火を絶やしたくない男   作:ヤチホコ

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アニメの第5シーズンも放送されるのでキングダム界隈も盛り上がって欲しい!と思いつつ投稿する1話です! どうぞ!


1話 その者の名は

『キングダム』……という作品をご存じだろうか。

 

古代中国,春秋戦国時代……。

 

数多の国々が鎬を削り興亡を繰り返す中で,弱者が淘汰される戦国の世における中華は大きく7つに分けられた……。

 

それが燕・斉・楚・秦・韓・魏・趙の7国……戦国七雄とも呼ばれる国々である。

 

その中の1つ……中華の西端にある秦国において,ある時に戦災孤児の下僕の少年・"信"が後に始皇帝となる秦の王・"嬴政"と運命の出会いを果たした。

 

嬴政の掲げる「中華統一」という夢が信の「天下の大将軍」に成り上がるという夢と共鳴したことで,彼らは共に力を合わせてその夢を実現させるために過酷な戦いに身を投じていく……。

 

……という内容の創作物である。

 

基本的な地理や秦の始皇帝の存在,後に彼が歴史上で初めて中華を統一すること…これらの事実は歴史書にも記されていることから,そこは史実に基づいた内容だといえるだろう。

 

……だがしかし,その物語の中には主人公である信の出生に関してなど,必ずしも歴史書に沿っていない独自の内容も織り交ぜられている。

 

そう……いかにそれが史実を参考にしていようとそこは決して我々が生きる世界と同じ世界ではないのである。

 

そんな世界に少しばかり特異な存在が混じっていたとして,なんの不思議があろうか……。

 

なにせ物語にはそういうことが付き物なのだから……。

 

 

 

~~秦国・南虎塁~~

 

 

「皆の者ォ! 今宵は宴じゃァァ!!!」

 

 

「「「うおぉぉぉ!!!」」」

 

その日,秦国東南部に築かれた楚国からの防衛拠点である南虎塁では,楚の軍勢を撃破した秦国軍による勝利を祝う宴が開かれていた。

 

「ほれ! もっと飲むがええ"岳牙"よ!」

 

「はっ! それでは僭越ながら……」

 

「よしそれ! となーりーのじじーいーの金ー玉ーはー!」

 

副官の男に酒を飲ませながら下品な音頭を取っている目を血走らせたこの男は,この軍を率いる大将でその名を"麃公"という。

 

彼は秦国が誇る大将軍の1人であり,この日も楚の国からの侵攻軍との戦いで大勝利を収めていた。

 

そんな中,勝利の宴で騒いでいる彼らの元へ遠くから馬で近づいてくる気配があった。

 

「あー! 麃公サマ! 俺を置いて先に始めちゃうなんてズルくない!?」

 

麃公が声のした方向に目を向けると,そこには虎の模様があしらわれた衣装をマントのようにして身に着けた特徴的な前髪を揺らしている男が単騎で駆けてきていた。

 

「……ん? おお! 来よったか"千斗雲"よ! そなたも早く飲めィ!勝利後に飲む酒の味は格別じゃからな!!」

 

この麃公軍では,大将である麃公の下においてある程度まとまった軍勢を独自の裁量で指揮することを任された4人の武将が存在する。

 

そしてこの男はその4人の武将の内の1人であり,麃公配下の中で第三将を務める千斗雲という者であった。

 

「そんなの知ってる知ってる~! よっと! あれ,他のところの皆はまだ来てないの? ひょっとして俺が1番乗りな感じ?」

 

馬から降りて酒を受け取りながら麃公の近くに用意されてあった椅子に座った後,周りを見渡しながらそう尋ねる千斗雲に麃公は答える。

 

「バッハッハ! 残念ながらお前さんは2番乗りじゃな! 息子の奴が1番に来よったが,あ奴はさっき"ベッサ族"からの重要な報告があったとか言うて席を外しておる」

 

それを聞いた千斗雲は少し考えるように体を仰けぞって背もたれにもたれかかりながら天を見上げ,やがて思い出したように手を叩いた。

 

「ん~? ……あ!そういえばいつか忘れたけど裏で動かせる部隊……そのベッサ族ってのと……あと"梟鳴族"?ってのを取り込んだって聞いた気がするな~。今は諜報に使ってるんだっけ? 報告をここで聞かないってことは,ひょっとして中央の方で何かあったの?」

