彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 なんか三文小説家がタイトルで遊び始めました。後々大丈夫なんかね……出すの確定してるボスとか上手く当て嵌められるといいな(願望)。数字がアルファベットに戻っていたら察してください。というかボスの数が二桁超えたあたりが大分不安だぞ……


STAGE1―BOSS2 Sam2a, the changed curseーMovement1

 星彩学園の昇降口の天井に張り付く巨大な百足。譲治の欲望とナオミの嫉妬から生まれた怪異〝ザムザ〟だ。20世紀前半に独逸で観測され、ソレの持つ特異な性質からそう呼ばれるようになった。名前の由来はカフカの小説『変身』の主人公だろう。カフカにとっては不名誉な事だが。

 

「うーん、改めて見ると大変キモイ」

 

 日本ではまずお目に掛かれない巨大百足。虫嫌いなら敵の攻撃に関係なく発狂しそうである。

 

「見た目が気持ち悪いだけならまだいいのですけれど」

『いんや、全身に毒がある。特に牙。遠距離主体の坊主はともかく、剣で殴りかかるアイリスは要注意だな』

「そのようですね。なんにせよ、空中戦となればリンさんの魔道具が頼りです」

『バカと何とかは高い所が好きってか? 叩き落としてやれよ』

「了解」

 

 天井に張り付いている間はリンに遠距離攻撃をしてもらう事にしたアヤメ。その間、アヤメはリンに飛んで来る攻撃を剣で叩き落すという戦法だ。

 

 ザムザは早速毒液の弾を飛ばしてくる。天上からワンサイドゲームを仕掛けてくるつもりのようだ。

 

「Muliphein」

 

 アヤメは剣に炎を纏わせ、毒を燃やしながら攻撃を叩き落としていく。《Muliphein》は任意の対象物に炎や雷を纏わせる魔法であり、ゲーム風に言うならばバフ技と言ったところだ。

 

「ポチ、念の為探ってくれますか」

『心配性だねえ、全く』

 

 アヤメはポチに周囲の匂いを探知させる。どうやら空気に異常は無い。揮発性の毒ではなかったようだ。

 心配し過ぎかもしれないが、怪異を相手にするときに『有り得ない』を前提に考える事は非推奨である。

 

「でも気を付けて、アヤメさん。地面に着弾した所には毒が残留してる」

「攻撃兼設置型のトラップですか……無駄の無い事です」

 

 しかし、攻撃しながらもリンが地面の異変を報告する。残留する毒液を踏めば靴が溶けるだけでは済まない。固定砲台型のリンはともかく、動き回るアヤメにとっては厄介な攻撃である。アヤメ一人で戦うとなれば相当に厄介な相手だっただろう。

 

『ほっときゃ消えるかもしれんが、一応燃やしとくぞ。残しといて利益もねえしな』

「お願いします。全く、文字通りの意味でも毒を撒き散らすとは迷惑な」

「凄い皮肉。でも毒を撒き散らし過ぎてヘイトを買うって意味ではその通りだよね」

『テメエが言えた義理かよ』

「失礼だなあ。僕こそ模範的な優等生だと思うんだけど」

『舌噛みちぎるぞクソガキ! アイリスがああなった事を忘れたとは言わせねえからな』

「もう時効って事で……ダメ?」

「二人とも喧嘩してないで戦ってください!」

 

 アヤメがポチとリンに苦言を呈すのと同時に特大の毒弾がリンを目掛けて放たれた。アヤメが魔法を使おうとするが、その前にリンが攻撃を回避した。

 

「流石にずっと守られてるのは格好がつかないからね」

「守らせてくれてもいいのに」

「アヤメさんに頼り切りにはなりたくないよ」

『鈍感野郎が……履歴書の一行目は『恥の多い生涯を送ってきました』とかか?』

「遠回しに人間失格って言ってる? 確かに性格が良いというつもりは無いけど、太宰治扱いは流石に異議を唱えたいよ!」

『歴史に名が残るぜ。良いじゃねえか。人間味を削ぎ落した分、記録は残せよ』

「喧嘩売ってる? 目に見えない現実味の無い奴に言われたところで痛くも痒くもないね」

『意外とやるな』

「もう!」

 

 アヤメが一瞬だけ悲しそうな顔をしたのをポチが小声で愚痴り、それを皮切りに皮肉の応酬が始まる。この欧州の文学作品から抽出した怪異を前に呑気な物だとアヤメは少し怒りを見せる。

 

『だが、アイリスだって目の前の敵には言いたいことが山ほどあんだろ?』

「山ほどは有りませんよ。せいぜい2、3フレーズで終わります」

「2、3フレーズはあるんだ。因みに何を言うの?」

 

 天井の突起に尾を引っ掛け、ターザンロープのように攻撃してくるザムザを剣で弾きながらポチに答えるアヤメ。それをリンが好奇心で聞いたところ、帰ってきた答えは、

 

