「ここ最近、付き合いが悪いとは思ってたんだよな」
「い、いや、それは悪かったとは思ってるよ。だから、そこをちょっとどいてくれると」
現在、星彩学園の校門で友里と白は対峙していた。鉄鬼とアヤメから逃げてきた三人は学校から逃げ出すために校門に来ていた。だが、そこは友里と星香によって封鎖されていたのだ。
「何言ってんだ? 別に付き合いが悪いことは怒ってねえよ。お前にだって事情も予定もある。けどなあ……こんなアホな事をしやがって。とんだデートになっちまったなァ!?」
友里は恋人である白に憤っていた。口では否定しているが、白がリアル〇プラの準備で友里とのデートをキャンセルした事自体には彼女も思う所があった。それを昼食がてらアヤメに愚痴っていたら旭八重加からの連絡である。
友里の怒りの原因にデートのキャンセルが無いと言えば嘘になるだろう。
「ゆ、友里?」
「とりあえず一発殴らせろや!」
友里は白に殴りかかった。白はなんとか躱すが、すぐさま膝蹴りが飛んでくる。
「友里! それ蹴り! 落ち着いて!」
「落ち着いてんよ! 一番の、得意武器の、バットは、使わずに、やってやってんだろが!」
『、』の部分で友里から殴りと蹴りが飛んでくる。白は躱し受け流しながら一滋の名を呼んだ。荒ぶる自分の恋人を止めるのを手伝ってくれと援軍を頼んだわけである。
しかし、
「星香! 離せ!」
「やだ!」
「頼むからさ!」
「それなら無理矢理引き剥がせばいいよ! 私が怪我しちゃうかもしれないけどね!」
「どこでそんなやり方を知ったんだよ!」
「そんなのどうでもいいでしょ!」
一滋は星香に組みつかれていた。無理矢理引き剥がそうとすれば、彼女は壁や地面に叩きつけられ、怪我を負うだろう。たとえ、それが打ち身や、最悪でも軽度の打撲や擦り傷で済むような怪我であっても、一滋は許容できない。
すなわち星香は、自分自身を人質に取ったわけである。
「援軍は来ねえぞ! まあ、青野が栗原を押さえてなくても? お前を生贄にする方を選ぶだろうけどな!」
「よく分かってるねこん畜生!」
「誰が畜生だァ!」
「言葉の綾だよ!」
友里が白に右ストレートを突き出す。今度は避けきれずに掠ってしまった。
そして、それらの攻防を他所に、一人逃げ出そうとする者がいた。スパイこと、影山杏である。彼は持ち前の影の薄さを利用し、乱闘の間に一人校門から出ようとした。
「ゲームオーバーだ」
しかし、それも鉄鬼に捕獲され、失敗に終わる。
「天野がいればもう少し苦戦したかもしれないが、策が功を奏したようだ。わざわざ戦力を分散してくれて、感謝するぞ」
早い話が、彼らがリンを生贄にするのは読めていたのである。故に最も厄介なリンを隔離するべく、第二位の戦力であるアヤメを道中に置いたのである。そうすれば、彼等はリンを切り離す。
尤も、リン達の結束が想定よりも強ければプランBも用意してはいたが……
「了解しました。さて、お仲間は全員捕まりましたよ。そろそろ投降したら如何ですか、リンさん」
アヤメは倒れた男子生徒達の中心で、竹刀を撫でていた。彼女には傷どころか、インクの一滴もついていない。アヤメは竹刀で風を起こしてインクを飛ばし、傘で襲い掛かった男子生徒を剣技で倒した。あまりの早業に、男子生徒に待ち伏せを指示したリンも一瞬状況を把握できなかった。
生贄にされた場所から逃げてきたは良いものの、結局孤立無援となりアヤメに追い詰められている。
「悪いけど、ただで捕まるのは無理かな。仲間の犠牲を無駄にしないためにもね」
