彼方楽園のレチタティーヴォ   作:三文小説家

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 アヤメ周りの設定を色々と書いていきます。ちょうど元作品の方で森に関する話が出たので、やや時系列は前後しますが、この話を先に投稿しました。

 ただ、投稿する順番を未だに悩み中です。これでいいのかどうか……



Interlude2ー人外魔境

「ここ、何処?」

 

 或る日、リコは再び夢の世界に来ていた。

 

『ニャア……!』

「落ち着いて、ニャオハ。多分、また夢の世界なんだと思う」

 

 流石に二回目ともなると、ある程度は耐性が付くのかリコは冷静であった。とはいえ、今度はまた毛色の違う場所だ。

 まず人工物の類が一切見当たらない。見渡す限り樹々が並んでおり、よく考えずともこの場所が森である事が分かる。以前にリンと森を探索したことが有ったが、それとは違う気配をリコは感じ取っていた。ここにリンはいないし、目印になるようなものがない、というより目的地が不明である。

 

 更に、

 

「何かがいるのは分かるけど……何も見えない」

『ニャア~……』

 

 以前の森には確かな生き物の存在があった。リンが目印に撒いていたクッキーを食べてしまったヨクバリスやホシガリスなどだ。しかし、今回の森は何かの気配は感じるものの、姿を見る事が出来ない。その異様な気配はニャオハの警戒が解けない理由でもあった。

 

「Are you going to Scarborough Fair?」

「この声……アヤメさん?」

 

 そんな中で、以前に聞いた事のある歌声に向かってリコが条件反射で反応するのは致し方ないことであろう。

 

 

Zaf lytu musvise guslav ethel

 

 

「アヤメさん!」

「あら……?」

 

 結論から言えば、リコにとって不利益が生じる事は無かった。声の主は正真正銘アヤメであり、悪意を持つ何者かの罠というわけではないのだ。しかし、ニャオハは倒木の上に座るアヤメにまだ警戒の意を示していた。

 

(ニャオハ……どうして……?)

 

 リコはそんな相棒の様子に疑問を覚えるが、ニャオハが警戒しているのはアヤメというよりアヤメの頭上であった。

 

「……?」

 

 リコはアヤメの頭上を注視してみた。すると、薄っすらとだが何かがいるのが見える。()()はアヤメの肩に座っており、木の根が絡み合ったかのような下半身と、リコ達を睥睨している白目と黒目の反転した眼だけが確認できる。なお、乗られているアヤメは特に重さは感じていないらしい。

 

 リコはこの空間では圏外となってしまうスマホロトムで調べるまでもなく、その存在がポケモンでは無い事を悟った。理論的に説明しろと言われても困るが、纏う気配からして違うのだ。

 

「そういえば、以前に会った時に『森歌の君』は紹介していませんでしたね」

「『森歌の君』……?」

「私を助けてくれる存在です。有り体に言えば、妖精、でしょうか」

「妖精……」

 

 またよく分からない存在が現れた。ミレーユ辺りが興味を持ちそうだとも思うが、判断するにも情報が不足している。

 

「ふふ、リンさんの指導が功を奏していますね。ええ、妖精を無闇に信用しないのは正解です。彼らの多くは、甘い言葉で誘惑してくる厄介な者。決してただ可愛く、美しいだけの存在ではないのです」

 

 アヤメによれば、妖精の類は人間に対して友好的に接するが、彼らもまた人間達に求める物が有り、それを人間達から引き出そうとする。今、力を貸してくれている妖精も対価を支払って初めて成立するものであり、正しく支払われなければ不幸を招き入れるという。

 

(……私がニャオハのやりたいことを理解して、関係を築き上げたのと似てる……? でも、ニャオハは懐いてくれないだけだったけど、)

 

 リコはアヤメの肩に座る存在を見て、考えを改めざるを得なかった。

 

(きっと、もっと恐ろしい事が起こる。それだけは、分かる)

 

 『森歌の君』はアヤメの身体に下半身の木の根を纏わせ、アヤメの首に巻き付くかのように身体をくねらせ、リコに興味を失ったかのようにアヤメを見つめていた。眼中に無い。『森歌の君』にとって、リコもニャオハも視界に留めておくべき存在ではないのだ。

