もしも不知火カヤが幼少期から体を売ってどうにか生きていたら   作:平たい胸族万歳

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「曇らせはとある1点さえ守ればどれだけ曇らせても良い」


2話

 ……不知火カヤの話は想像を超える、絶する程のものだった。

 

 

 

「私は……物心着いた時には既にひとりぼっちでした」

 

 話を聞くに彼女は育児放棄され挙げ句まだ物心着く前にブラックマーケットに人身売買されてしまったらしい。

 そして自我が芽生えた頃に売りに出され、少女趣味の趣味の悪い男に買われていったという。

 

「10歳くらいになるまでは使用人のような事をさせられていました。ミスをすると殴られたりムチで叩かれたりもしました。……もう、傷跡を消す事さえ困難でこうして隠すくらいしか出来ないんですよ、あはは……」

 

 買われた当時はまだ5歳だった、彼女はそう語り続けて10歳までの境遇を話した。

 凡そ自我が芽生えたばかりの幼子にする行為では無い、声を震わせて話す彼女を見ていてこれを作り話と思える人間は存在しなかった、ハイネでさえ察していた。

 そしてそこから先は更に耳を塞ぎたくなる、そんな凄惨な事実だった。

 

「じゃ、じゃあ10歳からはなんだったんだよ……」

 

「そこから先ですか?……文字通り性処理係のメイドですよ」

 

「カヤ……」

 

「でもそうして性処理をしている時はあの人の機嫌は良かった。欲しい物も買ってもらえた、お金だって貰えた、怖かったけれどそうすれば自分は生きられるんだって、害されないんだって思えば必死になりましたよ」

 

 10歳にして……考えたくもない事実だった。

 そして輝にやっていたアレは……染み付いていたのだろう、そうすれば痛い事をされなかった、機嫌が良くなる男しかいなかったから。

 なんだってそんな世界でしか生きられなかったのか、彼女の境遇に理不尽さを覚えてしまう。

 

「……そんな生き方しか知らなかったのに。あの日、私は連邦生徒会長に救われたんですよ。あの人は私に手を差し伸べてきたんです、私と生きようって。自由に生きてみようって」

 

「最初は戸惑いました。でも痛い事も苦しい事も気持ち悪い事も無くて、人並みの生活を送れて……次第に私は人間としてようやく生きられたのだと実感する事が出来た。そして同時に彼女に恩返しをしたい、そう感じて私は連邦生徒会に入ったんです」

 

「だったらどうしてこんな……」

 

「……ハイネ。私は怖かったんですよ、また落ちていくのが。上質な暮らしを出来るようになったのに停滞すればきっと足元を掬われる、あの人が居なくなってしまった以上ひとりで生きていかねばならない。ならばどうしても、どうやっても連邦生徒会長になって安心したかった。そして同時にあの人に報いたかった。その為に手段なんて選んでいられなかったんです」

 

 手段は下手としか言えなかった。

 だが気持ちは理解出来た、もう二度としたくないと思っているからこそ必死にそこから逃げるように、もう二度と落ちない場所まで……根底の思いを聞いては安易に矯正局に送るなんて考えにはどうしてもなれなくなっていた。

 これは『矯正』するのではなく『カウンセリング』が必要だと思ったからだ、誰かが側にいて静かに過ごすのが良いのではないのか、と。

 

「そうか。……やり方は下手で横暴だが、情状酌量の余地はあるんじゃないか?」

 

「そうだね。この子は矯正局に送るよりもやってあげないと行けない事があると思う」

 

「でもどうするんだよ、誰も引き取りたがらないと思うぞ?」

 

「……俺のところで引き取る」

 

 そして考えた最善は、俺の家で引き取るという事だった。

 俺はまだ17だ、あまり社会経験がある訳でもなく教養がある訳でも無いが……だが、輝はそういった闇をあまり知らない。

 ならば寄り掛かれる、理解が多少でもある俺の方が良いと判断した。

 

「私なんて引き取ってもつまらないですよ。胸も無いし身体は傷物ですし」

 

「俺もつまらない人間だから気にするな。だが見ていてこのまま放っておいたら寝覚めが悪いと思ったからな、どうせ普段は家にもそれ程いないし好きに使ったら良い」

 

「わ……私は大罪人ですよ?」

 

「確かに色々と言いたい事はある。だがただの大罪人として再教育を行うには精神の衰弱が顕著だ。……輝、悪いが」

 

「うん、手は回しておくよ。それは大人の仕事だから任せて」

 

「助かる」

 

 輝は元より心根の優しい頼りになる男だ。

 ここに来てからも様々な勢力と関係を結んでいて多方面から『先生』と、そう慕われる兄貴分に素直に頼る。

 ひとりで抱え込む問題としてはあまりに大き過ぎる、人の命や人生を預かる上でそういった行いは寧ろ傲慢だ、ならば恥も外聞も捨てるべきだろうとこの人に教わったのだ。

 

「……お前らも、コイツに言いたい事が山ほどあるのは承知の上だ。今はここを、通してもらえないか」

 

 RABBIT小隊、それにハイネ。

 不知火カヤに騙されていたのは不憫だ、いつか必ず精神をまともにさせてから謝らせるのは確定だ。

 だが、それは今では無い。

 今それをさせても彼女は恐怖で押し潰されて謝っただけになってしまう、それではお互い何も得られない。

 だからこそ俺はここを通らねばならない。

 

「いつか必ず、まともな精神状態にさせて罪と向き合わせまたお前達の前に立たせる、謝らせると約束する。それは不知火の為でもあるし、お前らの為にもなると思っている。……済まないとも思っているが……だからこそ、道を開けてほしい」

 

「……分かった、分かったよ。僕は難しい事は良く分からないけど今じゃないって事だけは何となく理解した。晄輪大祭の毎年開催を理解してもらえるまで待っておくよ」

 

「毎年開催は流石に費用が嵩むから辞めておけ……」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 途中ツッコミどころもあったがそれはそれとして道は譲ってもらえたので良しとする。

 コイツらとの約束もある、尚の事不知火へのカウンセリングは慎重にやらないとならないと気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

「……あの」

 

「なんだ不知火」

 

「……やっぱり今からでも私の事なんて」

 

「馬鹿を言え、捨てるのならば最初から拾ってなどいない。それにハイネ達と約束を取り付けたからな。お前をちゃんと精神的に余裕を持たせられるくらいに回復させてしっかりと奴らの前に出して謝らせる、それが出来た日にはお前も多少は余裕のある暮らしも出来ているだろう」

 

 凡そ連邦生徒会会長代理を勤めていた頃の威厳やプレッシャーなどは感じられなかった。

 いや、それ自体が全て虚勢に過ぎなかったのか。

 目線を泳がせながら俯いて顔色を窺うようなその表情はやはり見るに堪えなかった。

 

「ど……どうやって育てられたかなんて度外視されても文句なんて言えないんですよ?それだけの事を、私はしたんですから」

 

「一般的に見ればそうだろうな。だが俺と輝はそうは思わなかった、劣悪で卑怯な大人しかいなかったから思考回路がそういったもので洗脳されていたと感じた。だからこうして連れ帰っている、今日からお前は焦って何かを成し遂げようとする事もお前の周りにいた大人の真似もしなくて良い。ゆっくりとその心を癒せ……それだけだ」

 

 戸惑い泣く事すら出来ない彼女を見ているとどうにも心がザワついてイライラしてくる。

 どうしたらここまでの精神状態を作り出せるのか……聞いただけでは全ては分からない、だが少しずつでも良い、安らげる場所を作ってやろうとひっそりと心の内で決心を抱くのだった。

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