いたい、いたい、いたい、いたい
からだじゅうがいたい、いたい、いたい
いたいのがおわらない
いたいのをやめてくれない
いたいの、いたいの、こんなにもいたいの
どうしてやめてくれないの
いたいよ、こわいよ、たすけてよ
ただしいってなんなの、せいぎってなんなの
つめたい、つめたいのに、あつい
くるしい、くるしい、くるしい
つらい、なんで、だって、でも、もう
いきてたってしょうがない
そっか、たしかにこれは"のろい"
このよにしばる"のろい"
"つみ"には"ばつ"がひつようだから
これはきっと、"ばつ"なんだ
てのひらがのびてくる
おおきなおおきなせいぎのて
おおきなおおきなさばきのて
ていこうも、にげるのだってできはしない
つぎの"ばつ"が、あたえられた
翌日、運ばれてきた食事を無理やり流し込んだところで昨夜と同じように扉を開けて司令官さんとスーツ姿の若い男性、それに白衣を着た女性が入ってきた。司令官さんを見て小さく身体が跳ねたの、気づかれてないといいけど……。
「あ、響今ビクッとしたね。すっかり風鳴司令のこと怖がっちゃって、かわいいな」
「おはよう響君、昨日は休めたか?」
「ぇと、はぃ……おかげさまでっ……」
おかげさまで最悪の夢見でした、と素直に言ってしまいそうになったのをすんでのところで飲み込む。昨日の今日だし、よく考えなくてもずっと失礼な態度だったし、これ以上印象が悪くなってまた、あの顔で睨まれたら……っ!
「響君?大丈夫か?だいぶ顔色が悪いが」
「ヒィッ!?ぃえ、だ、大丈、夫……です……ほ、ほんとに、大丈夫、ですから……」
ずいっと、私の顔を覗き込むように司令官さんの顔が近づいてくる。それがとてつもなく怖くて、自分でもわかるくらいに血の気が引いていくのを感じた。今ここに鏡があれば真っ青な自分とご対面できることだろう。
「風鳴司令素晴らしいですね、そのままどんどん怯えさせてください」
そんな有様でいくら大丈夫と言い張ったところで説得力なんてこれっぽっちもないだろうけど、だからといって司令官さんが怖いせいですなんて口が裂けたって言えるはずがない。そんな様子を見かねたのか、白衣の女性から助け船が出された。
「そこまでよ弦十郎くん。響ちゃん怯えちゃってるじゃない、少しは自分が年頃の女の子からどう見えるのか、自覚した方がいいんじゃないかしら?」
「む、黙っててよ。怯える響小動物みたいでかわいいのに」
「う、む。そのようなつもりはなかったのだが……、いや、そうだな。響君、昨夜に引き続き怖がらせてしまってすまない」
女性の言葉を受けてやっと司令官さんが離れてくれた。よかったと思ったのもつかの間、今度は思いきり頭を下げられる。司令官さんに頭を下げられるのはそれはそれで怖いから止めてほしい、切実に。
「い、いえ、私は大丈夫ですから、頭上げてください……!」
本当は全然大丈夫じゃないけど、司令官さんに頭を下げられるのもだいじょばないからとにかく頭を上げてもらう。なんでこんな思いしなくちゃいけないんだ……。
「すまないな……。では改めて、まずは響君に二人を紹介しよう。こいつは緒川慎次、機密保護や情報操作なんかをやってる、まあ裏方担当だな」
「はじめまして、響さん。よろしくお願いしますね」
それまで司令官さんの斜め後ろにいた男性が前に出てきた。そのままお辞儀されたので返すとニコリとほほ笑んだ。
……なんかこの人、どこがどうとは言葉にできないけど、怪しい……。胡散臭いというか、アニメなんかで裏で黒幕と繋がってそうなキャラみたいな、信用したら裏切られそうな雰囲気がある……。
「そしてこっちの―」
「できる女と評判の櫻井了子よ、よろしくね響ちゃん」
「なにができる女よ、ただの年の功のくせに」
今度はさっき助け船を出してくれた女性が出てきた。この人は白衣を着てるしお医者さんだろうか?そしたらある意味一番会いたくない人だな……。不健康なことは分かりきってるから。
咳払いひとつ、それで意識が再び司令官さんに向いた。昨夜とはまた違う真剣な表情。これから本題に入るのだと理解した。
「さて、これから話を始める前に響君にお願いがある。我々のことは誰にも話さないでいてもらいたい。これは無関係な人間を無暗に巻き込まないためでもあるし、響君自身を守るためでもある。そのことを覚えておいてくれ」
「……話す相手なんてどこにもいませんよ」
「わぁ、さすが風鳴司令。響のいい表情の引き出し方わかってますね。その慮ってるようでデリカシーのない言葉最高ですよ」
口をついて出てしまった言葉にしまったと思うけど、一度吐き出された言葉は取り消せない。
