まるで隕石でも降ってきたかのように更地になっているジオラマの中で、二人の少女と三人の大人が相対していた。片方はアヤメと背に庇われるリコ、もう片方はテラパゴスを狙ってきたアメジオ達三人である。なお、前回描写し忘れたが、しっかりテラパゴスも来ている。
「雁首揃えてごきげんよう。《エクスプローラーズ》の皆様」
アヤメの慇懃無礼な挨拶から会話、否、舌戦が始まる。物語に登場する悪い魔女の態度は純粋な騎士達を苛立たせるには充分であった。
「また貴様か! あの卑怯者と言い、どれだけ俺達の前に立ちふさがれば気が済む!」
「卑怯者……とはリンさんの事でしょうか? 推し量るに、また、かの軍神の前に膝をついた、と」
「貴様!」
「えっとね? アヤメさん……」
涼やかな声でアメジオに舌戦を仕掛けるアヤメにリコが経緯を伝える。ガラル鉱山にてリンがアメジオを囮にしたこと、そして古城にてリンもまた舌戦を繰り広げていた事を。
それを聞いたアヤメは「前回に比べてやたらと怨み骨髄な理由はそれか」と納得し、その上でこう伝えた。
「流石はリンさんです。まるで本に出てくる英雄のよう。お金払えるくらい面白いじゃないですか!」
「は……?」
「正気か? この女」
なんとアヤメの口から飛び出したのは称賛。恋慕を向ける軍神への憧憬の念であった。よりにもよってアメジオ達本人の前で言ったのは……敵に容赦が無いのはリンと同じと言ったところか。
「アメジオ様を囮にして殺しかけるような奴が英雄であって堪るか!」
「というか、ジュースでやるだけ優しいんじゃないですかねえ。私だったら血液凝固阻止剤か出血毒を塗った剣をあなたに突き刺したうえで流血によっておびき寄せますけど」
アヤメは小中学生時代に本で読んだ展開をそのまま話す。具体的には『N○.6』や『デルトラ○エスト』などである。血液凝固阻止剤は主人公格の少年がくらっていたし、囮作戦に関しても意図的、非意図的問わず主人公側が普通に使っている。
しかも、だいたいアメジオ達の状況を鼻で嗤える結果になっている。具体的には毒の空間に敵を丸裸で突っ込ませたり、盗賊を魔物の餌にしたり。げに恐ろしきはその世界の過酷さかもしれない。
そして、そんな内容の本で義務教育を終えてしまったアヤメの思考回路もまた恐ろしい。何なら当時のアヤメのお気に入りは主人公の少年少女が惨たらしく死んでゆく内容の短編集『ニック・シャ○ウの真夜中の図書館』だ。対象年齢はポケモンと大差ないにもかかわらず、冒頭の○ック・シャドウの自己紹介で「ページをめくるのに勇気がいるかもしれません。なにしろ、最悪の結末が待っているのですから」と、わざわざバッドエンドを予告する徹底ぶりだった。
仮に、(一応、対象年齢ではある)リコやロイがこれらの物語を読んでいたら身体は芯から凍り付き、若くて脆い骨にはがたがたとふるえが走る事だろう。
なお、怯えるのは少年少女だけでは無いようで、
「貴様! やはり人ではないな!」
「人間って結構命の株価変動激しかった記憶があるんですけど」
「あっちゃいけないのよそんな言葉は!」
「アヤメさん。一回交番行こう? 多分、倫理観届いてるから」
「キル……(少しアヤメ殿の心を読み取ってみたが、相当に恐ろしい物が渦巻いているでござる……)」
「モッシモッシ(それはそれとして皆さんの恐怖の感情が美味しいですわ)」
『マイペースなローソクだな』
「モシッ!?(だからさっきから誰ですの!?)」
阿鼻叫喚な敵味方を一瞥し、アヤメはアメジオ達に向き直る。
「さて、私の残酷な一面が明らかになったところで、どうか退いてはいただけませんか。こちらとしても無駄な闘いは避けたいのですけれど」
「退くか! 貴様も倒さねばならない相手である事は間違いない。それも、あの卑怯者といい勝負ができそうな外道さ……個人としても気に食わん!」
