彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 私の書いている他作品から敵を引っ張ってきているので、その分数が多いでございます。


桜の樹の下には屍体が埋まっている

とある春の日、青野星香の妹である優芽は不思議な場所に迷い込んでいた。真昼なのに大きな月が出ていて、人が一人もいない。知らない景色、知らない廃墟、知らない道。小学校低学年の優芽が恐怖心と心細さを抱くには充分だった。

 

(ここ、どこ? お姉ちゃん(星香)もいなくなっちゃった……)

 

 少し離れた所で足音が聞こえてきた。人が来たと思ってそちらを見てみれば、

 

「ひっ!」

 

 その人間は首が無かった。姉のような制服を着て、スキップしながら遊びまわっている。挙動が人間的なのが、尚更不気味であった。優芽は逃げ出した。

 

 一頻り走った後で、ふと、桜の花弁(はなびら)が舞ってきた。春先には珍しくない光景だが、その花は他の花よりも綺麗な気がする。フラフラと花弁の散る方向に歩いていくと、大きな桜の樹が有った。

 

 なんだか安心する。不安な状況の中、大きなものに安心感を覚えるというのは間違いでは無いかもしれない。熱に浮かされたような感覚で桜に近づくと、

 

「それ以上近づいてはいけませんよ」

 

少しだけひんやりとした、しかし確かに温度を持つ手に止められた。振り返ると、目の細い知らない女性が立っていた。それが、〝不思議なお姉さん〟こと小夜風アヤメと、青野優芽の出会いだった。

 

「なんですか、その変なものを見るような目は。まあ、否定は出来ないのですけど」

「知らない人にはついていっちゃいけないって、お姉ちゃんが」

「良い子ですね。ついでに、怪しい木にも近づかないでくれるとありがたいのですが」

「……木は人じゃないよ。木も駄目なの?」

「時と場合によっては。木は人の兄弟という人もいますけれど。人殺しを木こりと言い、葬儀屋を炭焼きと言い、(ノミ)をキツツキと言うのだとか。まあ、そういう理屈をこねくり回すのも良いですし、単純に毒を持っていて危険だから近づいてはいけないとしても良いです」

 

 露骨に怪しむ優芽に、アヤメは笑顔で淡々と話しかける。とりあえず人間とは認識してくれたようだとアヤメは安堵していた。

 

「とにもかくにも、あの木に近づいてはいけません。私の言う事を聞けるなら、貴方の知っている場所へと帰れるように案内しますよ」

「お姉さんは、帰り方を知ってるの?」

「ええ。でも、少しだけ複雑なんです。私から離れないように、ちゃんとついてきてくださいね」

 

 しかし、アヤメと優芽の進路を阻むように人型の怪異達が現れる。警備員のような姿をした〝狩鋭(シュエイ)〟、スーツ姿の会社員のような〝偽敬(ギケイ)〟、鉈を持ったOLの〝疑衆(ギス)〟、更に優芽も見た首無しの女学生〝寄花童子(ヨルカドウジ)〟もいる。

 

 桜が獲物を逃すまいと放った刺客達だろう。

 

「お、お姉さん……」

「そこの岩に隠れていてください。ポチ、護衛を」

『へーい』

 

 アヤメの影から黒い犬のような何か(少なくとも優芽にはそう見えた)が飛び出し、優芽の側に陣取る。

 アヤメは虚空から剣を引き抜いて敵達に構え、攻撃に優芽を巻き込まないように前に出た。

 

「花見客を帰したくないのですか? とんだ同調圧力もあったものですね」

 

 そのセリフを言い終わるか否かのタイミングで狩鋭から誘導棒が振り下ろされる。が、アヤメはそれを剣で撃ち返して、更に下から斬り上げた。

 

「え……」

 

 そして、踵落としを仕掛けてくる寄花童子に刺突攻撃を喰らわせ、宙に浮く書類から魔弾を飛ばしてくる偽敬に剣を投げる。そして、疑衆が鉈を振って飛ばしてきた衝撃波を飛び越えて斬撃をお見舞いした。

 

「わあ……」

『この程度の雑魚ならアイリスが負ける事なんてねえよ』

 

 呆けている優芽にポチが小声でアヤメの優勢を伝える。先に木を焼き払ってしまう案もあったのだが、それにはそれなりに時間がかかる上に、怪異の強さを考えると優芽を構っている余裕は無い。故に、まずは優芽を逃がす事に決めた。

 

「mirzam diparadex」

 

 アヤメが頭上で剣を浮遊旋回させてそこから熱線を放つ。更にレーザーの軌跡が爆発した。今のように複数の敵に囲まれた時は一定の効果を発揮する。

 

『な?』

「お姉さん、凄い……」

 

 敵を殲滅し終えたアヤメは優芽を促して桜の樹から離れるように進む。優芽はその道中、不思議な光景を幾つも見た。花の生えた廃墟に、壁に並ぶ鳥居の乗った棚、それに今下っている長い階段。こんなに長い階段はあっただろうか。アヤメが切り捨てている敵も見たことが無い。それに、植物に取り憑かれている人……

 

「!?」

「見てはいけません」

 

 アヤメは優芽の目をそっと塞ぐ。

 

「傷になってしまう」

 

 アレは出来る事ならば、見ない方が良いものだ。純粋な子供ならば尚更。

 

 アヤメとポチ、それから優芽はひたすらに階段を下る。だが、それを先の人型が妨害してくる。

 

「ポチ!」

『へいよ』

 

 ポチが炎や雷で敵を排除していく。

 

「どうして、こんなにお化けが……」

「行きは良い良い、帰りは怖い。と言うでしょう? あの桜は、私達を帰したくはないようです」

 

 敵を排除して更に下ると、今度は枝や蔓が伸びてくる。

 

「Muliphein」

 

 アヤメが呪文を唱えると、剣を炎が纏う。それによって逃走を阻む植物は為すすべなく斬られる。しかし、

 

 ーーーベキ!ゴキゴキゴキ!

