麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目) 作:がぱおら
ロッカは悩んでいた。
いや最早悩む暇は無いというか、どうやらロッカが舵取りをしないと、賢者の暴力は極めて簡単に振り回されるものらしい。
その場に「メリットとデメリット」を冷静に提示できる者さえいれば、賢者との対話は決して不可能ではないとわかってきた。
そして、賢者にとってロッカの存在は、単独で全てを塗り替えるメリットにも、何もかもを白紙にするデメリットにもなり得るようだ。
現状、ロッカ以外に、賢者好みの肉体をしつつ思慮深い行動が出来る存在がいないからこそ、ある程度コントロールできているのだ。
今後ロッカ並みの容姿と思考力で対立する存在が現れた場合にどうなるかは全くわからないので、過信し過ぎるのも危険だが。
では何がロッカを悩ませているのか?
それは、突然自分が世界を粉微塵に破壊できることに気付いたが故の苦悩であり、残念ながら受け入れるしかないものだった。
ロッカをおんぶしながら空中をのんびり浮遊する賢者が、話しかけてきた。
「ところで、ショタ奴隷と王子は仲良くしてるかな」
「え、それは……カイツ達は緊張してると思いますよ」
ロッカは遥か下、地上を走る馬車を見下ろす。
馬車には今、王子達のパーティと、カイツ達スラムの仲間が乗っている。
賢者がわざわざカイツ達の記憶操作を元に戻してまで、連れて行くことを選んだのは何故なのか?
気になったことは、はやめに聞いておくべきだ。
「あの、賢者様。なんでカイツ達を王国に連れて行くことにしたんですか?」
「それはねロッカちゃん、ダブル主人公って奴だよ」
「……はい? だぶ、え?」
「単独主人公の王子様だけだと、今後も運命力で私をハーレム入りさせようとしてくるだろう? だから、牽制だよ。すぐそばに力を失った主人公がいるのに、まだハーレム拡張しようだなんてそんな嫌味な真似をしたら、王子様チーレムはあっという間に踏み台チート勇者へと様変わりする!」
「?????」
「ククク……私をハーレム入りさせようとする筋書きを誰かが書いてるなら、私がするべきは嫌がらせってことよ。強引な手段を使った瞬間、王子様主人公では破綻することになる! 私がショタ奴隷に力を与えることでね!! 完璧な作戦だ!!」
「流石ですね」
ロッカは賢者の狂った言動に気が引き締まった。
何一つ理解できないが、やはり賢者の手綱は命がけで握らねばならない。
ロッカは心は普通の女の子なので、世界が滅ぶと普通に悲しいのだ。
何らかの策略に利用されているらしいカイツは不憫だが、多分カイツの存在が重要な作戦なんだろうから、死んだりはしないハズだ。
もとより、カイツが勝手に治験を受けに行ったから、ロッカ達は邪剣の戦いに巻き込まれているのだ。それくらいは頑張ってほしい。ちょっと代償がデカ過ぎて本当に不憫だとは思うが。
「あとはショタ奴隷が、どれだけ主役っぽく振る舞えるかだけど……邪剣素材の短刀も与えたし、ざまぁする立場としてはかなり良さげに設えられたと自負している。私に逆らう可能性もゼロ! あの邪剣改め……なんかいい名前無いかなロッカちゃん」
「な、名前ですか? えーと、えーと……えー、剣……剣」
「地剣でいいか。名前なんて何でもね。地剣に力を与えられるのは私だけ! 私の許可なく力は振るえない!!」
賢者は本当に気分が良さそうだ。
「……不安なのは、ショタ奴隷目線だと私の存在、普通に悪い魔女だからなぁ。上手くヒロインレースもラスボスレースも、降りる方法探さないとね」
「よくわかりませんけど、カイツは賢者様に感謝してると思いますよ?」
「感謝されてもなぁ……ロッカちゃん、ショタ奴隷の幼馴染なんだから、ショタ奴隷のヒロインは任せるよ」
「えっ」
「なぁに、普段通り振る舞えばいいだけさ! 今のところ順調順調! 邪神よ震えて眠れぃ!」
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一方で、馬車の中の王子一行プラスアルファは、それなりに重い空気だった。
何か不幸な出来事で、気持ちが落ち込んでいるわけではない。
「俺、マナーとかわからないけど、大丈夫かな……」
「そういうの注意できる状態でもなさそうだけどな」
