火を絶やしたくない男   作:ヤチホコ

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長めの12話です! どうぞ!


12話 戦の決着

~晶仙視点~

 

私は,後方に新手が出現したと知らせに来た部下に尋ねる。

 

「敵の数は?」

 

「はっ! およそ500に届かぬほどかと思われます!」

 

「……そうか」

 

それを聞いて私は心を落ち着けた。

 

最初はいつの間に後ろを取られていたのかと驚いたが,敵の隠密行動力の高さはこれまでで何度も感じており,その人数を考えればありえないことではない。

 

なにより,500の敵兵が私のところまで届くことはないだろう。

 

「はははっ! 我らが最後まで残ることを読んだ点は見事ですが,わずか500人で殿に届くと考えているとは……甘い考えとしか言えませんな」

 

この者の言う通りだ。別動隊としての役割を与えられているからには敵も並みの者たちではないのだろうが,私の本陣を守護する兵たちもまた並みの者たちではない。

 

知略を武器とする将として知られる私にとって,奇襲の類を用いた本陣への攻撃というのは最も警戒すべき事態だ。

 

しかし,だからこそそれに備える私の本陣を固める兵は"守り"に重きをおいた精鋭を配置している。

 

これまでも敵の無謀ながら激しい攻勢を幾度も叩き潰してきた自慢の盾である。

 

私と同じく魏火龍で知将とされている霊凰でさえここまでの守りを備えてはいないだろう。

 

とはいえ,敵の数は片手間で相手することができない絶妙な数であることもまた事実だ。

 

先ほど王騎が丘目掛けて移動しているのが見えたが,幸いにも率いているのは大した数ではなかった。

 

馬介が万全の状態で迎撃に出ることが出来れば,奴を討ち取ることは能わずとも十分に対処は可能なはずだ。

 

ならば我らは無理に丘に登ることを急がず,ここに迫る敵を殲滅することで後顧の憂いを絶った後にゆるりと向かえば良い。

 

「まずはこの場で敵を迎え撃つぞ。せめてもの慈悲として速やかに殲滅してやろうではないか」

 

「「はっ!」」

 

そのような会話をしている内に,近づいてくる敵の部隊の全容がはっきりと目で捉えられるようになった。

 

ふむ。恐らくは先頭を駆ける男……いや,兵たちの距離の取り方を見るにその後ろにいる男が敵の頭だろう。

 

フンッ,それにしても将自らがあのように前方に立つなど……ここに弓兵がいればすぐにでも蜂の巣にしてやったのだが,生憎とここに残した兵の中にはいない。

 

……だが大した問題ではない。そう思って敵将を見ると,不意に目が合ったような気がした。

 

――ゾクッ!

 

「……!!」

 

「晶仙様? 如何なされましたか?」

 

「……なに,武者震いよ」

 

嘘だ。今一瞬だけ感じたあの感覚は……恐怖だった。

 

「決して油断するな。確実にここで奴らの息の根を止めるのだ」

 

感じたものを押し込めて隠しながらそう言った私の言葉を聞いて,部下たちも気を引き締め直したようだ。

 

すると,いつの間にか敵が我が軍と接触する目前まで迫っていた。

 

「よーし! 前方,盾構え!」

 

こちらの将の声を合図で一斉に守りを固めたこちらの陣に敵が衝突し――

 

 

――味方が静かに崩れ落ちた。

 

 

「……は?」

 

それは誰の呟きだっただろうか。

 

その間も先ほど敵の先頭を駆けていた男が剣を振るうと,近くの兵が静かに倒れていく。

 

ある者は首に,ある者は胸に,またある者は頭に細く……そして深い傷を残して一瞬で沈黙していくのだ。

 

それは決して派手さはないが,あまりにも鮮やかな剣技だった。

 

すると,その男が将と思しき後ろの男に何かを告げるのが見えた。

 

 

「殿……ご武運を」

 

「ああ。このくらいが丁度いい」

 

 

