火を絶やしたくない男   作:ヤチホコ

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13話です! どうぞ!


13話 風

~麃然視点~

 

俺は副官である慶舎と左慈を引き連れて,夜にも関わらず騒がしい滎陽城を歩いていた。

 

「相変わらずいろんな意味でデカい城だな,滎陽は……」

 

あの蛇甘平原での戦闘が終わってから,俺たち秦軍は生き残った自軍の者や敵軍の捕虜を纏めて滎陽城に入った。

 

そこで休息を取った俺たちは,その後に比較的元気な奴らを集めて,ついでとばかりに滎陽周辺の小城をいくつか落としたことでようやく進軍の足を止めた。

 

敵地に短期間で深く入り込むのは,兵站や占領地のことを考えるとリスクが高い。

 

まぁこれ以上の侵攻は予定になかったことに加えて,魏国も急いで守りを固めだしていたので,いずれにせよあのあたりが潮時だったのだろう。

 

そんなこんなで現在は滎陽城まで戻ってきており,従軍した者たちは将兵ともに飯を食って酒を飲みながら今回の戦を無事に終えられた喜びを噛みしめているところだ。

 

「……私は成都の方が栄えていると思いますが?」

 

俺の呟きに対して,少し後ろを歩いていた慶舎が反応した。

 

「ハハハ,確かにあっちもデカいがな~」

 

うーん。確かにどっちもデカいんだけど,それだけじゃないというか――

 

「やはり"三晋"の地域だけあって,それらしい華やかさがありますな」

 

「まぁそういうことだな」

 

慶舎に並んで歩く左慈からの言葉に,俺は頷いて返した。

 

三晋――春秋時代に黄河流域を中心として栄えて中華に覇を唱えた"晋"という大国の分裂後,その後継とされる韓・魏・趙の3国を纏めた名称である。

 

この地域では華やかな文化が発展し,この時代でも都会のイメージが強い。

 

特にこのキングダム世界ではその豊かさはかなりのもので,あれだけの国力を誇る秦国が度々苦戦する理由の一部もそこにある。

 

前世では趙国の畑から将兵が生えてくるという話もあったが,白起が長平に植えたからという冗談を抜きにして,そのくらいの地力を備えているのがこれらの国々なのだ。

 

秦は制度が画期的だったり国土が広かったりしていることもあってそれらと比べても豊かではあるんだが,中華としての歴史や文化的な面においてはまだ成長の余地があるのも確かなように思える。

 

それを踏まえてこっち側に来てみると,こっち側の国々が秦人を田舎者と呼んでくる気持ちも分からんでもないね。

 

「さ~て,そんな華やかで都会の魏国からは今回どのくらいの額を頂けるかな?」

 

「……捕虜を生かすのもタダではありませんからな」

 

「紫詠の活躍によって価値の高い将も捕らえることが出来ましたから,魏王に期待しておくとしましょう」

 

魏国との間に起こった今回の戦で捕虜とした敵兵の数は,大戦なだけあって膨大な数だ。

 

単純にその分の食料だけでも相当な負担だし,反乱を防ぐための管理も大変だが,首を刎ねずにおいているのは訳がある。

 

国や王によってはその者たち全員を首だけにした方が手柄になったりする場合もあるが,原作のことを考えれば今の秦王の治世でそういうことするメリットは薄いだろう。

 

中華を統一しようと考えているんだから,その過程で少しでも恨みの種を残したくないというのはわかる。

 

そもそも兵の多くは農民なんだから,占領地の働き手を殺しすぎると生産力が落ちて国力増大の妨げにもなるからね。

 

それでも殺した方が得な場面というものはあったりもするけれど,今はそうでもないので多少面倒でも殺さないに越したことはない。

 

そのうえで,捕虜の引き渡しの際には魏からは莫大な額を分捕ってやるという素晴らしいプランだ。

 

ちなみに左慈が言った紫詠の活躍に関してだが,主なものとして亀頭sゲフンッ!……"白亀西"将軍の捕縛などが挙げられる。

 

太呂慈が紫詠と戦っていた際は丘の上で魏軍左翼の指揮を代わりに執っていたらしく,太呂慈が敗れた後の秦軍の丘攻めを防げずに捕まったようだ。

 

