「これは……蜂?」
リンが教会の庭に転がる夥しい数の死骸を見てそう呟く。アヤメとゲームをしていたら、奇妙な羽音がしたので外を確認したところ、アヤメが火炎弾を放って何かを殲滅した。そして、焼け残った死骸を見れば、それは人間大の蜂の群れだったのだ。
「おやおや、これは派手にやったねえ」
リンとアヤメが蜂の襲来に首をかしげていると、空から傘を差した和服の女性が降って来た。
「えっと……」
「おや、お久しぶりですね、ツバキ」
「そう、Wのツバキさん」
その女性は超常現象対策機関の《月夜の森の従騎士》の一員である
「君達、虫にまで恨みを買ってるのかい? 随分と顔が広くなったものだね」
「どうなんでしょうね。心当たりが多すぎる」
「というか、私達の中で一番虫に恨みを買っているとすればサルビアでしょう」
「確かに、侵入者と見れば蠅だろうがゴキブリだろうが容赦なく叩き潰すHは、虫に恨まれていそうだな」
サルビアとは、或る意味小夜風家の女主人である。小夜風邸の管理、家事、防衛などを一挙に担う
「しかし、この蜂どもは他に被害を出していない。この教会と、小夜風の家以外にはね。こいつらは明確にその二つの家を狙っている。栗原、烏丸、影山の家にも多少あったらしいな……それぞれの家にはM、T、Fが向かった。いやー、動ける奴が多いってのは良いね」
リン達四人組とアヤメの家が襲われた。その情報から、怪異の発生源は粗方見当がつく。リン達個人個人ならともかく、五人揃って恨まれるうえに、蜂は女王蜂を中心とする真社会性を形成する虫。そんな形を取る怪異が生まれるとすれば……
「毒島瑠璃かあ……」
「まあ、怪異の性質上、本人の意思は介在していないでしょうけれど」
つい最近崩御した学園の女王こと、毒島瑠璃である。彼女は配下の生徒など、自分のために蜜を集める働き蜂程度にしか思っていない辺りも含めて再現度が高い。ただ、毒島瑠璃本人に怪異を生み出した自覚がない以上、本人を問い詰めても解決しないだろう。現代日本に、怪異を裁く法は無い。
と、再び羽音が聞こえてくる。蜂の襲撃の第二陣がやってきたようだ。
「いずれにせよ、降りかかる火の粉は掃わなきゃならない。手伝って頂けますか、ツバキさん」
「勿論、そのために来た。ほら、指輪だよ」
ツバキがリンに魔道具、プロスペローを渡す。始まるは蜂との闘い。アヤメが前衛を務め、蜂を斬ってゆく。蜂も毒液や真空波で対抗するが、全て躱された上にリンの《魔力蝶》によって落とされる。
「さて、朗読の時間だ。《冬の章・
更に後ろでツバキが本を開き、文字をなぞって魔法を発動する。ツバキの
「無情な吹雪は列車を襲い、恋人達を引き離す。列車の中にいて尚、その吹雪は寒さを知らしめる。耐えられるかな? 蜂如きに」
「何度聞いても悲しい展開ですね。しかも、かなり後半の方にあった気がするんですが」
「試練の無いイージーモードは嫌いじゃなかったのかい? リン少年。とはいえ、仕方のない部分もあるのさ。吹雪なんて題材、どうやったって悲しくなるじゃあないか」
ツバキの能力は従騎士の中でも強力なものだ。本来は荒ぶる自然の力である。地震や津波に対抗できる人間など、いやしない。その強すぎる力を制御するために、ツバキの能力は小説に落とし込まれた。そして、天候の一つである吹雪は、小説の中の試練として落とし込まれたわけである。
と、形勢不利と悟った蜂達は、一箇所に集まり始めた。
「まずい! 熱殺蜂球だ!」
「吹雪に対抗してきたか。面白い。ならば此方も熱で対抗しようじゃないか。《夏の章・
「夏でも報われないんですか」
「夏と冬は試練の季節さ」
蜂の球から放たれる熱線に、ツバキの熱が対抗する。その隙に、アヤメが《Zuben el chorus》で飛剣を飛ばして、リンが蝶を変形させてアステロイド型の魔法陣を構築した後に、魔力の波動を調整して放つ《アステロイド波動砲》で熱殺蜂球を攻撃する。
これで蜂の群れの第二陣は倒した。と思いきや、一回り大きな黒い蜂が現れた。
「あれが親玉かな」
「いや、Yが情報を照会したところ、親玉はクイーンビーと呼ばれる奴らしい。アレはジョックスビー。まあ、精鋭クラスではあるがね」
黒い蜂、ジョックスビーが飛ばしてくる真空波を《リフ・ウラヌス》で防ぐ。大元ではないとはいえ、コイツを倒せばいったんは襲撃も収まるだろう。
少し補足を入れると、クイーンビーやジョックスというのは海外(主に米国)におけるスクールカーストのような物である。女子のトップがクイーンビー、男子のトップがジョックスといった感じ。記録に残る限り、この怪異は最初に米国で出現した。その後、誰が名付けたのか知らないが、スクールカーストになぞらえてこんな名前にされてしまった模様。
閑話休題
ジョックスビーは他の働き蜂よりも総じて能力が高い。外骨格は生半可な攻撃は通さず、毒針や真空波による攻撃も侮れない。更に、他の働き蜂が集団で行っていた熱攻撃を単独で行うことができる。
