合わせ鏡の転生者   作:lily_black

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炎に飛び込む蛾のように

 結局あれから私は『フラワー』でお世話になることになった。

 

 本当に信用していいのか判断がつかなかったし他人と一緒に生活するなんて考えられなかったけど、どちらにせよどこかでお金を稼がないといけなかったし何より路地裏やら公園なんかで寝なくて済むのはありがたかった。大体はひとまずの寝床を確保しても雨風に震えていたし人攫いなんかを警戒しておちおち寝ていられなかったんだ。

 

 それが今では安全で清潔な屋内で布団の中で寝れるし、温かい食事もあってお風呂にだって毎日入れる。どれも少し前までは考えられなかったことだ。

 

 正直どうしておばちゃんがわざわざ厄介ごと(わたし)を置いてくれるのかは今でもわからない。私が言うのもなんだけど、見ず知らずの、それも路地裏に倒れてた子供なんてどう考えてもワケありなんだから見て見ぬふりをするのが賢い選択というものだろう。

 

 いや、多分おそらくきっと、あるいは私がそうあってほしいと思っているだけかもしれないけど、純粋に私を心配してのことなんだろうってことは理解しているつもり。けど、そこに至る過程というか、心情が私にはもうまったく理解することができない。信じることができない。

 

 あの事件までは私も誰かを助けることが好きだった、人と関わるのが好きだった。だけどそれは遠い昔の話。人は人をあまりにも簡単に害することができる。見下すことができるんだ。

 

 直接の暴力や悪意に曝されて、近づいてくるのは優しくするフリをするだけのクズで、一番に抱きしめて守ってほしかった人は消えて、どんなに辛くて苦しくても誰も彼もが助けてくれなくて……。

 

 だから優しくするのはきっと、何かしら裏があるはずだと疑って、なのに今までおばちゃんから明確に悪意を感じたことはなかった。それどころか簡単な事情すらろくに話さない私にただ居場所をくれた。

 

 若いとはいえ愛想のない私なんて置いてたって客が寄り付くわけじゃないだろうに。むしろデメリットのほうが圧倒的に多いはずだろうに。

 

 そんなお人好しなおばちゃんが経営してるからだろうか、『フラワー』にくるお客さんもいい人ばかりだと思う。それに年配者から私くらいの年頃の子まで、幅広い年代の人がこの場所が大好きなんだってことが数日しか働いてない私にも感じられた。お好み焼き屋なのに『フラワー』って名前なのよくわからなかったけど、きっとここはみんなの笑顔が花開く場所で。だから『フラワー』って名前なんだろう。

 

 ホントに私にはあまりにもふさわしくない場所だ。

 

 それから最近、近くの高校に通っているらしい女の子3人組がよく店に来るようになった。

 

 彼女たちのお目当ては私らしくてめちゃくちゃ話しかけてくる。私が仕事中だからって断ってもお構いなし、おばちゃんもちょうどお客さんがあまりいない時間だから話してきていいっていうものだから毎回のように席まで拉致されてる。いったい何が彼女たちの琴線に触れたのか、ただの店員と客の関係でしかないはずだけど。

 

 それに、いざ話すとなっても彼女たちの話題は何とも女子高生らしいものばかりで、つまり私には縁のないものがほとんど、当然会話についていけない。端的に言って非常に、これ以上ないんじゃないかってほどはちゃめちゃに居心地が悪い。コーヒーショップの新作って何?コーヒーはコーヒーじゃないの?

 

 もしかして、私に疎外感を与えるためにやってるんじゃないかって邪推してしまうほどだ。おしゃべりしている様子を見てるとリーダー格らしき赤毛の子はアホっぽくてそんなこと考えれる頭なさそうだけど、それすら演技だったとしたらとんだ策士だ。回りくどすぎて労力と釣り合わなさすぎるからさすがにないだろうけど。あとアニメが好きらしい。なんか電光刑事?とかいうアニメを熱弁された。

 

 それでも彼女たちが私を排斥しようとしていないとは言いきれない。私が生存者だってことを知って居心地のいい店を守ろうと異物(わたし)を追い出そうとしているのかもしれないんだ。

 

 そして、いつの間にか彼女たちと今度の休みに出かけることになってた。おばちゃんもすでに了承済み、しっかり予定を抑えられてしまっている。何かしてくるとしたらそこだろう、その一日を乗り越えるまでは油断できない。

 

 ……わかってる、わかってるよ。彼女たちに私を排斥するつもりなんてなくて、むしろ私に気を遣ってくれてるってことくらい。

 

 だけどどうしても信じられない。信じてしまって裏切られるのがこわい……、こわいんだよ……。また、あの時みたいに騙されて裏切られて笑われるんじゃないかって……。

 

 だから、そうなるくらいなら最初から期待しないほうがいいんだ。期待すればするほど、手を伸ばせば伸ばすほどに傷ついてしまうから。それならずっとひとりでいい。ひとりがいいんだ。

 

 ああでもそれならやっぱりここにいるべきじゃなかった。あの時出ていくべきだった。中途半端に求めてしまったせいで最近はずっと胸が苦しい。ギュッと締め付けられるような、そんな感覚がなくならない。

 

 きっと私はそれでももう逃げられない。知ってしまったから、思い出してしまったから、人の温もり、人の優しさ。人が持ちうる善性を。

 

 私にはあまりにも温かすぎて、あまりにも眩しくて。だけどもはや離れるには遅すぎる。

 

 それはまるで、破滅を理解しながら炎の灯りめがけて自ら飛び込む蛾のように。

 

 

 




アンケートに今後の展開には影響しないと書きましたが、曇り具合に影響がないとは書いてません

響はどうする?

  • フラワーで働く
  • フラワーを出ていく
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