麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す(涙目) 作:がぱおら
邪神ラバベリルは、目を開けた。
神体である以上、目を開ける、という行為には神的な意味合いが付与される。
神とは、身じろぎだけで世界に影響を与える存在なのだ。
ラバベリルの行いは、世界を観測する上位者が増えたことを意味した。
ラバベリルは、魔法技術中心の世界に潜伏していた、追われる立場の神であり、この行動には大きなリスクが伴う。
世界を管理している神々に、いわゆる「ログイン通知」が届いてしまうのだ。
それでも彼は、目を開けざるを得なかった。
(……呼ばれている、だと)
邪剣所持者達の信仰では、邪神の呼び出しは叶わない。
間に邪剣を挟んでいるため、邪神の名が漏れない仕組みだ。
これは、明確にラバベリル個神を狙った、召喚の前触れ。
(誰ぞ、並外れた信仰心の持ち主が邪剣を得たか?)
召喚に応じるかどうか、ラバベリルは悩む。
潜伏しているのに、軽々しく顕現しては台無しだ。
しかして、邪神を呼びつけようとしている者には、興味が湧く。
それがどのような代償を払うことになるのか、きっと理解していないのだ。
ラバベリルは、無意識ににやりと笑った。
(良い。面を拝んでくれよう)
まずは、生意気にも願ってしまった不幸な存在を、確認すべし。
目を開けたのは、己の享楽を第一とする邪神故、避けられぬ行動であった。
(これで神々に見つかるのも一興よ。迎え撃ち、また別の世界で眠るとしよう……、む?)
そこでラバベリルは気づいた。
いつの間にか、召喚の呼び出しが途切れていた。
中断されたのか、はたまた怖気づいたか。
(……ふん。興醒めよ)
ラバベリルは鼻を鳴らして、また目を閉じた。
……ラバベリルは、神々を何万と殺害し、数多の世界を崩壊させてきた、最恐の邪神である。
神界では指名手配され、命を常に狙われている。
それでも、彼の邪神は悠然と、目を瞑り微睡む。
あらゆる敵を、目を閉じたままに返り討ちにできる自信と、恥じぬ実力があるのだ。
今の「ログイン通知」に、世界を管理する神々が慌てふためく姿を思い浮かべ、ラバベリルは薄く笑む。
「ッ!!」
そしてラバベリルは、今度こそ目をカッ開き、大きく飛び退った。
それだけではない、左腕に邪気を込め、追いかけてきた「なにか」を殴りつけた。
「ぐっ!?」
「なにか」は、魔法による火炎であった。
一瞬で炭化し、崩れ散った片腕を抑え、ラバベリルは更に「何者か」から距離を取る。
誰かが、邪神の眠る神域に侵入してきていた。
それだけではない、ラバベリルに先手を打ち、有効打を加えた。
「……おのれ! 何奴!!」
ラバベリルの下半身が、わさぁっと枝分かれして、無数の触手になる。
一本一本が致命的な邪気をまとった触手が、侵入者へ襲い掛かった。
「"盾"」
ようやく聞けた、侵入者の声。
幼い人間の少女の声だ。
簡素な言葉とあどけない声からは結び付かない、強い手応えが、触手から伝わった。
効いていない。
この時点でラバベリルは、遊びを捨てた全力での闘争を選んだ。
様子見や遊興で相手取れる存在ではない、ラバベリルにとっての「なにものか」。
高位の邪神ともなれば、不意をつくことなど本来不可能なのだ。危機察知能力や、予知能力等の様々な加護が、不意打ちを許さない。
ラバベリルは、万全の状態から、ダメージを負い、反撃を防がれた。
「くっ……!」
ラバベリルは、決して無能な神ではない。
格上の存在相手に、躊躇なく逃げを選べるくらいには、知恵も回る。
ラバベリルは空間に穴を開けるべく、邪気を操作する。
その邪気が、断ち斬られた。
「!?」
邪神の持つ、神としての権能の力場、それが邪気。
それを切断された経験等、ラバベリルには存在しない。否、大半の神にとって、邪気の切断なんて選択肢にも上らない。
不可視のエネルギーを斬る等、不可能なのだ。
侵入者の周囲に、邪気を感じた。
ラバベリルの邪気とほぼ同じ……いや、完全に同一の邪気。
「……何者だ」
見せびらかすように邪気を操作していることから、誰何の予知があると判断したラバベリルは、問うた。
「フフフ……知りたい?」
ぶかぶかのローブをまとった少女が、万を越えた邪剣を浮遊させていた。
邪気の正体は、邪神が世界に放った邪剣であった。
それが何故か、この空間に「全て」集まっていた。
ラバベリルからは操作できない。命令を送っても、受け付けない。