 

千斗雲が自身の記憶を辿って導き出された予想を口にすると,麃公は自身の酒を新たに注ぎながら答える。

 

「フンッ……そうかもしれん。確かここに来る前は王都が騒がしいとかどうとかと奴の部下たちが騒いどったような気もするが,その辺りが関係しておるかもしれんのォ」

 

それを聞いた瞬間に,千斗雲は驚愕の表情を浮かべる。

 

「え,マジで……! そ,それならひょっとして戦が起きるかもしれないんじゃないの!? もしそうなら今すぐ王都"咸陽"まで行こうよ!!」

 

そう言ってはしゃいでいる千斗雲を見て,麃公は自身の息子が報告を聞くために入っていったテントの方を見ながら酒盃を手にして言う。

 

「中央の面倒ごとなんぞ興味はないが……いずれにせよその報告の内容次第でこれからの動きも変わって来るじゃろうのォ……ゴクゴク」

 

それを聞いた千斗雲は,ここで騒いでも仕方ないと思ったのか静かになった。

 

「ハァ~…りょーかい。さ~てと……! ゴクッ……プハァー! あー! それより聞いてよ麃公サマ! 最近は南の異民族との戦ばっかりだったじゃん?そんな中でせっかく久しぶりに因縁のある楚国との戦だっていうのに俺たちの前にいた敵は千人将くらいの奴ばっかりでさ~。それでも強い奴ならまだいいんだけど弱い奴ばっかりだったんだよね~! だから奥の方まで将を探してやろうと思って突っ込んだら奴らがすぐに逃げるもんだから困っちゃうよ~! いーなー麃公サマは敵の主力とやりあえてさ~! ……ゴクゴク」

 

千斗雲が酒を呷りながらその日の戦いに関する愚痴を早口でぶつぶつ言っていると,少し遠くから馬の駆ける音が今度は2種類ほど聞こえてきた。

 

「おっと! いやぁ遅れてしまい申し訳ない麃公様!!」

 

「申し訳ありません……」

 

そう言いながらやってきた大柄な2人の男は,馬上から降りてそれぞれの言い方で謝罪した。

 

「おお! "満羽"と"紫詠"も来よったか!そなたらが遅過ぎたせいでもう始めてしまっておるぞい」

 

それを受けた麃公も気にした様子はないようで,むしろ機嫌よく返答した。

 

今やってきた彼らはそれぞれ満羽と紫詠という名前で,それぞれが先ほどの千斗雲と同じように麃公から多くの兵を任される将だった。

 

少し先にやってきた方の,鳥の模様があしらわれた衣装を鎧の上から纏っている満羽という細長い顎鬚の男はこの軍の第二将を務めていた。

 

そしてそれに続いてやってきた,龍の模様があしらわれた衣装を羽織っている紫詠という目つきの鋭い男は第四将を務めていた。

 

「あ~。ちなみにこれ嘘だからね2人とも。めちゃめちゃ急いだ俺が着いた時ですらもう始まってたもん」

 

そんな彼らに対して,酒で顔を少し赤くした千斗雲が拗ねたようにそう言い放った。

 

「ハハハ! であれば問題はなさそうですな!!」

 

「杞憂でしたな……」

 

それを聞いた2人も特に驚かず,慣れたような反応を見せる。

 

「バッハッハ! そうとも言うのォ!!」

 

そしてそれを聞いても麃公は気分を害した様子はなく,ただ笑い声を上げるだけであった。

 

そしてそんな麃公の戯言を聞き流しながら,千斗雲は話は変わるとばかりに机を叩いて2人に向かって問いかけた。

 

「あ! そーそー2人とも! 今日の戦果はどうだった?俺のとこはあんまりでさ~」

 

それを聞いた残りの2人はちょうど椅子に腰かけたところで,互いに顔を見合わせてから千斗雲に向き直った。

 

「うーん。途中で倒した奴を部下が将軍だとか言っていた気がするなぁ…名前は忘れたが」

 

先に口を開いた満羽は腕を組んで考えるそぶりをしながらそう答えた。

 

