リンとアヤメから魔法の基本的理念を教わった翌日、彼等は再びWeyer String-IIIの家を訪れていた。なんでも、アヤメに会わせたい人物がいるとのこと。
「Ms.Stringが私に会わせたい人物を挙げるとは、珍しいですね」
「誰なんだろうね。アヤメさんに心当たりはある?」
「魔法使い関連でしょうか。一応、組織的な物もありますし」
「魔法使いって結構複雑なんだね……」
サラッと明かされた魔法使いの組織の存在に、リンはなんとも言えない表情で返答した。アヤメの顔を見る限り、それほど彼女のストレスにはなっていないようだが。
そんな事を話しながら二人はWeyer String-IIIの家の扉を開ける。
そしてその先にいたのは、二人のどちらにとっても予想外の人物だった。
「久しぶりだな。アイリス」
リンの目の前で、号泣するアヤメが見知らぬ人物に抱きしめられていた。その人物の容姿は20代前半か、ともすれば10代後半にも見える女性だった。青紫のショートヘアに、顔付からして外国人だろうか。服装はTシャツにスキニージーンズというラフな格好だった。
「あら、思ったより早く来たのね」
その時、Weyer String-IIIが二階から降りてきた。どうやら色々と作業をしていたらしく、外出時に来ているようなドレスではなく、動きやすい作業着姿だ。
「えっと……三世。彼女は一体?」
「彼女の名前はミュオソティス。以前アイリスが銃撃された事は話したわよね。彼女は、その時にアイリスを護ろうと戦った兵士の一人よ」
「え……」
リンはアヤメを護った兵士は全員死んだと聞いていた。だが、ミュオソティスという人物は実体を持って存在している。一体どういうことなのだろうか。奇跡的に蘇生したのか? それとも記憶か記録に誤りがあったのか? リンが静かに混乱していると、ミュオソティスが話しかけてきた。
「君が、リンか?」
「え、あ、はい……」
「アイリスの友人だと聞いた。アルトリーネ……いや、今はWeyer String-IIIと呼称するべきか。いや、私にとってはやはりアルトリーネだな。彼女がここに呼んだという事は、アイリスの秘密についてはある程度知っていると考えて良いのか?」
「少なくともアイリスが魔法使いって事は知ってるわよ」
「え、三世の本名ってアルトリーネさんっていうんですか」
「そこは今はいいわよ」
「そういえば素朴な疑問なんだがアルトリーネ、なんで三世なんだ?」
「この店の三代目だからよ」
「そうか」
地味にWeyer String-IIIの本名? が判明したりして、てんやわんやしたがそれぞれが椅子に座ったところでミュオソティスが本題を切り出した。
「実は、私は機械なんだ」
そう言ってミュオソティスはリンとアヤメに手を差し出した。
「触ってみるといい。私の身体には、人間にあるはずの物が無いんだ。体温が、な」
そう言われたリンはミュオソティスの手を握る。確かに、彼女には体温が無い。それどころか、触った感触も皮膚というよりは金属や合成樹脂のようだった。それに、声もどこか合成音声のような掴みどころのないものだった。
「私は魔力で動くように作られた
「魔法の産物……? でも、ミュオソティスさんは兵士だって……」
「ああ、私は戦争に参加した。名目上は人間としてな。私は、人間を殺すために作られた人形なんだよ」
人の声ではないが、その声には人間的な感情が込められていた。手を引っ込めるミュオソティスは、アヤメに向き合って言葉を発した。
「アイリスには悪い事をしたな。私達は人間だと嘘を吐いて、君に接してい「知っていましたよ」え?」
アヤメは感情の読めない表情でミュオソティスに答える。
「聞こえてくる音が、明らかに人間の物ではありませんでしたから」
駆動システムも、人工関節が折れる音も、血流の音が聞こえない事も……アヤメは全て知っていた。
「なら、どうして……」
「心細かった……んだと思います。依頼を受けて、戦場へ行って、虚勢を張るのも限界だったんですよ。だから、嬉しかったんです。たとえ相手が機械でも、音楽で喜んでくれることが、私に話しかけてくれることが」
「そうか……」
だからこそ、死んでしまったと思った時は悲しかったとアヤメは語った。当時は人間に近づけるために、疑似血液を体内に詰められていたミュオソティス達
そして、戦争での役割が終われば、証拠隠滅のために破棄されるだろう事も。自分達のシステムに意図的に欠陥が作られている事は分かっていた。ウイルスプログラムでも秘密裏に感染させて、自滅させるつもりだったのかもしれない。それか、アヤメの銃撃という戦争犯罪の濡れ衣でも着せるつもりだったか。
