。
だが、オスカー・ワイルドの言う通り、世間は天才に優しくはない。
彼の存在を疎んだ人間達がどんな対応をしたかは、わざわざここに書かずとも彼自身が語ってくれている。詳しくは元小説を読んで欲しい。
そして、リンは右手に爆弾を幻視した。
さよならだ人類。みんな吹き飛んでしまえ。
そんな物語の悪役のような事を考えた。この日々を爆破して、この学校を爆破して、青春と名の付くもの全てを爆破したかった。だが、次第に馬鹿らしくなった。どうせ死んだ眼で爆弾を翳したとて、誰も見向きもしない。それに、そんな下等な思想に取りつかれるのも癪であった。
「ていうのがまあ、アヤメさんと出会った直後の僕だね。我ながら傲慢過ぎて反吐が出るよ。本当に。たかがクリスマス十数回過ごしただけの餓鬼がさあ」
ルクスとスピネルとの闘いの後、ナンジャモTVへの出演を決めた話し合いをしていたリコとドットに、リンは自虐を交えて自身の過去を語った。
何故そんなことを語り出したのかと言えば、スピネルの誘いを一蹴した時にリンが言っていたパラダイムシフトについてリコが気になったからである。
「なんというか……予想以上に、その、攻撃的だね」
「発想が完全にテロリストじゃないか……」
なお、それを聞いた二人はドン引きしていた。特にドットはドア越しにモスキート音を流すだけで拷問という言葉を口に出したほどである。口は悪いが残酷ではないのだ。
「リンの過去のやらかしを聞けば聞くほど、ホント、アヤメさんってよく友達でいてくれたよね」
「早々に愛想尽かされたって方が納得できるぞ。前に断片的に聞いた話だと次々騒ぎ起こしてた上に、イカサマ上等の性格の悪さ。うん、普通に友達付き合い遠慮したいな」
「おいこら、都合の悪い情報だけ列挙するんじゃないよ。ネット民か。マスコミか」
「リン、そのツッコミはこの状況だとシャレにならない……」
実際、スピネルのせいでリンの名誉が毀損されまくっているせいでかなり真に迫ったツッコミがリンの口から飛び出した。
だが、ドットの言う事も一理ある。何故ならリンはアヤメと喧嘩をし、絶交寸前にまで至ったのだから。
「でも、そうはならなかった。いくつかの経緯を経て、僕とアヤメさんは仲直りしたんだよ。尤も、下手をすれば取り返しのつかない事になっていたかもしれないけれど……」
「取り返しのつかない事……?」
「まあ、それについては後で話すよ。それで、何で僕と友達でいたのかって話だけど、身も蓋も無い言い方をすれば、あの人も結構狂ってるからだろうね」
「ちょっと待って!? 狂ってるの!? 変わってるとかじゃなくて!?」
リンの口から飛び出した、アヤメに対するあまりな評価にリコがツッコむ。悪友達に対する評価とは似て非なるものであるところ、やはり特別な人であったのだろうとは思うが。
「かつて僕をサイコパスみたいに評してくれたけれど、正直アヤメさんがこの世界にいたらその称号は彼女が得ていただろうね」
「お前以上のサイコパスとか考えたくないんだが」
「ドットさん。あの、言わせてもらうけど多分サイコパスの定義が違う。僕は確かに卑怯な部分もあるしそれは認めるけど、それはサイコパスとイコールじゃないからね」
「思ってる以上に面倒だな……」
「そもそも定義がはっきりしないからね。この手の言葉は。はっきりしていたらとうの昔に電脳化されてるだろうさ」
「それもそうか」
「て、サイコパスの定義はこの際いいよ。結局アヤメさんってどういう人なの? 話を聞いていても独特な言い回しをする音楽家、としか分からないよ」
リンはリコの言葉に頷いた。
「確かに、重要なのは議論じゃなくて結論だ。結論から言うと、分からない。となるね」
三人の間を沈黙が支配した。リンは人の感情が分からない、と本人が度々語っていたが、高校に入学してから約二年も付き合いがあって、分からないとは酷薄に過ぎるのではなかろうか。
「分からない……て、どういう事?」
「言葉通りだよ。約二年も一緒にいたけど、未だに彼女の全貌は分からない。いや、全貌なんて端から分からないか……いずれにせよ、不透明な部分は非常に多いね。普通の人と比べたら、異常に」
「アレ? ミステリー小説始まった?」
「実際、アヤメさんの事を『音楽しか脳が無い』みたいに陰口叩く人もいたけど、裏を返せば『音楽家』以外の情報があまりにも不明瞭だってことを示してる。付き合いが有った僕ですらそうなんだから、その他大勢からはそういう認識になるのも自然ではあるんだ」
冷たいようだが、他人に対する認識などそんなものだろう。別にリンのような人間でなくとも、他人の性格が思っていたのと違った、などということは容易に起こる。
「まあ、正直大騒ぎやらかした時のアヤメさんの狂気の目つき思い出すと、下手に詮索しなくて正解だったかもしれないけどね」
「飄々と言うな」
フッ、とリンは澄ました表情で嘯いた。なお、悪友達には『後方腕組み将軍ツラ』とか言われていた表情である。
「人は皆、何らか秘密を持つ者だ。近づくべきでは、ないかもしれない」
「教訓めいた口調で話しているが、今の所お前の株が下がっただけだぞ」
「というか、アヤメさんが狂ってる云々って、リンのやらかしに対するカウンターでそうなってるだけじゃないの?」
「いや……それ以外でも結構おかしかったよあの人。『死は救済』みたいな考えも持ってたし」
「え……」
