麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目)   作:がぱおら

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エリーン、怯える

エリーンからすれば、目の前の怪物は必死に見えた。

かの存在は、エリーンから恨まれることを極端に恐れているようだ。

いろいろと罪状をアイオー(というよりデンセルス)に擦り付けたり、かと思えばエリーンに怪しい飴を渡してきたり。

 

"技と裁縫"のおかげもあるが、エリーンは学習力が高い。

眼前の怪物に対し、有効打が存在しないことは、既に学習済である。

復讐を決意しようにも、「じゃあ不意打ちしてきた巨漢は無実って言う気かー!?」と逆ギレされたし、アイオーは必死に「抵抗するな」と伝えてきたし、あとデンセルスへの心証がちょっと悪くなったのも事実だし。

 

つまるところ、エリーンは賢者に対し、ガッチガチに恐怖しているのである。

奴隷として振る舞うべきかもしれない、と思い始めているくらいには、全力の白旗である。

心の挫け易さは、"技"の学習能力ブーストの最大の弱点だった。

 

 

「ちゃんと拝んだ? よし、毎年この時期には墓参りに来よう。カレンダーに丸つけるんだよ~」

 

 

それに。

アイオーの埋葬まで手伝ってくれて、巨大デンセルス像の小指の先を削って墓石を作って、墓碑銘まで刻んでくれた。

ダメ元で「他の仲間も埋めたい」と頼んだら、快く応じてくれた。デンセルスの"石化"まで解除して、遺体を掘り起こしてくれた。

長々とナユリスっぽくお祈りもしてみたら、終わるまで退屈した素振りもなく、ずっと待っていた。

 

 

(実は悪い人ではない、のかな……)

 

 

絆され始めているエリーンであるが、その実態がただのロリコンだとはまだ知らない。

というか、多分短期間に圧倒的暴力からの全力可愛がりの振れ幅で、精神が混乱している。

概ねストックホルム症候群だ。

 

賢者は復讐ざまぁを恐れているが、エリーンは既に腹を見せた犬であった。

 

 

「……賢者、さん。エリーン、邪神を倒したい。頑張る」

 

「おお~……なんでそんなに全面降伏なのかはわからんが、目標があるのは良いことだ、うん」

 

 

賢者の言い分を全部は信用していない。

エリーンの悪い両親は、邪神関係なく悪い人だった。

でも、目の前の怪物の機嫌を損ねないように生きるのは、目的の良し悪しよりも重要なことだ。

エリーンは天災に遭ったものと思って、完全に諦めていた。

 

 

「そんじゃ、まずはその邪剣を聖剣にしよう」

 

「……せ、聖剣て、王子ディッツの持ってる……?」

 

「いかにも。実は聖剣と邪剣、製造元が邪神か女神かの違いでしかないのだよ。聖剣は現状一本だけで、対邪剣の能力を突き詰めたものだから、なんとなく別種に見えるだけ」

 

「そうだったんだ……」

 

 

産まれた時から一緒だった邪剣を、まじまじと見つめる。

 

 

「そういうわけで、"神域"からの"高位召喚"!」

 

 

かと思えば、空間を清浄で神聖な雰囲気が支配した。

エリーンの邪剣が軋んでいる。ヒビ割れそうだ。

 

 

「あっ、え、あの」

 

 

話しかける余裕もないまま、今度は光の柱が生まれた。

荘厳たる存在が、柱の中から出てくるのが、肌でわかった。

 

 

「よっす、メガちゃん。そこの邪剣を聖剣にして」

 

「あ・な・た・とッ! いう人は~っ!!!」

 

 

というか、いかにも女神っぽい人がガチギレしていた。

 

 

「おおっと、なんだなんだ、取込み中だった?」

 

「突然ゴブリンが絶滅しました!! 貴女の仕業ですね!?」

 

「あ、うん。善行をすると気持ちいいよね~」

 

「何が善行ですか!? 確かに悪辣な種族でしたが、多産多死で食物連鎖を支える重要な存在なんですよ!!」

 

「えー、ほっといたらエロ同人みたいなことする連中だよ? 私の敵じゃん」

 

「貴女の敵だからって……あー、もう! "契約"なんで発動しなかったんですか!?」

 

「過去のゴブリンの遺伝子弄ったから」

 

「そういう! 抜け道を! 積極的に探さないでください!!」

 

「優秀なデバッガーでしょ?」

 

「悪質なチーターです!!!」

 

 

苦労人の女神様らしい。エリーンは学習した。

 

 

「それよりも急ぎなんだよ。あの邪剣の邪神成分を私が除去するから、メガちゃんは成分注入して」

 

「誰がメガちゃんですか!?」

 

「エリーンちゃん、こっちおいで。飴あげるから、ちょっと邪剣貸してね」

 

「え、えっと、飴はいらない……」

 

 

手招きされて、エリーンは邪剣を賢者に手渡した。

 

 

「……この子、すっかり怯えてるじゃあないですか。何したんですか?」

 

「悪の組織から救い出した」

 

「はいはい、そうですか。善行ですね善行」

 

「ほい、邪神汁吸ったよ」

 

「汁呼ばわりしないでください!」

 

 

ふたりがこちゃこちゃと邪剣を弄繰り回していると、次第に邪剣から黒い力が消えて、女神から感じる白い力に満たされた。

 

 

「上手にできました~。さんきゅーメガちゃん!」

 

「はぁぁ……二本目の聖剣なんて、作る予定なかったのに……。世界を混乱させる聖遺物が増えちゃった……」

 