彼は呉慶が太呂慈へ遣わしていた将なのだが,原作でも魏国民から人気が高いと何度も紹介されていたので,捕虜としての価値も高いだろう。

 

紫詠は戦の組み立てを黒剛に任せることが多いのでわかりにくいが,本人も戦に関する理解が深いので臨機応変な対応が得意な点も強みだ。

 

不満があるとすれば,今回のことで褒めた際に紫詠が『私は殿や麃然様たちと違って無闇矢鱈と敵を手に掛けませんので……』などと宣ったことくらいかな。

 

……いや,なにしれっと俺を含んでるんだよ!! 俺の今回のキルレートって多分君より低いよ!? 今回の晶仙軍のことも俺じゃなくて,今俺の後ろで慶舎と剣術について話してる左慈のせいだルォ!?

 

魏の火龍を超えた秦の龍たる紫詠だが、どうやらまだまだ成長の余地があるらしい。

 

まったく……仲間との間に横たわる相互理解の溝が深いのは嘆かわしいことだ。

 

まぁとにかく,魏国は国を守ろうと頑張って戦ったのに奮闘むなしく俺たちに捕まってしまった彼らの為に,国の財布の紐を緩めておいて欲しいという話である。(鬼畜)

 

前世の記憶に寄れば,来年に迫る始皇3年には信陵君の死が待っていたりする魏国だが,ほどほどに強く生きて欲しいものである。

 

そんなことを考えていると,左慈との話が一区切りしたらしい慶舎が話しかけてくる。

 

「……この滎陽一帯の獲得や魏から得られるであろう金は我らが秦国にとって大きな追い風となるはず……今回の戦も大勝でしたな。流石は殿です」

 

「いや,元より勝てた戦だ。俺の仕込みも,少し強めなそよ風程度のものでしかないさ」

 

正直なところを言えば,少しばかり長引いた可能性はあるがここにいたのが満羽や千斗雲であったとしても十分に勝利は出来たと思う。

 

しかし,滎陽一帯の獲得が大きいのはその通りだ。

 

いずれも川を挟みはするが,この地は南に韓の王都である"新鄭",東に魏王都である大梁,北東に趙王都である"邯鄲"を意識できる場所にあるので,これらの国と戦っていく秦にとってはかなりの重要地点だ。

 

これが秦国にとって吉と出るか凶と出るか……それは本営次第だね。

 

「……なるほど。ところで,この辺りだと思われますが」

 

慶舎が最初の一瞬だけ意味深な表情をしてそう言った。

 

さて,今更ながら俺がどうして城内をブラブラと彷徨っているかと言うと――

 

「それに関してですが,やはり殿がわざわざ赴かずとも,何といいましたか……その童の方を呼び出すべきだったのでは?」

 

「フフ,疲れた兵たちには刺激という名の褒美をやろうと思ってな」

 

「……どうやらあちらが特に騒がしいようですな」

 

「ん? おっ,あれは――」

 

 

 

~信視点~

 

「そんで俺が敵の弓矢を剣で弾いたところでそのままズバーンッってやったんだよ!」

 

「ギャハハ! おい信! お前さっきからズドーンとかズバーンとかばっかりで分かんねぇよ!!」

 

ようやく戦が終わったってんで,今日は俺たちに配られる飯もいつもより少し豪華だった。そこで,せっかくだからと今回の俺の活躍を仲間の奴らに話してやっていたんだが,尾平の奴も訳わかんないこと言いやがって……。

 

「ったく,もう一度話してやるからよく聞いとけよ! えーっと,そうだ! 丘の上でズドーンってな――!」

 

「「ギャハハ!!」」

 

「笑うなお前らーー!!」

 

そんな風に俺は話を続けていたんだが,しばらくしてふと周りを見たら,いつの間にか皆が静かになっていることに気が付いた。

 

別にどっかに行っちまったわけじゃねぇ。ただ,俺の頭の上の方を見つめて唖然としているように見える。

 

「し,信君……!」

 

それに加えて,その中から澤さんが焦ったような顔でこちらに呼びかけてきた。なんだよ,一体どうしたってんだよ?

