アヤメ達の周りで瓦礫が浮かんでいる。エレトリックダウターが電流を操って、金属物質を間接的に操作しているのだ。
「————!」
エレトリックダウターはそれらを一斉にアヤメ達に向けて飛ばす。どれか一つでも当たれば、良くて重傷、悪ければ死ぬ。
「《やどりぎのタネ》!」
「《Zuben el chorus》!」
しかし、リコはニャローテの《やどりぎのタネ》による植物で飛来する瓦礫を防ぎ、アヤメは無数の飛剣を飛ばして瓦礫を撃ち落とした。エレトリックダウターは小賢しいとばかりに雷で植物を破壊するが、その影からヒトモシが《だいもんじ》を放ち、エレトリックダウターにクリーンヒットする。
「《Zuben el fermata》」
「キルリア、《ねんりき》!」
更に、アヤメの斬撃の竜巻が飛んできて、キルリアの《ねんりき》によって瓦礫攻撃がエレトリックダウターに返される。
「―――っ!」
エレトリックダウターもやられてばかりではなく、まだ比較的弱いと思われるリコを狙ってレールガンのような攻撃を放つ。
だが、
「残念……《The Variable》」
「どちらさまですか?」
「とりあえず、私の最後の契約精霊と思ってください」
それはアヤメの影であるヴィローサが化けた偽物だった。攻撃が当たる直前に彼女は実体化を解除して影に戻り、盛大に攻撃を外す事になったエレトリックダウターはニャローテの《アクロバット》――
「モシ!」
「っ!?」
よりも先に《ちいさくなる》で潜伏していたヒトモシの《だいもんじ》を喰らう事になった。無論、《アクロバット》はキャンセルされていないので攻撃に加算される。更に、火傷状態となったエレトリックダウターはヒトモシの《たたりめ》まで追加される。
「モシ……(完全に戦い方がリンさん譲りですわ……)」
「今は成長したことを素直に喜ぶとしよう……おっと、何やら地面が光っておるな。念の為、上に避難するか」
「きゃ!? て、ありがとう、キルリア」
アヤメとポケモン達は地面の光を見て飛剣に飛び乗る。リコだけはキルリアの《ねんりき》で浮かせられていたが。案の定地面に電流トラップが仕掛けられており、そのまま戦っていたら全員引っかかっていた。
だが、エレトリックダウターは全員が空中にいるのをいいことに大量の瓦礫を飛ばしてくる。流石に地上よりは行動が制限されるが……
「《Zuben el chorus》。そして、《Zuben es portamento》」
アヤメが再び飛剣で撃ち落とし、更に遠距離から複数の方向に地を這う高速の斬撃を数本放つ剣技《Zuben es portamento》で撃ち漏らしも迎撃した。
「————!!!」
しかし、エレトリックダウターの攻撃は終わらない。今度は瓦礫を一つに纏めて巨大な質量攻撃を実行するつもりのようだ。巨大質量体はビルを抉り、更にその質量を増しながらアヤメ達に迫る。
「うわわわわ!?」
「落ち着いて。質量には質量です。《Wezen》」
エレトリックダウターが電流による壁を構築しているため、逃走は現実的ではない。しかし、アヤメは影を用いた仮想の質量で貫く魔法を使い、瓦礫の破壊を試みる。結果は、
「成功ですね」
一撃目で構造物のウィークポイントをついて二つに分断させ、そこから間髪入れずに大剣に持ち替えて質量の減った瓦礫を切り刻む。なお、ウィークポイントを見つけた方法は攻撃時の音の響きだ。
「キルリアさん、《ねんりき》!」
更に、再度《ねんりき》で相手に瓦礫を投げ返した。ギリギリの攻防だったが、なんとか制する事が出来た。
「―――!」
「踊りましょう?」
攻撃の後隙に炎と影をそれぞれ纏った双剣でアヤメが斬りかかって来る。サーベルで応戦するエレトリックダウターだが、
