麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目) 作:がぱおら
まだプロット範囲なので今話には反映されていませんが、翌々話以後徐々に起動修正します。
ディッツ達が翌日、探索をはじめてすぐ。
全員が、強大な気配の接近を感じた。
四人は瞬時に警戒態勢を取った。
「……ッ!」
「凄まじい悪寒……!?」
「なんか来るよ、ディッツ!」
ディッツは聖剣を抜き放った。
テルナは槍を、シャリアドネは盾とメイスを、フォウエンは魔銃を。
それぞれの武器を構え、背中合わせに固まり、奇襲に備える。
「"幻覚"は!?」
「今のところかけられてはいないわ、でも警戒して!」
ざわざわと木々が揺れ、森が唸っているようだ。
時間にして5分程度、ディッツ達は息を潜め、周囲に警戒していた。
しかし、何も起こらない。
"幻覚"を警戒し、移動もしていない。
何も起こらない。
依然として、強大な存在がすぐ側にいる時特有の、息が詰まる感覚だけがある。
「……上」
テルナが、呟くように言った。
三人は弾かれたように上空を見上げる。
いつの間にか木々が拓けて、空が見えていた。
空に浮かぶ人影があった。
ぶかぶかのローブに身を包み、顔はフードに隠れて見えない。
身長は低そうだ。小さな手に、巨大な杖を握っている。
「侵入者、何者」
小さく、澄んだ声が降ってきた。
息を詰めていなければ、聞き逃していたかもしれない。
「……何者」
声に僅かな苛立ちが混じった。
ディッツは反射的に声を張り上げた。
「ま、マルヴリアス王国の王子ディッツ!」
「王子様?」
「さ、様って程でもない……け、ど……」
声は幼く聞こえる。
ひょっとして、子供なのかもしれない。
「用件」
子供の声は、必要以上の言葉を紡がない。
「お、俺は、この森に」
ディッツは少しだけ考える。
自分は何をしに来たのか?
「い、命の恩人を探しに来た!」
微かに、だけど確実に覚えている。
まだ自意識すらぼんやりしていた頃、何かに抱かれて空を飛んだ記憶。
あの時助けられた礼がしたかった。
「……???」
上空の人影は、首を傾げている。
「……王子様の、恩人? 森に? 妄想癖?」
ディッツに向けられる視線に、哀れみが混じった気がした。
「も、妄想じゃない! 多分……占い師が、この森に手掛かりがあると言っていた!」
「占い師の妄言。迷惑、廃業しろ」
人影は想像以上に口が悪かった。
「あ、あなたは伝説に記された賢者様ではありませんか!?」
シャリアドネが、我慢しきれず聞いた。
「で、伝説……? そっちの騎士さん、夢見がち?」
「え、あ、ち、違うのですか!?」
「うあー、声張り上げるな! 五月蝿い! 今降りる!!」
人影が癇癪を起こした瞬間、姿が消えた。
次の瞬間には、人影はディッツ達のすぐ近く、地上にいた。
移動の瞬間が見えた者は、ディッツ一行の中にはいなかった。
「て、"転移"……!」
フォウエンが絶句している。
ディッツもまた、人影が想像以上に小さかったことに動揺していた。
身長からして子供。ディッツ達の半分もない背丈。
「……で? 恩人も、賢者様も、森にはいない。他に用件は?」
めんどくさそうに、人影が喋った。
「え、その、十五年前に、この近辺で、女性を……見かけ、たり……」
ディッツが熟考せず口を開いたが、どう見ても十五年前にこの子供が産まれていたとは思えない。
ディッツの声は尻すぼみになった。
「……聞きたいことあるんならハッキリ喋れ」
「あ、あのっ!」
苛立ちを隠そうともしない人影に、フォウエンが口を挟む。
「さ、先程あなたが使ったのは、"転移"ですか!?」
「何、"転移"使いたくて来たの? こんなとこに?」
「い、いえ、そのために来た訳ではありませんが……」
「ついで程度の世間話はやめろ。本当の目的は何。30秒で済ませろ」
「えっ、あっ、す、すみませ……ひっ!?」
フォウエンが何か気に障ったことを言ったのか、それとももともと我慢の限界だったのか。
子供から規格外の魔力反応を感じた。
この子から、会話をしようという意志を全く感じられない。
自分達が邪魔でしかないようだ。
「き、気分を害してしまったなら、すまない」
「ホントだよ、連日侵入してきやがって。二度と来るな」
子供の対応はにべもない。
「ほらほら、やることやって未練残すな。まだ終わってないとか言ってお礼参りに来ようもんなら全員殺す」
「……」
まるで歩み寄りを感じられないが、それでも魔力を制御している。感情任せですぐに戦おう、とは考えていないらしい。
ディッツは考える。
"転移"を使い、今規格外の魔力量で脅してきている子供。
なるほど、この子供は賢者本人か、その弟子だろうか。
弟子にしては、賢者くらいしか使えそうにない"転移"に対して、特に感情を感じられなかった。
