彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 夢世界を書く理由として、私自身がマルスプミラ本編の展開を忘れるのを防ぐ目的と、リコさんの視点を混ぜることでリン君とアヤメのキャラを見失わないようにするのが主な目的です。転移前を考えていると無限にキャラ崩壊するので……あと、一番アヤメの心情を理解できそうなのがリコさんなんですよね。

 あと、アヤメを何処まで強くするのかも密かに試行錯誤していたりします。気が付くと無限に強くなるんだもの。この子……

 勿論、リン君が転移した後にアヤメがメッセージを飛ばし続けているという設定のもとで書いていますが。本編が全く進まないこの夢世界ですが、GREEN GREENS様のご厚意により続けさせていただいております。



Interlude3ー魔女の怒り

 アヤメをリコが慰め、そして泣き出してしまったリコをアヤメが慰めた後に二人とポケモン達は夜の街を散策していた。あまり喋らずにひたすら歩き回る。不思議と疲れは感じず、ただ心地よい時間が流れていた。

 

「実は、真夜中にリンさんを教会から連れ出して歩き回った事もあるんですよ」

「へ、へえ……(アヤメさんもそういうことするんだ)」

 

 意外とアヤメもはっちゃけている一面があり、少し驚く感情と『そこまで超越的な人ではないんだ』という安心を同時にリコは感じる。

 

(ほうき)に乗って、本物の魔女のように窓をノックして……なので正確には飛び回った、ですかね。もう今となっては神話の時代のよう」

 

 神話の時代、とは大きく出たものだ。しかし、アヤメにとってはリンの消失の後がそれほどまでに長く感じたのだろう。或いは、消失前にも長い時間に感じるほどの経験をしたのか。

 

 あと、リンがトゲキッスに乗って空を飛んだ時に「意外とGが掛かる」と言っていたが、箒に乗って空を飛んだ時はアヤメがその辺りを上手く調整していたのかもしれない。

 

「ずっと真夜中なら良かったのに」

 

 それは、今はもう戻らない過去を懐かしむアヤメの慟哭のようにも聞こえた。きっと、まだアヤメは昨日に満足していないのだろう。

 

 ふと、リコはアヤメの好む時間帯が気になった。リンは光と闇の中間である夕暮れを好んでいた。また、光に偏らないという理由で夜も好んでいた。ではアヤメはどうなのだろう。

 

「一日の中でどの時間帯が好きか、ですか?」

「うん。ちょっと気になって。リンとそう言う話をしたんだ。私は夜が好き。月が好きなんだ」

 

 そして、リンの答えを聞くとアヤメは「リンさんらしいですね」と笑みを零した。

 

「そうですね。夜の九時と、真夜中の十二時、朝の五時でしょうか」

「凄い具体的な時間返ってきた……」

 

 夜や夕暮れという大枠ではなく、時間指定である。少なくとも夜を嫌悪してはいないようだ、と謎の安心感に浸るリコ。実はリコやリンと真逆の感性という可能性もあった。それでどうなるというわけでもないが、仲間が増えるのは嬉しいのだろう。

 

「因みに、理由は?」

「夜の九時は、まあ、憧れのようなものでしょうか。今よりも小さかった頃に、九時に寝るのは何か嫌だったんですよ。なので、思い出補正も入っているかもしれませんね」

「あー、なんか分かるかも。私もよくお母さんに怒られたな」

「後は、時間がゆっくりに感じるのは個人的に九時からだからですね。昼間は私にとって速すぎるんです」

 

 或る意味社会不適合者のような事を言うアヤメ。まだアヤメより年下であるリコには昼間が速すぎるとは感じないが、将来はそう思ったりするのだろうかと思いを馳せる。いつぞやWeyer String-IIIやポチもゴールドバーグマシンに喩えて揶揄していたが、意外とそう思っている人は多いかもしれない。

 

「真夜中の十二時は、衛星や恒星の共鳴する音が聞こえてきそうな気がするから、ですね」

「ん?」

「私の世界ではとある数学者が、『宇宙が音楽を奏でていて、それがこの世の調和を齎している』と主張したんです。実は私もそう思っています。そして、夜の十二時はそれが顕著に感じられるから好きなんです。星も見やすいですし」

 

 話が壮大過ぎてリコには少しついていけない部分もあるが、とりあえず頷いておいた。少なくとも最後の「星が見やすい」というのは同意できる。やはり音楽家というのは他人と違う感性をしているのかもしれないとも思った。

 

「それで、朝の五時っていうのは?」

「悲しくて好きなんです」

「悲しいのに、好きなの?」

 

 普通は希望の象徴として使われる朝という時間に悲しいという感情を抱くのもそうだが、それでいて好きだというアヤメにリコは混乱する。

 