「アン、ドゥ、トロワ」
元より魔術師であるエレトリックダウターはアヤメに剣では勝てず押される。アヤメも魔法使いなのに何故剣が扱えるのかという野暮なツッコミは無しだ。敢えて言うならば、総合的に闘いの才能が有りすぎるのであろう。
片やアヤメはといえば、踊りの礼節を重んじるほどの余裕がある。影と炎の斬撃が飛来してくる。それを何とかやり過ごせば、アヤメが双剣を振り上げ、隙だらけかと思えば回し蹴りが飛んできて、ついでに剣が振り下ろされる。
更にアヤメは下から斬り上げて背後に下がり、炎の斬撃を飛ばしてくる。エレトリックダウターは電撃を飛ばすが、ひらりと回避されて右手の剣で斬られた挙句、左手の剣で刺される。
「―――!」
調子に乗るなとエレトリックダウターはダウタースカルで反撃してくるが、
「《Zuben el chorus》」
「キルリア、《トリプルアクセル》! ニャオハ、《アクロバット》!」
アヤメに飛剣で叩き落され、更にリコの指示によるポケモン達の攻撃を受けてしまう。エレトリックダウターは反撃しようとするが、何故か上手く戦えない。何故だとエレトリックダウターはアヤメを見るが、アヤメはただ笑うばかりである。
《Zuben es laissez vibrer》
アヤメの剣技の一つで、踊るように相手を翻弄する技だ。しかし、真の目的は相手を決まったテンポやリズムに当て嵌めること。そして、急にそれらを崩す事である。踊りのテンポやリズムが残っている限り、相手は踊りから抜け出せない。今回はそこにリコ達の攻撃が飛んできたわけである。これではリズムを立て直す暇もない。
「―――!」
エレトリックダウターは状況の打開を図って電流を放つ。しかし、苦し紛れのその攻撃はアヤメの剣に吸収されてしまう。だが、その隙にエレトリックダウターは帽子に隠れ、奇襲を仕掛けた。
「バレてますよ」
しかし、瞬時に音を聞き分けたアヤメはその帽子を飛剣で撃ち抜き、エレトリックダウターを叩き落す。更に、
「《Seirios》!」
簡易詠唱で作り出した掌の上の太陽をエレトリックダウターにぶつける。正式詠唱の場合に比べて威力は劣るが、弱ったエレトリックダウターを殲滅するには十分だ。再び飛ばしてきた瓦礫の塊ごと、熱と質量の権化はエレトリックダウターを飲み込んでいく。
その結果は、
「…………っ…………!」
エレトリックダウターの身体から光が漏れ始め、そして爆発した。
「ご清聴、ありがとうございました」
ポチが魔力を吸収するのを横目で見ながら、アヤメは演奏の締めの挨拶を行った。体力と精神力を使い果たし、もしくは目覚める時を迎えたリコを抱きかかえながら。
バトル要素を盛り過ぎた結果、エレトリックダウターがとんでもない強さに……前半はゲーム通りの攻撃、後半は電流を使ったオリジナル攻撃という構成で書かせていただきました。
備忘録
>瓦礫攻撃
瓦礫の中の金属物質を電流で操って攻撃に転用するという離れ技をやってきました。最後にはフェクト・エフィリスの《フェルミパラドックス・アンサー》のような攻撃まで。
>Zuben es laissez vibrer
アヤメの剣技の一つで、踊るように斬撃を叩きつけてくる。しかし、恐ろしいのはそのテンポやリズムに適応してしまった時で、いざ攻撃を変えられると前の旋律が尾を引いて後続の攻撃に対応できなくなる。因みに読み方は『ズベン・エス・レセヴィブレ』。レセヴィブレとは、ピアノや打楽器などの音を止めずに鳴らしたままにしておくこと。和訳すると『響きを残して』となる。
前の旋律が『響きを残して』いることによって相手の戦闘態勢を崩す技なのだ。