そして,後ろにいた将が前に出てくるや否や,右手に構えた矛を横なぎに一閃すると,先ほどとは比にならないほどの血が辺りに舞い散った。

 

 

「運が良いのか悪いのか……この軍で最も敵将の首を挙げてきたのは俺らしいんだが……」

 

 

――そこから折り返す一振りで,また我が兵たちが高く吹き飛び血を散らす。

 

 

「ハハッ,笑えるだろう?」

 

 

そう言った奴の顔は,とても正気とは思えないものだった。

 

そのまま奴は大きく息を吸い込んだかと思えば,この戦場全体に響かせるかのように手を広げて叫んだ。

 

「俺の通る道を開けろォォ!!! 存分に……死ねやァァァ!!!」

 

「「ハハァッ!!!」」

 

目の前に生まれたその光景は,獲物に群がる飢えた獣の如きおぞましさを我らに伝えていた。

 

こ,これは……!

 

「晶仙様! ここは危険です! 我々が時を稼ぐ間に馬介様と合流を!!」

 

「……ッ!!」

 

そこで,私は側近の焦りを含んだ一声で気を取り直した。

 

くっ,こうなっては止むを得んか……!

 

こうやって話をしている時間も敵は雪崩の如き勢いで迫ってきており、これを堰き止めるのはもはや現実的とは言えなかった。

 

私は馬車を動かす数人の供と敵に背を向けて丘へ向かおうとしたが――

 

 

「くっ,ぐあぁっ!?」

 

後ろで先ほどの側近の断末魔が聞こえたことで,もう手遅れであると悟った。

 

おのれ……よもやあの陣をこうも一瞬で突き抜けようとはッ……!!

 

そう思うと共に,私はなぜかあいつの言葉を思い出していた。

 

『まぁ言うまでもないことだが――』

 

許せ……霊凰。

 

『お前も一応はこの魏国を支える柱の1人だ……こんなところで死んでくれるなよ』

 

驕っていたのは……私であった……!

 

「バハアァァァ! 首をもらうぞォォ!! 晶仙ンンンッ!!!」

 

恐るべき速さですぐ真後ろまで到達していた暴の化身の声で我に返ると,咄嗟に後ろを振り返る。

 

この苛烈なまでの将への執着,そして先の言葉……話には聞いていたが,そうか――

 

 

――貴様が四獣の麃然か……!

 

 

「この……化け物め!!」

 

苦し紛れにそう言い放ったと同時に,私の目には一筋に輝く銀色の光が見えた気がした。

 

――だが次の瞬間,慣れぬ浮遊感に襲われた私の視界に映ったのは,半身を失った私の体と,半ばから切り落とされて崩壊する馬車だった。

 

私はそこでようやく,自らが斬られたことを悟った。

 

「「「晶仙様ァー!!!」」」

 

ただ,感覚が追い付くと共に私の脳内に浮かぶのは敵への賛辞だった。

 

今のは……重くとも,痛みすら感じる暇のない滑らかな一撃であった。

 

敵ながら…………見……事だ……。

 

「ハァ……疲れた」

 

どこか遠くに聞こえるその音を最後に,私の意識は遠のいて消えた。

 

 

 

~麃然視点~

 

ゼェ……ハァ……ぢ,ぢがれだ……。

 

「ハァ……疲れた」

 

俺は思わず本音が口をついて出てしまったことに気が付いてハッとしたが,周りを見たところ幸いにも誰にも聞かれていなかったようだ。

 

俺は気を引き締め直すと,周りにバレないように息を整え始める。

 

それにしても疲れた~! やっぱりこんなことを続けてたら近い将来死んでしまう!

 

そもそも弱兵相手とはいえ命の懸かった斬り合いで手を抜くとか無理だろうよ! 皆はどうして相変わらず平気そうな顔が出来るの!? やっぱりこれが現地キングダム民の力なのか!?

