彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 今更ながら、この闘いのイメージBGMは『Stellar Brade』のタキ(Tachy)戦の曲です。正式名称が分からん。


STAGE1―BOSS Ir1s, The Tempestissimo Virtuosa-Movement2

 Weyer String-IIIの魔法で戦局を逃れたリン達は全員が肩で息をしていた。何なのだ、あの鬼神も斯くやという剣技は。アレが自分達に混じって朗らかに談笑していた少女と同一人物だというのか。そんな心境が四人の脳内を支配していた。

 

「そう。アレが小夜風アヤメという少女よ。貴方達の話では勝負事を嫌う傾向が有ったって事だけど、それは〝勝負〟の極致である戦争を肌で体感しているからなのよ。それはあの子にとって耐えがたいノイズだった。以前にも一度壊れたことが有ったわ。その時は耳を削ぎ落そうとしてて……何とか止めたのだけれど」

「そして、剣術を学ぶ彼女にとっては勝負とは命のトレード。誰よりも争いというものの本質を理解しているからこそ、高みを目指すよりも安息の中に眠る事を是とした……そういうことですね」

 

 杏の言葉にWeyer String-IIIは頷いた。アヤメの剣技はどう見ても殺人剣である。ノイズに苛まれながら流血を呼ぶ剣技を習得する苦悩は、更にノイズを増長させる技を学ぶことは筆舌に尽くしがたい業苦であろう。

 

(小夜風さんは勝負事を軽視してるわけじゃない……むしろ軽視していたのは僕の方だ)

 

 リンは精神的な向上心の無い者は馬鹿だと本気で思っていた。だが、今ならば分かる。それは結局、平和で麗しき国に生まれてしまったが故の単なる傲慢だった。嗚呼、全く、アヤメの言う通り、チープなセットで人が良く死ぬだけが売りのSF映画と変わらない。

 

 きっとアヤメにとって戦わなくてもいい、争いごとの無い学校での生活は異世界のようなものだったに違いない。銃声と死体が支配する戦場に比べれば、さながら宝石箱のように。

 

 そして、アヤメはただ、やっと見つけたキラキラと光る世界で友情を育みたかっただけなのだ。そして、それすらも許されないと分かって、絶望してしまった。

 

「とはいえ、悪い状況ばかりでもないわね。頼もしい援軍が来てくれたわ」

 

 Weyer String-IIIが指差した方向を見ると、顔、首と胸元以外が枝葉で構成された少女と一つ目の犬が佇んでいた。

 

「あの、三世? 彼女等は一体……?」

「いや、援軍とか言われましても、我々を以てしても意味不明な存在なんですけど、ねえ参謀」

「て、おい待て! 参謀があまりの意味不明さにサカバンバスピスになってるぞ!」

「意味不明さで張り合わないでくれるかしら」

 

 まあ実際、アヤメの強さとは別ベクトルの不気味極まる意味不明さなので戸惑うのも当然ではある。

 

 Weyer String-III曰く、枝葉で構成された少女はエコーズ、一つ目の犬は墓守犬(チャーチグリム)という怪異らしい。

 

怪異、すなわち怪しく異なるもの。有り体に言えば人外である。Weyer String-IIIが言っていた()()()()()存在という事であろうか。

 

「アイリスと契約してる存在達ね。皆、あの子が持つ音楽だったり魔力だったりを対価に契約してるの」

 

 因みに、エコーズは『森歌の君』、墓守犬は『ポチ』と呼ばれているらしい。今回は説明のために呼んだが、本来は存在そのものの名前で呼ぶのはマナー違反だそうで、これ以降は全員後者の名前で呼ぶとの事。

 

「あの人友達いたんだね」

「おい腹黒」

「そうね。学校じゃぼっちらしいけど人外の友達は多いわ」

 

 なお、契約する関係であるのに友達と呼ぶことには誰もツッコまない。そういう形もあるだろうとは思うし、何より後々分かる事だが、彼等は仲間を生贄にするということを普通にやる。

 

「貴方達、音楽と魔力()を失いたくなかったら手伝いなさい」

 

 Weyer String-IIIが一声かけると、一人(?)と一匹は準備を始めた。まずはリンが音楽を奏でられる場所に向かわなければならない。音楽だけなら森歌の君でも奏でられるのだが、今回はリンが奏でる事に意味がある。無論、どうにもならなくなったら話は別だが。

 

「そう言えば、だいぶ森を荒らしてますが、()()()()()者達は大丈夫なのですか?」

「ああ、それについては心配要らないわ。森に育った幼子(おさなご)の心が揺れ動くさまは美しい、とか言って傍観決め込んでるわ」

「…………」

「相手は人外よ。人間の価値基準で測れる相手ではないわ」

「……ええ、気にしている余裕も無さそうですしね」

 

