火を絶やしたくない男   作:ヤチホコ

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……な,長めの20話です! どうぞ!!


20話 好敵手

~信視点~

 

「よし,今日も皆の頑張りもあって"王賁"のヤロォ率いる玉鳳隊の奴らを出し抜けた! 次も絶対ェ負けねぇぞお前ら!!」

 

「「「オォォーー!!!」」」

 

へへっ,どいつもこいつも疲れまくってヘロヘロだろうに,その目は生き生きとしてやがる。

 

近くの小さな丘の上まで移動した俺は,下の方で焚火を囲んで騒いでる仲間たちを見ながらそう笑った。

 

俺たち飛信隊も今では三百人隊になって,前以上に戦場での働きが期待されるようになってきた。

 

そんな俺たちは今,魏国との国境で起こってる小競り合いに駆り出されてる最中だ。

 

馬陽の戦いの後から周りの国々と秦国との国境で小競り合いが増え始めてるらしくて,ここもそのうちの1つって感じだ。

 

王騎将軍が負傷しちまったとはいえ馬陽はちゃんと守り切ったってのに,それでも秦国の武威に陰りが見えたって考えるヤツは少なくないらしい。

 

やっぱり天下の大将軍ってのは凄ェ影響力があるんだな。

 

将軍は戦の後にはすぐ治療に入ったからあれ以来会えてねェけど,この前に手紙が来たんだ。

 

俺は字が読めねェからその時偶々家に帰ってきてた河了貂に内容を教えてもらったんだが——

 

 

「――皆とともに修羅場をくぐれ……か」

 

 

そこには怪我の療養のためにしばらく誰とも会わないから修行をつけるって約束を果たせないことや,その代わりなのかいくつかの助言じみたことが書かれていた。

 

俺が将軍に直接修行を付けてもらうっていう話がなくなっちまったのは残念だが,それはもう自分の中で納得できてる。

 

悔しいが,今の俺の実力じゃあ将軍から直々に修行をつけてもらっても半分すらモノに出来るか怪しいって思ったんだ。

 

あの戦で俺たち飛信隊は馮忌って将軍や魏加って弓使いを討ち取る功を挙げて浮かれてたが,それと同時に戦を経て王騎将軍や騰副官,軍長たち……それに蒙武なんかのまさに桁の違う強さを知った。

 

今の俺じゃあどうしたってあの域で戦ってる将たちの世界に割って入れねェなら,王騎将軍の助言通りにひたすら戦場を駆けまわって方法を探りながら成長していくしかねェって気づかされた。

 

だから,あの戦で自分の力不足に打ちのめされてた俺にとってはその手紙を通じて将軍からもらった助言は他の何よりも重たいものな気がしたんだ。

 

まぁそんなわけで今に至るんだが,俺たちはこの派遣された小さな戦場で王賁とかいういけ好かねェ奴と出会って,そいつの玉鳳隊っつう士族の奴らだけで構成された部隊と功を競い合ってるところだ。

 

確かにあいつらは強ェし俺たちにねぇもんを持ってるが,俺たちが持ってるもんも負けてねぇし,十分に戦っていけてる。

 

……だけど,ここでの武功は俺たちにとっては目的じゃなくて手段だ。

 

こないだ昌文君のおっさんの部下でもある"壁"の兄ちゃんが教えに来てくれたが,次の大戦は魏との戦になりそうらしく,そこに向けた準備はもう始まってるみたいだしな。

 

俺たちはこの戦場でも武功を積み重ねて次の大戦に備えるんだ!!

 

 

「信殿,皆もここでの戦いを通して一皮むけましたな。特に尾兄弟をはじめとした什長たちのように複数の兵を纏める者たちのそれは目覚ましいものがあります」

 

俺が改めて気合を入れなおしていると,隣から機嫌の良さそうな声が掛けられた。

 

「ああ"渕"さん,やっぱりあいつらも前以上に上を目指そうって気持ちが湧き上がってんだろ。俺たちも負けねぇようにもっと頑張らねぇとな」

 

「ええ」

 

渕さんは,前に王騎将軍のところに修行をつけて欲しいと頼みにいった時からの付き合いで,馬陽の戦いの時からこの隊の副長を任せている。

 

隊を分けて戦う時なんかには欠かせない存在で,まさに'縁'の下の力持ち……なんつってな!