『バカと何とかは高いところが好きってか? 撃ち落としてやれよ!』
「言われずとも、《Furud》!」
アヤメが雷の魔法でジョックスビーを攻撃する。
「添削の時間だ。《
「僕も負けてられないね。ダイスは3。《魔力蝶》」
ツバキは《The Weather》の力が込められた魔道具の刀《四季筆》で、降下してきたジョックスビーに斬りかかる。リンもダイスの力で増幅した《魔力蝶》で遠距離から攻撃する。
「スイッチ!」
「了解です!」
ジョックスビーが真空波を放ってきた段階でツバキは攻撃をやめ、後ろに飛んでアヤメが代わりに斬りかかる。それを回避するように蜂は上へと逃げるが、
「残念でした」
既にそこには鱗粉の爆弾《スケイルズボム》が設置されていた。ジョックスビーはアヤメに向かって毒針を乱射するが、横薙ぎ、斜め左下からの斬り上げ、袈裟斬り、最後はシンプルな弾きと全て防がれる。
更に、
「《Furud》!」
「《春の章・色恋沙汰ノ
アヤメの雷魔法と、ツバキの雷雲で相手を拘束して雷を浴びせる技でジョックスビーに集中砲火する。ついでに、いやに世知辛かったツバキの小説にも光明が見え始めた。とはいえ、春の章は夏や冬よりも前。束の間の幸福である。
窮地に追い込まれたジョックスビーは広範囲に熱線を放つ。
「残暑が厳しいですね……」
とはいえ、アヤメは炎の魔法で相殺し、リンは《リフ・ウラヌス》で防ぎ、ツバキは冷気で防ぐ。三人とも大したダメージではない。
「いよいよ攻撃に全振りしてきたか」
とはいえ、蜂の方も本気だ。全身に熱を纏い、こちらを威嚇している。こちらが魔法を唱えようとすると、火炎弾を複数撃って来た。おまけによく見ると、中心には毒針がある。それぞれの方法でその攻撃をやり過ごすと、今度はリンに向かって突進してくる。
「《スワロウテイルストーム》!」
なんと、逆にリンは蝶の群れを纏って突進した。それによってジョックスビーは大きく怯み、アヤメが斬りかかる隙を作る。
「なんて無茶を! そういう時は《リフ・ウラヌス》で防ぎなさい!」
「ごめん。でもなんかいけそうな気がして」
「まあ、結果無事だったのだから良いじゃないか。過保護は良くないぞ、アヤメ嬢」
そんな言い合いをしている間にも、ジョックスビーは炎の竜巻を飛ばしてくる。しかし、これはツバキが同じ風の攻撃で相殺していた。
「敵も大分弱ってきてる。総攻撃と行くよ!」
「「了解!」」
リンが《スケイルズボム》で相手の動きを止めた後、アヤメが雷を纏った剣で蜂に斬りかかる。その後、ツバキが落雷を当てる事でジョックスビーは倒れた。
「第二陣、掃討完了ですね」
「後はバカ三人と合流して対策を練りたいね。蜂の発生源も突き止めないといけないし」
「敵の所在とか、その辺はYに任しとけばいいと思うけど、集まって対策を練るのは賛成かな。因みに、君達五人が集まる時に二人ほど従騎士が増えると思うんだが、それは大丈夫かい?」
「心強いです」
リンが悪友三人に電話を掛けると、直ぐに向かうと返事が来る。その直後、物凄いスピードでリンの側を通り抜ける者がいた。新手か? とリンは警戒するも、ツバキが親し気に呼びかける。
「おお、Nじゃないか」
よく見ると、その者は一人の女性だった。容姿を纏めると、黒髪で、吊り目で、弓を背負っている。そして、エルフのように耳が尖っており、別の人物を抱えていた。なお、その抱えられた人物、ラズベリアは目を回している。
「えっと?」
「彼女はイエライシャン。
「気難しいとかアンタに言われたくないわよ!」
「私は変人ではあるが、気難しくはないよ」
イエライシャンというらしい女性はツバキに噛みついた後、リンに向き直って自己紹介する。
「私はイエライシャン。《月夜の森の従騎士》の一員で、
「あ、どうも。天野リンです」
「天野リン……?」
リンの名前を聞いたイエライシャンはまじまじと見つめ、そしてこう言い放つ。
「べ、別にお嬢様の相手として認めたわけじゃないんだからね!」
「いきなり何!?」
「あの、イエライシャン、そういうことは今は……」
「なんでアヤメさんは顔が赤いの? 熱?」
「ひゃ!?」
「無造作に額を合わせてんじゃないわよ! というか、そこまで間近にいるくせになんで気付かないのよ!」
「N、喧しいぞ」
リンとイエライシャンの初邂逅。前途は、多難かもしれない。
さて、始まりました。毒島瑠璃も意図していない置き土産戦。スクールカーストになぞらえた蜂の怪異として登場。
そして、投稿順では初登場となるWとN。ツバキはなんか旭先生を彷彿とさせる飄々とした性格。イエライシャンは……まあ、次回以降に。
備忘録
>スワロウテイルストーム
《マホロアストーム》に相当する技。原作では無敵時間のおかげで重宝したが、今作での使いどころは、意外とあるかも?