彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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STAGE3―BOSS Lizzie, who deny the blessed

 星香は目の前の光景が信じられなかった。自分と同じ顔をした少女が斧を振り下ろし、それをアヤメが弾き、Lと呼ばれた使用人が銃器を取り出して少女を射撃した。

 

「いけませんよ、お嬢様。私の予知能力を以てしても、肝が冷えっぱなしだった」

 

 Lは真剣な声でアヤメに言う。アヤメはそれに頷きながら、Lに星香を避難させるように言った。敵はもはや、対象を選んではいない。

 

「ホントに来たよ……やっぱり青野さんの感情から生まれた怪異かな」

「でしょうね。こうも敵が多いと用心するのも難しい」

「今回ばかりはアヤメさんにも非があると思うけどね。いや、まあ、気持ちは分からなくも無いんだけどさ」

 

 目の前の怪異。仮称〝リジー〟としておこう。リジーは赤い靴を履いた少女のような怪異だ。斧を振り回し、不気味な笑顔で赤い涙(血液?)も流しており、何より青野星香と同じ顔をしている。これを偶然で片付けるのは無理があるだろう。

 

 リジーがアヤメに斧を振り下ろしてくる。リンが《リフ・ウラヌス》で防ぎ、怯んだリジーにアヤメが刺突攻撃を加える。

 

「余裕で勝つよ。問題はこれだけじゃないんだから」

「当たり前です」

 

 《影時間》を展開しながら、アヤメは右に左にとステップを踏んで来るリジーの攻撃を剣で弾く。最後の下段攻撃を前宙で回避しながら剣で斬りつけるが、リジーはリンに狙いを定め斧を振り回しながら駆け寄るが、

 

「《キルムムーリアリス》からの《スケイルズボム》。対策してるに決まってるじゃないか」

 

 夏休み中に習得した、地面から針を突き出す技《キルムムーリアリス》でリジーの突進攻撃を止め、鱗粉をばら撒いてそれを爆破する《スケイルズボム》で追撃する。更に、

 

「《Zuben el chorus》」

 

 アヤメが飛剣を飛ばした。しかし、リジーも中々にタフであり倒れない。復帰と同時に魔力爆発を起こすが、アヤメは後方宙返りで回避し、リンは《リフ・ウラヌス》のバリアによりノーダメージである。リジーはそのままリンに斧の連続攻撃を浴びせるが、ダイスの4の目による反射で斧が弾き返される。

 

「SHOW TIMEだ。《魔力蝶》。そして、ダイスロール」

 

 ダイスの目は3。攻撃の増幅であり、人間の上半身ほどの大きさになった蝶はリジーに直撃する。そこにすかさずアヤメが強力な一閃《Zuben es arco》をお見舞いし、殆どハメ技に近い状態だ。

 

「Took an axe!」

 

 しかし、リジーは楽しそうにそう叫ぶと、赤い靴を履いた足を振り下ろし、地面に衝撃波を飛ばす。踊りの要素であろうか。童話の通りならば、悪魔と契約して手に入れたその赤い靴は、一生脱げない代物である。生まれ持った環境からは抜け出せないという呪いを示しているのかもしれない。

 

 アヤメは縄跳びの要領で躱し、すかさず剣の一撃をお見舞いする。

 

「私がリードしてさしあげましょう。《Zuben el solo》!」

 

 リジーが斧を振り回す度に発生する衝撃波をアヤメは華麗に避けながら剣技を披露する。一振りで縦方向に無数の斬撃波を乱れ撃ちして敵を細切れにする剣技《Zuben el solo》を放つ。しかし、

 

「あはっ!」

 

 突如としてリジーの足元から鎖が飛び出し、アヤメの顔にクリーンヒットする。

 

「アヤメさん!」

 

 吹っ飛ばされた、というより距離を取ったらしいアヤメの顔を見て、リンは愕然とする。アヤメの顔の右半分は抉れ、右眼も潰れていたのだ。思わず気絶しそうになるリンだが、すんでの所で堪える。

 

「アヤメさん! 目が!」

「魔法で治せます。しかし、少し時間がかかりますね……任せてもいいですか」

「……! うん、勿論だよ」

 

 リンがアヤメの言葉に答えようという時、二人の背後から刃が伸びてリジーを攻撃した。

 