 

「!?」

 

 アヤメの腕が突如として捻じ曲がる。一瞬苦悶の表情を浮かべるアヤメだが、即座に腕を切り落とした。

 

「お姉さん!?」

「お見苦しいところをお見せしました。今は気にしなくて結構です」

 

 アヤメはもう片方の腕で剣を振るう。だが、切り落とした手も即座に再生を始めている。そして、枝と蔓を全て斬り落として階段の最後に待つのは、

 

「壁ですか……」

「お姉さん!」

「壊します」

 

 もうすぐアヤメ腕の再生が終わる。

 

(3,2,1……)

 

 腕の再生が終了した。アヤメは両手に剣を持って壁に特攻。そして、切り裂いて道を作った。

 

「ふふ、どんな手を使ってでも逃がしたくはなかったのでしょうけど。残念でしたね」

「あ、あの、お姉さん、腕、大丈夫なの?」

 

 アヤメは心配そうな優芽に微笑みかける。

 

「優しい子……大丈夫ですよ。もう治りましたから。私はちょっと特別なんです」

 

 その言葉を聞いた優芽は、アヤメに一つの質問をした。

 

「お姉さんは……」

「なんでしょう?」

「プ〇キュアなの?」

「はい……?」

 

 それは小学生の女の子ならば、一度は見る夢。某日曜日の朝の魔法少女が現実にいるのではないかと言う類の想像だった。そして、やがて成長して画面の向こうと現実は違うという事を学び、少しだけ大人になるのだが、優芽はまだ子供だった。

 

 勇猛果敢に戦うアヤメと、お供の妖精のようなポチ、そして自分を守ってくれる正義の心。プリ〇ュアを連想するのは至極当然のことなのかもしれない。(なお、アヤメは子供たちに教えてもらったので、それそのものの存在は知っている)

 

 対するアヤメは返答に困った。自分は〇リキュアではなく魔法使いなのだが、子供の夢を壊してしまうのも気が引ける。迷いに迷った末に取った行動は、

 

「秘密ですよ?」

 

 と、唇の前に人差し指を持っていく事だった。それを聞いた優芽は瞳を輝かせ、家に送り届けられるまでの間、アヤメを質問攻めにしていた。なんとか夢を壊さないように慎重に質問に答えながら優芽を家まで送り届ける。

 

 そして、送り届けた後にアヤメは溜息を吐いた。

 

「桜の樹の下には屍体が埋まっている、なんて言葉がありますけど、アレは思った以上に厄介ですねえ……うっ」

 

 足の小指が折られる。切除して再生させる。僅かに敵の能力が付着していたようだ。

 

「早めに片付けた方が良さそうです」

 

 異界を作る能力、怪異を呼び出す能力、単純な戦闘力、そして、こちらの身体を屈折させる正体不明の能力……列挙する程に分かる敵の強さ。特に最後の能力。強い抵抗力を持つアヤメだから腕や指の屈折で済んだだけで、リンなどが喰らえば一瞬で肉団子にされていてもおかしくなかったとアヤメは見ている。

 

「しかし、とりあえずは対策を練らねばなりませんね。幸い、捻じ曲げられた腕は確保しています」

 

 その腕も、丸められるか否かの瀬戸際だ。汎用魔法の拘束を更に強める。Weyer String-IIIのもとへと持ち帰り、攻撃の正体を調べなければ。

 

 桜の樹の下には屍体が埋まっている!

 これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。

 

 桜の根は貪婪な蛸のように、それを抱きかかえ、イソギンチャクの食糸のような毛根を(あつ)めて、その液体を吸っている。

 何があんな花弁を作り、何があんな(しべ)を作っているのか、俺は毛根の吸いあげる水晶のような液が、静かな行列を作って、維管束のなかを夢のようにあがってゆくのが見えるようだ。

 

 アヤメはあの文学的で美しく、そして悍ましい文学作品を頭の中で思い出す。それを象徴するかのような人喰い桜に、アヤメは不安を感じていた。

 




 小夜風アヤメは実は怪異だったりするのだろうか。有り得なくは無いですね。私の作品だと元人間の人外って沢山いますから。少なくとも子供視点だとだいぶ不思議なお姉さんではあります。

 因みに、今回の敵は更にヤバいです。ぶっちゃけ序盤に出す敵ではないと思う。

 備忘録

>mirzam diparadex

 剣の先から熱線のレーザーを放つ技。レーザーが着弾した軌跡は爆発する。要するにレボリューションソード。
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