「ゆっくりと流れる夜の時間。まるでオルゴールのように心地よい時間が、朝日と共に終わりを告げる。まるでメギドの火によって世界が終わってしまうような光景が、どうしようもなく悲しくて、美しいんです」

 

 「悲しくて、美しくて、好き?」と、目をグルグルさせているリコに、アヤメは笑いかけて答える。

 

「リコさんにはまだ分からないかもしれませんね。どうしても泣きたいときもあるんです。そういう時は無理に励ますのではなく、とことん悲しみに浸りたいときもあるのですよ」

 

 その悲しみに浸れる時間が朝の五時という事だろうか。と、リコはなんとか理解した。しかし、感性はやや独特ではあるが、アヤメの事がまた一つ知れたのはリコにとって僥倖であった。

 

 そうして雑談をしながら歩いていると、二人に斬りかかる影が現れた。

 

「…………」

 

 アヤメは剣を持った右手を上に掲げ、その斬撃を剣で受ける。下手人は夢世界でリコ達に会う前にも襲い掛かってきた警備員のような怪異〝狩鋭〟であった。そして一瞬後に、

 

「!」

 

 狩鋭が両断された。リコやポケモン達が声を上げる間もなく、人型の相手が斬られた。アヤメの攻撃速度が速いのもそうだが、一切躊躇が無いのもリコが驚いた原因だろう。

 

 更に、アヤメは居合切りのような体制を取ると、

 

「Zuben es arco」

 

 ————ズバッ

 

 リコ達の目の前で世界が両断された。街灯も、街路樹も、自動販売機も、建物も、その中に潜んでいた敵達も、一振りのもとに全て斬られたのだ。

 

「は……?」

「……私の夢なのに私の思い通りにならないのはどういう事なんでしょうね」

 

 何の気なしにアヤメはぼやいているが、《Seirios》に続く大技にリコ達はまたも放心していた。「Zuben es arco」と呟いていた事から、何らかの魔法なのかもしれない。

 

「まあでも、夢だからこそ、ここまで派手な斬撃も使えるというものですね。現実なら無辜の民が十人ほどは死んでいるでしょうし」

 

 かつてアヤメが暴走した時にリン達が苦しめられた斬撃。話を聞いた時も怖かったが、実際に目にするとなお怖い。

 

「ああああああアヤメさん……今のは剣で」

「まあ、慣れてください」

「慣れてくださいて……」

規格外でござるな……

「六英雄も同じくらいの攻撃力って聞いたのですけど」

「個人で六英雄と拮抗してることに疑問を持って?」

 

 アヤメは微笑むばかりで何も言わない。代わりにリコ達に警告を飛ばす。

 

「皆さん、呆けている場合ではありませんよ。どうやら本命達がいるようですから。さっきからつけてきている方々、何の用でしょう?」

「……おや、バレていましたか」

「! スピネル!」

 

 アヤメの問いかけに答えたのは嘗てリン達を窮地に追い込んだスピネルだった。なお、スピネルの所業についてはリコから聞いているため、アヤメは初手から不機嫌オーラ全開だったりする。しかし、とりあえず話をしようと攻撃はしなかった。

 

「その服装、貴方もエクスプローラーズですか」

「名前は彼女が明かしてくださいましたし、紹介の手間が省けて助かります。そして、貴方はアヤメさんという名前ですか」

「ええ」

(なんだろう。敬語同士で普通の会話なのにものすごく怖い……)

 

 表面上はにこやかに会話をするアヤメとスピネルだが、特にアヤメの方が声に怒気を孕んでいる。スピネルとの確執を話したのはリコだが、予想以上にアヤメの怒りが深いのだ。やはり、アヤメのリンへの愛は本物なのだとリコは悟る。

 

 一方、スピネルもアヤメの纏うオーラに気が付いたのか、少し頬を引き攣らせながら会話を続ける。

 

「失礼、そんなに警戒されてしまうとこちらとしても話しづらいのですが……」

「ご自分が何処に属しているのか、考えてから発言なされた方がよろしいかと。リコさん曰く参謀という割には、考えが浅いですね。リンさん、こんな人に窮地に追い込まれたんですか?」

「っ……まあ、一理ありますね。しかし、今回は敵対ではなく勧誘に来たのです?」

「はい……?」

 

 アヤメが怪訝な顔をして首を傾げると、スピネルは少し余裕を取り戻して語り始める。

 

「アメジオ達だけでなく、サンゴやオニキスまで倒したその力と手腕、敵対したままなのはもったいないと思いましてね。オーベムを使って貴方達の会話を聞いたところ、貴女はリン君のことを愛しているとか」