 

俺がそう訝しんだ次の瞬間,俺の顔が両側から大きな手で優しく包まれたのを感じた。

 

「ッ!? 誰だ――」

 

俺が咄嗟に立ち上がろうとすると,すぐ横から声が聞こえてきた。

 

 

「やあ,また会ったな童信よ」

 

 

――俺が目線だけ動かして声のした方を見ると,俺の顔の真横に他人の顔があった。

 

「ウオォッ!?」

 

俺はそれに驚いて情けない声を上げながら盛大に転んじまった。くそっ,痛ってぇ~!

 

「アハハ! すまんすまん! いつもこの位置から顔を出すと皆驚くのでな,やはり良い反応をされるとこちらも驚かし甲斐があるというものだ!」

 

頭上から聞こえたその言葉にイラついた俺は一言文句でも言ってやろうと顔を上げたが,目の前で愉快そうに笑い続けている顔には見覚えがあったので更に驚く。

 

「あ,あんたは麃然将軍!?」

 

「おお,覚えていたか。感心感心!」

 

そう言って頷いているのは,前に丘の上で出会った麃然将軍だった。

 

「俺になんのよう……ですか」

 

俺が慌てて立ち上がってそう尋ねると,将軍は俺の頭をくしゃくしゃと撫でながら言う。

 

「さぁ……なんだと思う?」

 

逆にそう聞かれてしまい,俺は言葉に詰まる。

 

う~ん……!! まさか!?

 

「なるほど! 将軍も俺の活躍を聞きたかったのか!!」

 

「って,んなわけねぇだろ信!!」

 

俺が出した答えにすかさず尾平がツッコんでくる。確かに俺も冗談半分で言ったんだが,将軍の返答は意外なものだった。

 

「……!! なぜわかった!?」

 

「あってんのかよ!! ……ってすみませ~ん!!」

 

尾平が顔を青ざめさせて謝ってたが,将軍は笑ってそれを許すとその場で腰を降ろした。

 

「なに,気にするな。……ところで,童信は戦が好きか?」

 

戦が好き……か。

 

確かに苦労して武功を挙げた時は達成感があったし,最後にあった麃公将軍と敵の大将の一騎打ちは心が震えた。

 

だけど……今回の初陣で本物の戦争ってもんを経験して,改めて人を率いる将の凄さを知った。

 

それに,戦ってのは勝ち負けを決めてハイお終いってなるような単純なものじゃねぇことも知った。

 

「……俺はまだ,好きか嫌いかを語れるほどまだ戦のことをわかってない……ですけど。ただ――戦場には夢があると思いました」

 

やっぱり下僕上がりの俺がこれから成り上がっていくには戦しかねぇとも思った。

 

戦にはそれだけの可能性があるってことを改めて感じたんだ!

 

それを聞いていた将軍は目を細めて,眩しいものを見るような目をしていた。

 

「フフッ…………そうか。慶舎と左慈はどう思った? ウチに向いていそうな面白い男だろう?」

 

将軍が問いかけた方を見ると,そこには前にも見た慶舎と……もう1人,見たことない奴だが,今の俺よりも強ぇってことだけはわかる左慈って呼ばれた男がいた。

 

「「いえ,ただの無礼なガキです」」

 

「アッハハハ!!」

 

俺は2人が重ねて言った言葉に少しムッとしたが,それを聞いてケタケタと爆笑している将軍を見て力が抜けた。

 

その後は将軍が一通り笑った後に,俺の活躍話を聞かせて欲しいと言ってきた。

 

それから俺はそれに応えて精一杯わかりやすく話したつもりだが,将軍も周りの奴らと同じように笑っていたのでちゃんと聞いていたのかは怪しい。

 

「そろそろ時間だな……」

 

しばらくしてそう言った将軍は立ち上がって服の汚れを払うと,最初に歩いてきた方角に体の向きを変えた。

 

「楽しい時間だった。次回会う時に童信が……そうだな,千人将になっていれば期待通りかな」

 

千人将……縛虎申千人将と同じ階級か……!

