彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 ザムザの前に前哨戦幾つか。これアルベリッヒの時とかとんでもない尺になりそうだけど、書きます。


修羅と祈り

 二人の前にいるのは熊手と鎌で武装した案山子と、ブリキで出来た機械の巨人だった。アヤメは剣を構え直してリンに警告する。

 

「絶対にあの二体には捕まらないように」

「捕まる気ないけど、一応理由を聞いておくよ」

スケアクロウ(案山子)は脳を吸い出しますし、ランバージャック(木こり)は圧縮して心臓にされるそうですよ」

「死ぬ気で避けるよ」

『死んだら意味ねえ……』

 

 下手に斬り殺されるよりも苦しみそうな死に様にリンは顔を青ざめさせる。元々グロテスクなコンテンツは苦手なのだ。言葉にされるだけでも背筋が凍る。

 

『裂傷かつ失血死となると普通に苦しいですけどね。切腹だって介錯人がいたわけですし、自殺の方法としては下の下です。現代でもその方法を選択する人がいるのが不思議なくらい』

 

 とか、以前アヤメが言っていた気がする。顔色一つ変えずに残酷な流血を語るアヤメの神経の図太さに呆れるやら関心するやら、リンの感情はせわしなかった。元々男性よりも女性の方が血に対する耐性は高いと言われているが、やはりアヤメが特殊ケースであったのだろうと後にポケモン世界に転移したリンは思った。

 

「それはそうとリンさん。一応防御結界を。私も気が回らないかもしれないので」

「そうだね。やっといて損はない」

 

 リンは指輪に神経を集中させて防御技《リフ・ウラヌス》を展開する。

 

 これはリンに対する攻撃を身代わりとなって防いでくれる五体の蝶を召喚する魔法で、その内魔法学概論を教えるつもりだが、その前にアヤメが自衛のために教えた魔法の使い方だった。アヤメも《白き手のイゾルデ》という似たような魔法を使う事が出来るそうで、今でこそ展開せずに闘う事もあるが、最初は常時展開していたらしい。

 

 なお、名前の由来は五つの大きな衛星を持つ『天王星』から。占星術においては『自由』『トリッキー』『ユニーク』という意味を持ち、リンにピッタリな星と言える。また、

 

「ふふ、ミランダもアリエルも、オベロンもティタニアもウンブリエルも、彼を守ってあげて下さいね」

 

 天王星の衛星の名の由来はアヤメが大好きなシェイクスピアの作品の登場人物である(ウンブリエルだけは違うようだが)。それぞれの人物と登場作品について三時間ほど語られたリンであった(アヤメはまだまだ話したそうだったが、学校の課題などもあったためにリンが止めた)。

 

 流石に普段は五匹の蝶を名前呼びはしていない(ティタニアはゲアカリングの別名であり、不敬と取られかねない)のだが、時々リンや作品に愛をこめてこう呼ぶことが有る。

 

「では、行きましょうか」

 

 スケアクロウの鎌と熊手の攻撃をサーベルで弾いたアヤメは、一瞬でサーベルに炎を纏わせて水平に薙ぎ払う。更に、一瞬で距離を詰めてスケアクロウに追撃する。踊るように袈裟斬りを行い、刺突攻撃を追加。サーベルを横に水平に構えたと思えば、再び距離が離れたスケアクロウを曲線を描く軌道で高速移動して追撃。

 

「SHOW TIME!」

 

 一方、リンも負けてはいない。ランバージャックの斧の攻撃を《リフ・ウラヌス》でいなしながら的確に《魔力蝶》を当ててゆく。斧の一撃は確かに脅威だが、避けてしまえば何の問題も無い。

 

「アヤメさん、スイッチ!」

「了解です」

 

 リンの指示でお互いが担当する敵を入れ替える。リンがスライディングでスケアクロウの前に移動し、アヤメはそのリンを背面飛びで飛び越えてランバージャックの前に立つ。その際に剣を投げて斧の攻撃を牽制する事も忘れない。

 