 

俺がそんなことを考えていると,1つの気配が近づいてきた。

 

「……そうだな。今の強さならお前はそのうち死ぬ。いや,すぐ死ぬ。驚くほどあっさり死ぬ」

 

渕さんの後ろからひょっこりと姿を現したのは,初陣の蛇甘平原で一緒に伍を組んだ時からの仲間でもある羌瘣だ。

 

馬陽で龐煖のヤロォに襲撃された時にも思ったが……こいつの強さは今のウチのやつらの中でも抜きん出てやがる。

 

あの時は干央軍長や録嗚未軍長の救援はもちろんだが,こいつの踏ん張りがなかったら俺たち飛信隊はどうなってたかわからねぇ。

 

それに,こいつは見かけ通りに秘密の多いやつでもある。

 

俺も政の暗殺未遂事件の後に本人から聞いてようやく詳しいところを知ったんだが,羌瘣は蚩尤とかいう女だけの暗殺者集団の住む里出身で,元々は行方知れずになってた姉貴を探すための情報集めとして秦国で色々とやってたらしいんだ。

 

どうやらこいつの故郷では仲間内で殺し合いをする胸糞悪ィ風習があるみたいなんだが,羌瘣はその姉貴の計らいで殺し合いに参加できなかったらしく,その時に姉貴の死体も見つけられなかったらしい。

 

だから羌瘣はひょっとすると姉貴は生きてないかもしれないって言ってたが,それならそれで仇を討たなきゃならねぇとも言ってた。

 

だけど,この前の馬陽の戦いが終わってしばらくした頃に突然姉貴に会えたなんて言い始めたもんだから,これからどうするのか聞いてみたら『しばらく考える』とか言いつつも飛信隊にますます馴染んでるのを見るに,ここが居場所だって思ってるみたいだ。

 

なんなら前よりも気合が入ってるのが分かるから,周りの奴らもそれにつられて頑張ってる。

 

……ただ,そういったこいつの事情のほとんどを隊の仲間たちは知らねぇ。

 

それどころか羌瘣が女ってことすら皆知らねぇハズだ。

 

俺は今の時点でこいつのことを仲間だと思ってるが,そのせいで羌瘣にはまた違った複雑な思いがあるらしい。

 

俺の口から言うのもなんか違う気がするから,その辺は羌瘣自身の納得のいくようにすりゃ良いだろう。

 

まぁこれまで一緒にやってきたやつらの中に今更グダグダ言うやつなんていないと思うけどな。

 

そんなわけで,こいつにもウチの隊で副長を任せているから,飛信隊は合わせて2人の副長を抱えてるってわけだ。

 

……つーかこいつ! 今更ながら聞き捨てならねぇことを言ったな!!

 

「んだと~!? こっちこそお前なんかあっさり突き放してやるからな!!」

 

「無理だな。それに私はその何倍もの速さで強くなる」

 

「言ったな!? だったら今ここではっきりさせてやらぁ! ……ッ!?」

 

――ガキィン!!

 

「トーン……タンタン……」

 

「し,信殿……それに羌瘣殿も落ち着いて……あぁもう周りの者たちも野次を飛ばすな!」

 

それから渕さんに窘められたせいで互いに途中で剣を収めたが,俺は改めて羌瘣の実力を認めざるを得なかった。

 

やっぱりあの龐煖相手に食い下がれたのは伊達じゃねぇ。悔しいが今の俺じゃ速さ1つとっても後手に回るしかなかった。

 

ああクソッ,もっと強くなりてぇって思いがドンドン湧いてきやがるぜ!

 

「へっ……でもまぁ,そんくらいやる気がある方が俺たちらしいよな。お前のことも頼りにしてるぜ! ケケケ」

 

そう言ってやると,近くで渕さんからの小言を聞き流してやがった羌瘣は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

……ったく,相変わらず可愛げのねぇやつだな。

 

そんな風に思いながら笑っていると——

 

 

「へ~,飛信隊って中々雰囲気良さそうだね」

 

 

――突然後ろから聞こえた声に,俺はほとんど反射で振り返った。

 

するとその先には,いつの間にか馬に乗った派手な格好の男がいた。

 

「おっと,驚かせちゃったかな? 飛信隊の信クン?」

 

……俺のことを知ってんのか?

 

男の言葉を聞き流しつつも俺がチラと後ろの羌瘣の方を見ると,警戒はしつつも驚いた様子はなかった。

 

……つまり少なくとも敵じゃねぇってことか。

 

「……なにモンだ,お前?」

 

見た目は若いな,俺とそんなに変わんねぇくらいか。馬に乗ってるってことは士族か?

 

……でも,だとしたら何の用だ?

