麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目) 作:がぱおら
港街で逞しく育ったマルヴリアス王国の王子ディッツは、神の啓示に従って海を越え、故国に戻った。
無理やり着いてきた幼馴染テルナ、マルヴリアス聖騎士団副団長シャリアドネ、魔導学園生徒会長フォウエンと契約を結び、"成長と癒し"の聖剣の持ち主となったディッツは、邪剣に支配された周囲の国々と戦うことになった。
仲間を増やして契約し、時には神の啓示に従って裏の組織等とも戦い、マルヴリアス王国は平和を取り戻しつつある。
王子ディッツはそんなある日、城下街で占い師に出会い、神すらわからなかった、自身が海の向こうの港街にいた理由を訪ねた。
しばらく唸っていた占い師は王子ディッツに、
「リーヴァスの森に行け」
とだけ告げると、泡を吹いて意識を失った。
王子ディッツは占い師を城の医務室に運び込むと、直ぐ様現王のもとへ向かい、旅立ちたい旨を伝えた。
幸いにして邪剣の国々との戦も一段落しており、しばらくは防衛だけなら問題はないらしく、現王は快く王子ディッツのルーツを探る旅を許した。
現王としても、義姉にして前王妃の死に際を知ることで冥福を祈りたいと願っていたのだ。
かくして、王子ディッツは、身辺護衛として精鋭3人、幼馴染テルナ・聖騎士副団長シャリアドネ・魔導学園生徒会長フォウエンを伴い、"魔獣の楽園"リーヴァスの森へと出発した。
大陸を悩ませる魔獣が産まれたとされる地、リーヴァスの森。
魔力を使った異常な進化をする獣、魔獣。
その発祥の地へ。
……ロリババアは、魔法植物が食物連鎖の結果魔獣を産んで、大陸全体に環境問題を起こしていることを知らない。
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数多の魔獣達と戦いつつ、ディッツ達は森の奥へ奥へと進んでいった。
そして現在、ディッツは、二度も"幻覚"の魔法による妨害に遭い、リーヴァスの森深部の探索を断念していた。
「明らかにおかしいわ」
魔導学園生徒会長フォウエンは、断言した。
彼女は聖剣によって生まれたセーフゾーンに残り、初日にかけられた"幻覚"を解析していたのだ。
「おかしいとは、何が?」
ディッツはフォウエンの知識力が、魔導学園という枠に収まらないものだと知っている。
フォウエンが言うなら、それはおかしい魔法なのだろう。
「構造式が滅茶苦茶なのよ」
発動地点と詠唱地点の相対距離や、詠唱者の個人情報、力量等、あらゆるものが読み取れる、魔法の構造式。
人体に直接効果を発揮する魔法は、相手の体内で作用し続ける都合から、フォウエンのような魔法のエリートには容易く情報を抜かれてしまう。
「……読めないのではなく、滅茶苦茶?」
ディッツは不審に感じた。
魔法の達人同士の勝負で、構造式に工夫を凝らして逆探知を防ぐのは常套手段である。
基本的には、読むのに時間がかかるようにしたり、パスワードを設定して読めなくしたりする。
複雑化には相応の詠唱時間延長を伴うため、必殺の一撃等、その限りでない場合もあるが。
しかし、滅茶苦茶とは。
つまり、入力された情報の数々が、まともにディッツ達を攻撃できるような内容ではなく、本来魔法として機能しないハズなのだ。
「もう頭おかしくなっちゃう。位置を間違えているとか、性別設定の位置に人数が書き込まれてたりとかは序の口で、"幻覚"では使用しない破壊力は王都を三回粉々に出来る数値。こんな構造式の魔法、発動なんて絶対しないわ」
「でも、俺達は確かに"幻覚"を食らっていた。レジストのアクセサリは全部無事だったのに」
「でなけりゃ集団ヒステリーかしらね。あーもう、悔しいー! なんでこんな翻弄されてるのよ、子供の落書きみたいな構造式に私がぁー!」
フォウエンはそれなりにプライドが高い。
髪をぐしゃぐしゃ掻きむしって叫ぶフォウエンだったが、ディッツも彼女の気持ちは理解できた。
ディッツは育ちの関係で漁村の漁師レベルのプライドくらいしか持ち合わせていないが、邪剣の国々と戦い、確実に強くなっている自負がある。
マルヴリアス王国のトップ4とでも言うべきパーティが、抵抗も出来ずに拙い"幻覚"一発でまとめて返り討ち。
これから探索する深部は、今までの戦いとは格の違う存在を相手取らなければいけないのかもしれない。
ディッツの胸中には、不安と焦燥があった。
「……フォウエン、それにテルナ、シャリアドネ。撤退したほうがいいかもしれない」
思えば、この探索はもともと自分のわがままが発端だ。
何故自分が、海を越えた先の孤児院にいたのか?