「お嬢。流石にもう介入させてもらうぜ」

「D!」

 

 現れた女性は小夜風の使用人の一人にして、夏休みの一件でリン達と協力して動いていた組織《月夜の森の従騎士》の一人であるDだった。

 

「なりません! これは私が相対すべき問題です!」

(アヤメさんも責任を感じてはいたのかな……)

「うるせえ。急所も庇えねえ未熟モンが指図すんじゃねえよ」

「しかし!」

「お嬢様~。Dちゃんや私達の気持ちも汲んで欲しいの><」

 

 そこにDと同じく《月夜の森の従騎士》であるUも現れ、アヤメの傷を回復する。アヤメはUの言葉でDを見ると、相当に怒り心頭だった。

 

「嫁入り前のお嬢の顔に傷つけやがって……生きて帰れると思うなよ……!」

 

 普段は冷静というか、口こそ悪いがダウナーな雰囲気のDがここまで怒っている事にアヤメは面食らう。

 

「そんなに心配しなくても……治りますし……」

「そういう問題じゃないの~><」

「Uの言う通りだ。取り返しがついても、腹の立つことはあるもんだぜ」

「アヤメさん、ここは彼女達に助力を乞おう。流石に僕も、アヤメさんが傷つけられて平静を保てるほど出来た人間じゃない」

「リンさんまで……」

 

 アヤメは自分の敗北を悟った。そもそも家にまで厄介ごとを持ち込んだのはアヤメであり、平時の任務である従騎士達は屋敷の防衛という職務を全うしているだけに過ぎない。それを無理言って止めたのがアヤメであるが、アヤメ本人が傷ついたとなれば、もう見ていられないというのも分かる。

 

 アヤメは従騎士達の主張を尊重し、命令を下す事にした

 

「……分かりました。では改めて命令します。我々の脅威を、撃滅せよ!」

「「「了解!」」」

 

 その場の雰囲気でリンも答えてしまったが、訂正する気は起きなかった。

 

 リジーは複数の鎖を伸ばしてくる。Uが浮遊するいくつものレーザー銃で迎撃し、アヤメとDが近接攻撃を仕掛ける。それは斧で防がれてしまうが、リンが蝶の群れを纏って突撃する《スワロウテイルストーム》で斧の防御を崩す。

 

交代(スイッチ)!」

 

 リンが離脱し、再びアヤメが斬りかかる。体勢を崩したリジーに、Dが中距離から刃を伸ばし攻撃。リジーは搦手から後衛のリンとUに鎖を伸ばしてくるが、リンの《リフ・ウラヌス》によって防がれる。

 

 リジーは加速して斧で斬りかかるが、

 

「だから読んでるって」

 

 リンが《スケイルズボム》で足止め、更に、

 

「《Zuben es staccato》」

 

 急接近して刺突攻撃をする剣技、《Zuben es staccato》でアヤメが攻撃し、

 

「《Zuben el crescendo》」

 

 斬りつけながら鋭角に飛びずさり、

 

「《Zuben el diminuendo》」

 

 剣を背中から前方に振るい、敵の頭上から降り注ぐような軌道の複雑かつ無数の斬撃波を放つ。

 

「あ……は!」

 

 リジーはアヤメに鎖で集中攻撃を仕掛けるが、右へ左へ下から上へ回転して横へと全て剣で弾く。《リフ・ウラヌス》は展開していない。こういう時のバリアは寧ろ邪魔になるからだ。

 

「俺に続けて撃て!」

 

 Dが突撃してリジーを剣で切り抜く。そして、それに続くようにUとリンがレーザーと《魔力蝶》を放つ。更に、

 

「《mirzam》!」

 

 アヤメの剣からも熱線が放たれる。ポチとの連携で、剣から炎や熱線を放つ魔法だ。

 

「硬えな。こんだけブッ込んでも倒れねえのか」

「お嬢様を僻んで正義ヅラして、ムカつきます~」

「正義など人の数だけありますよ。私が悪というのならばそれで構わない。しかし、眼前に敵として立ちはだかるならば、平等に切り捨てるまでです」

 