 遠くで斬撃と樹が倒れる音が聞こえる。適当に切ってみて探っているのかもしれない。今はWeyer String-IIIの魔法で遮音されているが故にアヤメの反響定位を無効化できているが、じきに追いつくだろう。

 

 エコーズとポチにアヤメの陽動を依頼し、杏のハゲワシに偵察を任せ、リン達は目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 その後、リン達は一台のピアノの前に辿り着いた。そのピアノは人工物のような機械的な歯車と自然物である樹木が融合したかのような外見をしている。森の中に佇むその姿は、ともすればある種の神聖さを纏っていた。

 

「時間が無いから単刀直入に言うわ。リン、ピアノを弾きなさい」

「え……」

「あの子に届くとしたら、それは音楽しかない。大丈夫よ。弾いたところで不利益は起きないわ」

 

 弾いたら死ぬピアノというのは怪談の定番である故に少し戸惑ったリンだが、四の五の言っていられる状況ではないため大人しく指を置く。

 

しかし、

 

「音が鳴らない……!」

「なんでこういう時に限ってぶっ壊れてんのよ!」

 

 Weyer String-IIIが悪態をつきながらピアノの修理を開始する。その間、リン達はアヤメの迎撃に専念する事になった。

 

「弦に歯車。寄木細工の歌姫。いざや繋げ銀の緒を、いざや廻れ調和の歯車……」

 

 彼女が呪文を唱える間に、アヤメは既に50メートル先まで迫っていた。エコーズとポチの陽動にも限界があったようだ。

この距離では視認できたとしてもせいぜい人影程度のものである。だが、全員に油断は無い。この程度の距離、アヤメは容易く詰めてくる。

 

 ピアノに被害が及ばないようにリン以外の全員が前に出る。リンには直り次第弾いてもらわなければならない。

 そしてエコーズとポチも戦線に加わった時、アヤメが動いた。居合のような体勢を取った後、ごうっ――と風が動くほどの速さで距離を詰める。そして剣を振りかぶったと思いきや……

 

「んなっ!?」

 

 アヤメは横に薙ぎ払うと見せかけて直前に上からの斬撃に変更した。無論、棺の盾を切り裂けるわけではないが、予想外の軌道から衝撃を喰らった一滋は思い切り蹈鞴(たたら)を踏んでしまう。

 その隙を逃すまいと、アヤメは踊るように回転しながら今度こそ横向きの斬撃を加えようとするが、

 

「させないよ!」

 

 そこに白が割り込み、一滋は難を逃れた。更に、ポチが炎を纏って噛みつき攻撃を仕掛け、アヤメの剣を止める。アヤメはそのままポチの口を引き裂こうとするが、今度はエコーズが風の刃を飛ばし、アヤメから剣を離させた。

 

「やった……!」

 

 丸腰になったアヤメを見て多少弱体化できたかと杏が安堵するが、アヤメはすぐ近くに落ちていた枝を踏んで巻き上げると、それを手に取って剣に変えてしまった。

 

「そんなんアリかよ……」

「とはいえ、武器を奪った後は多少隙になるみたいだね。勝ち目がないわけじゃないよ」

 

 一滋が絶望の声を上げる中、リンは冷静に戦況を分析した。再びポチが剣に噛みつく姿勢を見せるが、アヤメもタダで武器を奪われることは無かった。

 

 アヤメは地面を蹴ると空中で縦錐揉み回転し、ホイールのような斬撃を浴びせる。噛みつく隙を与えないように立ち回りを変えたようだ。

 

「そう軽率にジャンプする物じゃないよ」

 

 しかし、今回はリンの方が上手(うわて)だった。彼はアヤメの着地点に大量の蝶を召喚して地雷のように爆破させるという戦法を使ったのだ。いわゆる着地狩りである。アヤメとて鳥ではない。この攻撃への対抗策は持っていないだろう。

 

 全員が勝利を確信した時だった。

 

「え!?」

 

 なんとアヤメは剣を足元に投擲し、蝶を予め爆破した上で着地した。おまけに、

 

「っ……」

 

 すぐさま剣を取ったかと思えば、一瞬で構えて超威力の斬撃をお見舞いする始末だ。どれくらいかと言うと、周囲10メートルほどの木々が根こそぎ薙ぎ倒され、掠った地面に大きな溝ができるほどである。

 

「ピアノに近づけさせはしない……!」

 

 杏とリンが斬撃の間合いの外から蝶と羽を飛ばすが、今度はアヤメの斬り上げによって地面が抉られ、飛ばされた瓦礫によって全て叩き落されてしまう。更に、その爆炎と土煙を切り裂いて急接近して斬りつけてくる。

 

「やらせるかァ!!」

 