「はあ……仕方ありませんね」
「その余裕な表情がいつまで続くかな? ソウブレイズは既に特性《くだけるよろい》を発動済みだ。いくら貴様の剣が優れていようとも動きを捉える事は不可能。やってしまえ、ソウブレイズ……?」
アメジオは血気盛んにソウブレイズに指示を出すが、何故かソウブレイズは動かない。見てみれば目は虚ろで倒れ込んでいる。その既視感のある状況に嫌な予感のするアメジオ。
「まさか……!」
「Qide rydulu ea resuvea. (沈黙は厳かに嘲笑う)」
「何だ!?」
「きゃあ!?」
「Dievise rilex teto yuroabiteos. (死者は歯ぎしりしながら囁く)」
「サイ!?」
「ゴル!?」
「なっ!? ソウブレイズ!?」
その直後にサイドンとゴルダックに帯電した剣が降り注ぎ、周囲に電撃を放つ。更に、数本の投擲剣がソウブレイズに命中し、そのダメージがサイドンとゴルダックにも伝わった。
「な、何が起きたの……?」
「ニャ……!?」
味方ですら状況が把握できていない中、キルリアだけはこの作戦を考えたアヤメに畏怖の念を向けていた。
(流石はリン殿の友人……えげつない作戦を考え、実行に移したでござるな)
「《くだけるよろい》でしたか? 聞いてもいない事を教えて下さりありがとうございます。それで? ソウブレイズさんは動けるのでしょうか」
「くっ……またしても!」
アメジオは予感が確信に変わり歯噛みする。
まず、アヤメは最初の奇襲の時に、万一戦闘になってもいいようにキルリアの《さいみんじゅつ》を予めサーベルにかけていた(余談だが、このサーベルの名前は『イゾルデ』である)。そして、会話の前にソウブレイズを攻撃し、既に行動不能に陥らせていたのだ。
そして次に戦闘が始まるとポチの力で帯電させた投擲剣トリスタンを放ち、サイドンとゴルダックを感電状態にする。この攻撃はダメージを与える事よりも感電状態にすることが主目的である。
そして、動けないソウブレイズに数本の帯電させたトリスタンを撃つ。この攻撃はエコーズの力で増幅されており、感電状態の敵にダメージが飛び火するようになっている。サイドンとゴルダックに与えられたダメージはこれだったという事だ。
「なんて厄介な……」
「アーマーガアも出す! ニャローテとヒトモシは消耗している。叩くなら今しかない!」
一方、攻撃の正体は分からないながらもアヤメを厄介な相手と判断したアメジオ達は戦力を追加してアヤメを倒そうと構える。アヤメは内心で「まだやるのか」と思いつつも、次の攻撃の準備を始めた。
「キルリアさん」
『了解した!』
アヤメがキルリアに指示を出すと、部屋に何かが張り巡らされる。その瞬間にソウブレイズにかけられた《さいみんじゅつ》が解けた。
「何のつもりだ……」
「折角ですから、踊って差し上げます」
(まさかの挑発)
「ならば望み通り、ソウブレイズ! そしてロトムは《10まんボルト》! アーマーガアは《エアスラッシュ》だ!」
「ソウ!」
「ロト!」
「ガア!」
ソウブレイズとてノーダメージではないが、その目に復讐の炎を宿し、悪しき魔女を斬り捨てようと高速移動を開始する。だが、
「まあ、素直」
アヤメはそれを軽く躱すと、ゴルダックを高速で切り裂く。どうやらこの斬撃には《裂傷増幅》と同じような魔法が上乗せされているらしく、サイドンは無理矢理感電状態を悪化させられて苦しんだ。そして、ロトムとアーマーガアが攻撃の準備を始めたと見ると、
「《公開》」
指を鳴らした。すると、今しがた攻撃を仕掛けようとしたロトムとアーマーガア、そしてゴルダックが先程のソウブレイズと同じように動けなくなってしまった。
「なっ!? 今度はどんな卑怯な手を使ったんだ!」