 『森歌の君』に頬を撫でられながら、アヤメは改めて彼女を紹介する。

 

「彼女の名は〝エコーズ〟。森の木霊を司る妖精です」

「エコーズ……」

「おっと、本名で呼ぶことは推奨できません。それが許されるのは妖精の王と女王。そして、絆を結んだ者だけなのです。ここはぜひ、『森歌の君』と呼んでください」

 

 リコは普段、相棒の事をニャオハと呼ぶが、妖精にそれは通用しないようだ。更に、妖精と呼ぶのも難色を示すらしく『お隣さん』や『隣人』、『良き友達』と呼ばれる事を好む。対価を要求する友達とは……? と、リコは思ったが、この辺が人間と妖精の価値観の違いなのだろう。

また、ポケモンとも何もかもが違う存在であることも如実に示していた。

 

 アヤメが言うには、直接名を呼ぶと召喚の儀と取られる可能性もあり非常に危険なのだという。霊感などが備わっていない場合は何も起こらない事も多いのだが、リコはここまでの経験から、この空間に限ってエコーズの姿を不完全ながら視認する事が出来てしまっている。見えている危険は予め除去しておいた方が良い。

 

リコが一応の知識を頭に入れたのを確認すると、アヤメは倒木から立ち上がり、「少し歩きましょう。目覚めの時間まで、それなりにありますから」と歩を進めた。

 

「そういえば、さっきまで歌っていたのは……?」

 

 リコがまだ緊張が解けないながらもアヤメに先程の歌の内容を聞く。リンが時々自分の世界の音楽を聞かせるので、同じ世界の住人であるアヤメの歌う曲も聞きたいという心理が働いた。

 エコーズの件もあって少しおっかなびっくり尋ねたのだが、アヤメは快く答えてくれた。

 

「あれは異国のバラッドです。『森歌の君』のお気に入りなんですよ」

「あの、もしかして邪魔しちゃいました?」

「いいえ、彼女は満足したみたいですから、大丈夫ですよ」

 

 今までの話からしてこれも対価の一つなのかもしれないと思って確認したら案の定であった。しかし、対価として支払う分は終わっているとアヤメは笑って答える。

 

(でも、良き友人、隣人なんて言う割に物凄くがめつい……)

 

 一方、リコはどこか浮かない表情をしていた。つい先日、リコは仲間のモリーが純粋な心を以てオリーヴァを説得する様を目の当たりにした。その光景を美しいと思った彼女はアヤメとエコーズの関係はあまり好ましくは思えなかった。

 

 リコとて、ニャオハと最初からこのような関係となったのではない。ニャオハを観察し、心を通わせ、ようやく自分に懐いてくれた。それと比べて、妖精達との接し方はどこまでも物質的であり、ビジネスライクであり、冷たい関係に思えてしまう。

 

「冷たい……ですか。ミルクは暖かいですけれど」

「あの……気に障ったならごめんなさい……でも、なんだか、凄く寂しい気がして……」

 

 それをうっかり口にしてしまったリコに対し、アヤメは特に気分を害した風でもなく朗らかに返している。

 

「結構。立場や経験が違えば意見も変わる。それは当然の事です。正直、私からしてもポケモンへのその接し方は不合理に思える部分もあるのです」

「不合理……」

 

 確かに、不合理なのかもしれないと思う。しかし理屈だけで接し、得られたかもしれない、かけがえのない感情を蔑ろにするその論理にはどうしても共感できずにいた。

 

「しかし、こと妖精に関しては『純粋な心』で触れる事は大きな危険を伴う事が多い。それも事実です」

「え……」

「何故なら、彼らにとっての友好の意が人間の価値観においても有益とは限らないからです」

 

 リコは首を傾げた。友好の意が有益にならないという理論を理解できる程に、リコは人生経験が豊富ではない。

 

「そうですね。例えるなら、『可愛い貴方が傷つかないように安全な場所に匿う』と妖精たちが宣い、実質永劫亜空間に監禁される、などといった事態が容易に起こりうるのです」

「ッ……」

 

 リコは息を呑んだ。確かに、亜空間に閉じ込めれば外部から傷つけられる可能性は低くなる。しかし、それは人間にとって重大な不利益だ。

 