 が、一滋がインターセプトして斬撃を防ぎ、更に白の大鎌によってアヤメの剣を弾き返す。

 アヤメもアヤメで弾き返された直後に飛び退き、近くにあった岩を足場にしてリン達の斜め上に跳躍し、空中で周囲を切り裂くように剣を動かす。リンが蝶で、杏が羽で迎撃し、エコーズが再び風の刃で怯ませる事に成功したが、一滋や白の周りの地面がキッチリと抉られており、一瞬でも判断が遅れていたらサイコロステーキになっていた。

 

 しかも、撃ち落とされても即座に体勢を立て直し、再び地面を斬りつけて瓦礫を飛ばし、今度は上でも下でも左右でもなく刺突攻撃を繰り出す。そして前衛組が怯んだところで下段と上段に先程の超威力の斬撃を繰り出す。

 

 剣が通り過ぎた後を、まるでそこだけ突風が吹いたかのような風の動きが追従する。

 

(どうすれば……どうすればこの状況を打開できる……!)

 

 単純な威力は言うに及ばず、何通りものパターンで襲い来る斬撃。更に武器を奪おうとも近くの物から直ぐに生成してしまう魔法もあり、着地狩りや起き攻めも効かない。万策尽きたかと思った時に、Weyer String-IIIの声が響いた。

 

「準備が整ったわ!」

 

 ピアノの修理が完了したらしい。これでようやくアヤメに響く音楽を奏でる事が出来る。

 

 リンはアヤメの斬撃を一滋が防ぎ、さらにポチが噛んで止めた隙を見計らってリンがピアノの前に座る。

 

(小夜風さん。君に捧げるよ……せめてもの、(あがな)いに……)

 

 ———どんな時だって たった一人で運命忘れて 生きてきたのに 突然光の中、目が覚める 真夜中に……

 

 『光』。かつて音楽室でアヤメと共に聞いた曲。イヤホンを片耳ずつ挿して、彼女が小さくハミングしながら聞いていたのを思い出す。普段は大人びた彼女が、童心に返ったかのような振る舞いをしていたのを、リンは覚えている。

 

 ———どんな時だって ずっと二人で どんな時だって、側にいるから 君という光が私を見つける

 

「あぐっ、う“ああああぁぁあああ!」

 

 リンの演奏が始まった瞬間に、アヤメが頭を抱えて悶え苦しむ。

 

 アヤメは人間に、人生に絶望し、それがノイズとして絶えず鳴り響き、そして殺人性パニックを引き起こした。

 元はただ、宝石のような世界で安らかに生きていたかっただけの少女。

 

 だからこそ効くのだろう。暖かい、幸せだったころの思い出が。仲たがいする前の陽だまりのような記憶が。

 

(ごめんね。小夜風さん。僕はそこまで、君を追い詰めてしまったんだ……)

 

 背後で生々しく聞こえるアヤメの声に、リンは心の中で謝罪した。

 

 ———完成させないで もっと良くして ワンシーンずつ撮っていけばいいから 君という光が私のシナリオ 映し出す

 

(もう僕の思想を押し付けないから……だから、もう目を覚まして!)

 

「はあ、ああ! ひっひっ、うぎゃああああああああああ!!」

 

 もうアヤメの手に剣は無い。両手で自分を守るように頭を押さえ、背中が弓なりに反る。そして地面に倒れ込み、今度は地面に爪を立ててガリガリと引っ掻く。

 

 あまりにも異様な光景に前衛組は硬直するが、Weyer String-IIIが素早く駆け寄ってアヤメを包み込むように抱きしめる。

 

 悲鳴に似た嗚咽を聞き続けるリンの視界で鍵盤は滲んでいた。しかし、好きであるが故に何度も弾いたこの曲は身体が覚えていた。

 

 この演奏は、アヤメが叫び疲れ、いや、泣き疲れて倒れ込むまで続いた。自分が崩壊の引き金を引いてしまった少女の大きな泣き声を背後に聞きながら。

 




 疲れた(直球)。

 私が書いている別作品から続く流れだねえこれは。壊れたヒロイン(今回はちょっと違うけど)戦。得意分野だし書くのが嫌なわけじゃないけど、ごっつ体力持ってかれます。

 とりあえずアヤメ。普通に強いです。中途半端なイカサマや卑怯戦法はまず叩き切られます。相当用意周到に準備するか、同等の火力で迎え撃つしかありません。オマケにただ剣で殴って来るだけじゃなくて何通りもパターンがありますし、それらに対応したとしても多段攻撃の途中で別の攻撃に派生するなど凶悪な攻撃もあります。

 何より恐ろしいのは、今回は正気を失っているが故に戦法が限定されているという点。正気だったらもっと多彩な戦術で責めてきます。

 そして、最後に彼女を正気に戻したのは『光』という歌。リン君がマルスプミラの方で歌っていました。なんとなく今回のシチュエーションに合う気がしたので歌ってもらいました。
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