麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目) 作:がぱおら
魔導学園、なんて名前から、この外観を予想できる人はいないと思う。
大量に並んだ、壁の大砲。
櫓で周囲を監視しているゴーレム。
デカい時計とか、花壇いっぱいの中庭とか、そういう華々しい要素一切なし。
代わりに厩舎とか蔵とかいっぱい。
「本当に学校? どっちかっていうと、これ前線基地じゃない?」
「まさしく、前線基地なのです」
シャリアドネが説明してくれるようだ。ロッカちゃんと一緒に聞こう。
これカイツ、無関係って顔するな。
「邪剣との争いがはじまる前は、ここも夢と希望溢れる学園でした。大陸中から生徒が集まって、毎年優秀な魔術師を輩出し、各国へ帰っていく……王国の誇りだったんです」
「主要産業?」
「身も蓋もない言い方だと、そうとも言えますね。もともとここは、リーヴァスの森……賢者様の森です。強力な魔物の住処に近い場所で、魔力開発にはうってつけでした」
「魔力を貯め込むのも、鍛えるのも、便利な立地だね」
「しかし邪剣が現れ、各国の関係は悪化し、戦争がはじまり、学園から祖国へ次々と生徒が引き上げていきます。マルヴリアス王国は、王子ディッツ以外の次代候補が全滅するほどに追い詰められ、学園も何度も戦場となりました」
「へえ、じゃあ今のここはそのまんま、有事の際は城を守る城塞なんだ」
「その通りです。現在は、魔導学園としての体裁を取り繕い、未来へ歴史を繋ぐべく、聖剣によって認められた者が生徒扱いで待機しております。その数は十にも及びませんが……」
「壮絶なことで」
「じゃあ、フォウエンさんは、ここの責任者、ってことですか? セイトカイチョー、って役職はそういうものだって、賢者様言ってました」
ロッカちゃんが、魔導学園生徒会長フォウエンを指さす。
しかし、何故かシャリアドネは額を抑えて、ため息をついた。
「……十名もいない学園で、生徒会など組織する余裕はありません」
「えっ」
「フォウエンの『生徒会長』は自称です」
「えっ」
「ふふん! 賢者様、ようこそ! 私たちの麗しい学び舎へ!」
満面の笑顔で、実家でも紹介するかのように、誇らしげに城塞を示すフォウエンさん。
怖いよ。ホラーだよ。"鑑定"すら生徒会長と認識してたんだぞ。
知識欲旺盛な常識人枠だと思ってたら、生徒会長を名乗る不審者だったなんて。
王子、苦笑してないでなんとかしろ。
「俺の仲間は皆、フォウエンのこれを知ると、それとなく距離を取るようになるんです」
「それはそうだろ」
カイツのツッコミもごもっともである。
何を地元名物みたいな顔してんだ。微笑ましい要素無いだろ。
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ズウェッタは、眼鏡と三つ編みの特徴的な、いわゆる地味系女子である。
マキルダの行商に修行として同行していた頃、まだ王子になっていない時期のディッツ一行と出会った。
行商に見せかけてマルヴリアス王国に到着した頃、邪剣との戦いに巻き込まれ、マキルダ共々聖剣に選ばれてしまったズウェッタ。
ズウェッタの武器は弓。元々運動が得意ではなかったズウェッタには、近接武器等選びようがなかった。
戦力としても、聖剣に選ばれたとはいえ、商人見習いでしかなかったズウェッタは基本的にお荷物である。
故に、今回のような、少数精鋭による王子の遠征には、基本的に呼ばれない。
ズウェッタはその日も、夜遅くまで、魔導学園のトレーニングルームで、弓の練習をしていた。
何かしていないと、自分でもよくわからない焦燥感で叫びだしたくなるのだ。
トレーニングルームの案山子相手では、自分がどれほど上達したかなんてわからない。
ズウェッタはため息をつきながら、道具を片付ける。
「……なんで、わたしなんかに聖剣の加護が……」
一日に何度も口にする疑問。
その答えは、未だに出ない。
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その夜は、魔導学園に併設された寮には戻らず、気晴らしに街でも歩こう、と思い立った。
マルヴリアス王国は疲弊した国家。街並みもまた、度重なる戦闘で、修繕の手が追い付いていない。
そこかしこに倒壊寸前の家屋が残っている。更地になっているのはマシなほうだ。
そんなボロボロの国でも、残った住民は健気に生きている。
夜ともなれば、安酒くらいしかなくても酒場は開いているし、人々は集まって喧噪が生まれる。
ズウェッタはアルコールが好きだ。酔っている間は、自分の弱さを考えなくて良いから、聖剣に選ばれてから好きになった。
同じく聖剣に選ばれた狂戦士メデレーハースの音頭に乗せられ、ズウェッタは盛大に酔っぱらった。