「何故わざわざそんな方法を、と思うでしょうか。言うなれば、妖精達が悪意を以て人間にとって害となる方法を選択していると思うでしょうか?」

 

 リコは頷く。実際、悪意的に接してくるポケモンだっているし、街を襲撃したユキカブリやシャンデラ達のように明確に敵対する存在を知っている。

 

「しかし、この行動に悪意など無いのです。彼らにとってはそうする事が守護という行為であり、人間にとっても最善であると思っている。何なら、純粋な善意と言えるかもしれませんね」

 

 リコは言葉を発せなかった。アヤメの肩に乗るエコーズがより一層恐ろしく感じられた。悪意も敵意も打算も無く、そんな狂った状況に放り込まれる事がある。脳が全力でこの状況を理解する事を拒んでいる。

 

 アヤメはリコの頭を撫でながら、慰めるように言った。

 

「少し、怖がらせてしまったかもしれませんね。確かに、妖精は場合によっては危険なものです。しかし、それに対抗する方法もあるのです。例えば、話術や知識等ですね。時に正論を話す事も有効です。それらを交えて慎重に接すれば、こちらも彼等に力を借りることができる」

 

 オリーヴァの件とは何もかもが違う。リコがそう思っていると、アヤメの他に頭に触れる手があった。それはアヤメに纏わりついているエコーズのものである。

 

「おや、ふふ。森歌の君は興味を示したようですね。先程、リコさんは私の友人であると説明したのですが、どうやら嫌ってはいないようです」

 

 喜べばいいのか恐れればいいのか分からないリコ。さっきの話を聞いた後だと気に入られる事自体がフラグにしか思えなかった。

 

「意外と寂しがりやなんですよ。この子」

「そんな親し気に呼んでいいんですか!?」

「あからさまな罵倒と本名以外はだいたい許してくれます」

(妖精の基準分からない……!)

 

 本名は駄目で、『この子』という若干小馬鹿にしてるようにも聞こえる呼び名が大丈夫という妖精ルールにリコが目を回す。そして触れられた事で何かしら干渉を受けたのか、リコにもエコーズの姿が見えるようになった。

 

「…………」

 

 その姿は木の根や枝葉で構成された少女のような見た目であった。しかし、顔から胸元にかけてのみ人間のような見た目をしており、眼球は白と黒が反転している。見るからに人外という風貌であった。

 

(いや……ソウブレイズとかマッシブーンとか、微妙に人型したポケモンはいるはいるけど、エコーズはなんだかベクトルが違う! 中途半端に人間っぽい部分があるせいで余計にバケモノ感が増してる!)

『ニャア~……』

 

 リコがエコーズに構われている間、主人を取られた事にヤキモチをやくニャオハ。しかし、エコーズは未知の生物に興味を示したのか、今度はニャオハを撫でまわしている。エコーズの手は蔓で出来ているため触られたところで痛くは無いが、ニャオハもまた未知の存在を前に盛大に思考がバグり散らかしていた。

 

「因みにこの姿をしているのは元からなのか、それとも後からこうなったのかは不明です。本人も覚えてないみたいで」

「そうなんですね……」

 

 ポケモンの進化と同じく、後から姿かたちが変わる事もあるのだとリコは頭の片隅に留めておく。

 

「そして、ここからは私の推測なのですが……」

「はい?」

 

 なんだかアヤメの話口調が微妙に変わったような気がしてリコは少し身構えた。

 

「仮にこの子が人間に受け入れてもらえるように少しでも人間に近づけたのだとしたら、なんか、その、ちょっと良くないですか!?」

「何が……?」

 

 リコは鼻息荒く(へき)を語るアヤメからさりげなく距離を取った。リンが以前に「変なスイッチが入ったアヤメとコルサは似ている」というような事を言っていたが、その意味を身を以て知ったリコであった。

 

「んっん……失礼、取り乱しました」

「あ、はい……そういえば、森歌の君は寂しがりやと言っていたけど、もしかして妖精が人間に対して友好的であることと関係があったりするんですか?」

「ああ、まあ、それもあるんですが、森歌の君は司る概念に関係してるんですよね」

「というと?」

「想像してみてください。歌っても喋っても、声が周りに反響するだけで何も返事をしてくれない、ただただ自分が孤独であることを実感させられる……」

「あ、なるほど」

 