「私は、世界最強のロリババアだ。私の異世界スローライフを邪魔する奴は全員殺す。邪神も例外なく」
無数の邪剣が、ラバベリルの周囲を飛び交う。
触手を切り裂き、ラバベリルの神体を傷つけ、練ろうとした邪気はすぐさま撹拌される。
邪剣が、ラバベリルの邪気と限りなく同一であるが故に、ノイズとなっているのだ。
腹立たしいことに、同一であるにも関わらず、ラバベリルからの操作はできない。
少女が、邪気を巧みに操っている証左である。
ラバベリルは、少女が戦闘力において遥か格上の存在であることを悟った。
「お前は私の楽しい農家生活を邪魔した。よって死刑! 自分の産んだナマクラ達によってミンチになる刑だ!!」
しかも、手加減されている。
本来は一撃で死ぬところを、わざわざ「邪剣で攻撃する」と縛っているらしい。神の身体を炭化させた炎の攻撃を、初撃以降全く使ってこない。
手加減されているのに、ラバベリルは防戦一方で、しかも防ぎきれず傷を負っている。
「ぐ、ぬううぅぅ!! お、おのれ、ネキヤエルの派閥に貴様のような武闘派がいたなど、聞いていない……!!」
「あ、そうそう、お前に依頼した神様は既にお陀仏だ。首をやるよ」
「は?」
ぽい、と何かが投げられた。
空を舞う、依頼主たる異世界の神の首。
何かに絶望したように、絶叫した表情のままの、生首。
「言っただろう、私の麗しの世捨てロリババア生活を邪魔する奴は全員殺す、って。異世界の神様だろうが、関係はない」
神の生首が、空中で邪剣によって切り刻まれた。
わざわざ、ラバベリルに見せつけるためだけに、異世界の神域まで飛んで、首を刎ねてきた。
その事実が、眼前の少女が、戦闘力だけでなく執念も並外れていることを、ラバベリルに思い知らせてくる。
逃げ場はないが、逃げても無駄なのだ、と。
「こ、こんなことが……何万もの神々を殺した、このラバベリルの最期が、こんな不意打ちから、嬲るように……ッ!!」
「何万程度でイキってちゃイカンよ。一那由多歳のロリババアからの、老婆心ってヤツね」
「い、いちなッ」
ラバベリルは約五百億年生きた邪神である。
あったが、まさかこの。
「き、貴様、に、人間なのか、それで!? その力で!?」
ラバベリルは、ようやく気付いた。
眼前の敵が、ただの人間であることに。
「そして、トドメを刺すのは私ではないッ!! メガちゃんカモン!!」
「──本当になんなんですか、なれなれしいッ!!」
少女の背後の空間が歪み、神聖なる存在が現れる。
世界の管理者たる女神だ。
邪気を祓い消滅させる、神気の波動を放とうとしている!!
「メガちゃんビーム!!」
「撃つのは私!!」
なんかキレながら放たれた、神気の波動は。
(……く、ククク、詰めが甘いッ!!)
ラバベリルを消滅させるには力不足であった。
所詮は管理役の女神、闘争には長けていない!
「ぬおおぉぉぁあああっ!!」
その場に磔にするように、ラバベリルの全身に邪剣が突き刺さり、邪気を乱してくるが。
わざわざ邪気で受けずとも、この程度の神気では、ラバベリルは死なない。
しかし、神気の波動は、ラバベリルを倒すのが目的ではなかった。
「よし、メガちゃんのまな板で!!」
「まな板は貴女でしょう!?」
「来い! ストームブレイカーッ!!」
神気が、ラバベリルの真正面にぶつかった。
そのまま、神気を壁のように扱い、邪剣がラバベリルを押さえつける。
いくら弱くとも、神気は邪神にとって、通り抜けられる力場ではない。
背後の空間が歪むのを、ラバベリルは感じた。
せめて己が何で殺されるのか、それだけは知りたかった。
必死にラバベリルが振り返ると、何かが飛来してきていた。
「邪神、覚悟! 『シャドウ』の皆の、仇ーっ!!」
これまた幼い少女が、巨大な斧にまたがり、強大な神気を放つ剣を掲げ、邪神めがけて飛び込んできた。
ラバベリルの情報処理能力は限界を越えた。
「な、何故斧に乗って──」
「ロッカの斧の運動エネルギーも加えて、"力と破壊と心と信仰と肉と薬物と技と裁縫と絶望と闇"斬りだーっ!!」
賢者によって他の邪剣の能力をそのまま追加されたエリーンの聖剣の、力と破壊以降は無駄にオーバーキルな一撃が、ラバベリルの首を容易く刎ねた。
首が断たれた程度では死なないつもりだったラバベリルは、賢者の邪剣を介したジャミングで復活もままならず、そのままあっけなく死んだ。
世界を混乱させた、邪剣の親玉の、あっけない最期であった。