 相手に攻撃のパターンを悟られる前にスイッチして戦況を有利に進める。これも立派な戦術だ。

 

 アヤメはそのままランバージャックに斬りかかり、振り下ろされた斧を躱して踏みつけ、ランバージャックの頭部を蹴る。

 

「当たれば強いのですけれど」

 

 滞空するアヤメは四本の投擲剣をランバージャックに撃ち込み、それによって出来た隙に魔法の詠唱をする。

 

「Aurrav ro surithleogas,(雷の矢)」

 

 アヤメは雷で作った弓に投擲剣をセットし、ランバージャックを狙う。

 

「bitex nireom!(敵を撃て)」

 

 雷を纏った剣の攻撃により、ランバージャックは倒れた。この敵に炎属性の攻撃をすると熱を吸収して動き続け、いつまでも闘いが終わらないのだが、それを知っていたアヤメは雷属性の攻撃をする事でその機能を停止させたのだ。

 

「僕の脳が欲しいみたいだけど、生憎と性格が悪いからね。食べたら毒が廻るよ」

 

 リンは《リフ・ウラヌス》を展開した後に指輪をスケアクロウに向けて魔法をチャージする。そして、スケアクロウが熊手を振りかぶった瞬間に炎を纏った蝶を飛ばし、相手を怯ませた後に炎上させる。

 

 リンはアヤメのように卓越した魔力操作ができるわけでも、人間をやめたレベルの剣技が使えるわけでもない。それ故にリンは知恵と音楽を使った。スケアクロウの攻撃のリズムは2,3度攻撃されて把握した。そして、スケアクロウの攻撃、それが振られた瞬間に合わせて蝶を放つ。

 

「SHOW’S OVER」

 

 結果相手は大きく怯み、蝶による総攻撃を許す結果となった。

 

「お疲れ様です。リンさん」

「アヤメさんこそ。二人同時に倒したみたいだね」

「ええ。良い闘いぶりでしたよ、リンさん」

 

 二人が互いの闘いを労い合うと、リンはアヤメに敵の正体について聞いた。

 

「名前はスケアクロウとランバージャック。前者は知恵の元である脳を、後者は暖かい心臓を求めます」

「オズの魔法使いかな」

「おそらく、その概念と共鳴して生まれたのでしょうね。記録に残っている中では、先程言ったような惨たらしい最期を迎えた犠牲者がいるようです」

「脳……はまだ分からない事も無いけど、圧縮して心臓にしてどうするのさ」

「暖かい心を求めた木こりは鉛の心臓では満足できなかった。だから、暖かい血肉を求めたのでしょうね。鉛の心臓とは違う、暖かいだけの心臓を」

 

 案山子はアヤメの知恵を奪おうとした紫陽花譲治の心が、木こりはそんな譲治の心を求めた浅見ナオミの心が生み出したのかもしれない。

 

「随分と皮肉っぽく言うじゃないか」

「心が温かいほど心臓が暖かい、なんてこと、あるわけないじゃないですか」

「それもそっか」

 

 実に冷めた意見であるがツッコミ不在である。しかし、アヤメは少し熱を帯びた声でこうも続けた。

 

「でも、リンさんになら私の心臓をもぎ取って捧げても良いですよ。なんならその腕で圧縮していただいても」

「メンヘラの最終形態!? ……アヤメさん、好きでもない相手にそう言うこと言うのやめた方が良いよ」

「貴方の心に比べたらまだ鉛の方が温度ありそうですね!」

「なんで逆切れされたの!?」

『恋愛関係になるとIQ半減するのはわざとなのか?』

「ポチまで!?」

 

 かつて戦場に散った自動人形(オートマタ)の兵士達。彼女等は人間ではなかったが、確かな暖かさがあった。そして、木こりはそれを求めて、手に入らなかった。そして、アヤメはリンの心を手に入れる事は叶わない。

 

 話し合う二人の横で案山子ことスケアクロウとランバージャックこと木こりの身体が霧散してゆく。一度死体になってから霧散するという、自分達が間違いなく怪異を殺したのだと認識させる最後は、どう足掻いても気分の良い物ではない。