 確かに、それは寂しい。実際、エコーズも初対面のリコでさえアヤメの友人と分かると露骨に友好的となった。

 

「月夜楽団は私達の居場所となってくれました」

「月夜楽団……?」

「私達が所属する楽団です。構成員が妖精達という以外は、普通の楽団ですよ」

 

 森歌の君はそこでコーラスを担当しているんですとアヤメは語った。アヤメは時にソリストとして、時に歌姫として楽団に参加したとも。この森で、時を刻むように音楽を奏でていた。

 

「リンさんも度々、参加していましたよ。俗に言う怪異ばかりの集まりなので、最初は緊張していましたが」

「(エコーズみたいな存在が集まってる中で演奏してたって事だよね……シャンデラ達を見ても動じなかったのはこれが原因?) なんか、凄いですね……私なんか、森歌の君の存在だけで驚いているのに、リンは順応してたなんて」

「ふふ、最初は彼も驚いていましたよ。勿論、受け入れるのに時間もかかっていました」

「あ、そうなんですね……」

 

 リコはどこかホッとしている。普段からカオスな言動が多いとはいえそこまで理解不能な精神はしていないようだ。逆説的にアヤメの事を理解不能な人物として扱っている気もするが、気にしてはいけない。

 

「言わせてもらいますけど、宙に浮くシャンデリアと暴れる樹木と黒い龍が跋扈しているそちらの世界も大概不思議ですよ?」

 

 何となくリコの考えている事が分かってしまったアヤメは少しジト目で指摘する。

 

「え、あ、ごめんなさい……え、口に出てましたか……?」

「心拍の音からもしやと思いましたが、当たりでしたか。だめですよ。こんなブラフに引っかかっているようでは」

「あ……というか、へ? しんぱく?」

 

 何やらただならぬことを聞いた気がしたリコだったが、突如としてアヤメが足を止め、リコに一声かけて急に進路を変更した。

 

「あの、ごめんなさい! 気分を害したなら謝りますから!」

「あ、失礼、そういうわけではないのですが……どうやら招かれざる客人が訪れてしまったようです。私はその対処をしなければなりません。ひとまず貴女を安全な所に連れて行こうと思ったのですが……どうやら一足遅かったようです」

 

 しかし、アヤメの言う、招かれざる客人は既に二人の前に現れていた。

 

「どこに迷い込んだものかと思ったが、奇遇だな」

 

 それは【エクスプローラーズ】のアメジオと、その部下のジルとコニアだった。

 




なんか変な趣味持ってるなあ、アヤメ……

エコーズ:

 アヤメと契約している精霊。木霊を司る存在で、森の秩序の一つ。元々はギリシア神話の山の女精霊の事で、歌声の魔法使いである。そのためドレスを来た女性のような概形をしているが、大部分が木の根や枝葉で構成されている他、白目と黒目が反転した眼球を持っており見るからに人外。ついでに言えば、顔から胸元にかけて取り繕うかのように人間の見た目をしているため、下手に獣の姿を取るより尚更人外感が増している(実際、挙動は蛇か鳥に近い)。

 このようなデザインにしたのは、ラノベに登場する妖精達やティンカーベルのイメージを払拭したかったのもある。また、純粋な心がトリガーとなることもあるポケモンと違い、知識と理屈を盾に慎重に契約する必要がある〝妖精〟という存在を演出するため。

 ちなみにリン君は既にエコーズ他妖精達の存在を知っている。

月夜楽団:妖精達で構成された楽団。最後のオリキャラ。アヤメが入り浸っている理由はまた後で。また、女王事変の際にちょっとした活躍をする予定。

エクスプローラーズ:まさかの登場。実は(意図せず)森を踏み荒らしてしまったため、招かれざる客扱いされている。

森:夢か現か微妙なところ。半分夢で半分現実と言った感じ。感覚としてはベヨネッタのプルガトリオに近く、狭間の世界。全く現実に干渉しないかと言うとそうでもない。
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