「う~ん、また夢の世界かな……」
何故か現実世界では忘却しているが、来る度に記憶が蘇る夢世界でリコは目を覚ました。ならばと、今までの傾向通りにアヤメを捜そうとするが、目の前に拡がる光景が奇妙な事に気付く。
リコがいるのはビル群なのだが、そのビルは高い物でもリコの身長と同じくらいか少し高い物しかなく、低い物だとリコの腰くらいの高さしかない。それより低い建物だとニャローテと同じ高さだ。
(え? え? どういうこと!?)
困惑したリコは建物に触れてみる。すると、その材質はコンクリートではなくプラスチックだった。少々暗くて分かりづらかったが、よくよく見てみればそれが模型、つまりジオラマである事は一目瞭然であった。
(よかったぁ~……私が大きくなっちゃったわけじゃないんだ……)
とりあえず自身やニャローテがダイマックスしたわけではない事が分かりホッとする。仮に巨大化したならアヤメを見つけても潰してしまうかもしれない。
「とりあえず、このジオラマから出ないと。行くよ、ニャローテ」
ここは夢の世界ゆえに壊した所で誰からも文句は言われないかもしれないが、なんとなく罪悪感が湧いたリコは慎重に、しかし急いでジオラマから出ようとする。ミニスケールで再現された道路は案外丈夫な素材で作られているらしく、多少強めに踏んだりニャローテが跳ねたりしても壊れる事は無かった。
リコは散在する信号機や歩道橋を跨ぎながら進む中、通り過ぎた景色に違和感を覚えて少し戻ってみる。ここまで、明かりの類は見ていない。にも関わらず一カ所だけ光っていたのだ。
最初は照明器具かとも思ったリコだが、どうにもその光に見覚えがある気がして近づいてみる。
「あれ? ヒトモシ?」
「モシッ」
なんと、ケーキ屋の模型、ではなくヒトモシがミニチュアサイズの建物に紛れて佇んでいたのだ。しかも、リコを見つけるとすぐに寄って来た上に、ニャローテも警戒していないのでリンのポケモンであるヒトモシで間違いないだろう。
「ヒトモシ。多分ここは夢の世界だと思う。前にもこういう事は有ったから、ちょっと分かるんだ。とりあえず今はアヤメさんを捜してるんだけど、一緒に来てくれる?」
「モシ! モシモシ!」
ヒトモシは了承してリコに同行する。ヒトモシとしては、時々リンの口から話題に上がるアヤメなる人物に興味もあり、とても強く了承する。ついでに、リコがアヤメの名を口にした時に見せた複雑そうな表情から、ラブの波動を感じ取っていた。
「ニャ、ニャッ」
「こら、ニャローテ」
ジオラマの中を歩くという非日常から好奇心を刺激されるらしく、ニャローテが車で遊び始める。無論模型ゆえに誰も乗ってなどいないが、上述の罪悪感故にリコは止める。散らかされたらシンプルに歩きにくいという理由もあるが。
「もー、さっさとジオラマから出るよ。ヒトモシ、ニャローテ」
「モシッ」
「ニャー……」
動きにくい事この上ないし、早くアヤメを捜したいリコは二匹に声を掛けて先を急ぐ。ニャローテは遊び足りないのか不満そうな声を上げるが、いつまでもミニチュアサイズの街に留まってはいられない。
しかし、リコは運が悪かった。
「嘘……」
「お前……!」
なんと、今回はアメジオ、ジル、コニアの近くに出てしまったようである。
一方、アヤメとポチとキルリアは途中でエコーズを拾い、反響定位による索敵をしながら進んでいた。その最中、アヤメは表情を険しくして足を止める。