「えっ!?」

 

これには千斗雲も驚きだが,そこへ更なる追い打ちがかけられる。

 

「私も将軍を1人殺ったな……」

 

そう答えたのは紫詠だった。

 

「ええっ!?」

 

双方の口から放たれた衝撃的な戦果に,千斗雲は思わず立ち上がって驚いていた。

 

「そして大将首を獲った第一将の活躍は言うまでもなしじゃ! 今日はお前さんの1人負けのようじゃのォ千斗雲! ワハハハ!!」

 

麃公も千斗雲がそんな風に大げさに驚く様子を見て愉快そうに笑った。

 

「今日の俺の運悪すぎじゃない!? 皆ズルいって~!!」

 

そう言って悔しがる千斗雲は立ったまま頭を掻きむしって,彼らと比べた自身の戦果の悪さを嘆いた。

 

集まった者たちがそんな風に賑やかに騒いでいたところ,近くのテントからその場に向かってきていた1人の男がその光景を見て目を丸くした。

 

 

「おや,いつの間にか皆揃っているじゃないか」

 

 

その声に最初に反応したのは一通り嘆いて落ち着きを取り戻していた千斗雲で,彼は声のした方向に向かって陽気に問いかける。

 

「おっ! お帰り~"麃然"サマ! それで報告ってなんだったの?」

 

そこにいたのは,亀の模様があしらわれた衣装を着たどこか麃公の面影がある顔の男…名を麃然という者だった。彼はこの軍の長である麃公の嫡男であり,麃公軍の第一将を務める将軍でもあった。

 

その彼は千斗雲からの質問に対して首を傾げながらも答える。

 

「ん? ……ああそうか,親父から聞いたのか。皆が気になるその内容だが…どうやら咸陽での大王派と王弟派による内乱は,左丞相である"竭氏"を味方につけた王弟派が勢いづいており大王派がかなり不利になっているらしい。あとこれは追加のつまみだ」

 

そう言って話のついでに皿を差し出す。

 

「気が利くではないか! それにしても……モグモグ……そうなると大王派はちと厳しそうだのォ」

 

「しかし……モグモグ……我々もこの場所からだと迂闊には動けませんな…!」

 

「モグモグ……私は殿たちに従うだけです…」

 

「え~それって政治とかそういう系ってこと~? モグモグ……ていうか待って! 皆驚いてなさそうだけど内乱のこと知らなかったのが俺だけっぽいのやばくない!?」

 

それぞれが皿に乗った干物をつまみながら,その内容に麃公は興味深そうに,満羽は意外と冷静に,紫詠は言葉少なに,千斗雲は色々な意味で驚きながら聞いていた。

 

そして,そんな彼らの反応を尻目に麃然は続けて驚くべきことを口にする。

 

「……しかしながら俺は最終的に大王派が勝利すると見ている」

 

それを聞いた将たちは一斉に麃然の顔を見る。

 

「ほォ……お前さんのことだから間違いはないのだろうが,それはなぜじゃ?」

 

その中で麃公が,口元に笑みを浮かべながら確認するように問う。

 

「……なに,別に深い意味なんてない。ただ俺は以前王都に出向いた時に一方的に大王様の顔を少しだけ拝見したことがあるが…あの顔はこんなところで潰れるほどヤワなものには見えなかったってだけだ」

 

そう言って肩を竦めた。

 

だがそれを聞いた者たちは口々にそれぞれの思いを話し出す。

 

「バッハッハ! お前さんにそこまで言わせる王となるとワシもその面を拝んでみたくなるのォ!!」

 

「なるほど……ですが此度の反乱を乗り越えたとして,右丞相の"呂氏"も中々の傑物ですからこれからどうなるのか楽しみですなぁ!」

 

「キヒヒ……! だったらこれから戦も増えるかな~?そうなると嬉しいなぁ~!!」

 

「期待できそうですな……」

 

中には物騒なことを口にするヤバイ奴もいたが,それぞれが麃然の発言を一切疑わずに新たな秦王への期待や興味を示していた。

 

その後も少しのやり取りがあり,しばらくして一通り報告の内容を共有し終えた後,麃公は目つきを鋭く変えながら麃然に向かって尋ねる。

 