 

「ん? あぁ悪い悪い,自己紹介もなしに高いところから……よっと!」

 

そう言って馬から飛び降りた派手男は,そのままこちらに向き直った。

 

「俺は君と同じで三百人隊の隊長をしてる蒙恬だ。楽華隊って知ってるかな?」

 

楽華隊……知らねぇな。王賁たち玉鳳の仲間か?

 

それにしても……蒙だと? そっちはどっかで聞いたような気もするが……。

 

俺がそう訝しんでいると,隣にいた渕さんが耳打ちしてくる。

 

「信殿……楽華隊の蒙恬といえば,先の韓への侵攻において大功を挙げたことで,今の秦国内で一二を争う注目度を誇る若手の将だと記憶しています。まさかまだ三百人将だったとは……」

 

「なにっ!?」

 

俺はそれを聞いて驚きながら,目の前の男を見る目を更に鋭くした。

 

そんな俺の様子を見てか,向こうは笑いながら話しかけてくる。

 

「そーんなに警戒しないでよ! ほら,三百人将同士なんだからもっと仲良くしよう」

 

そう言って派手男――蒙恬は手を差し出してきたので,俺は怪しみながらも渋々その手をとった。

 

すると——

 

――ミシミシッ!!

 

「……ッ!?」

 

こ,こいつッ……見かけによらず力が強ェッ……!!

 

俺が向こうの顔をチラと見ると,まるで見定めるような目つきでこっちを見てやがった。

 

クソッ…………だったら……俺も負けてられるかよッ!!!

 

「ルアァッ!!」

 

「……!! へぇ……なるほど,腕力だけなら俺より強いかもね」

 

俺が渾身の力で手を握り返すと,蒙恬も少し予想外だったのか力を緩めた。

 

その様子を受けて俺も力を緩めて手を離したが,今は何よりこの蒙恬という男から目が離せなかった。

 

「……マジで何モンだお前」

 

俺は先ほどと同じような疑問をこいつに投げかけていた。

 

今の瞬間,俺は手を握っただけだがこいつが間違いなく強いのが分かった。

 

単純な腕力じゃねぇ……風格というか雰囲気というか,何かもっとデカい力を感じた。

 

俄かには信じられねぇが,それこそあの王賁以上の……。

 

俺がそう考えながら少し息を切らしつつも尋ねると,蒙恬は目を細めながら楽しそうに笑った。

 

「だから楽華隊の蒙恬だよ……っていう言葉じゃ満足しないよね。うーん,じゃあ君にはこういったほうが理解し易いかな?

 

 

――俺も君と同じく『天下の大将軍』を目指す者さ」

 

 

「……ッ!?」

 

まさか…………こいつも……!?

 

蒙恬からの返答に俺が衝撃を受けていると,どこからか声が聞こえてきた。

 

 

――どこにおられるのですか蒙恬様~~~!!

 

 

その声はだんだんと近づいてきて,声の主は馬に乗った爺さんだとわかったが,そいつは俺たちの前にいた蒙恬の姿を見つけると一目散に近づいてきた。

 

「蒙恬様! こんなところにおられましたか!! 突然いなくなられたので何事かと思いましたぞ!!!」

 

「アハハ……ごめんってじィ。そんなことよりほら,目の前の彼があの飛信隊の信だよ」

 

蒙恬からじィって言われたその爺さんもそれを聞いて釣られるようにしてこっちを見た。

 

「なんとこの少年が! ということは蒙恬様は――」

 

「うん。ここに来たのは彼らn――「いけませんぞ!!」……え?」

 

蒙恬が何か話そうとしたら,爺さんが凄い剣幕でそれを遮った。これには蒙恬も驚いてやがる。

 

「いくら蒙恬様とはいえ,彼が以前に麃然様から勧誘されたという話に嫉妬して揉めるなど見過ごせません! 蒙恬様がその話を聞いて床を転がりながら悔しがられていたことはじィがよく知っておりますが,それとこれとは話が別ですぞ!!」

 

「いやいや余計なこと言わないでくれないかなじィ!? 今,完全にそういう雰囲気じゃなかったよねぇ!! というか流石の俺もそんなことしないよ!? ……まぁそんな気持ちが全くないわけじゃなかったけど(ボソッ)」

 

……な,なんなんだ一体。

 

目の前の2人が言い合いを始めたせいで,さっきの緊張感漂う雰囲気は完全になくなっちまった。

 

だがそれより,今はさっき蒙恬が言おうとしてたことが気になる。

 

「お,おい! 結局俺らになんの用だったんだよ!!」

 

俺がそう言って2人の間に割り込むと,蒙恬の方が反応した。

 

「ん? ああ,別に特別な用があったわけじゃないんだ。ただ,偶々近くを通りかかったからさ。対魏の大戦もそろそろ始まりそうだし,どうせ一緒に従軍することになるだろうから,早めに顔合わせでもと思って」

 

「なんだとッ!? 戦が近いのか!!」

 

俺は思いがけねぇ朗報につい声が大きくなる。

 

「うん。というのも,それより先に別の戦が始まりそうなんだよね」

 

「ハァ? なんだそれ聞いてねぇぞ!!」

 

別の戦だと!? そっちは本気で初耳だぞ!?