今度こそアメジオは注意して見ていたが、攻撃の正体が分からない。《さいみんじゅつ》はポケモン達に直接当てられてはいないし、媒体となるものも見えなかった。
「教えるわけが無いでしょう。種も仕掛けも無いグランギニョル、どうぞお楽しみくださいな」
実はタネは単純である。暗闇では見えづらい何らかのものを媒体として《さいみんじゅつ》を掛けた。しかし、この時はまだ目に見えて何かが起こるわけではない。ただ、いわば《心理暗示》の状態であり水面下で影響は受けている。
そして、アヤメの指の音と共に《公開》され、効果が発動するという仕掛けだ。恐ろしいのは《公開》が完全に任意のタイミングで操作できることであり、乱戦中に使われでもしたら致命的な結果になりかねない。そうでなくとも、仕掛けた攻撃が全て無効化されてしまった。
「貴方に
アヤメは再び《フェイルノート》を構えると行動不能に陥ったゴルダックに照準を合わせる。無論、回避する事などできない。威力については先の不意打ちで嫌という程分かっているが故に、ジルはサイドンを見た。
「サイドン、行けるか? 《メガホーン》!」
せめて攻撃で威力を減衰しようと思ったのだろう。だが、アヤメは少しだけ笑うと、
「Fiseoth ha athelete reyuroa.(優しさもまた残酷)」
そう詠唱した。すると、《フェイルノート》に着弾したサイドンが激しい苦悶の声を上げて倒れ込む。
「サイ! サイーーーー!」
「サイドン!?」
「本当に、読みやすくて助かります。まあ、最初に残酷な話を振ったら帰ってくれるかな、という願望は叶いませんでしたが」
やった事はこれまた単純。先程の感電拡散を、今度は一点集中させただけである。本来分散されるはずの物が一体に集中するのだから、ダメージは計り知れないが……
「くっ……仕方が無い! ここは退くぞ!」
《公開》の効果が切れ、ポケモン達が動けるようになったころ、アメジオは撤退の指示を出した。アヤメは深追いはしない。あの程度であればいつでも始末できるというのもあるが、今はリコやポケモン達と話したいのである。
最後にアメジオが捨てセリフを吐き、アヤメも聞き取っていたが無視した。大した内容ではなかったのだ。
アヤメは敵影が消えたのを確認すると、リコに向き直り笑顔を浮かべた。
「では、改めまして、お久しぶりですね、リコさん」
「は、はい……お久しぶりでしゅ……」
目の前で繰り広げられた恐ろしい戦闘や冒頭の流血宣言により恐怖の感情を抱いたリコは、涙目で少し噛みながら返事をした。
話が細切れで申し訳ない……
エグイ技がやたらと出てきました。リン君と同じくブーイングの嵐に遭いそうです。
一応元ネタはありまして、『崩壊:スターレイル』のカフカさんです。ゲーム内で実際にやられた事とやった事を書きました。詠唱の内容とかはまんまカフカさんです。
備忘録
アヤメの読書遍歴:
いずれも児童文学やそれに準ずるものですが、ややダークファンタジー、ディストピア、ホラー短編と強めの本が多いです。因みに、三文小説家の読書遍歴でもあります。全て小中学校の図書室にありました。
沈黙は厳かに嘲笑う:
帯電させた剣を敵や地面に突き刺し、剣と電撃の二段構えでダメージを与え、更に感電状態にする技。以下の技も同様だが、炎と火傷を使ったものもある。
死者は歯ぎしりしながら囁く:
敵一体に投擲剣を連射し、それを起点に他の感電状態の敵にダメージを拡散させる技。
優しさもまた残酷:
《死者は歯ぎしりしながら囁く》の拡散ダメージを一体の敵に集中させた技。弱った敵にトドメを刺したり、仲間を守ろうとした他の敵に対して仕掛ける事が多い。
心理暗示→公開:
何らかの手段で《さいみんじゅつ》を非顕性感染させ、指を鳴らして発動する技。完全に任意のタイミングで発動する為、誰に災いが降りかかるか怯えながら闘う事になる。おそらく夢世界限定の技(キルリアの存在が必須)。