「それで中央のことはわかったが……次のワシらの南以外での戦場は何処になりそうなんじゃ?」

 

これには他の3将も目の色を変えながら同じく麃然を見た。

 

先ほどのやり取りから見てもわかるように,彼らは麃然の言葉には絶大な信頼を置いている。

 

その理由として,彼が麃公軍において第一軍の将を任されるに相応しい将としての才能があるとこの軍の誰もが認めているということも大きいが,それとは別に戦場以外での働きによる部分も関係している。

 

その中でも戦好きが集まる麃公軍が注目するのは,彼の正確無比な情報収集能力である。

 

ゆえにここにいる者たちは,彼が言ったことは確実に現実のものになるだろうと考えているのだ。

 

その視線を受けた麃然は,特に表情を変えることもなく言い放った。

 

「そうだな……。今まで得た情報と俺の読みを信用するならば……恐らくは魏との戦になるだろう。まぁそうは言っても少し先の話にはなるだろうが…」

 

そしてそれを聞いた彼らはこれまた様々な反応を見せる。

 

「魏ですか……! 今あそこの国で名のある将となると誰がいましたかな……?」

 

楽しそうな顔を浮かべながら満羽がそう呟いた。

 

「そうじゃなァ……。やはり現状で大規模な戦で軍を率いる将となると……魏の大将軍たち"魏火龍六師"の筆頭でもある"呉慶"が挙げられるじゃろう……それと少し前に趙から魏に亡命した趙の大将軍"趙国三大天"の1人であった"廉頗"といったところも候補になるかのォ」

 

「オッホホホ! そいつらはなんか聞いたことある気がする!! よし! そいつらと戦えますようにそいつらと戦えますように……!!」

 

「血が滾りますな……」

 

そうしてそこにいる者たちは次なる戦いに心を躍らせるかのような反応を繰り出していく。

 

そんな思い思いにはしゃぐメンバーの様子を見ながら,彼らにその情報をもたらした本人である麃然はこう思っていた。

 

 

「(なんで戦と聞いて喜んでるんだこのバカたちは!! あ~ホントにこんな戦闘狂どもの巣窟にいたら命がいくつあっても足りない! というかむしろ毒されてしまう! やっぱり親父が死んだらすぐにでも将軍位を返上して軍を解散させるか満羽にでも押し付けて隠居してやる!! もちろん戦死は悲しいから絶対にさせたくないけど!!!)」

 

 

表面上は落ち着いているように見えるかもしれないが,その内心は驚くほど荒れ狂っていた。

 

「(ふぅ~,そんなことより今はまず落ち着いてこの先のことを考えよう。報告では今回の王弟反乱は基本的に流れは原作通りになっているし,予想外の変なことは起きていない。大丈夫……少なくとも原作よりも状況が悪くなってはいないはずだ)」

 

この男,上記の発言から見てもわかる通り他の人間とは大きく異なる点がある。

 

「(それにしても灰色でもなんでもない俺の脳細胞では,意図しないところで変な原作改変をしていないかドキドキする! というか既にいくつかやらかしている疑惑があるし!!)」

 

何を隠そう彼はこの世界の行く先を前世の知識で途中まで知っている転生者なのである。

 

「(この王弟反乱が起こったということは,遂に原作の本筋が始まるということだろう…。ここまでは運よく生き残って来れたが,この先の激動の時代も乗り越えられるかなぁ……。いや,弱気になってはダメだ! それに将集めや練兵には力を入れてきたつもりだ。せっかくここまで来たのに討ち死になんてしてやるものか! 俺は絶対に老衰で死ぬと決めているんだ!!)」

 

「然よ! そなたももっと飲めィ!!」

 

しかしそんな彼の思案など構わずに,麃公は酒が並々に注がれた特大の酒盃を麃然に勧めてくる。

 

「……ああ,では俺も頂くとしよう」

 

疲れて思考放棄した麃然はそう言いながら椅子を引いて座ると,その酒盃を傾けて内に秘めた思いと共に酒を一気に喉奥へ流し込むのであった。

 




原作で猛威を振るっている青歌軍の強さが許されるならこのメンツくらい可愛いものですよね!

それではまた!('ω')ノシ
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