「……少々好ましくない事態が発生しているようです」
『というと?』
「以前に闘った《エクスプローラーズ》の一派がリコさんと接敵してしまったようです」
『何!? では早く向かわねば!』
「それも考えましたが、ある程度は互角に戦えているようです。しかし、相手は前回の失敗から学習し、総力を挙げて短期決戦を仕掛け、反面リコさんは数で少し押されている……今回はここから援護しましょう。まずは敵を減らします」
アヤメはそう言うと、
「Aurrav ro surithleogas(雷の矢)……」
と呟いて魔法で雷の弓を形作る。なお、キルリアは知らない事だが、使用している言語は《イリシーズ》というアヤメが作った架空言語だ。どうやら魔法の詠唱にも使えるらしい。
「(距離、計算完了。風速、修正。湿度、変更無し。障害物による威力減衰・軌道誤差、許容範囲……)次の呼吸周期で仕掛けます」
『本当に此処から狙うつもりでござるか!? 200メートル以上は離れているでござるよ!?』
キルリアが驚愕しているが、アヤメは投擲剣《トリスタン》を雷の弓につがえる。そして、
「bitex nireom!(敵を撃て)」
雷の弓によって電磁加速された矢が放たれた。ポチとの連携によって投擲剣に電流を纏わせ、電磁加速して放つレールガン。アヤメの魔法の一つ、《フェイルノート》だ。
「目標1、クリア。後は近づきつつ狙撃を繰り返します。影移動の可能範囲に入ったら使用します」
『本当に命中させたでござる……』
キルリアは驚きつつもアヤメについていく。まずはリコ達を助けなければならない。
「ニャローテ、《マジカルリーフ》!」
「ニャー!」
他方で、ジオラマでは数匹の怪獣が暴れていた。サイのような怪獣は山間部でもないのに落石を起こし、アヒルのような怪獣は洪水を起こしている。そして、猫のような怪獣は視認性の悪い強風を起こしていた。
「(ジオラマ作った人、ごめんなさい!)ヒトモシ、《だいもんじ》!」
ニャローテの《マジカルリーフ》で視界が遮断された後、ヒトモシが高火力技である《だいもんじ》を放つ。リコとは臨時のパートナーだが、上手く連携しているようだ。
「くっ……アイツに似て小癪な真似を! ソウブレイズ! 《ゴーストダイブ》だ!」
「(ちょっとはリンに近づけてるかな)ヒトモシ、《ちいさくなる》!」
「モシッ!」
そして、予定通りの時間にソウブレイズがニャローテの背後から現れるが、
「モシッ!」
「何!?」
小さくなっていたヒトモシが建物の隙間からまるで離陸した戦闘機のように跳び出し、ソウブレイズに攻撃を仕掛ける。奇襲に対し奇襲で仕掛ける。実に冴えた作戦である。
「ゴルダック、《みずのはどう》!」
「サイドン、《ロックブラスト》だ!」
「ニャローテ、《やどりぎのタネ》で守って!」
だが、敵は数的有利を盾に攻撃を仕掛けてくる。一体でも減らさなければジリ貧も良い所だ。アメジオの手元にはソウブレイズだけでなく、トゲキッス対策のために加えられたスピンロトムもいる。敵の数はこちらの二倍。流石に手が回らなくなってくる。
早くなる動悸をなんとか抑えながらリコが次の指示を出そうとした時、ジオラマの街に弾道ミサイルが飛来した。
「ゴルダック!?」
そのミサイルはジオラマが展示されている建物のガラス戸を打ち破り、そのままの勢いでコニアのゴルダックを強かに撃つ。ゴルダックはその攻撃によって吹き飛ばされ、大ダメージを負った。
(あの剣……!)