「空は鳥のため、海は魚のためにある如く、下劣な者には軽蔑を」

「トンデモ大暴言出てきたんだけど!」

 

 出会った頃のアヤメからは想像もできない威力の悪口に驚くリン。自分に対して泣きながら真摯に訴えた彼女とは別人なのだろうか。

 リンがそんな事を思っていると、アヤメはそれを読み取ったようにこう言った。

 

「私だって優しくする相手は選びますよ。そもそも、自分の思想が絶対的に正しいとは思ってませんし」

『なんで人間のくせして二律背反を当然のように併せ持ってんだかねえ……前世ヤヌスだったりすんのか?』

「さて、そんな記憶はありませんが」

(暗に人外の思考回路と言われてる……)

 

 ザムザは自分の尾を咥えてホイールのようになり、回転攻撃を仕掛けてくる。ここは素直に回避だ。

 

「と思ったら今度は触手を伸ばしてきた!」

「防御も忘れていないようですね。安心しました」

「僕のことイノシシだと思ってる? その評価は脳筋だけで十分なんだよな」

「いえ、貴方に限らず戦闘経験の浅い人間は防御か攻撃の一方を疎かにしがちなんです」

 

 むしろリンは真逆である。と言いたかったが、割と一般に共通する現象らしい。なお、アヤメは防御に振りすぎてジリ貧になった経験があるとの事。

 

 ザムザの触手を指輪の力で作った花のようなバリアーでやり過ごすリン。事前に魔力の蝶を飛ばすだけではない使い方を教わっていて良かったと心から思った。

 

 だが、ザムザの様子がおかしい。

 

 と、次の瞬間に機械のように変形して蜘蛛と合わさった人型のような姿となった。これこそがザムザの名の由来。人型と百足型の形態を使い分ける怪異。

 

「怪異に物理法則なんて期待してないけどさあ。こんなのアリ?」

『人に化ける奴もいないわけじゃねえが、変形するとはな。玩具にしたら売れるんじゃね?』

「踏んだら痛そう」

 

 なんにせよ、今は目の前の怒れるトラン○フォーマーを倒さねばならない。しかも、相手はただ形を変えただけではないようだ。

 

『ザムザはなかまをよんだ』

「ポチ、君人間界の事に詳しすぎやしない?」

 

 なんと、学校の中から外から蜂や蜘蛛と言った蟲達が増援に駆け付けたのだ。本の中のザムザは人間に嫌われていたが、現実のザムザは蟲達のカリスマとなっていた。これは流石に無視できない。

 

『イカれたパーティーの始まりかあ?』

「蟲毒の間違いでしょう……」

 

 こちらも害虫駆除か霊媒師に増援を頼みたい。どちらに連絡しても嫌な顔をされるだろうが。

 

『向こうは蟲毒、こっちは孤独、ボスは猛毒、導き出されるはLet’s Rock!』

「ラップしてないで戦ってください?」

 

 蜂が飛ばしてくる針と真空波を一度の宙返りで躱しながら投擲剣で何匹かを撃ち落とすアヤメ。更に、飛び掛かって来るザムザを斬撃と蹴りで止め、切り刻もうとする背中についている四本の足を全て剣で弾き返している。

 

 ついでに投擲剣を投げつけて追撃しようとするがそれはザムザに防がれてしまう。

 

「っ!!」

 

 しかも、アヤメは周りの蜘蛛達の糸に絡めとられ身動きが取れなくなってしまった。如何に剣技が優れていようとも動けないのであれば意味がない。

 

「アヤメさん!」

『焦るなよ坊主』

 

 リンが直ぐに助けようとするが、ポチは慌てた様子が無い。まるでこの状況を打開できる策をアヤメが持っているかのような……

 

「!?」

 

 今度は驚いたのはリンの方だった。突如としてアヤメから炎が上がったのだ。敵の攻撃かと考えるリンだが、炎が燃やしているのは彼女を絡めとる糸と周りの蟲達だった。

 

「この程度の糸で、私を捕らえようなどと……《Muliphein dicevise》」

 

 アヤメがそう呟くと炎が拡がる。そして、その炎は単なる橙赤ではなく、蒼や紫、深紅に藍、(くろ)(しろ)が混じり合った捉えどころのない嫣然(えんぜん)とした色彩をしている。まるで実体を持たないステンドグラスのようで、美しいものだった。

 

 かつて妻子が燃える家を見た絵仏師の目に焼き付いた光景とは斯くなる物か。一つの芸術作品を見ているかのような魔法にリンは言葉を失う。

 

「今ので仕留めたかったのですが、ザムザには逃げられてしまいましたね……」

「いや、それより大丈夫なの? アヤメさん」

 