 

すると,俺の顔を見た蒙恬がこちらの考えを読んだかのように話を続ける。

 

「ハハハ,まぁそっちに関しては俺たちはどうせ呼ばれないから知らないのも無理ないか。ただ,これのおかげで南の戦場に動きがあって,隣国でも最も厄介な楚に対する備えに余裕が出来て戦の用意が進んだんだ」

 

楚国か……俺はまだ戦ったことはねぇが,強ェって話は聞くな。

 

「……どういうことだ? 楚とも戦争すんのか?」

 

……ただ,魏と戦争しようって時に楚とも戦争をすんのがわからねぇ。 なんでそれが余裕に繋がんだよ?

 

だが,それを聞いた蒙恬は一瞬だけきょとんとした後,慌てたように手を振った。

 

「え? あぁごめんごめん! 楚とは別に戦わないよ! 敵はそれよりも南の異民族たちだ」

 

「……異民族?」

 

「ああ,今回はその中でもこの中華の南方に広がる世界で生きる者たちさ。列国の中でも中華の南部を領する秦や楚は長く彼らと戦ってきたんだ」

 

なるほど,山の民みてぇなもんか。まぁこっちは秦と今も戦ってる部分で違いがあるみてぇだが。

 

「……じゃあそいつらが何か変なことしたから楚がそっちを警戒してるって話か?」

 

それなら秦との国境が落ち着くっつー話もわからなくもないが……。

 

「うーん,まぁ半分は正解かな?」

 

「半分?」

 

「楚国は百越以上にある秦軍を警戒しているんだ。だけど,その秦軍は秦国政府にとってはこの場合だと不安の種になりえない。実はこの状況で台風の目になっているのはその軍で,彼らのことは信もよく知ってると思うよ?」

 

……俺もよく知ってるだと? ダメだわかんねぇ。

 

俺がその軍の正体に思い至らねぇまま考えているうちにも蒙恬の話は続く。

 

「というか,秦国で江南の変事の対応に当たれる軍は本当に限られてるんだ。その筆頭が——」

 

蒙恬がそこまで言ったところで,そこに割り込む声があった。

 

「――麃公軍だ」

 

その声の出どころは,これまで俺の後ろでずっと黙っていた羌瘣だった。

 

そして,それを聞いて蒙恬も頷く。

 

「……その通り。そこの副長さんは知っていたのかな?」

 

「…………」

 

羌瘣はそれにはこたえず,蒙恬の方をジッと見つめている。

 

「あれ? 実は俺って思ってる以上に歓迎されてない感じ?」

 

その視線を受けて蒙恬も気まずそうにしている。

 

ったく,いきなりなんだってんだよこいつは……というかその軍って蛇甘平原で俺たちを率いたあの麃公軍なのかよ!?

 

俺が興奮していると,蒙恬が咳払いをした。

 

「き,気を取り直して……麃公軍は,旧六将制度が形骸化した現在では南の異民族たち限定とはいえ自由に大規模な戦争が仕掛けられる唯一の存在だ。とはいえ,それはつまり楚との私戦は認められてないってことだけど——中央から密命が出ている可能性が否定できない時点で楚としては備えざるを得ない。」

 

『まぁ出てないらしいけど』なんて言って笑う蒙恬を見ながら俺は少し考える。

 

……つまり,楚は念を入れて軍を動かしたってことか。

 

「ただ,あの人たちなら無理やり成果を出して中央に追認させるようなことをしても不思議じゃないんだよな~~」

 

蒙恬がそう言って空を見上げて苦笑いしていると,俺の後ろから今度は渕さんが声を上げた。

 

「た,確かに主な戦場の情報はある程度は把握していると自負する私も秦・楚間の国境沿いの兵が減った話は耳にしています。しかし麃公将軍が楚国との国境警戒の任から離れたという話は聞いておりませんが……」

 

それを聞いた蒙恬は頷いた。

 

「うん。それは確かに正しいよ。だってその戦の総大将は麃公将軍じゃなくて,その息子である麃然将軍こと俺の将来の義兄上だからね!」

 

おぉッ! あの麃然将軍か! ……って将来の義兄ってどういうことだ?