カイツらスラムの仲間たちは、突然遥か上の身分の人達と同じ馬車に乗らされているという事実に、シンプルに緊張している。
ディッツ達王子パーティは、これから自国に、予想以上に手強い性格の賢者を招き入れることに、戦闘前にも似た緊張感を感じていた。
(賢者様を、また怒らせてしまった……)
あと王子ディッツは、大恩ある賢者に対して、邪剣の効果があったとはいえ詰問してしまったことに、深い自責の念を感じている。
ディッツにとって、賢者は命の恩人であり、宝石の利益で間接的ながらディッツを育ててくれた存在。
産みの親、育ての親に次ぐ……スポンサーの親?とでも表現することになるだろうか。
とにかく第三の母と思っている。
なので、恩を返したいし、一緒に過ごせるなら最上だと、少し前までは思っていた。
どうやら、賢者はディッツに対して、良感情を一切抱いていないらしい。
時々テルナやフォウエンから「鈍感」と罵られるディッツでも、賢者の態度から親愛感情が全く感じられないことは、流石に気がつけた。
ギルドでの一幕より前、恐らく生みの母に抱かれて彼女の森で行き倒れた時からずっと。
ディッツは、賢者にとって「めんどうくさい」存在だったのだろう。
ディッツとフォウエンの謝罪は受け取ってもらえたが、あからさまに「それについて問い詰めるより、さっさと距離を置きたい」という態度が透けていた。
真面目に受け取ってもらえなかった後悔の感情と、それの行き場は一生見つからないのだろうという悟り。
わりとディッツのメンタルはズタズタだったりする。
一方的とはいえ、親に近いと思っていた存在から快く思われていなかったのだ。健全に育てられた健康青年には、そこそこのダメージとなった。
「ディッツ……全部終わったら、お寿司でも食べに行こうよ」
テルナは慰めようと話しかけてくれるが、人生一回分否定されたくらいの重さのダメージなので、ディッツは力なく笑い返すくらいしかできなかった。
多分、一連の事件のカタがついたら、一週間くらい寝込みそうな気がする。
テルナも理解しているのか、無理に励まそうとはしなかった。
「……そう、だな。王子様だもんな、全部片付いたら、港街でそれくらいの贅沢はしてもいいかもな……」
本当にいい幼馴染を持ったな、とディッツはありがたく感じた。
「私は盾……私は盾……私は盾……!」
シャリアドネはいざという時に王国をどうすれば守れるのか、気もそぞろだ。
というか、賢者を止める手段がなさそうなので、既に命を投げ出す覚悟を決めようとしている。
そんな心境で御者を務めているので、王子とはいえディッツを慰める余裕は無い。
テルナやフォウエンのほうが心のふれ合いは得意なので任せているのもあるが、ぶっちゃけ上空に浮いてる賢者がプレッシャーで心が休まっていないのが滅茶苦茶デカい。
会話を試みれば、なんか今から絶望的な戦場に送り出されるような口ぶりで返してくるので、みんなそっとしておいている。
「ひぐ、ぐす、うええ……」
そんなシャリアドネやディッツですら、フォウエンの現状からすればマシだったりする。
まず賢者の人となりの実態がマイナス方面に裏切られたことで戦闘不能。魔術の教えを請えば、賢者本人しか使わない前提なので難解過ぎてオーバーキル。これから制御不能の危険人物を王国に入れなければいけないので、胃に持続ダメージ。
ディッツは母親三人分人生否定ダメージを肩代わりできるが、フォウエンの母親は健全なことにひとりだけなので、魔導学園生徒会長の肩書きを巻き込んで無事KOされた。
魔導学園生徒会長を名乗るだけあり、フォウエンのプライドは人一倍高い。特に魔術に関しては、偉大な賢者の教えを理解できなかっただけでも三日は寝込みたくなった。
つまりは、ディッツ以上にメンタルケアが必要なのだが、この場に「魔術のスペシャリスト」の立場の存在は彼女だけ(賢者は遥か上空)なので、誰もかける言葉が思いつかない。
「ね、ねーちゃん、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないだろ、どう見ても」
「えーと、ほら、よしよし」
仕方なく、馬車の隅でうずくまるフォウエンの背中を、スラムから連れ出された面々がさすってやって、なんとか寄り添っている状況。
長々と描写したが、馬車の雰囲気は一行にまとめることができる。
「お通夜」である。