麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目) 作:がぱおら
「け、賢者様! と、お連れの方はいったい……?」
地下牢に到着すると、女騎士シャリアドネの指揮の下、厳重な警備が敷かれていた。
「囚人に用事があるんだけど、誰だっけ……せ、せね、せれれ……」
「……セベレルデ様、だ」
「『様』? 何者だ、貴様は。いや待て、貴様、両腕が無いが」
「こいつは侵入者。尋問したら、せら、しべべ、で……」
「セベレルデ、です賢者様」
「ありがとうロッカちゃん。この野郎がそいつを脱獄させたいらしくって」
「い、いや、俺は単にセベレルデ様に接触できれば、あとはセベレルデ様から指示が」
「文句言える立場とでも思っているのか!? 今度はまつ毛全部引っこ抜くぞ!!」
「…………はぁ~……」
シャリアドネが額を抑えて、首を振った。
お疲れ様っすね。
「賢者様、セベレルデという男は、現在我が国に宣戦布告を仕掛けてきているハリッシア神国の重鎮であり、捕虜です」
「ふむふむ」
「昨夜、地下牢から魔術反応がありました。それに呼応するかのように、ハリッシア神国が攻めてきたのです。セベレルデの身柄は注視せねばなりません」
「魔術反応……? わからんけど、多分それ私がやったんじゃないかな」
「えっ」
「えっ」
あらら、もしかして知らぬ間に藪蛇つついてた?
いや予想して回避しろって言われても無理でしょ。
隠密野郎とシャリアドネに、昨夜発生した最終決戦について解説せねばなるまい。
「今、地下牢に闇医者いないでしょ?」
「え、ええ、脱獄の痕跡もなく、捜索中で……まさか」
「闇医者に仲間がいて、そいつを魔法で待ち伏せて、本拠地まで案内させて、潰してきた。闇医者は死んだ。この新たなるロリはそこで仲間になった」
「え、エリーンです。よ、よろしく……?」
控え目に自己紹介するエリーンちゃんかわいいねぇ。飴あげる。
「飴は、要らないってば……」
「賢者様、ひょっとして寝不足じゃないですか?」
「ご心配ありがとうロッカちゃん。実は私、睡眠が不要な身体なんだ」
「すごいですねぇ」
「あ~……闇医者の事情は把握しました。しましたが……セベレルデについては別の話です」
「私が昨晩、罠と保険にたくさん使った魔法のひとつが、こいつらの使ってるものとたまたま合致したんじゃないかな? 使い道少ないから別の用途として口伝されてきたとか」
「そんな、偶然にしては出来過ぎかと思いますが……」
「魔法を一気に何万と使ったから、たまたま合致したというのは違うかも。多分、私の魔法の中にこいつらのが含まれていただけ」
「な、何万……。それが事実ならば、いやしかし被る確率というのも、そう多くはないのでは……」
「多くなくても、可能性があるなら起こるんだよ。ディッツは主人公なんだぞ」
私が潰したラスボス関連イベントの穴埋めに、運命力が奮闘したのだろう。
……運命力。
コイツとは、戦おうとしてはいけない。
最強でも勝てない敵とか、そういう話ではない。
性善説とか、公正世界仮説とか、「人が生きた話を語られる理由」に近い。
逆算なのだ。
漠然と「正義に勝ってほしい」と願う人類に、今回の私の外出が語り継がれるならば、それは刺激的でなくてはいけない。
運命力とは、負かして切り拓く対象ではない。むしろ正義に味方する、気のいい隣人だ。
ノリに合わせて、ほどほどに付き合えば、最終的には良い感じに万事丸く収まる、その場の雰囲気そのもの。
悪いヤツではない。まあ、そういう「空気」に付き合うのが嫌だから、私は引きこもっているとも言える。メタな存在なんだよ、運命力は。
「私はラスボスを殺したんだから、ディッツに急いで山場を用意してやろうとするのは、運命力からすれば当然なんだよ」
「はぁ。運命力、とやらが、私にはよくわかりませんが……」
「一那由他年生きてるとわかるよ。つまりは、悪いことするとバチが当たるってことさ」
「……それで、その運命力とやらに、セベレルデがどう関わってくるのですか?」
「強くて偉い武将なんでしょ? そっちがラスボスでも、まあまとまるっしょ」
王子くんとも戦って因縁あるみたいだし、アイオーよりかは盛り上がるんじゃないかな?
