彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 夢世界、終結。今にして思えば、アヤメが夢の中に閉じ込める事でエクプロの妨害してるみたいになってましたね。


STAGE-EX-BOSS Electricky Dooter, The Master of Electric

 突然だが、アヤメはゲームが下手である。

 

 どれくらいかと言うと、彼女が遊んでいる画面を見ると自分が操作しているキャラクターに殺意と害意を持ち、ありとあらゆる手段でその世界に存在する全ての苦痛を享受させ殺害する事に一意専心していると弾劾されようとも否定するのは甚だ困難である、という程である。

 立つ鳥跡を濁さずとは言うが、アヤメが操作した後のゲーム画面は大黄河の濁りも斯くやというほどに濁りまくっているのである。

そんな彼女であるからして、ボス戦まで辿り着くのはボイジャーが地球外生命体にゴールデンレコードを無傷で届けるようなものであり、すなわちほとんどあり得ない事である。

 

 なので、アヤメは目の前に現れたエレトリックダウターについては全く知らない。強いて言うならば、今しがた裂き喰らう城塞(ピルム・ムーリアリス)を破壊されたので「強いのだろうな」程度である。尤も、アヤメにとってはそれだけで十分では有るのだが。

 

「アヤメさん! 気を付けて!!」

阿奴は倒したはずでは……別個体でござるか?

 

 キルリアが悪夢を見たような表情をしている。まあ、マルスプミラ本編を読めば分かるのだが、既に二回やられているので当然の反応ではある。

 エレトリックダウターは電撃のエレメントが素材となっており、アヤメやレアコイルなどの電流の残滓から残存魔力を吸収して誕生したのがこの個体だろう。かつてリンが「出てきてはいけない奴が出てきてしまったかのような恐ろしい感覚」を感じていた敵を前にした時のアヤメの感想は、

 

「なるほど、正体が読めました。まあ、何とかなりますかね」

 

 だった。呑気に過ぎると言われそうだが、アヤメは確固とした自身と余裕があった。リンは思い出せていないかもしれないが、転移前にはあれ以上の強敵が存在した。そして、アヤメはその時よりも強くなっている。

 

「安心してくださいな。優しく遊んで差し上げます」

あの、アヤメ殿! 不敵な笑みを浮かべているところ申し訳ないが、あやつは強敵でござる! リン殿と出会う少し前、わしはあいつと遭遇し命からがら逃げ延びることしかできなかったでござる!

『へえ! 良いじゃねえのよ! 久々に痺れる闘いができそうだぜ!』

ポチ殿!?

 

 ただでさえエクスプローラーズとの連戦で消耗しているはずのアヤメ。少なくともキルリアやヒトモシ、リコとニャオハは間違いなく消耗している。連戦は避けたいところだが、アヤメに提言する前にポチの影移動によって離れた場所にアヤメ以外が転移させられる。

 

「ポチ!? 何するの!?」

『疲れてんなら休んどけって。俺達は今からアレを独り占めだ。ちょうど魔力が不足気味なんでね。俺にはアレが皿に乗った七面鳥にしか見えねえのよ』

「…………」

 

 どうやらポチにはエレトリックダウターが餌にしか見えていないらしい。なんといって止めようかキルリアが悩んでいると、ポチは声を低くして続けた。

 

『それに、俺は奴が餌にしか見えねえと言ったが、それは奴にとってのアイリスも同じだ。魔力だのエレメントだのから作られた存在、人間の言い方をすれば怪異って奴からするとな、魔力を持った人間はご馳走に見えるんだよ』

「「「『…………』」」」

「アイリスほど魔力を持った人間はそうはいねえ。奴もアイリスを逃がさねえのさ。お前らをこうして奴の攻撃範囲外まで連れ出せたのも同じ理由だ。眼中に無いんだよ。お前らが」

 

 そして告げられたのは、アヤメとエレトリックダウターが闘うしかないという事実。お互いを餌と認識している以上、そこにあるのは純粋な生存競争だ。

 

『んで、問題は他にもある。あの電撃野郎のせいで低級の怪異が集まって来ちまった。個々の強さはそれ程でもねえが、数が多い。お前らは奴らを迎撃してくれ。これはこれでキツイ仕事だが、いけるか?』

「……分かった」

 

 リコは了承して怪異の迎撃に移った。避けられない以上、ごねても仕方が無いし、アヤメとポチならばどうにかなるだろうという考えもあった。

 

 

 

 

 