寮に帰る途中で、ズウェッタはとある看板を見つけた。
『本日営業開始』
なんの店なのか、というのは、全く書いていない。
怪しさ満点ではあるが、この時のズウェッタは、べろんべろんに酔っぱらっているうえに、自暴自棄な部分があった。
「おや、いらっしゃい。お客さん一号だ」
ズウェッタを出迎えたのは、白衣の男。
店内には、何も置かれていなかった。
「……ここは、なんのお店なんですか?」
「うわ酒臭……おほん。多分エステサロン、かな?」
「エステサロン……」
「なりたい自分になる手伝いをするお店さ。何かお悩みのようだ、どうだい? 吐き出してみないか?」
「……わたしは……強くなりたいんです……」
「おお、それはそれは……まさしく当サロンの一番の得意分野だ! よしよし、詳しい話は地下で聞こう、施術道具は地下に置いてあるんだ……」
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ズウェッタの放った矢が、トレーニングルームの案山子を破壊した。
「すごいじゃねぇかよ、ズウェッタ! コツでも掴んだのか?」
狂戦士メデレーハースが満面の笑みで肩を組んできた。成長を喜んでくれる仲間がいて、ズウェッタは嬉しい。
「うん……強くなれたみたい」
半信半疑ではあったが、麻酔をかけられて、目が覚めた頃には、一変した身体能力を手に入れていた。
一射が重く、鋭く、ど真ん中を射抜く。
トレーニングルームの案山子を全て破壊し終えた時には、ズウェッタはすっかり上機嫌だった。
「ああ、ディッツさん。はやく会いたいな。強くなったんですよ、わたし……」
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「これは活力の壺。毎日活力を自動で貯め込んでくれるんです」
「この箱は生産箱! 欲しい素材を入力すると、時間はかかるけど代用になる素材を生産してくれるんですよ!」
「ああ、このテーブルですか? オシャレでしょう? 座ってお茶でも飲みましょうか?」
「賢者様! あの台座は何なんでしょうか!? なんか光ってますよ!」
「ロッカ、こいつも凄いぞ。餅つき道具だ。何十個も置いてある」
私は既視感の正体にやっと気づいた。
クリスマスツリーにもたれかかって、頭を抱える。
「……学園て……これ学園じゃないだろ……これはソシャゲの箱庭ルームだ!!」
「賢者様?」
思わず叫んだ。
この世界、ソシャゲだったのかよ。
まじか。
一阿僧祇年生きてきたけど、はじめて知ったわ。
しかもコーディネートとかろくにしない、イベント効果とかの為にアイテム設置しては片付けないタイプのプレイヤーの箱庭だ!!
「学園編はじまるかと思ったら、全然予想外の殴られ方したぞ……みんな馴染んでるし」
魔導学園まで来たのは、王子パーティと、私、私の補佐ロッカちゃん、ダブル主人公見習いカイツ。
他のスラムメンバーは、人材不足の王国に少しでも貢献して居場所を得ようとでもいうのか、貴族たちと城に残った。たくましいねぇ。
「いかがですか、賢者様! 私の自慢の魔導学園、楽しんでいますか!?」
「フォウエンさん、あんた目的忘れてない?」
自分の事を生徒会長だと思い込んでる異常者と判明したフォウエンには、なんか距離を置きたくて、さん付けしてしまうようになった。
一筋縄ではいかない場所だな、王国も。
「おおー、ディッツ! 帰ってたんだな!」
突然響いた大声。
見れば、ガチムチバキバキの姉御が、満面の笑みでディッツに抱き着いていた。
ディッツも涼しげに抱擁を返している。
「……お仲間さん?」
「狂戦士メデレーハースです。元は海賊に雇われていた野蛮人だったのですが、王子ディッツによって改心し、仲間になったとのこと。私より古参ですよ」
解説役のシャリアドネ、いつもありがとう。
「シャリアドネよりも? でも精鋭パーティ入りはしないんだ」
「武力は学園随一ですが、今回の遠征は純粋な武力を使う場面はないだろうと、留守番させました」
「……つまり、使いどころが難しい、と」
「用兵がシンプルなのは、悪いことばかりでもありません」
「それに、元気があって……」
新たな声に、私とシャリアドネは振り向いた。
三つ編み眼鏡の女の子がいた。
「わたしも、あれくらい元気になれたら……いいんですけど」
「ズウェッタ。キミにはキミの良さがある、思いつめることもないさ。紹介しましょう、彼女はズウェッタ、私たちの仲間で……」
「待て待て待て」
どんどん混乱する要素が増えていくぞ。
学園編は、私がツッコミをしないといけないのか!? 私はそんな面倒、御免被るぞ!
「ズウェッタちゃんとやら、邪剣持ちなのに味方なの?」
「え?」
「はい?」
「うん?」