 アヤメの目は据わっている。敵を斬る事に対する躊躇いなど、戦場に捨ててきた。それは毒島瑠璃でも、青野星香でも変わらない。当然、目の前の嫉妬の権化であってもだ。それを厭うには、アヤメの手は血で汚れすぎている。

 

「大技を使います。詠唱の間、時間を稼いでください。Duse te duse. Est te est……」

「「「了解」」」

 

 アヤメが剣を真上に掲げ、詠唱を始める。動きながらやる方法もあるが、今回のようにやった方が集中する分だけ威力は上がる。その間は無防備となるため、周囲のサポートが必要だ。ヴィローサ()を出す案も考えたが、その余裕は無さそうである。

 

 今でさえ、無数の鎖がアヤメを捕らえて引き裂かんとばかりに迫っている。

 

「Sile ea sula. Site tyh luoda……」

「《ヴァルキュリア:スカルモルド》!」

 

 Dが空間ごと周囲を切り裂き、鎖を全て無力化する。だが、相手のあまりの攻撃密度に本体までは攻撃できなかった。

 

「一斉射撃」

「ダイスは3.《魔力蝶》!」

 

 しかし、Uとリンが遠距離からリジー本体を攻撃する。リジーは叫んで斧で接近戦に持ち込むが、《キルムムーリアリス》と《スケイルズボム》で足止め……

 

「流石に三回は通用しないか!」

 

 できず、爆風を斧で叩き割ってアヤメに迫る。だが、

 

「何お嬢を真っ二つにしようとしてんだ、殺すぞ」

 

 Dが刃を伸ばして斧を弾いた。

 

「wine tyh luoda. Ha fisevise qy diteoth……」

 

 Dは大剣を上段に構え、リジーの斧攻撃を弾き続ける。援護するようにリンから《魔力蝶》が連射され、Uが複数のレーザー銃の光線を収束した高威力の攻撃が放たれる。

 

「ダイスは6.《キルムムーリアリス》!」

 

 ダイスの効果により範囲化された棘攻撃がリジーを襲う。更に、Dが大剣を振り下ろす。

 

「Laf gyfu fiseoth enearth sulha ath gulha」

「お嬢の詠唱が完了した。全員離れろ!」

 

 Dの一声で全員が離脱する。後は、撃つのみだ。

 

「《Seirios》!!」

 

 アヤメの剣の上で重力が炎を纏い、疑似的な太陽が顕現する。更に質量の黒球を重ねる事で威力を増大。もはや一片の塵すらも残さない勢いで日蝕はリジーを飲み込む。

 

 そして、熱と光がその場から引いた時、そこには敵の姿はなかった。いや、辛うじて赤い靴と足だけは残っているがそれ以外は跡形もなく消えている。

 

「アレ夏休みの時の一番の大技だよね……やっぱりあの怪異強かったんだな」

「確実を期す為だろ。強さはそれ程でもないが、耐久力が高かったからな……まあ、お嬢もただ疲れるだけで済んでる分、成長はしたらしい」

 

 アヤメは敵の音がしない事を確認し、影時間を解除して倒れ込んだ。後は星香の彼氏である栗原一滋に丸投げしようと思いながら。

 




 冷静に考えて、なんで学園ものなのにこんなバトルシーン挟まるんでしょうね。まあ、こういう小説です。リジー、思ったより強敵だった。そもそもDとUは参戦させる予定はなかったんですが、まあ、しなかったらしないで不自然ではあるのでこれで良かったと思っています。

>タイトル

 不幸でいる事を美徳としているかのような、星香の歪んだ感情を表してみました。リジーとは、マザーグース『リジー・ボーデンの歌』より。

>リジー

 青野星香の黒い感情から生まれた怪異。裏設定ですが、『赤い靴』は悪魔と契約しかねない危うさ(逃げられないという呪いの要素もある)、マザーグースの要素は自分をこんな境遇に追い込んだ一端である家族への怨みという感じです。勿論、星香本人はそれを表に出すような子ではありませんが、深層心理の恨み言が表面化した感じです。

>サラッと目を潰されるアヤメ

 まあ、天罰というか、苦戦描写ですかね。勿論、傷跡一つなく治ります。魔法って凄い。まあ、天罰を喰らう必要はあるかというのは難しい問題ですが、星香にとっては尋常ではない事態だったので。
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