 ポチがリコやキルリアを説得している頃、アヤメは余裕をもってエレトリックダウターと対峙していた。

 

「さて、あなたからどうぞ?」

『……!』

 

 アヤメに先攻を譲られた事を挑発と受け取ったか、エレトリックダウターは電撃を纏った跳躍でアヤメを押しつぶしにかかる。しかし、アヤメは華麗に回避したように……

 

「おや……」

 

 思えて地面を走る電撃が彼女を襲う。しかし、アヤメは空中に剣を召喚してその上に飛び乗る事で事なきを得た。

 

「《Zuben el chorus》」

 

 そして、飛剣を飛ばす事で反撃する。エレトリックダウターもサーベルで飛剣を叩き落とすが、《Zuben es Auftakt》と《Zuben el fermata》を続けて叩き込まれ、大きく怯む。流石に他の攻撃を捌いている間に予備動作がほぼ存在しない剣技を避ける事はできなかったようだ。

 

『……!』

 

 エレトリックダウターは戦術を変える作戦に出たようで、ウィッチハットを器のように持つと、翼の生えた赤や紫の生命体、『ラーパ』と『リーパ』を帽子から繰り出してきた。更に電流を纏ったダウタースカルを続けて投げつけてきていることを考えると、狙いはアヤメを地面に落とす事だろう。

 勿論、乗ってやる義理も無いので空中戦を続行した。

 

「《Zuben el chorus》」

 

 アヤメは飛剣の群れでラーパとリーパを撃ち落とした。更に、ダウタースカルも剣で叩き落し、残りの一つに至ってはエレトリックダウターに弾き返している。

 

「終わりですか? では、こちらから行きますよ。《Zuben es portamento》」

 

 攻撃を加えられない事に歯噛みするエレトリックダウターに、アヤメは次の攻撃を仕掛けた。

 《Zuben es portamento》とは、剣を斜めに一閃し遠距離から複数の方向に地を這う高速の斬撃を数本放つ剣技だ。さらに、地を這う斬撃の合間を埋める様にうねる斬撃が伴っている。普通なら回避困難の技だが、エレトリックダウターは帽子の中に隠れる事で難を逃れる。

 

「ふう……流石に、ベラドンナのようには行きませんね。流石、調律文字(オーダー):D、《The Divide》は伊達ではありません」

 

 ベラドンナなる人物ならば今の攻撃で確実にエレトリックダウターをみじん切りに出来ただろうと嘆息する。純粋な剣技ならばアヤメを上回る人物がいるという、リコが聞いたら卒倒しそうなことをさりげなく呟いたが、そればかりを気にしてはいられない。

 

 エレトリックダウターが隠れた帽子から電撃を放ってきた。まるでアダムスキー型UFOのようで絵面は大変面白いのだが、エレトリックダウターとてウケ狙いでやっているわけではない。空中に浮かぶ物体からノーモーションで電撃を放たれるのは中々に脅威だ。

 

 普通ならば。

 

「ポチ!」

『ヘイよ!』

 

 リコ達との会話を終えて戻ってきたポチに乗り、次々に落とされる雷を回避するアヤメ。剣に受ける手段もあったが、ずっと滞空戦法されるのもそれはそれで鬱陶しいので、飛剣とポチの爪で叩き落す。

 

 本体を出したエレトリックダウターは帽子から取り出したサーベルで斬りかかって来る。アヤメは後退するどころかむしろ地面を滑るように移動してエレトリックダウターのサーベルに剣戟を叩きつけた。

 

「!」

『……!』

 

 しかし、鍔迫り合いの最中、地面が一瞬光ったかと思えば稲光と共に凄まじい爆音と爆炎が辺りを覆う。地面には髑髏のかけら……エレトリックダウターは例え自分が劣勢に追い込まれても逆転できるように、地面に時間差で発動するように髑髏の電気トラップを仕掛けていたのだ。

 

 だが、

 

「残念でしたね」

 

 アヤメは鍔迫り合いを切り上げ、鋭角に飛びずさっていた。《Zuben el crescendo》の後半部分の動きである。

 

『……! ……!?』

「何故見破られたのか分からない、とでも言いたげですが……まあ、これだけは経験だと言っておきましょう。昔よくやられたんです。知人に」

 

 アヤメの知人の中に爆弾や爆破を武器とする者がおり、その人物がよく使う技だから見破れたと語る。まあ、それでなくとも魔力が地面に充満していれば魔法使い視点ではバレバレなのだが。