「なんだ!? 何処から攻撃された!?」
「正面玄関からです!」
動揺するアメジオに対し、ガラスが割れた方向からジルが特定する。だが、攻撃者の姿が見えない。外には静かな夜が拡がるばかりである。
だが、再び同じ方向から剣の形をした雷速の弾道ミサイルが放たれる。今度はサイドンに命中した。一瞬でポケモンを二体減らされ、焦るアメジオ達。とりあえず、ゴルダックとサイドンを復帰させ、次の方策を練らねばならない。
「(イチかバチか)ロトム、正面玄関に《10まんボルト》! ソウブレイズは《サイコカッター》だ!」
「サイドン、《すなあらし》!」
攻撃された方向に攻撃を返し、更に《すなあらし》でこちらを視認できなくする。ひとまずはこれで脅威は去ったかのように思えたが、
「何だと!?」
「私だってまだ負けてない!」
攻撃者の正体を見破ったリコが歩道橋の下に潜伏させていたニャローテに《でんこうせっか》でソウブレイズに攻撃させる。
「くっ……毒され過ぎだろう!」
「まだまだ! ヒトモシ、《だいもんじ》!」
なんと、《ちいさくなる》でニャローテの上に更に潜伏していたヒトモシが大技を仕掛けてきた。リンがトゲキッスの上にイーブイとヒトモシを乗せて攻撃を仕掛けてきたのを思い出し、使ってみた。
「二度も掛かるか! ソウブレイズ、《むねんのつるぎ》!」
アメジオは負けじと応戦するが、
「何!?」
なんと、ソウブレイズにジオラマの電線が絡みついていた。実は、ニャローテの《でんこうせっか》は攻撃だけが目的ではなく、電線を絡ませてソウブレイズの行動を阻害するためのものだったのだ。おかげで回避が遅れたソウブレイズは《だいもんじ》をモロに喰らってしまった。
「やった!」
「忌々しい! ロトム、ニャローテとヒトモシに《あくのはどう》だ!」
「ゴルダック、重ねて《みずのはどう》!」
「サイドン、《ロックブラスト》だ!」
ソウブレイズの脱出時間を稼ぐため、総攻撃を仕掛けるアメジオ一派。だが、その攻撃が行われる前に、またもゴルダックとサイドンが吹き飛ばされる。
「バカな!?」
「同時に二方向から……だと!?」
弾道ミサイルこと《フェイルノート》が正面玄関ではない方向から二発、ご丁寧にそれぞれ別の方向から放たれている。
そして、その直後に、
「ソウ!?」
その射手が上から現れ、ソウブレイズに剣を振り下ろした。
「アヤメさん!」
「あの女……!」
「お久しぶりです。リコさん」
『ヒトモシ殿、無事でござるか!?』
「モシ……(ええ、無事ですわ。リコさんが順調にリンさんに毒されているおかげなのが複雑ですが……)」
リコの声に対し、笑顔で答えるアヤメ。他方、キルリアも朋友との再会に喜んでいた。
アヤメの登場方法はポチの権能による影移動を使った、いわば《ゴーストダイブ》のような技であり、先の二発の《フェイルノート》も同じ原理である。そして、視界を塞がれてもアヤメは音で感知できるのだった。
「さて、少しは曲芸の腕を上げたかと思いましたが……」
アヤメは改めてアメジオ一派に向き直ると、声を低くする。
「雁首揃えてごきげんよう。《エクスプローラーズ》の皆様」
闘いはまだ続くようだ。
「キル……(アヤメ殿……かなり口が悪いでござるな……)」
「モシ……(ええ、言葉の鋭利さだけならばリンさんを超えるかもしれませんわ……)」
『言われてんぞー。アイリス』
「モシッ!?(今の誰ですの!?)」
この状況を見たリン君がなんていうか楽しみです。
2024/9/18:これ以降のお話もそうですが、ニャオハをニャローテに変更しました。
備忘録
タイトル:
ミニチュアサイズの街の中で、リコさん達が相対的に大きく見えるという感じです。ポケモンバトルが怪獣映画になってしまいました。また、良い感じに障害物が集まっているのでヒトモシにとって相性のいいロケーションです。
久しぶりのイリシーズ:
『夢見の国のアイリス』以来の登場。どうやら魔法言語としても使えるようですね。
リコさんの戦術:
ものの見事にリン君とアヤメに毒されています。あえて時系列は明らかにしませんが、長くいると似てくるものです。
フェイルノート:
アヤメの魔法の一つで、言ってしまえば投擲剣を電磁加速させたレールガン。シンプルですが、非常に強力です。名前の元ネタはトリスタンの弓です。
トリスタン:
投擲剣。地味に名前が有りました。