「いずれにせよ、私達は何らかの形で全滅するように計画されていた。私も、他の皆も、全てが捨て駒の部隊。敵から、或いは処刑モデルとして作られた味方から引導を渡されるのは確定していた」
「処刑……モデル……」
ミュオソティスは処刑モデル達を恨んではいない。彼女等もまた、苦しんでいた。仲間を殺し続ける事に。
「それでも話しかけたのは……私達が人間というものを憎み切れないからだ」
「それは……感情?」
「そうとも言えるし、違うとも言える。私達はそういうふうに作られているんだ。創造主たる人間の外見を模倣して、人間達を護るために、人間に対する愛情が基礎プログラムに組み込まれている」
「…………」
なんて……なんて……残酷な事をするんだ。
外道を自称するリンをして、そう思わずにいられなかった。ミュオソティスの話を纏めると、『人間を愛するように作っておきながら、人間を殺す事を存在意義とした』という事なのだから。
愛する相手を、自分達の手で殺させる。これほどまでに残酷な話があるだろうか。
「造物主は、被造物を愛さない。それは私達が経験から導き出した答えだ。だから、自分達が機械であるとアイリスに話す事が出来なかった。彼女が私達を被造物だと認識したら、私達に向ける笑顔が、失くなってしまう気がしたんだ。結局、バレてたみたいだが」
そして、自嘲するようにミュオソティスは笑った。
「おかしな話だよな。魂が無いのに……命も無いのに殺し合う私達に、愛情だけがあるなんて」
「…………」
このような時に、リンは話す言葉を持ち合わせていなかった。そして、それはアヤメも同じなのだろう。
しかし、彼女は行動に移した。
「……? アイリス?」
アヤメはミュオソティスを抱きしめ、そして頭を撫でていた。
「私の拙い知識では……あなたの葛藤を慰める事が出来ない。だから、今はこうします」
言葉では解決できない。だから、包容力で解決した。アヤメはそう言った。自分には出来ない事だと、リンは思った。確率よりも孤立を選んだ。人間味の無い自分には出来ない事を、現実味の無い少女は軽々とやってのける。
そして、一頻りその行為が終わった後に、ミュオソティスはリンに言った。
「急にこんな話をして済まない。だが、多少なりとも同情してくれた事には礼を言う」
「いえ……僕は……何て言ったらいいか」
「いいんだ。理路整然と答えを返されても複雑だよ。でも、アイリスを泣かせたってアルトリーネから聞いたが、なんだ、案外いい奴だな。君は」
そう言って、ミュオソティスに頭を撫でられるリン。それに対してリンが複雑な感情を抱いていると、外で大きな音がした。
それに対して、ミュオソティスが弾かれたように外を見る。
「アイヴィー……ヘデラ……!」
「あの子達は、まだ壊れたままなのね……どうするの? ミュオソティス」
「行くよ。私が、終わらせるさ」
それを見て、アヤメとリンも席を立った。
「私も行きます。私にとっても無関係ではありませんし、何より見届けたい。彼女達の結末を。リンさん、手伝ってくれますか?」
「……もちろんだよ」
「ありがとう。二人とも」
ミュオソティスが礼を言って立ち上がると、服装が腕や肩を露出したものに変わり、腕が機械的な音を鳴らす。
「それじゃあ、行こうか」
「あは、あはは……友達を、殺すのが……あは……任務」
「これで……これで……イインダ。友達を殺したくなったら言ってね。それが私達の、仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事しごとしごとしごとシゴトシゴトシゴトシゴト……」
そして、駆け付けたリン、アヤメ、ミュオソティスを迎えたのは、虚ろな目で佇むフードを被った双子の機械、アイヴィーとヘデラだった。それぞれ別の手に、処刑モデルの証である大鎌を携えている。
「あ、隊長」
「隊長」
そして、双子はミュオソティスを見て嬉しそうに笑う。
「ここで会えて良かった」
「本当に良かった」
「欠片も残さずに」
「コアもちゃんと」
「「粉々に壊してあげる!!」」
壊れてしまった人形タチが、
次回:『STAGE2―BOSS1―Ivy and Hedera, the Executioner』
備忘録
>タイトル
NieR: Automataのサウンドトラックより。
>三世の本名?:
アルトリーネ、という名前が本名として有力です。
>ミュオソティス
勿忘草が由来です。花言葉は『私を忘れないで』
>アイヴィー、ヘデラ
ボスが二連続味方サイド……因みに、ヘデラはアイヴィーのラテン語名で、花言葉は『永遠の愛』とか『不死』とかです。