 

ハァ……ハァ……ッよし。とりあえず,兎にも角にも晶仙をなんとか討てたぞ。

 

この数の差がありながら討てたってことはやっぱりここの敵は大した奴らじゃなかったんだろうが,正直思ったよりも強かった……。

 

個々の力はそうでもなかったが,連携なんかが上手かった印象だ。

 

原作でも魏国人は真面目な者が多いと言われていたが,集団行動が得意なんだろうな。

 

俺もシンプルに修行が足りんということか,トホホ……とまぁそれはさておき! それじゃあ残った敵兵にさっさと去就を選ばせて,早く親父のところへ――

 

「今だ! 残った敵兵を存分に手柄にしろォ!!」

 

「「オオオオオ!!!」」

 

…………

 

……さ,左慈さん?

 

俺が唖然としていると,俺がこうなった元凶である左慈が近づいてきて話しかけてくる。

 

「敵は皆,殿に恐れ慄いております。遠からず終わりましょう」

 

「……そうだな」

 

俺はもはやそれしか言えなかった。

 

「慶舎たちも……うまくやったようですな」

 

そう言われて丘を見上げると,味方の歓声が響いている。

 

「さあ……何があったのやら,だな」

 

 

 

~~北の丘・頂上~~

 

「馬介様……奴ら本当に退いていきますぞ」

 

「……」

 

魏軍の中で最も早く丘の頂上まで辿り着いていたのは,晶仙からの信頼も厚い馬介であった。

 

彼らは晶仙からの命令通りに敵を深追いはしなかったが,妙な動きをする者がいないかとその姿に目を光らせていた。

 

「それにしても,ここから確認できる敵の数が些か少ないような……ん? 奴らから離れた場所にも秦兵がいくらか残っていますな。ただ,大した数もいないようですし,放っておいても良いでしょう」

 

だが,馬介はその中に1つの顔を見つけた。

 

「いや,あそこに敵の前線を纏めていた将がいる」

 

「なっ!?」

 

彼らの視線の先では,まるで誘っているかのようにこちらを見つめる慶舎らしき姿があった。

 

馬介は前日の戦の際に見た,その特徴的な容姿を覚えていたのだ。

 

「打って出るぞ」

 

「し,しかし! 晶仙様より中央に向かう敵以外は追うなと!」

 

「すぐに戻る。それまでは……そうだな,宮元にここを任せる」

 

そう言うと,馬介は周囲の兵をいくらか引き連れて駆け下りていった。

 

馬介には,目の前でこれほど無防備を晒している敵将を見過ごすことなど出来なかったのだ。

 

さらにこの時,馬介は確かに少なからず怪しさを感じていたが,比較的見晴らしの良いこの丘の周辺で何か罠を仕掛けられるとは思えなかったことも関係している。

 

そして敵目前まで近づくと,そのまま号令をかけた。

 

「突撃」

 

「ハハァ!!」

 

敵へ向かっていく配下の兵の背を見ながらも,ふと気配を感じて後ろを見た馬介は,そこで見たものに驚く。

 

「これは――「「ぐあぁ!?」」――!!」

 

配下の声を聞いて慌てて視線を前方へ戻すと,突撃させた兵たちを潜り抜けてきた慶舎がこちらを目掛けて駆けてきていた。

 

知将だと考えていた慶舎の武力には少し驚いたが,それでも今見たものと比べれば驚きは小さかった。

 

彼は速やかに味方の元に帰還するために慶舎を討ち取ろうと剣を抜いたが――

 

 

「……もう遅い。滅せよ,馬介とやら」

 

 

――先に首が飛んだのは馬介の方だった。

 

「「馬介様ァ!」」

 

遅れて続いてきた魏軍の兵たちが絶叫するが,彼らはどこからか現れた秦軍によって討ち取られていった。

 

それを見届けるよりも早く,慶舎は追いついてきた部下に命令を出す。

 

「……潜ませていた兵を全て出すのだ。敵の端から崩していけ」

 

「「ハ!!」」

 

その後,彼らの目の前……防御陣地の影や丘の斜面の起伏で巧妙に隠されていた空堀から飛び出した秦軍が,丘の上の魏軍に襲い掛かるのだった。

 

 

~信視点~

 

「千人将ォォ!」

 

縛虎申千人将が率いる俺たちの隊は,丘の上までやってきた敵の陣に最初に斬り込んで,千人将は敵将の1人らしい宮元って奴を見事に討ち取った。

 

そういう俺もそん時に黄離弦とかいう弓使いの敵将を討ったんだ!

