麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目)   作:がぱおら

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四天王のロリ枠に哀しき過去……

エリーンという名は、アイオーが与えた名前である。

 

生まれつき邪剣に魅入られていた過去のエリーンは、被虐待児であった。

どこで邪剣を拾ったのかは覚えていない。物心ついた時には、既に持っていた。

不倫常習犯の母とギャンブル中毒の父によって、彼女の幼少期は破壊された。

最終的に奴隷として売られた。遊ぶ金欲しさか、借金返済かは知らない。

以降、彼女は両親のつけた名前を忘れた。

"技と裁縫"で脳をいじって、物理的に忘却したのだ。

 

いつも「力を示せ」と囁いてくる邪剣だが、奴隷になるまでの彼女の人生は被虐の連続であり、その声に対して応える余裕は彼女にはなかった。

一方で、力の使い方はよくわかっていた。産まれた時からずっと一緒だったのだから、当然だろう。

 

"技"は、学習効率を上げるパッシブスキル。

幼い彼女は「暴力に耐えること」をひたすら学習した。

"裁縫"は、魔力で針と糸を生成できるアクティブスキル。

彼女は、自身の肉体を邪剣で切開し、体内に邪剣を保管し、"裁縫"で身体を縫った。

痛みに耐える方法は、たっぷり学習していた。いや、当時の痛覚は麻痺していたかもしれない。

 

奴隷になってからは、彼女は商品となった。

皮肉にも、ある程度は暴力から逃れられた。

親による積極的な八つ当たりから、奴隷商の商品管理者からたまに行われる憂さ晴らしへと、頻度が減ったのだ。

彼女は何かに感謝した。神、という存在を知らなかったから、名も知らない何かに。

拙くか細い信仰は、邪神に届き、徐々に"技と裁縫"の刀身の黒を深くさせた。

 

そうして少しづつ邪剣の力を蓄えていた彼女の目の前に、ある日アイオーが現れた。

 

 

「……これを買いたい」

 

「へぇ、旦那。ガリガリのチビですが、そういうご趣味をお持ちで?」

 

「そういうお前は、奴隷商の癖に詮索趣味か?」

 

「あいや、こいつぁ失敬。ま、長持ちしそうにないんで、お安くしときやすよ」

 

 

あれよあれよという間に、彼女は買われた。

 

 

 

 

 

 

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まず与えられたものは名前。

エリーン、という名前に、深い意味や謂れは無い。

 

 

「お前は、普通の少女になるんだ。邪剣が支配した、新しい世界の、『普通』に」

 

 

アイオーに、社会常識や言葉や算数等々、様々な勉強を教えられた。

 

 

「ふふ、ゆっくり食べましょうね。よく噛んで……」

 

 

ナユリスに、穏やかに心身を癒してもらった。

 

 

「そうだ、そうやって身を守るんだ。お前は小さい、相手を油断させて勝て!」

 

 

ガンドラに、護身の域を超えた最高峰の剣術を学んだ。

 

 

「キヒヒ、お前ほんと筋がいいなァ。将棋って楽しいだろ? 明日はオセロでもやろうや……」

 

 

ポルシムに、遊びを楽しむコツを教えてもらった。

 

 

「うーむ、僕の技術をあっと言う間に飲み込んでしまったか。これは参謀として、うかうかしていられないな」

 

 

デンセルスに、"技と裁縫"の更なる応用を叩き込まれた。

 

 

「お、エリーンじゃねぇか」

 

「干し肉食うか?」

 

「餌付けするなってポルシムに怒られてたじゃねぇかお前」

 

 

『シャドウ』の皆に、温かい日々をもらった。

 

 

 

エリーンは幸せだった。

邪剣を使えば使う程、アイオーは喜んでくれた。

いつの間にか、奴隷の日々も、両親との思い出も、全て忘れていた。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

というのが、アイオーの語った、四天王のロリ枠の解説である。

えっ、これやばくない?

絶対復讐鬼化するでしょ、エリーンちゃん。

闇医者め、この生い立ちの子が本当に私に「わからせ」られると思ってたのか……?