「らしくないことを言いますね。まあ、外道を自称する割に潔癖な部分だけは、貴方らしいですけど。それよりも、魔法無しで私に勝つおつもりですか? 私の剣は、あの狂乱時よりも洗練されていますよ」
「やってみなきゃ分からないだろ」
リンは冷や汗を流しながらも、傘と水鉄砲を構える。
動き出したのはリンだった。水鉄砲をアヤメに向かって放ち、アヤメがそれを回避する。そこにリンが傘の一撃を加えようとするが、アヤメも竹刀で防ぐ。リンはしてやったりと足払いを掛けるが、アヤメは瞬時に後退して失敗に終わる。アヤメはすかさず刺突攻撃を加え、斜め下からの切り上げを加え、身体の向きを変えて逆方向からの攻撃を実行する。
リンもアヤメから教わった剣術を駆使して受け流すが、防戦一方であり攻勢に出る事が出来ない。
「《Zuben es arco》」
やがて、アヤメの強攻撃がリンの傘の軌道を大きくずらし、よろめいてしまう。
(流石アヤメさん……なんて威力だ。あれ? どこに―――)
リンがそう思った時、すでにアヤメはリンの背後に回り、竹刀でリンの足を払っていた。倒れたリンの身体を抱きかかえたアヤメは一言、「終わりですよ」と告げた。
「はは、流石に無理か……分かった。降参するよ。他に手が無かったとはいえ、アヤメさんに剣で挑んだ時点で詰みだったわけだ」
おそらく背後に回らずとも、アヤメは正面からリンを倒せただろう。彼女はリンが怪我をしないように戦術を、決着を選べるほどの余裕があった。それほどまでに、リンとアヤメの剣技の腕は隔絶している。
「本当なら傘を叩き折っても良かったのですけれど、せっかくの作品ですし、残して差し上げました。もし使う機会があれば、使うと良いでしょう」
「……敵わないな」
斯くして、リンの祭りは終局を迎えた。
その後、リアル〇プラに参加した生徒はとりあえずインクの清掃を命じられた。
「おらー! とっとと働けー!」
その様子を監視するのは鉄鬼、アヤメ、そして発破をかける友里の三人だ。逃げ出す者がいれば、即座にこの三人が動く。なお、主犯格のリン達は鉄鬼の拳骨を喰らった上に、インクの掃除が終わったら英語で反省文を書かされ、それぞれ別の場所の清掃活動を一か月間続けることとなった。
「いやー助かったよ鬼川。ようやく喫煙所から抜け出せた」
「よく言う。途中までは放置していたくせに」
なお、そんな鉄鬼にダル絡みするのは旭八重加である。煙草の匂いを纏いながらしなだれかかる八重加に、鉄鬼は呆れながら指摘するが、八重加は何処吹く風だ。
「そりゃ言いがかりってもんだよ。私みたいな一般人を君たちデタラメ人間の戦闘民族博覧会に巻き込まないでくれ」
「デタ……!」
「まあ、奴らも束の間の青春を楽しんだようだし、良いんじゃないかね。代償は重いようだが」
鉄鬼は溜息を吐いた。昔からどうにも、八重加の思うように動かされているように思えてならない。断じて操られているというわけではないが、ちゃらんぽらんとしているように見えて、いつも最後にはささやかな利益を上げているのが旭八重加という女なのである。頭脳面で彼女に劣っているとは思わないが、どことなく妖怪じみた雰囲気を纏う女であった。
鉄鬼がそう思った時には既に八重加はいなくなっていた。
(幽霊のようなやつだ……)
鉄鬼は物理担当のくせして実体を持たないような八重加に嘆息した。とりあえず今は目の前の生徒達の指導に専念するのみである。
これにて、リアルスプラ編は簡潔です。一話に纏めた方が良かったかなとも思いましたが……
心残りがあるとするなら、鉄鬼先生の活躍をいまいち盛れなかった事ですかね。これはまあ、またの機会という事で。