 

だけど,千人将は今の戦いで受けた傷が深かったみたいで倒れちまった。

 

急いで駆け寄る俺に向かって、千人将は落ち着いた様子で言った。

 

「ぐっ……心配するな。我ら麃公軍にとってはこの程度かすり傷だ……お前は周辺の警戒をするんだ」

 

そうだ! まだ丘の上の魏軍を全て倒したわけじゃねぇ! 

 

千人将の部下たちが変な箱を担いでやってきて,色々と処置をし始めたのを尻目に,俺は剣を構えて残った魏兵を探していたんだが――

 

「おんやァ? もしかして昌文君が言っていた童とは貴方のことですかァ? 名前は確か……信!!」

 

いつの間にか俺の背後にオカマみてぇな大男が立っていやがった!

 

……今の言葉を聞いてみた感じ,昌文君のおっさんの仲間か? いや,そんなことより!! こいつから漂ってくるこのとんでもねェ雰囲気!!

 

こ,こいつ……強さも,怖さも……デカすぎて解からねェ!?

 

俺がその男を見て気圧されていると,反対側からも声が聞こえてきた。

 

「……もしや戦に参加されるおつもりですか? 王騎将軍」

 

俺がそっちを振り向くと,そこにもまた違ったとんでもねぇ雰囲気の男がいた。

 

今のオカマがでけェ岩山だとしたら、こっちは針山みてぇな鋭さがある!!

 

……そういえばこっちは遠目から見たことがあるな。この丘の軍を率いる麃然将軍の副官で,確か慶舎って名前だ。昨日も戦の指揮を執ってたのはコイツのはずだ。

 

「ンフフフ! いえ,麃然さんが認めたというあなたと少しお話をしてみたいと思っただけですよ。まァなぜか途中で邪魔をしてきた魏軍の方たちは押しのけてきましたけどねェ?」

 

「……なるほど。秦将麃然の副官を務める慶舎と申します。かの大将軍王騎殿に名を覚えて頂けているとは光栄の至り」

 

なにっ!? このオカマが……大将軍だって!?

 

俺が驚いていると,その王騎将軍が目を細めて慶舎を見ながら言う。

 

「ココココ。とてもそう思っているようには見えませんがねェ……というかァ? あなた,私がこの戦場に着いた時から気が付いていたでしょォ? 今も,この私を目の前にしてなお臆さぬその強かさ……中々に面白い」

 

「……御冗談を」

 

そのまま見つめ合う2人の異様な空気に,俺は思わず後ずさりしそうになってしまう。

 

クソッ! まさかこの俺がビビってるってのかよ……!!

 

だがそうしているうちに,また別の新たな声が割り込んできた。

 

 

「久しぶりですな,王騎将軍」

 

 

声が聞こえてきた方を俺が慌てて振り返ると,いつの間にか移動していた慶舎って奴が真っ赤な服を着た1人の男の前に片膝を立てて跪いていた。

 

「……お迎えできず申し訳ございません,殿」

 

「気にするな,お前は務めを十分に果たしてくれた。それより……」

 

慶舎の肩を叩いてから立ち上がらせながらそう言った男の視線の先には,さっきよりも笑みを深めた王騎将軍の姿があった。

 

「ンォフゥ。麃然さんも随分と男前な恰好になっているじゃァありませんか。……その様子では,晶仙さんも既に討たれたようですねェ」

 

……!! ってことは……この人があの麃然将軍!? ……というかちょっと待てよ! 今この丘を攻めてた大将の晶仙って奴を討ったって言ったか!? それによく見たら,赤いのは服の模様じゃなくて全部返り血じゃねぇか!