 

「あなた、たしかリコさんの話に出てきた〝ダウター〟でしたか。それとも別個体なんですか? まあ、いいです。どちらでも。魔法使い同士、名乗っておきましょうか。私は小夜風アヤメ。The Magus(魔法使い)にして、The Virtuosa(演奏者)です。短い間ですが、よろしくお願いしますね?」

 

 アヤメはそう一方的に会話を切り上げ、雷撃の飛剣《フェイルノート》を構えた。一点集中型の魔法であると看破したエレトリックダウターはすぐに防御の体勢を取った。

 

「素直で助かります」

 

 しかし、アヤメが放った剣は雷速で到達するまでの間に分裂し、エレトリックダウターの防御結界をすり抜けて多大なダメージを与える。一点集中型と見せかけて、寸前で物量攻撃に切り替えるというアヤメのイカサマに見事に引っかかってしまった。

 

「隙あり」

 

 アヤメはその後素早く距離を詰めると連続刺突攻撃を放つ。《Zuben el spiccato》という剣技で、攻撃が飛んでくれば回避するし、更に刺突に付随して斬撃まで織り交ぜてくる剣技であり、一度捕まるとなかなか抜け出せない。

 

『……!!』

 

だが、エレトリックダウターは攻撃の嵐の中でなんとか強行してアヤメ達に牽制すると、再び帽子に隠れて何処かへと消えた。

 

『スタイリッシュな逃走だねえ……』

「魔力で追ってみましょう……っ、この方向は!」

『奴らの方に行ったか。こりゃ、ちとまずいな』

 

 アヤメは慌ててポチに《Wezen tulsa》、すなわち影でポータルを作るように言う。一人と一匹はエレトリックダウターを追ってリコ達のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 その頃、リコ達はポチに言われた通りに怪異達の殲滅を粛々と実行していた。襲ってくる怪異はどれものっぺらぼうの警備員や、首無しの女学生といったもので。ポケモン達の前では敵ではなかった。

 

 しかし、

 

(なんか気持ち悪い……)

 

 とにかく見た目や挙動が不気味なのである。現代の服装に古風な異形のモチーフを取り入れたその外見はどことなく間抜けではあるが、悪趣味な曼荼羅(まんだら)を見ているかのようで、リコにはあまり気分のいいものではない。

 

 と、リコ達は覚えのある気配がして反射で回避する。そこにはエレトリックダウターの帽子が浮いており、遅れて本体も出てきた。「まさかアヤメがやられたのか!?」と思うリコ達だったが、エレトリックダウターはボロボロで、リコ達を見る目も嘲笑よりは必死さが垣間見えるものであった。

 

 大方、アヤメにボコボコにされ、命からがら逃げてきたのだろうとあたりをつけるが、弱っているからと言って油断ならないのがエレトリックダウターである。むしろ、手負いの獣の恐ろしさを味わう事になりそうだ。

 

『……!!』

「リコさん! 皆さん! 大丈夫ですか!?」

 

 リコ達が覚悟を決めて戦闘態勢を取ると、エレトリックダウターの影からアヤメとポチが飛び出してきた。背後からザックリと斬られたエレトリックダウターが苦しんでいる間に、アヤメはホッとしたようにリコ達の無事を確認する。

 

『ワリい。逃がしちまった。あの場で倒せると思ったんだがなあ……』

「逃げるっていう選択をさせたんだよね……エレトリックダウターに」

リン殿とリコ殿が二人がかりでも追い詰められたあの魔物を単騎で相手取るとは……恐ろしいでござるな

「皆さん、お喋りはその辺りに。来ますよ」

 

 アヤメの一声で、リコ達は体勢を立て直したエレトリックダウターに向き合う。この闘いはこれからが本番だ。

 




 ダウター戦、まだ続きます。特に次回ではダウターが更に強化される予定です。

 備忘録

 >魔力を持った人間はご馳走に見える

 『果実のカケラ』も無いのにエレトリックダウターが襲ってきた理由です。その結果、食うか食われるかの生存競争になりました。

 >調律文字(オーダー):D、《The Divide》

 そのうち転移前にも出てきます。地味にアルファベットと能力の関連性も判明しました(能力名のイニシャル)。

 >The Magus(魔法使い)にして、The Virtuosa(演奏者)です

 マルスプミラ本編で、リン君が「探偵兼反逆者だ」と名乗っていたことに由来します。ちょっと英語風の名乗りとなりました。
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