しとしとと降り続ける雨の下を歩いていく。冬が明けて暖かくなってきたとはいえ生憎の天気、すっかり冷えてしまって明日は体調が崩れるかもしれないけど構いやしない。雨で濡れていたって心配してくれる人も、叱ってくれる人だって私にはもうどこにもいやしないんだ……。
そのまま歩き進めて、とある慰霊碑の前まで辿り着いた。『特異災害犠牲者慰霊ノ碑』と刻まれた、まだ建てられて日が浅いそれはたくさんの献花とお供えもので溢れていて、それだけが私にとって唯一の未来の墓標であり、同時に罪と罰の象徴でもある。
「あいたいよ……みくがいないと私はダメなんだ……。なのにどうして……」
「ずっとにいるよ?言ったでしょう?
私にこんなことを言う資格なんてないのはわかってる。だけど今だけは、頬を伝う雨が降り止むまではどうか弱音を吐くのを赦して、みく……。
あのライブ会場の惨劇は、私の日常から何もかもを奪っていった。
私は逃げ遅れて会場に残っていたし、一時は生死の境を彷徨う怪我を負っていたのだけど世間はそんなことは知らないし知っていたとしてもそれは重要なことじゃない。彼らが欲しいのは正義を振りかざして悦に浸れる
だからなんとかリハビリを終えて退院して、ようやく学校に行けるくらいにまで回復した時に待っていたのは学校中からのひどい虐めだった。無視や陰口程度ならまだいい方。机は無事な部分を探すのが難しいほどに罵詈雑言の落書きで埋められていて、殴る蹴るといった直接の暴力すら当たり前。私のものは隠すどころか二度と使えないほどボロボロにした状態で捨てられていて、それを止めるべき教師ですら知らないフリするどころか加担している始末。
でもそうなるのもしょうがない、私と未来が特別仲が良かったのはそれなりに知られていて、ライブに参加することだって別に隠してたわけじゃなかった。そして生き残れたのは私だけ。ニュースでやってる
だから、それの被害が家族だった人たちまで襲うのは時間がかからなかった。家に帰れば塀や壁に『死ね』だの『消えろ』だの書かれた張り紙や落書き、敷地の中にはゴミが投げ捨てられていて、こぶし大程の石を投げられて窓が割れたこともあった。
父親
それでも耐えていられたのはあのライブ会場で未来を死なせてしまった罪が少しだけでも赦された気になれたから。だからといってあいつらが私にした仕打ちはかなりひどいものだったと思うしそのことで恨んでもいるけども、そういう扱いを心のどこかで望んでいたのも紛れもない事実。だからどれだけ責められようと攻撃されようともほとんど抵抗せずにされるがままでいられたんだ。
だからそのまま私だけで憂さを晴らしていればよかったのに、なのにあいつらは……ッ!だから私は、アイツラを……ッ!
……そしてどこにも居場所のなくなった私は中学校卒業と同時になけなしのお金だけ持って家を飛び出した。それから多分1ヶ月くらいだろうか、ずっと全く知らない街をあてもなくフラフラと彷徨っている。
今は海沿いの街にいて、日が沈み始めてきたから今日の寝床を探してるところ。24時間開いていてお金をかけずに休める施設なんてなかなかないせいで公園やら橋の下、路地裏なんかでダンボールだけ敷いて野宿することも多いけど、最低限雨風だけでも凌げる場所があればそっちの方が断然いい。
それと仕事も探さないといけない。
ここ何日かは自販機の下を漁ったりしたけれどあまり収穫はなかった。自販機でさえ電子決済が主流なんだから考えてみれば当然ではあるんだけど。
フラフラ歩き続けて交差点に差し掛かったところでふと違和感に気づいた。今は夕方で、もっとも人が出歩いている時間帯だろうに歩行者はおろか車1台さえ通らない。あまりにも静かだった。
交差点の角のコンビニを覗いてみる。普段であれば店員がいるだろうレジは無人で、入り口付近にはちょうど人一人分くらいの炭の塊が落ちていた。
ドクンッ、と心臓が一際強く脈打つ。それは2年前のライブ会場で見た光景と同じだった、人を炭化させるバケモノども、私からみくを奪った……
「ノイズッ!」
思考に沈んで気づくのに遅れてしまった。周りに誰もいなかったのはどこかに隠れているのか、それとももうすでに殺されたのか、どちらにしろ私以外誰もいないことには変わりない。
幸いなことにノイズの姿は未だ見えない。厄介なことになる前に逃げようとして、どこに逃げればいいのかわからないことに気づいた。近くのシェルターなんて知らないし、ケータイも持っていないから調べることすらできない。
「いやぁ!!!」
そのとき、近くから悲鳴が聞こえてきた。多分まだ幼い。悲鳴が聞こえたほうを見ると小さな女の子がノイズに追われて必死に逃げていた。だけど都合がいい、あんなに声をあげて逃げてるなら近くのノイズも連れて行ってくれるだろう。その間に逃げれば……。
………………。
(ああもう!私もバカだなぁッ!)
気づいたら女の子に向けて駆けていた。そのまま女の子の手を取って強引に引き寄せ一目散に逃げだす。どこに逃げればいいのかはわからないけどとにかく逃げなきゃどちらも炭の山を築くのだけは確かだ。
「へえ、助けるんだ、てっきり見捨てるものだと思ってたよ。そんなの抱えてたら響だって危ないのに優しい子。やっぱり人の性質はそう簡単には変わらないってことなのかな?」
路地裏に逃げ込んで右に左に曲がって逃げる。ノイズに物理的な障害は効果が薄いって聞くけれど、少なくとも視覚は遮れるはず。わずかでも生き残る可能性が上がるならやっておいて損はない。
そのまま進んでいたら川につきあたってしまった。しかも最悪なことに両脇にはノイズが待ち構えていた。どうやったのか知らないけど先回りされていたらしい。
「おねぇちゃぁん……」
腰に縋りついてくる女の子を少し煩わしく思いながらも生き残るために思考をめぐらす。私は
そして、女の子を抱えて川に飛び込んだ。明らかに汚れた川でできれば入りたくはなかったけど四の五の言ってられない。何とか対岸まで泳いで、また走り出す。
命がけの逃走劇は始まったばかりだ。
「頑張って逃げてね、でも本当に危なくなったら助けてあげる。今回だけ特別だよ?だってまだ劇は始まったばかりなのに、すぐに退場されちゃったらつまらないものね」
歪鏡・シェンショウジンいい曲ですよね、作業中はずっと流してます
歌詞の影響をかなり受けています
救いは
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いる
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いらない
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どっちでもいい
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閲覧用