 

情報が多すぎて何が起こってんのかさっぱりわかんねぇぞ!?

 

「おっと,童信には少し難しい話でしたか? ココココ,別にあなたを忘れていたわけじゃあありませんよォ?」

 

「ん……童信と?」

 

俺の名前を聞いてこっちを向いた麃然将軍は,目を見開いて驚いているように見えた。

 

……なんだ? 俺のこと知ってんのかよ?

 

「おや,あなたもご存じでしたか?」

 

麃然将軍はその質問に頷きながら答える。

 

「ええ,なんでも今代の大王様とかなり親密な関係だとか……」

 

すると、王騎将軍が突然笑い出した。

 

「ンフフフ……! 親密な関係ねェ? まさか童信があの王の愛人だったとはビックリです!」

 

「なっ!? そ,そんなんじゃねぇよ!!」

 

何ふざけたこと言ってやがんだこの唇オカマ巨人!!

 

「冗談ですよ,王騎冗談。ココココ」

 

俺の反論をそんな風に笑って受け流す王騎将軍だったが,そこでもう一度麃然将軍に向き直る。

 

「それよりも麃然さん……。あなたこんなところで随分と悠長に話していますが,中央への加勢にも向かわずに……一体何を待っているんですかァ?」

 

なに……? 待っている? 

 

「ええ,あちらを少し……ほら,見えた」

 

そう言った麃然将軍は,中央の丘で戦ってる魏軍のずっと後ろから登る煙を見ていた。

 

「さて,いらぬとは思うが……念のために呉慶を囲みにいこうか」

 

 

 

~~滎陽城~~

 

秦軍に占領された滎陽城……その中では,兵たちが忙しなく動き回っていた。

 

「郭備様,そろそろ殿たちも戦場に着いた頃合いかと……」

 

「ああ……。よし,では早速狼煙を打ち上げよ」

 

「ハッ!」

 

そして,それらの兵から報告を受けていた郭備と呼ばれた男の号令と共に,滎陽城に備え付けられていた緊急時用の狼煙が城の各所から打ち上げられた。

 

打ち上がった狼煙を見つめながら,郭備は言った。

 

「……これで戦場にいる魏軍の目にも焼き付いたことだろう。さて,では引き続き滎陽の民の慰撫に努めるとしようか。我らに対する不信感をなるべく与えんようにな……」

 

「勿論です」

 

 

 

~呉慶視点~

 

秦軍の目論見通り,滎陽城から打ち上がった狼煙は,蛇甘平原で麃公軍の猛攻を凌いでいた魏軍の目にも入っていた。

 

「お,おい……あっちの方から煙が上がってないか?」

 

「でもあっちは城の方角だぞ……?」

 

「じゃあ,もしかして何かあったのか!?」

 

実際に戦っている兵たちの多くは,この狼煙の意味など知らなかった。

 

だが,自分達の城に何か常ならぬことが起こっていることは感じることが出来たのである。

 

「おのれェ……!」

 

そして,これに最も衝撃を受けていたのは,彼らを率いている呉慶だった。

 

本気を出した麃公軍の攻撃力は想像以上のものだったが,なんとか今のところは防ぎきることが出来ていた。

 

しかし,少しずつではあるが押され始めていたのだ。加えてこのまま自軍の兵が浮き足立てば,この均衡が一気に崩れかねない。

 

「呉慶様! この狼煙は滎陽城が何者かに襲われている証です! それに……クッ,今は一刻も早く城の解放に向かわねば! 余力のある兵を率いて滎陽へ向かってくだされ!」

 