「ほい、エリーンちゃんどうぞ」

 

「……あ、ありがとう……」

 

 

賢者に手渡された"技と裁縫"は、すっかり白く神聖なエナジーに満たされた聖剣と化していた。

 

 

「それでもう、邪神が死んでもエリーンちゃんは聖剣で暴れられるよ! おめでとう!」

 

「暴れさせないでください!!!」

 

「え、あ、大事にする。暴れない」

 

「そう、それでいいんです。まったく、若作りが散歩してる間に、マルヴリアス王国は大変なんですよ。地下牢に凄まじい数の魔法が撃ち込まれて……」

 

「はいはい、話は100年後ね~。エリーンちゃん、それじゃあ王国に帰ろう」

 

「聞き流すんじゃありません! それが狼煙だったみたいで、それからすぐ夜襲があって、ハリッシア神国から正式に宣戦布告されて、今は城中大騒ぎなんですよ!!!」

 

「は? 何? 夜襲? 地下牢の魔法が合図?」

 

「そうです!! 幸い、王子達が街中で交戦して撃退しましたが、今は大軍がマルヴリアス王国に向かって進行中です!!」

 

「あ、よかった城内には入ってないんだ。ロッカちゃん無事ならなんでもいいよ」

 

「あ~もう本当に貴女という人はっ!!」

 

「でも念のため急ぐか。情報どうも女神様。エリーンちゃん、"転移"するよ~」

 

「あ、うん」

 

 

何もかもが置いてけぼりのまま、エリーンは賢者と共に"転移"した。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

「セベレルデ様は脱出されておられないのか……!?」

 

 

ハリッシア神国の密偵は、マルヴリアス王国城内への潜入に成功していた。

彼に課せられた密命は、「合図を出したにも関わらず、姿を見せないセベレルデの救出」。

 

セベレルデとは、ハリッシア神国の邪剣所持者のひとりである。

邪剣で増幅された膂力により、将軍の地位に登り詰めた。

 

紆余曲折あって、一軍を率いてディッツと戦い、敗れて捕虜となった。

現在は、邪剣から離されて、地下牢に閉じ込められている。

ディッツ達からすれば、魔術も駆使する強敵ではあったが、命を取る程の外道でもなかった。

故に、邪剣の支配からの脱却のため、地下牢にてデトックス中である。

 

昨夜、その地下牢から、ハリッシア神国で伝統的に「進軍の狼煙」として使われている魔術の反応があった。

これは、賢者が残した呪文の中でも一際使い道が限定的かつハリッシア神国だけがなんとか再現できたものを、別の用途で使っていただけである。

たまたま「限定的な状況に当てはまった」ため、賢者が大量に発動した魔法の中に「進軍の狼煙」が含まれてしまったのだ。

 

この魔術反応を、ハリッシア神国は「捕らえられたセベレルデの内応の目途が立った」と勘違い。

好機とは見たものの、急な反応だったので、即座に集められたのは邪剣所持者含む精鋭100人、密偵10人、魔術要因30人。

夜も暗いうちに真っ先に出立し、馬も魔術師も使い潰す覚悟で身体強化等を重ね掛けしてガンガン進軍した。

密偵が真っ先に侵入したものの、こちらも急な魔術の反応で飛び起きていたディッツ達と遭遇し、交戦。

 

ディッツ達の決着が着く頃には精鋭100人が到着。

王国を攻めるための陣地を作りつつ、弓矢や魔術で散発的に攻撃をしかけている。

 

拙速な動きになろうとも急いで行動する程度には、セベレルデ将軍はハリッシア神国に無くてはならない人材であり、同時に「行動に意味と説得力が伴っている」人物であった。

動いた以上、マルヴリアス王国を落とす算段は整っているに違いなかった。

 

ロリババアの過剰な保険魔法で、無関係の藪がつつかれたわけだ。

 

今はまだ、マルヴリアス王国も攻撃を迎え撃つべく、大慌てで戦の準備を進めている最中。

これから1000、10000、もしかしたら100000まで、王国攻めの兵員は増えていくだろう。ハリッシア神国では、今この瞬間も徴兵と編成作業が急ピッチで続いている。

それまでに密偵は、合図以降音沙汰のないセベレルデと早急に合流し、本陣に帰らなくてはいけない。

あるいは、こうして密偵が城内を静かに探し回っていることも、セベレルデの策なのだろうか?

 

 

尚、セベレルデ本人は、牢屋で二度寝している。

準備なんて何もしていないし、城が騒がしいことにも気づいていない。

賢者が地下牢全体に"睡魔"の魔法をかけたので、他の囚人同様、正午過ぎまでは夢の中なのが確定している。

真っ先に地下牢を確認しに来たシャリアドネを困惑させるほどのデカいイビキであった。

 

 

マルヴリアス王国とハリッシア神国が、同時に叩き込まれた非日常。

謎の魔術反応、突然の宣戦布告、鍵となる重要人物の無言。

そして。

 

 

「む」

 

「あっ」

 

 

浮遊する大きな斧に、目を覚まさない賢者を乗せて、城内の医務室を目指していたロッカ。

賢者はまだ、『シャドウ』でエリーンや女神と会話中である。

意識を幽体離脱させているから、賢者本体は眠ったまま。

 

怪しい少女達と、怪しい斧と、怪しい密偵。

三者が遭遇する。

 

慌ただしい朝を迎えたマルヴリアス王国の、歴史に残る短い一日が、ここから始まる。




別件で集中したい事柄ができました。しばらく忙しくなるので、更新は休みます。
次の更新は26日です。
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