「サイドン! 《ロックブラスト》!」
「ゴルダック! 《みずのはどう》!」
「オニゴーリ! 《ふぶき》!」
サイドンが放った岩の砲弾をアヤメが剣で叩き落すと、その後隙を狙ってゴルダックが繰り出す水の攻撃が襲い、それをオニゴーリの吹雪が凍らせる。普段はお世辞にも仲が良いとは言えないが、共通の、それも強敵を前に見事な連携を見せた。氷に包まれる事によってアヤメの行動は完全に停止したかに思えた。
だが、
「《Muliphein dicevise》」
突如としてアヤメの身体が発火し、氷は跡形もなく溶かされてしまう。橙赤だけでなく、蒼や紫、深紅に藍、
「どうなってんだよアレ!」
氷が一瞬で溶かされたサンゴは天に向かって毒を吐く。アヤメは興味無さげにそれを一瞥した後、ヒトモシに「《だいもんじ》を」と指示した。
「モ、モシ!」
ヒトモシはアヤメの指示を受けて、敵に《だいもんじ》を放つ。それにアヤメが剣を向けると、《Muliphein dicevise》によって発生した炎が《だいもんじ》の炎と融合する。そして、『大』の字を構成するそれぞれの線の終端に炎が収束し、五つの炎弾となってエクスプローラーズに襲い掛かる。
「オーベム! 《サイコキネシス》!」
直感的に何かを察知したスピネルがオーベムの技で軌道を逸らすも、そもそもの弾速が速すぎて少ししか動かせない。かろうじて直撃は避けたと言ったところか。その結果、
「オニ!?」
「ブレイ!」
「ゴル!」
「オベ!?」
「サイ!?」
エクスプローラーズ側のポケモン達の近くに着弾した炎弾は爆発を起こして、体勢を大きく怯ませた。
更に、
「マズい!!」
それぞれの着弾点から炎が繋がり、再び『大』の字が形成され、今度は線の交点にエネルギーが収束する。確認するまでもなく大技の予兆だ。
「み、《みずのはどう》!」
「待て!!」
コニアは慌てて技を打ち消しにかかる。とにもかくにも水をかければ消えるだろうという算段だ。だが、オニキスは慌てて止める。猛烈に嫌な予感がしたのだ。そして、アヤメの口元は笑っていた。
「たーまやー」
どこか楽しそうなアヤメの声と共に大の字の中心は大爆発を起こした。水蒸気爆発も相まって、周囲のものを跡形もなく吹き飛ばし、轟音を撒き散らす威力となっている。
「ゲホッゲホッ」
「なんて威力だ……」
オニゴーリの《じばく》に匹敵するかそれ以上の大爆発に、その場は大惨事となった。それでも戦闘不能になった者はいないのは、流石と言ったところか。
「
アヤメは剣を構え直してそう言った。そう、今のは序曲に過ぎない。咎人が味わう処刑はここからが本番だ。序曲は魔法が主体だった。とすればライトモティーフは……
「キョジオーン! 《しおづけ》!」
と、披露する前にキョジオーンから塩が飛んできた。しかし、アヤメは動じる事は無い。
「《Zuben el fermata》」
アヤメが剣を振ると斬撃が飛び、放たれた塩とぶつかった瞬間に竜巻へと姿を変えた。その竜巻は塩を吹き飛ばし、更にその竜巻の間を縫うようにしてキルリアが現れた。キルリアはアヤメの指示通りにキョジオーンに《トリプルアクセル》を―――
「なっ!?」
すると見せかけて後ろに退く。そして、その直後に雷を纏った剣を飛ばす魔法《フェイルノート》がキョジオーンに直撃した。続けて、
「《Zuben es Auftakt》」
アヤメがそう呟くと、何の前触れもなくキョジオーンを囲むように斬撃が襲う。アヤメの技の一つだ。なお、《Zuben el fermata》は斬撃を飛ばした先で竜巻のような斬撃を起こす剣技で、《Zuben es Auftakt》は『剣を振らずに』対象を取り囲むような斬撃を繰り出す剣技だ。どちらも鍔迫り合いが不可能なうえに、ほぼノーモーションで放てるうえに威力もそこそこあるという反則じみた技である。リン曰く、「それ剣技じゃなくて魔法だろ剣技ランキング同率一位」とのこと。
「ソウブレイズ! ロトム!」
「ブレイ!」
「ロト!」
そんな理不尽の塊のような剣技にも負けず、アメジオはポケモン達を繰り出す。二体のポケモンはそれぞれ《サイコカッター》と《エアスラッシュ》で遠距離攻撃するが、すげなくアヤメに技を叩き落とされてしまった。だが、
「織り込み済みだ! ソウブレイズ、《ゴーストダイブ》の後《つじぎり》!」
ソウブレイズは《ゴーストダイブ》で移動した後に、アヤメの頭上から近接技の《つじぎり》を仕掛ける。流石にアヤメは剣をかざして鍔迫り合いの状態になる。
「先程も言いましたが、曲芸の腕は上げたようで何より」
「それだけではないぞ! ジル! コニア!」
「「了解!!」」
アメジオの合図により、サイドンが《ロックブラスト》を、ゴルダックが《みずのはどう》をそれぞれ放つ。更に、裏に回ったスピンロトムがダメ押しの《10まんボルト》でアヤメを攻撃する。
アメジオ達の表情は「してやったり」というよりも「どうかこれで終わってくれ」という感情が大半を占めていた。だが、
「ヒトモシさん、キルリアさん、《だいもんじ》、《ねんりき》」
「モシ!」
「キル!」