リコはリンの言葉に絶句する。街を襲ったポケモン達の死にすら哀しみを覚える少女だ。当然ではある。
「正確には、生きて争うくらいなら安息の中で死んだ方が救いなんじゃないか。みたいな感じかな」
「いや……いやいやいやちょっと待て! 極論にも程があるだろ!」
「ドットの言う通りだよ! そんなの……狂ってる……」
基本的に他人に興味の無いドットですら盛大に
「ああ、そう思うだろうね。僕も当時は同じような反応をしたさ。今でも肯定は出来ない。でも、事情を聞いたらアヤメさんがそういうのも頷けた。僕達が砂糖菓子の弾丸を乱射している間に、彼女は実弾を受けていたんだ」
「え……」
「あなた、アイリスが髪を上げてるところを見た事がないでしょう?」
「はい……?」
アヤメとの大喧嘩の後、Weyer String-IIIに呼び出されたリンは、リコ達に話したアヤメの狂気的な思想に反発した後にこの質問をされた。
なお、むしゃくしゃして断ろうとしたが、彼女から「仮にも人の家でキンキンキンキン騒いどいて家主の苦情を蹴るのかしら?」と、有無を言わせない口調で呼び出されて今に至る。
だが、リンにはこの質問の意図が分からない。そんなのただの髪型の好みじゃないか。と、当時は本気で思っていた。
「正確には首を見せたことが無い、ね。あの子の首には弾痕があるのよ」
「え……」
「銃で撃たれたって事。日本じゃお目に掛かれないから、見れば逆説的にすぐ分かるでしょうね」
そして、Weyer String-IIIは話し始めた。アヤメは一度、戦場での演奏を依頼された事が有る、と。戦場とは言っても、既に闘いが終結しつつあり、後は戦闘の停止を待つだけの場所であった。
「アイリスはそこで、平和の曲を弾いて欲しいと頼まれたの。あの子は既に世界中で有名だったわ。それを利用されたのよ」
Weyer String-IIIはそこで唇を噛み締める。「あの時止めるべきだった」と彼女は言った。
「演奏会自体は上手くいったわ。兵士からも疎まれることなく、拍手や歓声が飛んでいた。でも、平和だったのはそこまで。アイリスが撃たれたの」
リンは声を出せなかった。
「まるで演奏を虚無に帰すかのように、わざわざ首を狙っていたわ。それも、別々の方向から二発。幸い、脳も神経も声帯も無事だったけれど」
「そんな……どうして……」
「全部工作だったのよ。世界的に有名なあの子を呼んで、攻撃する。それを相手の仕業と発表する事で、世論を味方に付けて戦闘を継続する。お互いがそう思ったのよ」
「…………」
「でも、あの子はまだ純粋だった。そして強かったわ。首の怪我や流血を気にする事も無く、ヴァイオリンを弾き続けたわ。今より小さかったあの子の何処にそんな力が有ったのか、不思議でしょうがなかった」
「少しアクシデントがありました。でも、心配しないでください。二曲目の演奏を開始します」と言ってアヤメは身体と楽器を
「でも、結局戦争は終わらなかったわ。誰も彼もがあの子の演奏を聞きもせずに、弾丸の
Weyer String-IIIは息をついてリンの反応を伺った。あまりにも予想外の話をされて、固まっているのが見える。
感情よりもロジック。それが賢明だと信じていた少年。周囲に馴染めずに砂糖菓子の弾丸を撃ち続けた少年。生きる上で意味の無い言葉を吐き続けた、されど生きるとは闘いだった少年。そして、叶うならば実弾を欲していた少年。
そんなリンが、実際に実弾に撃たれた少女と出会った。
「帰ってからは悲惨だったわ。アイリスは自分の首を気にするでもなく、戦死した兵士の知らせを聞いては半狂乱になって
「小夜風さんの両親は……止めなかったんですか?」
「私と同じよ。止めなかった事を死ぬほど後悔してた。アイリスの傷はもう一生治らないでしょうね。ただ痛み続けるだけよ」
そして、両親とWeyer String-IIIはアヤメのケアに尽力した。一度自殺未遂をやらかした時は心臓が止まるかと思ったらしい。
「以上が、或るヴァイオリン職人の独り言よ。あの子については勘違いしてほしくなかった。この話を聞いてどうするかは貴方に任せるわ。出来ればあの子を支えて欲しいけど。付き合いきれないなら、それでもいい」
リンはその後どうやって帰ったのか、覚えていない。ただ、心臓を掻き毟りたくなるほどの後悔に苛まれていたのは確かだった。楽園に留まるただの臆病で怠惰な少女だと思っていたアヤメは、実弾を受けても音楽を続ける豪傑だった。そして、だからこそ平和と安息を愛するのだと思い知った。
(もしまた話してくれるなら、ちゃんと謝らないと……)
「それで、その後仲直りしたの?」
リコが何処か、祈るような気持ちで聞いた。こうして話題に出すくらいだから、少なくとも絶交はしていないのだと思うが、あまりにも話が重いのだ。
だが、リンは頭を振った。
「いや、そんなにすんなりとはいかなかったね。リコさんには前に言ったよね。女王気取りが失脚する前、僕達の学校は驚くほど歪んでたって。詳細は省くけど、アヤメさんだって被害を受けなかったわけじゃない。もう彼女の精神は限界だったんだ。そして、僕との喧嘩をきっかけに、決壊した」
「痛い……痛い……痛いです……どうして、皆争うのですか? どうして、理由を見つけて憎み合うのですか? 答えてくれないのなら……全部、全部壊れて!!!」
次回
STAGE1―BOSS Iris, The Tempestissimo Virtuosa