「だったらなんです?」

 

 会話を盗み聞きされていた事にアヤメとリコが顔を顰める。特にアヤメは、『何やらおかしな音が聞こえると思いましたが、潰しておくべきだったか』と思い返していた。

 

「それに、おそらく彼に大きな影響を与えた親友というのはアヤメさん、貴方のことでしょう。それによって彼の勧誘は失敗したのですが……」

「嬉しいものですね。彼は敵を見誤ってはいないようです」

「ええ。しかし、貴女は彼の姿を見る事はできない。そして、彼の愛を得る事はできなかった。違いますか?」

「……何が言いたいのでしょう?」

 

 アヤメは朗々と語るスピネルに対し、死んだ眼で睨みつけている。だいたい顛末が予想できたのもあって、彼女の心には静かな怒りしか存在しなかった。

 

「アヤメさん、貴方、こちらに来ませんか? 我々ならば貴方の望みを叶える事が出来ます。我々が求める秘められた力があれば、かの少年に再び会う事も、かの少年の心を手に入れる事も可能です! まあ、後者に関してはオーベムがいれば理論上可能ではあるのですがね。リン君の記憶を弄ってしまえば、貴女の言う事を何でも聞く恋人となるでしょう! どうです? 悪くない取引だと思いませんか?」

 

 そんなアヤメにスピネルは囁く。【エクスプローラーズ】が目指す計画のためにはリコのペンダント、ひいてはテラパゴスが必要であり、その先には大いなる力があると思われる。

 スピネル自体は感情論など意味がない思っているし、アヤメが抱いているであろう愛もまたどうでも良いものだが、強力な戦力になれる彼女をスカウトするためなら多少は譲歩する腹づもりだ。そして、彼女を仲間に引き入れる為には、リコに対して狂気的に語っていた愛を担保にすればいいと考えたわけである。

 

 なお、リコはアヤメがずっと喋らないのが怖くて仕方なかった。リコが自信を持てずに話さないのとはまた違う、〝無言の圧力〟とでも言うべきアヤメの雰囲気に圧倒されていたのだ。

 しかし、後半にスピネルが話した、大変新人思いのブラックにも程がある報酬は聞き捨てならないと飛び出した。リンの記憶を操作するなど許せないし、目が虚ろとなったリンがアヤメのものになってしまう、その光景を想像したら思わず飛び出してしまったというのもある。

 

 だが、アヤメはリコを優しく止めると、スピネルに笑顔で向き直った。

 

「とりあえず、勧誘に対する返事だけしておきましょう」

 

 そして、見開かれた目以外の表情の削ぎ落された顔でこう言った。

 

「断る。腐肉は一人で喰らえ。私には不味すぎる。屍肉は一人で漁れ。(ケダモノ)の食事に興じる趣味はない。人肉は身内同士で喰い合え。食人鬼(グール)の牙を私に見せるな」

「……………………」

(なにこの暴言……聞いてるだけで気絶しそう……)

 

 アヤメが断る事は察していたが、ここまでの毒舌を振るうとは予想していなかったリコは、あまりの衝撃に気が遠くなった。そもそも、優しい彼女の辞書にこんな語彙はない。

 スピネルもここまでの暴言を向けられるとは思っていなかったのか、面食らっている。

 

 アヤメはスピネルの背後や自身の背面のビル壁や障害物を次々と飛剣で撃ち抜いていった。隠れていたアメジオ一派やサンゴやオニキスが姿を現す。

 

「クソ! バレてるのかよ!」

「落ち着け! 一瞬でも目を離せば死ぬぞ!」

「分かっている! この化け物め……これだけ離れていても気付かれるか!」

 

 アヤメは相手をするのも面倒だとスピネルに視線を戻した。来るならまとめて来い。手間が省けると言わんばかりにスピネルの策を一つ看破したアヤメは、低い声で語りかける。

 

「私の眼前で食人鬼が軍団を成し、戦列を成し前進する。秩序を外れ、外道の法理を以て蹂躙する。剰え、その戦列に私も加われだと? 寝言は永眠してから言ってほしいものだ。お前達も運が無い。リンさんに手を出さずにおけば、少し痛い目を見るだけで済んだものを」

 

 その怒りは空間を揺らすものと錯覚する程だった。リコなどは本能的な恐怖に体が震え、歯が音を鳴らし、まともに話すことができない。

 

「祈れ。せめて心臓が止まらぬことを」

 

 怒りの魔女による処刑が開始された。

 




 副題:スピネル、地雷を踏む。

愛や感情を軽視した結果、アヤメの地雷を踏みました。

 前半と後半の温度差が酷い事になりました。エクスプローラーズでこれって、セプテムとかどんな有様になるやら……
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