ヒトモシが《だいもんじ》で《みずのはどう》を押しとどめ、キルリアが《サイコキネシス》で岩を操りゴルダックに当てる。更に、アヤメは地面を滑るように移動し、鋭角に飛びずさる剣技《Zuben el crescendo》により鍔迫り合いと《10まんボルト》を逃れ、
「ロト!?」
スピンロトムに反撃、更に、
「《Zuben el diminuendo》」
アヤメが剣を背中から振り下ろし、スピンロトムの頭上から降り注ぐような軌道の複雑かつ無数の斬撃波を放つ。そして、
「《Zuben es staccato》」
地面に降りたアヤメはソウブレイズに急接近して強烈な刺突攻撃を仕掛ける。更に、敵の技の発動を許す間もなく左袈裟斬り、逆手に持ち替えての右斜め下からの斬り上げ、順手に直して回転してからの横一文字斬り、回転を止めてからの振り下ろし、そして下から上から二連斬撃を一瞬で叩き込む。
強力な一閃による斬撃技である《Zuben es arco》を六連続で叩き込まれたソウブレイズは目を回して戦闘不能となった。
「ソウブレイズ!」
「ふん、役立たずが……オーベム、《サイコキネシス》!」
慌ててソウブレイズをボールに戻すアメジオを冷たく一瞥したスピネルは、オーベムの《サイコキネシス》でアヤメの動きを止める。
「なっ!?」
「キル!?」
「モシ!?」
「おっと、援護はさせんぞ」
動きを止められたアヤメを助けようとしたキルリアとヒトモシに、アメジオのスピンロトムとジルのサイドン、コニアのゴルダックが牽制を仕掛ける。いくら剣技に優れていても、身体が動かなければどうしようもない。
「終わりです。ブラッキー、《バークアウト》。レアコイル、《でんじほう》」
「やっちゃえオニゴーリ! 《アイススピナー》!」
「キョジオーン! 《しおづけ》!」
自身の動きを止められ慌てるアヤメに、スピネルとサンゴが嘲笑を浮かべながら、オニキスが真剣な表情でポケモン達に技を撃たせる。
「なんて、驚いてみたりして。《Zuben el chorus》」
だが、アヤメは悪戯が成功したように笑うと、一切身体を動かさずに攻撃者達に飛剣を飛ばす。先の炎弾よりも速い、マッハ速に達しているだろう飛剣の群れは攻撃に集中しているポケモン達には回避できない。飛剣はポケモン達の攻撃を切り裂き、全員見事に攻撃を止められてしまった。
「……これでも届きませんか」
普段であれば自分の策を超える現象は面白がるスピネルだが、ここまで何もかも通じないとなるとそうも言っていられない。よってスピネルは時間稼ぎに出ることにした。
「ふむ……これはあまりにも誤算でしたね。てっきり、あの少年を手に入れられるとなれば貴女はこちらにつくと思ったのですが」
アヤメは面倒そうにスピネルを見て答える。既に分かり合えない気配を感じながら。
「彼の形をした人形では意味が無いのですよ。彼の尊厳を踏みにじって……それで私が喜ぶ? 随分と莫迦にされたものです」
「しかし、今までどれほどの期間を共に過ごしたのかは分かりませんが、彼の心は手に入れられていない。それは貴女の思想が間違っていることを意味しているのでは?」
デジタルな論法を貫くスピネルに、アヤメは大きな溜息を吐いた。もうこれ以上の話し合いは無駄だと結論付ける。
「貴方に……」
「はい?」
「貴方に理解できない事を祈る」
そう言ってアヤメは頭上に炎を纏った剣を打ち上げた。
「何を……!」
「合図ですよ。既にこちらの準備は整っています。後は実行するのみ」
スピネルは怪訝な表情を浮かべ、そして気付く。この戦闘の最中、リコの姿が全く見えなかった事に。
「しまっ……!」
「《やどりぎのタネ》、発芽!」
リコの声と共に、地面から、ビルの壁から、そこら中から《やどりぎのタネ》から植物が芽生え、エクスプローラーズを取り囲む。そして、予めアヤメが自身の首に埋め込んでおいた《やどりぎのタネ》も発芽し、周囲のタネと繋がる。それによって太く屈強となった蔓は硬い洪水となって敵を飲み込む。そして内部では、
「茨!?」
植物の隙間を縫って茨が無数に生え、ポケモン達を縛り上げる。更に、生い茂る葉から《マジカルリーフ》、それも葉を無数の小さな刃に変えられた鋭利なもの。
アヤメとリコの合体技。ニャローテが《やどりぎのタネ》をばら撒き、エコーズの力で植物を育て改造し、敵を閉じ込め、喰らう牢獄であり、自身等を護る城塞である植物園。
その名は、
「
エクスプローラーズに更なる絶望が襲い掛かる。
一回切ります。剣技に関しては、全部出きった段階で解説するかもしれません。
アヤメが強いのは勿論ですが、ポケモンと連携しつつ、更にリコさんと最後に大技をかましました。この辺が難しく、楽しかったです。
因みに最後の大技は呪術廻戦でいうところの『領域展開』みたいなものです(厳密には違いますが、絶望感は似ている)。
備忘録
>タイトル
SEKIROの夜叉戮の飴より。使うと体力を減らす代わりに攻撃力を増大させるアイテム。夜叉のようなアヤメが殺戮するというイメージと、寿命削ってそうな闘いというイメージ。
>ピルム・ムーリアリス
古代ローマの兵士が携帯した陣地の要塞化のための杭(と言われているもの)が元ネタ。作者が初めてこの名前を知ったのは『魔法使いの嫁』でした。