 

「……リンさん?」

「祈りを捧げているんだ。どんなに極悪な相手とはいえ、殺したわけだからね」

「…………なるほど」

「何か言いたそうだね」

「まあ、強いて言うなら理由を聞きたくはありますが……」

 

 無表情に疑問を呈するアヤメに、リンは祈る理由を話した。

 

「いくら外道とはいえ、命だから。罪を犯すことを躊躇っては大切なものを守れないけれど、祈る気持ちを忘れては真の正義を貫く事も出来ないと思うんだ」

 

 どれだけ正しい行いをしていたとしても、行使者が自らを正義と名乗ればそれは正義ではない。何かを為そうとするならば、それが本当に正しい選択なのか、常に自分を疑い続けなければならない。

 そう考えているからこその祈りだ、と。それを、自分が世話になっている神父の教え、そして、Weyer String-IIIの「哀悼者であって欲しい」という願いを踏まえて。

 

「自分が正しいと保証して欲しいわけではなくて、自分が正しくあるよう努力するための祈り、かな。僕も完全には理解しきれて無いけどね」

「なるほど、素敵ですね」

 

 アヤメはリンの背後に立ち、来るかもしれない敵に対して威を示すように剣を地面に突き立てる。

 

「アヤメさんは、敵に祈ったりはしないの?」

「ええ、しないでしょうね」

「……理由を聞いても良い?」

「単純な理由ですよ。闘い続けていれば、祈る余裕すらない時が絶対にやって来ます。誰かには祈りを捧げても、別の誰かにはそれをしなかった。その心に生まれた弱みは、やがて私を食い殺す」

「…………」

「かつて兵士から教わった事です。その兵士は、目の前で心臓を撃ち抜かれましたけどね」

「…………」

 

 これが二人の違いなのだろう。

 

 境遇に特異さこそあれど、一応は平和な世界にいたリンと、本物の戦場を見たアヤメ。それが如実に表れた瞬間だった。

アヤメの剣技は一朝一夕に身に付いたものではない。その領域に至るまでにどれほどの敵を殺したのか。どれほどの苦悩を飲み込んだのか。

 

 そして、Weyer String-IIIが武器に死を連想するモチーフを取り入れたのは、祈る余裕がない時のせめてもの慰めなのだろう。

 

 どちらが正しい、とは言えない。これに関してはリンが甘いと言われればそうなのだろうし、アヤメが無慈悲に過ぎるという意見もあるだろう。

 

「だからこそ、私は争いを嫌悪する。戦場とは、信念も慈愛も全てが朽ち死ぬ修羅の庭です。貴方のその尊い信念すら、踏みにじって焼き尽くしてしまう」

 

 そして、その現実を知っているからこそ、アヤメは争いを嫌悪するのだ。その想いを知ったリンは、静かにこう言った。

 

「……安心してよ。この行為をアヤメさんに強制する事は無いからさ」

「ありがとうございます。お礼というわけではありませんが、祈りを捧げている間は私が貴方を護ります。貴方が真の正義を貫けるように」

 

 最後に少女は独白する。

 

「たとえこの身が修羅となっても」

 

 愛する者の正義のために、剣を握った少女は人の道を外れる。

 




 闘いに対するリン君とアヤメの価値観の違いが描写される回となりました。アヤメはリン君の祈りを尊い物だと思っていますが、現実として戦場の残酷さを知っている。難しい問題だと思います。

備忘録

>案山子と木こり

 童話『オズの魔法使い』より。これからも童話モチーフは時々出すつもりです。ただ、これの直接的な元ネタはプロムン作品の奴らです。

>リフ・ウラヌス

 マホロアの《リフバリア》に相当する技です。バリアではなく、身代わりの蝶が攻撃を肩代わりする形となりました。

>祈り

 マルスプミラ本編の『アンユージュアル・サスペクツ~新たなる仲間~』にて描写が有ります。
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