「「大変申し訳ございませんでした」」
リン達の目の前で、フードを脱いだ双子が土下座していた。つい先ほどまで闘っていた処刑者、アイヴィーとヘデラである。戦っている最中は余裕が無かったが、改めて見てみるとかなりモノクロなカラーリングである。アイヴィーの方は白髪でフードは黒、ヘデラの方は黒髪でフードは白。なんとなくチグハグな二人である。
「ああ、うん、僕は怪我してないし、アヤメさんとミュオソティスさんが許してるなら僕からは何も言う事は無いよ……」
二人の小柄な体格も相まって、なんとなくダンゴムシをいじめているのと同じような罪悪感がこみあげてくるリン。そもそも問題解決に協力すると決めたのは自分であるし、こちらから何を言ったわけでもないのに潔く土下座した様子を見て、悪い子達じゃないんだろうなと理解したのもある。
「あっへへ……許して下さりありがとうございやす。肩でもお揉みしやしょうか?」
立ち上がったヘデラが揉み手をしながらリンに近づいてくる。戦闘中はかなり地雷系というか、病んでいる印象だったのだが、正気に戻ったあとの言動はどことなく三下っぽい。これがあの神速の処刑者なのか。
なお、アイヴィーの方は土下座したまま微動だにしない。もしかしてお腹痛くなっちゃったのか? いやそもそも機械であろう彼女に胃痛という概念は存在するのか、などとリンが考えていると、ヘデラが衝撃の答えを口にした。
「あ! コイツ寝てる! コラー! 起きろー!」
「…………」
なんと、アイヴィーは土下座したまま寝ているらしい。ヘデラが胸ぐらを掴み、連続ビンタし、叩きつけて足蹴にするというかなり過激な方法でアイヴィーを起こそうと奮闘する中、看護師の服装をした女性が現れる。
「ヘデラちゃ~ん。せっかく治療したのにまた怪我をさせるのはやめてほしいの~><」
「このくらいでは傷一つつきませんのでお構いなく!」
「あ、リン君ですね~。お怪我はありませんか~?」
「あ、大丈夫です(またクセの強そうな人来たなあ)。因みに貴女は……?」
何というか、あざとい系女子というか、天然女子というか、形容しがたい言動をする人物だ。少なくともリンの中にこれを一言で言い表わす語彙は無い。が、その言動に反してギザ歯? のようにも見える。
「申し遅れました~。私はラズベリア。
「あ、どうも、天野リンです……(僕この人苦手かも)」
リンの女性のタイプは清楚なお嬢様である。あざとい系も天然もタイプではない上に、この掴みどころのない言動である。思考が全く読めず、悪意も好意も感じ取れない。それは反射的に苦手という印象を抱くには充分であった。とはいえ、後に出会うサンゴと比べればラズベリアはまだマシな部類では有るのだが。
「まあ、ラズベリアは確かに癖は強いですけど……悪い人ではありませんよ」
「天使は実在していた?」
「あら、神秘的な表現」
このカオスの最中に現れたアヤメを、リンは天使と認定していた。アヤメの顔が赤い事にリン以外の全員が気付いていたが、機械らしくない柔軟さで空気を読み、スルーする。
リンは早急に話題の変更を試みた。
「そういえば、アイヴィーさんとヘデラさんの即死攻撃って一体……」
「「即死攻撃?」」
アイヴィーと(今起きた)ヘデラは顔を見合わせ、首を傾げる。すると、ミュオソティスが口を挟む。
「間違ってはいないだろう。あらゆる条件を無視して対象を処刑するという概念系に近い能力というのは」
「あ~、な~るほど。騎士長、随分と説明を端折りやしたね?」
「どういうこと?」
ヘデラは納得した顔を見せるが、リンはよく分からないままである。即死攻撃という凶悪極まりない能力に果たして追加で説明する事があるのだろうか。某竜を討伐するゲームのように血液を逆流させるとか、過程でも説明されるのだろうか。
「其、都、能、勿」
「アイヴィーの言う通り、そんなに都合のいい能力じゃねえです」
「アイヴィーさんってそういう風に喋るんですね」
ぶっちぎりでクセが強かったアイヴィーは置いといて、今は《The Xenophobia》の説明である。ヘデラは教師が生徒に教えるように話し始めた。
「即死攻撃と一言で言っても、その過程はかなり複雑なんです。相手の死を演算してそれを現実化するって能力ですからね。敵によっては演算に時間がかかるってのがあるんですわ。それこそ普通に殴った方が早いってこともザラでっせ?」