何故、自分は多数の宝石と共に捨てられたのか?
そもそも、どうやって前王妃……母親は、追手を掻い潜り、海を越えたのか?
当時港街は全て敵国に占領されていたのに?
そして、海とは正反対のリーヴァスの森に手掛かりがあるとは、どういうことなのか?
疑問は尽きないが、結局のところディッツは生き延びて今、ここにいるのだ。
それで納得して帰ったほうがいいのかもしれない。
ディッツは"広域催眠"の効果がまだ抜けておらず、「帰らなくてはいけない」と考え始めていた。
「……ディッツ、でもさぁ」
「しかし王子様……」
テルナとシャリアドネは、ディッツの弱音に難色を示した。
「……あ、副隊長殿からどうぞ」
「副団長だ、いい加減覚えてくれ。……王子様、我々聖騎士団はあなたの幼少期にまつわる謎について、仮説を立てています」
「仮説?」
「あなたが孤児院前に捨てられていたとき、共に捨てられていた宝石……あれを魔導学園は『賢者の石に限りなく近づいたもの』と言いましたね」
「ああ、確かにそう聞いた」
ディッツの引き受け金として大半は売られた宝石のうち、いくつかは形見代わりにと残され、今ディッツの首からペンダントとして下げられている。
各種魔法に対する強力な抵抗力を持つ、強力なアイテムだ。
「我々は、前王妃様がこの森に逃げ込み、賢者様と出会い、王子を託した……そう考察しております」
「賢者?」
「ちょっとちょっと、賢者ってアレ? お伽噺の?」
「そうです。太古の遺跡に記された、全ての魔法の礎となったお方です。彼女が伝説の転移魔法を用いて、王子様を海の向こうへ運んだ……ロマンチックではありませんか?」
「ロマンっていうより、そんなの本気で信じてるの?」
フォウエンは呆れた声音を隠せていなかった。
シャリアドネは苦笑し、肩をすくめる。
「荒唐無稽と仰られますか? それでよいのです。魔導学園は実利と現実を見つめてくだされば良い。お伽噺への対処は我々にお任せくだされば」
「……まあ、そのくらい突飛な発想じゃないと、ディッツの謎は解けないのかもしれないけど……」
「でも、それと撤退を渋る理由の関係は?」
ディッツは話の先を促す。
「仮定として、賢者様は一度ディッツ様を助けてくださった。二度目の今は我々の耐性を貫く"幻覚"で警戒しておられる。まだディッツ様があの時助けた赤ん坊だと知らないから。正体を知れば、少なくとも敵対はしますまい」
「それ全部、あなたの妄想から出た説に則ってるわよね」
「まあなんにせよ、王国からそれほど離れていないリーヴァスの森に、ここまでの魔法の使い手がいるのは単純に脅威です。敵か味方か第三者か、正体くらいは掴んで帰らないと、今後この森をどう扱うかも決められません」
「ふぅん、騎士団も大変ねぇ。で、テルナは? 帰りたくないの?」
「ううん、帰りたい」
テルナの屈託のない返答に、ディッツ達はずっこけた。
「……あ、あのなぁ、テルナ」
「この状況で冗談言ってる場合じゃないのよ」
「あっ、違うの。帰りたいっていうのは、私の産まれた港街ね」
「……ほ、ホームシック? 今!? ホームシックなっちゃったの!?」
「だよね、タイミングがおかしいよね。この帰りたいって気持ち、絶対おかしい。魔法か何かだよ」
テルナはシャリアドネやフォウエンのような知識力は無いが、洞察力と勘には優れていた。
「ディッツ、その撤退したいって気持ちも多分それだよ!」
「……、あ、あー……フォウエン、そんな魔法あるのか?」
「……"催眠"は禁断指定されてるハズなんだけど……あるにはある、としか……」
「えっと、シャリアドネ? 帰りたいって気持ち、あるか?」
「騎士団は伝統的に"催眠"対策の訓練をしていますので……しかし、本当に禁断魔法を……?」
「……やっぱ賢者様なのかもしれないわね」
フォウエンの言葉を茶化す者はいなかった。
セーフゾーンに沈黙が落ちる。
「……もし、本当に賢者様がいて、俺を助けたのも賢者様なら……」
ディッツは聖剣の柄に、そっと手を添えた。
「王国を挙げてもてなして、感謝しなくちゃいけない。そして、世界の危機に対抗してもらうべく、契約をもちかけたい」
ディッツ達は、翌日早朝、三度リーヴァスの森深部の探索をはじめた。