 

 

「ふう……エリーン、よく待っていてくれた。偉いぞ……」

 

「アイオー……」

 

 

現在の飼い主であるアイオーくんの「待て」がやたらと効いているようで、今はまだエリーンちゃんは特に反抗の意思を見せていない。

今すぐにでも邪剣で私をイチョウ切りにしてやりたかろうに……。

 

 

「エリーン……今日から、お前は『普通の女の子』だ……。今までいっぱい勉強したよな……?」

 

「……う、うん。大丈夫、頑張る」

 

「よぉし……エリーンは本当にいい子だ。わからないことがあったら、あそこの……多分女の子に聞くんだ……」

 

 

多分ってなんだ、多分って。私はTS転生者じゃない。

 

 

「エリーン、あの人が、今日から一番偉い。俺より偉い……絶対に歯向かうな。頼むから、長生きして……くれ……」

 

 

アイオーが、ぽんぽんとエリーンちゃんの二の腕を叩いている。

"絶望と闇"の絶望のほうの効果が発動してるっぽい。物理的衝撃をメンタルダメージに加えるアレね。

応用技で、催眠術的な使い方をしているらしい。

精神に言葉を刻み付けている感じ。

 

死力を振り絞って、エリーンちゃんに言葉を託し、アイオーは私に視線を向けた。

 

 

「……後悔も未練もある。ひと思いにやってくれ」

 

 

そう言って目を閉じて、アイオーはそれきり動かなくなった。

あ、まだ死んでないよ。覚悟を決めただけ。

 

……うーむ。どうすっぺ……。

ここまで潔いと、エリーンちゃんの復讐物語がはじまりかねん。

現在進行形で王子くんのお話が進行していて、そこにカイツを滑り込ませて破綻させる作戦がはじまったばかり。

ここにきて、さらに外伝増やすつもり? 一年戦争でも目指すのか?

 

くくく……いいねぇ。

私をチーレム入りさせようとしてる運命なんて、ガンガンキャパオーバーさせてエタらせていこうぜ!

設定矛盾、ダイアグラム崩壊、時系列ブン投げ! 滅茶苦茶にしたれー!

群像劇にしちゃって、私もフェードアウトだ!!

 

ただしこのストーリー、私が復讐相手という一点が気に食わない。

なんとか、うーん、なんとか……! 私以外に責任を擦り付けるには……。

 

 

「……えーと、エリーンちゃん。はじめまして、私は森の奥でひとり暮らしをしているロリババアです」

 

「は、はじめまして……」

 

「突然ですが、悪いのは全て邪剣です。諸悪の根源は、邪剣を生み出した邪神です」

 

「え、じゃ、邪神……?」

 

「残念ながら、アイオーは手遅れな程邪神に操られてしまっているので、今からしょうがなーく殺します」

 

「……こ、殺す……? アイオーを?」

 

「はい、誠に遺憾でありますが、手の施しようがありません。邪神の支配は凄いんです」

 

「……その、邪神というのは」

 

「全人類の敵。私は最終的にそいつを殺す予定」

 

 

どうかなぁ。これで、私の殺人のしょうがなさはアピールできたろうか?

 

 

「邪神を殺すと邪剣は力を失う」

 

 

これは口から出まかせ。多分邪神を殺したところで、邪剣が料理包丁になるわけではない。邪剣はけっこう完成された構造のスタンドアローン端末なのだ。

でも、私の邪神殺害プランには、邪剣の全消滅が過程として組み込まれている。

つまりは、邪神が死ぬ時、邪剣は使えない状態になっているので、結果的には言葉通りになる。

 

 

「……え、エリーンの邪剣も……?」

 

「例外なく。残してほしい?」

 

「……」

 

「じゃあ後で、邪剣能力を残すための手続きしようか。その前に」

 

 

私はアイオーを指差した。

 

 

「エリーンちゃん、アイオーの介錯はあなたがやってあげるといい」

 

「……エリーンが、アイオーを……」

 

「私の殺し方は苦痛が大きいから。安らかに眠らせてあげて」

 

 

よし、この理屈でいこう!

私が殺すんじゃなくて、邪神という新しい敵と戦うための、ある種の試練であり儀式ということにする!

今までの家族と訣別しろ! 世界平和のために戦え!

 

 

「……アイオー、悪いことしたの?」

 

「した、いっぱいした。王国の牢屋に侵入したり、デンセルスが無免許で手術したり、デンセルスのせいでエリーンちゃんみたいに奴隷になった女の子がいたり」

 

「で、デンセルスが……!?」

 

「うむ。デンセルスが全身邪剣人間ということは知っているな? あれはもう手遅れオブ手遅れ。邪剣で悪行三昧だった」

 

「……。エリーンは、悪いことしてない、よ?」

 

「これからさせられるところだったんだよ、そこのアイオーに! ああ違う、正確には邪神によって操られたアイオーね! 今のアイオーは限りなく真人間だから! まともな精神のうちに送ってあげるんだ!」

 

「……賢者よ、あの世から名誉棄損の罪で呪わせてもらうからな」

 

 

アイオーの遺言は、何とも恐ろしい呪詛であった。

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