声自体は言葉を口の中で転がしたようなごくごく小さなものだったけど、ここは病院。静かな病室はその声をばっちり届けてしまったらしい。重い沈黙が降りる。
その沈黙を破ったのはまたしても白衣の女性、櫻井さんだった。
「……それじゃあまずは響ちゃんが1番気になってるだろうことから説明するわね」
「むぅ、またしゃしゃり出てきて、せっかく風鳴司令がいい表情にしてくれたのに、あなたじゃ役者不足だから帰ってよ」
ことさらに明るくおどけた様子で空気を一新するかのように話始める。正直ありがたい、憐れまれるのは嫌だから、意識しないように櫻井さんの話に耳を傾ける。
「まず、響ちゃんや翼ちゃんがノイズと戦えるのはシンフォギア……聖遺物をエネルギーに変換し鎧の形で再構成したアンチノイズプロテクターを纏ってるからなの」
「シンフォ、ギア……せいいぶつ……?」
「聖遺物とは、世界各地の伝承に登場する現在では製造不可能な異端技術の結晶。多くは遺跡から発掘されるんだけど、経年による破損が著しくってかつての力をそのまま秘めたものは本当に希少なの。そして、シンフォギアはそんな聖遺物にほんの少しだけ残された力を特定振幅の波動で増幅して扱える形に再構成したもののこと」
ダメだ、全然わかんない……。専門用語だらけで呪文唱えられたみたい、今喋ったのホントに日本語?
ええっと、あの力はシンフォギアってもので、その力の源が聖遺物、でいいのかな……?合ってる?
「ここまでの話でノイズと戦える理由については理解してもらえたかしら。そしたら、なぜ響ちゃんがシンフォギアを纏えるのか、不思議よね?響ちゃんには心当たりあるかしら」
問われ、ひとつの場面が瞬時に思い起こされた。忘れるはずのないあの日あの時の光景。心臓がどくどくと早鐘をうち、胸の古傷がじくじくと痛みを発した。
動揺を悟られないように小さく息をついて、口にする。
「……2年前の、ライブ」
「いい表情してくれたのは嬉しいけど、それをやったのがフィーネってなんか複雑……」
「ごめんなさい、辛いことを思い出させちゃったわね。でも、あなたが使う力は、ガングニールのシンフォギアはあの日たしかに奏ちゃんからあなたに引き継がれたものよ。あなたの胸に残ったガングニールがあなたに力を与えてくれている。そしてそれが問題なの」
「問題、ですか……?」
「ええ、今の響ちゃんの状態はいわば生体と聖遺物がひとつになっているようなもの、今までこんな症例は世界中で確認されてないわ。つまりはこれからどんな症状があるか、どんなことが起こりうるのかは一切わからないの。今のところ目立った症状はほとんど確認できないけど、これからもそうである保証はない。もちろんなにも症状がない可能性もあるけど、これからは定期的にメディカルチェックを受けたほうがいいわね」
「どうせ融合症例のバイタル情報が目当てのくせに」
そう言って櫻井さんの話は締めくくられた。
私が聖遺物とひとつに、というのは驚いたけれど今さらそんなことはどうでもいい。この先何か症状が出て、その結果死ぬことになってもノイズと戦えるだけでおつりがくる。むしろノイズを屠って死ねるなら本望だ。シンフォギアだろうと聖遺物だろうと、使えるものはなんでも使ってやる。
「立て続けになってすみませんが、今度は僕から話があります。よろしいでしょうか」
ノイズと戦う覚悟を新たにしたところで、スーツの男性が話し始めた。名前はたしか、お、オガさん?だったはず。
「……どうぞ」
「ありがとうございます。まず、響さんの身柄についてですが、先日の戦闘で響さんが狙われていることが判明したため、一時的にこちらで預からせてもらいます」
丁寧な口調だけど、どうせわたしに拒否権なんてないだろうし、現状じゃ逃げられもしない。無言でうなずいておく。
「次に現状の響さんの実力では退院して再び戦場に出ても、残念ながら勝利するのは難しいでしょう。それどころか今度こそ連れ去られる可能性もあります。そこで響さんにはある程度戦えるように退院したら修行をしていただきます」
「修行、ですか?」
痛いところをつかれた。たしかに風鳴さんにもあの女にも満足な反撃すらできずにぼこぼこにやられてるのに、無策で臨んだところでまたやられるのがオチだろう。それは分かる。だけど、修行?山にでも籠るのかな?
「はい。修行です。響さんの居場所を秘匿する観点からも合理的であると判断いたしました」
「……そして、もろもろの都合により響君を指南するのは俺だ」
「………………ぇ?」
「あれ、なんだかとっても愉しいことが起こりそうな予感がするよ」
え?司令官さん、が?