「我らが気が付けなかったということは,恐らく城を襲った敵はそこまでの数はいないはずです……! 目の前の敵はこの状況の継続を容易に許すほど生易しい相手ではありません。しかし、現在左右の丘を警戒している"朱鬼"・"麻鬼"両将軍を残してくだされば、呉慶様が滎陽を解放されるまでの時間はなんとか稼いでみせまする!」

 

部下たちの言葉を受け,呉慶はギリと歯を食いしばりながら言う。

 

「城は……既に落ちておるッ」

 

「ご,呉慶様……!?」

 

彼はこれが緊急用の狼煙だと理解しただけではなく,その上げ方に違和感を覚え,既に滎陽城が何者かによって乗っ取られてしまったことにまで気が付いていたのだ。

 

そして,この状況でそれを為す可能性が高いのは目の前で戦っている秦軍であった。

 

「人の感情とはままならぬものだな……」

 

呉慶は怒りに燃えていた。しかし,それは侵略者である秦軍に対してのものだけではない。みすみす自国の城を奪われてしまった自身の不甲斐なさに対する怒りが最も大きかった。

 

彼は馬車から降りると,自分の馬に向かって歩き出した。

 

「あっ!? お待ちを呉慶様!!」

 

「この呉慶,侵略者に対し退くことは絶対にない! たとえこの身が砕け散ろうともだ!」

 

呉慶はそう言うや否や部下の静止の声を振り払って自分の馬に乗り移り,秦軍に向けて駆けだした。

 

 

 

~麃公視点~

 

そして,呉慶を攻め立てていた麃公軍からも当然ながら滎陽の狼煙は見えていた。

 

「フッ。こんなものを見てしまえば,魏軍はさぞ慌てておろう。ワシらもようやく暖まってきたところではあるが……そろそろ終わらせるとするか」

 

どこか残念そうな雰囲気を漂わせつつも矛を強く握りしめ始めた麃公であったが――

 

 

「麃公ォォォォォ!」

 

 

――その男……目の前で突如として逆襲を開始した魏軍の先頭で矛を振る呉慶の姿を視界に収めると,その顔には笑みが戻った。

 

「ハハハッ! 中々に面白いではないか呉慶とやら!」

 

麃公は愉快そうに言うと,呉慶に応じるように馬を走らせた。

 

「バハァッ! 貴様も武人の血が騒いだか!!」

 

「否!! 武人の血などよりも熱きものが我の中にあることをこの剣をもって教えてやろう!」

 

もはやこの時点で,麃公と呉慶にとって互いの存在を除いたすべてのものは眼中になかった。

 

 

「我は退かぬぞ!! 麃公ォォ!!!」

 

「来い!! 呉慶ェェ!!!」

 

 

中華全土が注目する秦魏の大戦を作り上げた2人の男が,この戦において遂に真の意味で相対する。

 

2人は共にそれぞれの得物を振りかざし,互いの射程圏内に収めたと感じるや否や,すれ違いざまに斬り結んだ。

 

そしてその後しばらく進んだところで,双方の馬の足が止まる。

 

「……これは将の責務より私情を優先させた貴様にとって,当然の結末に過ぎん」

 

そう言った麃公の頬にはいつの間にか一筋の切り傷が生まれており、そこから微かに血が垂れていた。

 

「じゃが――ここまでワシを苦戦させた知略と最後に武に走ったその激情……なかなか見事な大炎であったぞ呉慶!」

 

すると麃公が言い終わると同時に,それまで馬上で沈黙していた呉慶が崩れ落ちる。

 

その音を後方から聞き取った麃公は,腕を掲げて高らかに叫んだ。

 

「勝鬨じゃァァァ!!!」

 

「「「ワァァァァ!!!」」」




原作で馬介を討った"玄右"さんと今作で馬介を討った慶舎さんの公式ガイドブックにおける武力は,どちらも同値の88……これは偶然でしょうか!?(偶然です)
そして,いくらか巻いた部分もありますがなんとか戦を終わらせられました……。
次回は戦後処理だのなんだのetc……の予定です。

それではまた!('ω')ノシ

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