フォウエンが「教えて欲しくて来た」と言えば、あっさり教えてくれたかも知れない程度には、"転移"という偉業に思い入れが見られない。
つまり、この子供は賢者本人だ。
本人なら、「自分は賢者と呼ばれている」なんて知らなくても不自然ではない、かもしれない。
お伽噺になるくらいには人前に出ていない様子だから。
「あの! ディッツは港街で育ったんです! 宝石と一緒に、漁村に捨てられて!」
テルナが食い下がった。
漁村という言葉でようやく何かに思い至ったのか、賢者が溜めていた魔力が霧散した。
「……漁村に? 宝石と?」
「ディッツはお礼が言いたくて来たんです! それだけなんです!」
「あー? ……そうか! お前あの時の赤ん坊!」
ようやくだ。
ようやく、会話の糸口を掴めた。
きっと賢者は、ディッツの血筋を知らずに助けたのだ。
だから、「王子様」という先入観で、知らないと判断したのだろう。
テルナは時々、正解に一足飛びで辿り着くことがある。
今回も助かった。
「まだ赤ん坊だったから、詳しくは覚えていません。でも、優しく抱かれて、空を駆けた記憶があります。あの時、助けてくれたと、お礼が言いたかったんです。ありがとうございました」
ディッツは一息に喋りきった。
「……あ、うん。どういたしまして。寿司食った?」
「え、す、寿司ですか。王国だと鮮魚は高級品なので、最近はなかなか食べる機会がなくて」
「そっか。なんで漁師じゃなくて王子やってんの?」
「神様が啓示をくださったんです。故国の存亡の危機だと。だから、海を渡って、国を取り戻して……」
「ふーん。漁師やってたほうが絶対良かったのに」
「王子というのも、悪くないですよ。こうして仲間も出来て、皆の為に戦えて」
「生粋の王様か。てか、ハーレム引き連れて喧嘩売ってんのかって思った」
「は、ハーレムぅ!?」
「け、賢者様! それは勘違いです!」
「ディッツとはそういうんじゃなくって、幼馴染で!」
「私がこのぬぼーっとした男のハーレムですって!?」
「一斉に喋るな! 五月蝿い五月蝿い!」
ディッツは思った。
どうやら賢者は、王族にあまり良い感情を持っていないらしい。
漁師をやっていればよかったのに、とまで言い切ったのだ。
確かに、いいコトばかりではない。
港街の平民育ちには難しい話も多々ある。
しかし、王子に返り咲き、活動する中で、達成感も確かにあった。
今の時代、少なくともマルヴリアス王国は、賢者が悪感情を持つようになった王国とは違うハズだ。
それを知ってほしい、誤解を解きたい。
フォウエンも魔法を教えて欲しがっている。
何より、今は戦力がいくらでも必要だ。
ディッツは欲を出してしまった。
「賢者様、一度王国に来られませんか。寿司はありませんが、精一杯もてなしますよ」
「え、嫌」
即答された。
ディッツはめげない。
「……こ、好物など、お聞きしても?」
「自分で育てた野菜」
「ご趣味は? 例えば、読書とか」
「私はこの森で暮らしてるけど、ここにデカい図書館があるように見える? 趣味は自己研鑽」
「…………その、お礼がしたいんです。マルヴリアス王国が良いとこだって知ってほしくて……」
「気持ちだけで結構」
「……今、周りの国々は邪剣に支配されています。邪剣達の意志は国を操り、世界を支配しようとしているんです」
「人斬り包丁風情に乗っ取られるようなら、その程度の国だったってことじゃない?」
「世界の危機なんです。この森も」
「いっちょ前に脅しのつもり?」
賢者に再び魔力が集まった。
収束させる速度すら認識できなかった。
「お前は、私に感謝したかったのか、脅したかったのか、ハーレムに新しい戦力が欲しかったのか。どうなんだ? ん?」
「……助けてくださり、ありがとうございました」
「それで良し。漁師なんだから他人の機嫌模様くらい読めよ、天気が大事な仕事だろうに」
「無茶言わないでください……」
これ以上の問答は不可能だろう。
ディッツは最後に、ダメ元で言ってみた。
「賢者様。俺と契約してくれませんか」
「二度とその口開くな。次来たら全力で畑の肥料にするから、もう来ないように。あばよ」
ディッツ達四人は、次の瞬間には森の外にいた。
"転移"させられたのだろう。
「……凄い人だった」
ディッツは噛み締めるように呟いた。
「きっと、王国どころか……邪剣の国々すら、束になっても敵わないんだろうな」
賢者から見れば、国同士の争い等、全て等しく瑣末事なのかもしれない。
いかなる戦乱も、賢者にそよ風程度の被害も加えられないだろう。
フォウエンは魔法の扱いの手際に打ちのめされ、才能でも努力でも越えられない壁に絶望していた。
シャリアドネは、賢者の実態を知り、険しい表情をしている。王国では御せない、としか報告出来ないので、気が重いのだろう。
そしてテルナは、ディッツの手をとって、無邪気に言った。
「お腹空いたし、帰ろ」
そういえば、母の墓の場所くらい聞きたかったな。
ディッツは今更、それを思い出した。