 

それを聞いて俺は気分が高揚するのを感じたが,なんだか見透かされてるみてぇで気に食わねぇ!!

 

俺は既に歩き出していた将軍の背に向かって大声で叫ぶ。

 

「俺をそこらへんの奴らと同じように考えんなよ! 俺はあっという間にあんたを越えて大将軍になってやる! 次に会ったときは将軍が戦場で挙げれる武功はねぇと思っといた方がいいぜ!!」

 

俺が言い終わると,それと同時に将軍の足が止まった。

 

だけどそこで,俺は後ろに付き従ってた2人からの視線が鋭くなっていることに気が付いた。

 

今更ながら将軍に向かって失礼なことを言いまくっている実感が湧いて俺が内心で少しだけビビっていると,将軍がゆっくりと振り向いた。

 

 

「それは……これ以上ないくらい期待したくなる言葉だな!」

 

 

俺の心配とは裏腹に,そう言った将軍の顔に浮かんでいたのは満面の笑みだった。

 

 

 

~慶舎視点~

 

「親父は酒で潰れてるだろうな~。王騎将軍は大丈夫だったろうか……」

 

戦の後で機嫌の良い大殿に酒飲みの相手として捕まっていた王騎将軍を心配する殿に付き従って,私は少しずつ落ち着き始めた城内を歩く。

 

我々はあの信という少年兵と別れた後,この城の城主が使っていたという屋敷に向かっていた。

 

それから少しして,その屋敷の前に辿り着いたところで殿が言う。

 

「さて,寝る前にもう少しだけ働こうかな。左慈は明日の帰還に向けた最終確認を,慶舎は中央への報告内容を纏めるのを手伝ってくれ」

 

「「はっ!」」

 

殿の命令によって左慈が離れたことで殿と2人になったのを見計らって,気になっていたことを尋ねてみる。

 

「……あの信という男ですが,あの者が起こし得る"風"はそれほどのものですか?」

 

「…………」

 

以前に殿は,風と言う表現を用いられたことがある。

 

殿には我らの及ばぬ何かが見えていることはわかっているが,それを伝える際に風という言葉を使われたのだ。

 

あれは確か――

 

 

 

「慶舎……俺たちは志半ばで死ぬようなことがなければ,統一された中華を見ることが出来るだろう」

 

ある大きな戦が終わった後,殿から唐突にそう言われた。

 

その戦では敵味方共に多くの損害が出たこともあり,殿の顔にも隠し切れない疲労が見て取れた。

 

「……殿ならば,必ずや成し遂げられましょう」

 

私はそれを殿の決意宣言だと受け取ったが,どうやらそうではなかったらしい。

 

「いや,俺がそうするんじゃない。そうなる時が来るのさ」

 

「……それは一体?」

 

「そうだな……風とでも言おうか。中華が大きく動く時には風が吹く。戦や天災などで人が動くとそこに風が生まれる。誰もが風を起こすことが出来るが,強い風を起こせる者は限られる……」

 

大殿がよく口にされる"炎"のようなものだろうか? いや,それよりも大きい何かか?

 

「普段はバラバラに吹いているいくつもの風が一か所に集まる時……それらは大きな嵐となって中華の姿を変えるだろう」

 

殿はそのまま楽しそうに言葉を続ける。

 

「いずれ……この秦国に風が集まる時が来る。今はその時に備えて待つんだ」

 

「……御意」

 

 

 

殿があの少年に並々ならぬ期待を掛けられていることは見ればわかる。

 

これはもしや殿が……いや,我々が待ち侘びた時が近いのではないか?

 

殿の後ろに続いて屋敷の廊下を歩く私にはその表情は伺えないが,少なくとも殿が武者震いをしていることは見て分かった。

 

「……遂に,秦国に風が集まるのですか?」

 

そう口にしているこの瞬間も,私の心に宿った炎が沸々と燃え上がってきているのを感じる。

 

「ああ――」

 

殿はあの時と同じく楽しそうに……されど少し苦しそうに言った。

 

 

 

――未曽有の大旋風だ。

 




主人公「俺の黒歴史に触れるなーー!!」

次回は"馬陽"前になりそうです……かね?

それではまた!('ω')ノシ
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