「元、死、無効」
「それに、アイヴィーの言う通り、元から死んでる奴には効かねえですしね。他にも大鎌に触れてないと発動しないとか」
なるほど、確かにこうして聞いてみると即死攻撃といっても穴は多いようだ。これならば、英国の小説に登場するバジリスクの邪眼の方がよほど理不尽といえよう。何せ、睨んだだけで即死である。後から聞いた話だが、アヤメ曰くバジリスクは空想の産物ではなく、実在するらしい。バジリスクの眼球は魔法薬の材料でもあり、また、かなりの珍味らしい。
「何というか~、アイヴィーちゃんとヘデラちゃんの能力は『相手を殺す』ことよりも『相手の生を否定する』ことに特化している気がするの~」
「??? どういうことですか? ラズベリアさん」
相手を殺す事と、相手の生を否定する事、それはこの場合どう違うのだろうか。リンは首を傾げるが、アヤメが助け舟を出した。
「例えば、アイヴィーとヘデラの能力によってつけられた傷は、如何なる手段を以てしても回復しません。自然治癒はおろか、薬品や魔法でも不可能です。それは、相手を殺す事でもあり、相手の生を否定する事でもある。《The Xenophobia》は、相手の生を否定する演算を行う事で、相手の死を導き出す。それによって相手を殺す、という能力なんです」
「分かったような分からないような……」
「それが普通だと思います~。魂や生と死の境界なんて、魔法を使わないと分からない事ですから~」
「逆に言えば魔法を使えば分かるんすか」
「簡単には分かりません。魔法の世界でも、死と生は永遠のテーマですから。直接的には無理でも、間接的な方法で理解しようとしている。アイヴィーとヘデラもその一例です」
「ですねえ。アタシらは死を観測するための実験器具でした。そして、死という現象を直接は見れないまでも、生の否定という事象は観測できたんです。それは快挙と言えるものでしょう。人間の叡智が神の領域に至った事の証明ですから。まあ、それも人の形を与えられて兵器になっちまいましたけどね……」
リンに生と死の理論は分からない。頭脳が追い付かないというよりは、本能で拒絶していると言った方が正確かもしれない。おそらく理系と文系のように、相容れない何かがあるのだろう。おそらく受け入れられるのだろうアヤメ達にはどんな景色が見えているのか、興味が無いわけではないが。
代わりに、リンが理解できたことが一つあった。
『どんな偉大な発明も兵器にしてきた愚かな人類』
後にオリオが聞く事になるリンの発言だが、おそらくこの出来事も絡んでいるのだろう。死の演算、生の否定。それはもしかしたら、命を救う手段となったかもしれない。《The Xenophobia》は病巣なんかも殺せるらしい。悪性腫瘍の生の否定、それは人間にとっての死の否定だ。
「死を見つめる事で、せっかく世界の事が好きになって来たってのにさ……」
ヘデラは哀し気に言った。命の観測のために作り出されたアイヴィーとヘデラは、友達を殺す任務を与えられた。仲良くなって相手の懐に入り込み、殺す。何度も何度も何度も何度も……仲良くなった相手を殺してきた。
残酷な解だ。
彼女達が愛した世界は、彼女達を愛してはいなかった。彼女達の愛は、拭えない血の色で朽ち果ててゆく。ディストピアの御伽噺は、母親の慈愛のようにリン達に忍び寄る。
「まあ、いいんですけどねえ……破壊と殺人に意味があれば良し。なければそれは受け入れる。アタシらはそう決めたんです。ねえ、アイヴィー」
「総て殺せども真の解は得られない。しかし、我々はその業を捨てるに非ず」
殺人と殺戮の違いは、意味があるか無いかだろう。意味があれば殺人、無ければ殺戮だ。アイヴィーとヘデラは両方を受け入れると言った。
やはり、アヤメもアイヴィーもヘデラも強いと、リンは思った。
ポケモン世界ではできない。死についての議論。こんな型月作品かプロムン作品みたいな死の考察とかはしないのではないかなと。殺人と殺戮の違い、殺害と生の否定の微妙なニュアンスの違いなど、色々盛り込みました。
備忘録
>タイトル
『空の境界』より、直死の魔眼から。
>シレっと登場、調律文字:U
治療担当。能力は《The Unlimited》。
>どんな偉大な発明も兵器にしてきた愚かな人類
マルスプミラ本編に登場したリン君のセリフ。まさに今回の事例、というか彼女等にはだいたい当てはまる言葉。