避難警報をBGMに夜の街を駆け、目に入ったノイズに片っ端から襲いかかっていく。
初めてこの力を使った時には戸惑ってばかりでずっと逃げに徹してたけど、何度か戦闘を繰り返すうちにずいぶん戦いにも慣れてきて攻撃を受けることが減ったし殲滅速度が段違いにはやくなった。そもそも足手まといがいないから行動の自由度が違うし、やっぱり1人の方が気楽でいい。
それに、ああ、なんだろう。なんて言えばいいのかな、この、今までずっとやり場のなかった感情が、ただ無力に奪われるだけだった私が、唐突に現れては誰彼構わず炭にする、まさに災害の名に相応しい理不尽の権化のようなノイズを、そのノイズを私が壊して文字通りの消炭に返すことができる。その、感触。とても、とても、とてもとてもとても、すっごく楽しくて気持ちがいい。満たされていく感じがする。心地よくてクセになってしまいそうだ!
もっとだ、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと、もっと!オマエラがあの時現れなければ!オマエラさえいなければ!
「この程度のノイズならもうひとりで片付けられるんだ、そしたら私のノイズをちょっとだけ混ぜてみようかな?反応パターンが少し違うけどたぶん大丈夫でしょ」
夢中でノイズと戦い続けて気づいたら街のはずれまで来ていた。周囲にノイズは見当たらないし時間もだいぶ経っただろうから今日はもう戻ろうと踵を返そうとしたところで、目の前を斬撃が走る。
斬撃が飛んできた方を見てみれば、案の定風鳴翼さんが剣をこっちに向けて立っていた。
「いきなりご挨拶ですね、アイドルってみんなそうなんですか?」
「いつまでも逃げてばかりで名も名乗らぬ貴様よりかはマシだと思うが?立花響」
「っ、刀を振り回す青鬼に追われてるのでしょうがないんです。あと生憎といきなり得物向けてくる人に名乗る名などありません」
「うわぁ険悪」
なんで風鳴さんがその名前を……ッ?!
「ほう、ならばこちらとしては青鬼らしく力ずくで拘束してもいいのだが、一応聞いておいてやる。武装を解除して我々に同行しなさい」
「すみませんがそれは出来ません。あなたは信用に値しない」
「そうか、ならば仕方ないな。無理やりにでも連れていくとしよう。安心しろ、峰打ちで済ませてやる。貴様には聞かなければならないことが山ほどあるからな」
風鳴さんの雰囲気が一気に張りつめたものに変わった。問答の時間は終わり、ということだろう。私も拳を構えて臨戦態勢をとる。
「徒手でこのわたしに勝とうなどとは舐められたものだな。この身は幼き頃より防人足らんと鍛え上げた一振の剣。アームドギアも使わずに勝てるほど甘くはないぞ」
その時翼さんから知らない単語が飛び出した。アームドギア?なんだそれは、私は最初からずっと今纏っているので全てのはずだ。もしかしたらまだ何かしら隠された機能があるのかもしれない。
「どうした、はやくアームドギアを構えろ。戦場に出てくる以上、貴様にも戦う覚悟があるのだろう、その覚悟を示して見せろ」
つまり、風鳴さんの言う通りならアームドギアという機能を使うためには戦う覚悟というのが必要なのか。困った、私にそんなものはない。だから私にはアームドギアが使えないのか。
「……戦う覚悟ですか。それは私にはよくわかりません。けれど、戦う理由ならあります。それで十分じゃないですか?」
「覚悟も持たずに戦場に出てくるなどッ!」
「おお、まさに疾風迅雷の一撃ってやつだ」
ッ!速いッ!?
間一髪で風鳴さんの初撃を避け切れた。けれどすぐさま追撃が襲い掛かってきて、今度は避けられずに後ろに大きく弾き飛ばされる。
「さすがに今の響じゃ対処しきれないか。まあノイズ相手はシンフォギアの性能でゴリ押ししてただけだし当然だけど」
「がっぅ……ッ!?」
千ノ落涙
大量の剣が降ってくる。今から避けるのは無理だ、咄嗟に頭を庇い防御姿勢をとる。何発か貰ったけど思ったより痛くない。これならッ!?
「ああ、捕まっちゃった。ちょっとあっけないかも。もう少し頑張ってほしかったな」
影縫い
身体が動かないッ!?いったいどうなって……!
「うわっ、翼さん容赦ないなぁ。影縫いで捕まえたんだからもう終わってるのに高火力の追撃なんて」
天ノ逆鱗
大型のノイズを貫いた巨大な剣が私めがけてまっすぐに突き進んでくる。身体はなぜか動かせなくて避けることも防御することもできない。
また、そうやって私から奪うのか、また!
イッソノコト、ゼンブゼンブ、コワレチャエ
「ふんッ!」
「叔父様!?」
その時赤いシャツの筋骨隆々の男性が私と風鳴さんの間に割って入って、あろうことか風鳴さんを吹き飛ばしてさらにその余波で地面を大きく抉った。あまりにも急な展開に思考がまったく追いつかない。
「やっぱり生身でシンフォギアに対抗できるっておかしいよね。でも解剖してもただの人間と変わらないし、司令の強さの源は私をもってしてもわからないよ」
「あーあー、何やってんだ翼。接触は慎重にって言っただろう。君、すまなかったな、怪我はないか?もし怪我をしているならすぐに治療の手配をするが」
「あ、ええっと、だ、大丈夫です……」
なんか風鳴さんを怒ってるけど結局この人は誰なんだろう?たぶん風鳴さんの上司?なんだろうけど……。
「ああすまん。自己紹介がまだだったな、俺は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令官で、そこの翼の上司であり叔父だ」
「これはご丁寧にどうも……」
「今日はもう遅いから帰るといい」
「ああ、やっぱり見逃すんだ。確保するならノイズが現れた直後の今が一番の好機なのに」
そう言って司令官さんは背中を向け、何やら風鳴さんと話している。さすがにあの大きな剣ごと風鳴さんを吹き飛ばすような人からは逃げられないと思っていたけど見逃してくれるなら言葉に甘えることにしよう。
じりじりと距離をとり、ある程度離れたところで一目散に走りだす。ちらりと後ろを確認すると風鳴さんと視線が合ったような気がしたけど本当に追ってくることはなかった。
十分に距離が空き街に入ったところで変身を解いた。あとは戻ってくる人ごみに紛れてフラワーに戻るだけだ。
「うーん、今日はあまり愉しめなかったかも。でも逆にこれからの展開が面白くなりそうな予感はするよ。今後に期待かな」
それにしても、風鳴さんの剣が迫りくるあの時、視界が一瞬赤くなったような気がしたけど、あれはいったい何だったんだろう。
*この物語の主人公は未来さんです