 アヤメは特に繕う事も無く平気だと答える。

 

「まあ、体温を上げて皮脂や脂肪を燃やす魔法なので、暑い上にお腹がすきますが」

「ごめん、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたけど、え? 変な事聞くけど、苦しくないの?」

「その辺は上手くやっているので大丈夫ですよ」

 

 見れば火傷を負っている様子は無いし、服や髪も燃えていない。この魔女に火炙りは効かないようである。

 

 ただ、バフではなく自爆技の類なので深手を負った状態で使うと普通に死ぬらしい。そんな状況が来ない事を祈るしかないとアヤメは笑った。

 

「ですが、リンさんもこちら側の世界を知った以上、慣れてもらわなければ」

「大変なんだね。魔法使いも」

「そうですね。一部の怪異からすれば魔力を扱える人間というのはご馳走に見えるみたいですし」

『元々人間を餌としか思ってねえからな。ただ、有象無象をスーパーの牛肉に例えるなら、魔法使いはA5ランクの高級品ってワケ』

「ねえ、さっきも思ったけど人間界の事に詳しすぎない?」

 

 現実世界において魔法を使えるとなれば、多くの人間が羨ましいと思うだろう。もしかすれば現実世界を蹂躙できるかもしれない力であり、そうでなくとも『普通は出来ない』という一点においてそれは抗い難い魅力を持つ。

 

 しかし、魔法使いには魔法使い特有のトラブルや苦難が存在する物だ。ある日突然怪異に食べられてしまうかもしれないし、余計なものまで見えてしまうがために普通は持たなくていい恐怖まで持ってしまう。

 

 アヤメはそれを思って溜息を吐いた。

 

「マジ卍解、です」

「マジ卍みたいに言わないで」

 

 心底うんざりした顔でよく分からない小ボケをするアヤメにリンがツッコむ。ただの堅物というわけではなく意外とノリが良い一面もあるのがアヤメという少女なので、リンも飽きずに付き合いが続いているというのもあるが。

 

『おっと、この匂いは……おいアイリス、気を付けろ』

「どうしました? 敵が増えましたか」

「ああ、それも、さっき言った『人間を餌だと思ってる怪異』がな」

 

 見れば、アヤメ、リン、ポチの前に案山子とブリキの木こりのような怪異が立っていた。

 

「ええ……来すぎじゃない? ねえアヤメさん」

「セカイ、ホロボス」

「アヤメさんが壊れた! やめて! ラスボスにならないで!」

 

 アヤメが光の無い目で闇落ち系ラスボスのような事を言い始めたので、とりあえず正気に戻すリン。

 そして、アヤメが光の無い目で口を開いた。

 

「Lif mulsya ha ahgyfel diteoth te nireom.(私達の使命は敵に死を与える事)」

「あー、そういう感じ? 流石にまだノータイムでは返せないけど」

「Ha fisevise qy diteoth. Laf gyfu fiseoth enearth sulha ath gulha.(死して賢者となるがいい。私が太陽と月の名の下に慈悲を与えよう)」

「Lentiath! Ael vise kaf ahvisel ea fiselistio!(落ち着け! 学校で何をする気だ!)」

 

 母国語(?)であるイリシーズを全開にして敵に啖呵を切るアヤメにリンが勉強中の単語で諫める。実は自分より好戦的なんじゃないか? と思うアヤメの態度に、少し困った顔になりながらも成功し、アヤメの目に光が……戻ってはいないが態度は落ち着いた。

 

 なお、後にこのセリフがリンにブーメランとして帰って来る事は誰も知らない。

 




 だんだんアヤメがボケツッコミ両刀になってきた今日この頃。

 備忘録

>ザムザ

 毒虫と人型形態を使い分ける怪異。元ネタはカフカの小説『変身』の主人公、グレゴール・ザムザ。何故このモチーフを起用したのかは、リン君の名の由来がヒント。

>恥の多い生涯を送ってきました

 太宰治『人間失格』より。

>空は鳥のため~

 ウィリアム・ブレイクの『天国と地獄の結婚』より。敵には普通に暴言を吐くアヤメさん。

>イリシーズ

 リン君も勉強中です。近い未来に暗号として使われるかも(脳筋君が心配だが)。

>案山子と木こり

 アヤメのセリフの意味はこの二体のモチーフが分かれば『なるほど』となります。

>Muliphein dicevise

アヤメの魔法の一つで、自身の皮脂や脂肪を燃やして発火する。バフ技ではなく自爆技に近いため、使いすぎると命の危険がある。見た目はヒトモシとリン君の連携技《バーニングアタック》や《火達磨地獄》に近いかもしれない。
描写の参考としては『地獄楽』の主人公である峨眉丸が使う忍法『火法師』を用いた。なお、私の作品で物理的に炎上するヒロイン二人目である。
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