ちょっと打ち切りエンド気味だけど、なんとかなるっしょ。
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セベレルデは、あんまりラスボスっぽくなかった。
鍛えてはいるけど巨漢ではなく、イケメンと呼べるほどの顔でもなく、知恵は回るが組織のトップをやるメンタルではない。
文武両道なんて評されていたが、私から見れば器用貧乏。パッとしない。
ま、どうせ戦うのは私ではない。なんでもよかろう。
「シャリアドネ。今からコイツを脱獄させて、国に帰す」
「賢者様、あなたの考えはおそらく私には理解できていません。納得がいく説明をお願いします」
「事情は言ってもわかんないと思うけど、これから起こることは説明するよ。王国にも悪い話じゃない」
「と、言いますと」
「コイツを脱獄させる代わりに、宣戦布告してきた……ハリッシア神国? を、私自ら滅ぼしてくる」
「……ああ、本当に、申し訳ないのですが……わざわざ敵将を逃がしてから、国を滅ぼすのですか? 二度手間にしか見えないのですが」
「いいじゃんか、王子が最終的にコイツ殺せば丸く収まるんだよぉ」
「賢者様」
ロッカちゃんが割って入ってきた。
この子は本当に偉くて賢い。いろんな視点から物事を見て、助言してくれる。
「なんだい、ロッカちゃん?」
「あたし達にも、きっと賢者様の考えは理解できないと思います。それを利用されてはどうでしょうか」
「利用? 何を?」
「理解できない次元のお話、ということを、です」
ふぅむ、どういう理屈をつける気だろう?
「賢者様は、あたし達からすれば、おとぎ話の英雄です」
「不本意ながら、そうみたいだね」
「なので、ただ王子様に命じれば良いのです。『試練を与える、乗り越えてみせよ』と」
「え、そんなパワハラな真似していいの……?」
「後世の人は、勝手に賢者様の行動にご立派な理由を見出してくれます。賢者様を止められる存在はいません。あたし達は、賢者様の道筋をただ辿るのみです」
……なるほど。
つまり、私は制御不可能なんだから、他人を納得させる必要は無い、と。
いや本当にそうかなぁ???
「不安ですか、賢者様?」
「超不安だよ、そのプラン! 難関クエストには相応の報酬が必要だと思う! 私はそんなもん用意したくない! 面倒だから!」
「であらば、『既にあるが、まだない』ものを、試練の報酬にしましょう」
「??? ロッカちゃん、本格的に軍師に覚醒しちゃった……?」
「『王位』と『邪剣の根絶』です」
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宣戦布告で揺れるマルヴリアス王国。
王の間にて、生徒会長フォウエンは跪いていた。
「賢者様は、孤独を望んでいます。王国式の歓待のいずれもが、賢者の流儀では不作法となるのです」
やっていることは、国王の必死の説得。
この戦に負ければ、何もかもを失う、ということを、全力で説いていた。
「マルヴリアス王国は、リーヴァスの森への不可侵の盟約のためだけに、国を総動員した総力戦をせねばなりません。今すぐにでも、です」
「むうう……最早戦力の逐次投入となろうとも、早急に迎え撃たねば、賢者の怒りを買うか……」
「怒りというのも優しい表現となる、地獄が顕現します。大陸の命を全て奪い尽くさねば止まりますまい」
「そこまですると申すか。あの賢者殿が……」
「私は、夜通し文献や古書を読み返し、確信を得ました。人の姿をしていて会話ができますが、我々の政治の俎上には決して収まりません」
「むうぅ……」
「国王様、私としてもフォウエンめの危惧はもっともです。火急を要するかと」
宰相もフォウエンの説得に力を貸す。
「確かに、ハリッシア神国の宣戦布告の意味は測りかねます。しかし、賢者様の脅威はハリッシア神国よりも遥かに上です。この身を以て断言致しますぞ!」
「……祖国を失った人のセリフは重いね~」
テルナが呑気に呟いて、ディッツが肘で突いて黙らせた。
「しかし……しかしだなぁ……なんというか、ひとりの人間の為に国がひとつ折れなければいけないという事態に、どうしても理不尽さを感じてしまってなぁ……」
「国王様……」
「玉座とは、我々が思うよりもはるかに、天からは遠かったのだろう。目的もわからぬ戦争の幕開け、か……」
王の間は重苦しい沈黙に包まれた。
敵国の重鎮を脱獄させた賢者一行が、道に迷った末に王の間に現れるまで、あと15分。