 

「……今はまだ蒙恬様の願望に過ぎませんがな」

 

「ねぇ!? 毎回毎回水を差さないでくれるかなじィ!?」

 

……な,なんかまた面倒くさくなりそうだからそっちの話はもういいや。

 

それよりも――

 

「――へへッ! じゃぁそっちの戦の方は心配ねぇな! あの人が負けるわけねぇ!!」

 

俺が勢いよくそう言うと,蒙恬は途端に難しそうな顔をする。

 

「うーん……俺もそう思うけど断言はできないかな?」

 

「あ? なんでだよ?」

 

「今回の敵は長江より南に位置する牂牁の地を中心に勢力を築く夜郎と呼ばれる勢力らしいんだけど,実は以前に義兄上たちは一度目の南征であの地域の占領に失敗したって話がある」

 

「なっ!? ウソだろ!?」

 

蛇甘平原の戦いではあんなに強かったんだぞ!?

 

「まぁ少なくともここしばらくは大規模な侵攻がなかったのも事実だ。恐らく,俺たちが思っている以上にあの地域への侵攻戦には難しいものがあるんだろう。それでもあの常勝軍団が再度の戦に踏み切ったということは――」

 

俺はまるで次元の違う世界の話を聞いたような気がして無意識に唾を飲んだ。

 

「――風が集まったんじゃないかな?」

 

「は?」

 

俺は思わず呆けたような声を出して固まってしまう。

 

「アハハ,まぁこれはいつかの義兄上の言葉を借りただけさ。多分だけど時機が訪れた的な意味だと思う」

 

俺はそれを聞いてなんとか気を取り直す。

 

「……じゃあその時機ってなんだよ」

 

俺がそう聞くと,蒙恬は上を向きながら少し考えて言った。

 

「そうだな……ホントのところはわからないけど,例えば純粋に兵力に余裕が出来たとか,もしくは敵の方で何か混乱が起こったとか,あとは――」

 

そこまで言ったところでこちらに向き直って続けた。

 

 

 

「――後方の憂いを残せない程の大戦の準備が必要になった……とかね」

 

 

 

……!? 大戦の準備のための戦……!!

 

俺があまりの規模間に驚いている間にも蒙恬は話を続ける。

 

「あるいはそれら全てだったりするのかもしれないけど,本当のところはわからない。ただ……もし本当に,数十万の兵を興せるとも噂される彼らにとっての大戦の準備だったら,もう俺たちにはどうしようもない世界だよね」

 

そんなことを言いながらヤレヤレという風に首を振る蒙恬だったが,俺はその時の目の光を見逃さなかった。

 

その後もいくらか他愛もない話をしたが,俺はその時の蒙恬の目が頭から離れなかった。

 

 

「さて,少し長居し過ぎちゃったかな? 俺たちはここらでお暇させてもらうよ。それにしても今日は楽しかった。またすぐに会えると思うから,お互いに頑張ろうね! いくよ,じィ!!」

 

「ハッ!!」

 

そう言って蒙恬は連れの爺さんを呼んでから自分たちの馬に跳び乗ると,そのままもと来た方向に駆けていった。

 

俺がそのまま2人の……いや,蒙恬の背中を目で追っていると,不意に隣から羌瘣の声がした。

 

「……気付いているか?」

 

「……ああ,とんだ曲者だったな」

 

「え? ふ,2人とも何を……?」

 

渕さんは気付いてねぇみてぇだが……あの蒙恬とかいうやつ,親し気な雰囲気で話しながらも終始こっちを値踏みするような目で見てやがった。

 

さりげなくウチの隊のやつらの様子も探ってたみてぇだし,なにより未来の大戦の話の時に目に宿してた闘志は俺でさえ気圧されそうだった。

 

一見すると軽そうな男だったが,どこまでがあいつの素なのかはわかんねぇ。

 

だけどやっぱり,天下の大将軍を目指すなんて言うだけあって,熱いものを秘めてやがる。

 

「……あの男,強いぞ。お前より余程天下の大将軍とかいうのに近そうだ」

 

「へっ,上等だぜ。もとからそんな簡単な道のりだとは思っちゃいねぇ」

 

やっぱり競い合う相手がデケぇ方が燃えるってもんだ。

 

王賁の野郎だけだと思ってたが,それに加えてあの蒙恬ってのもまとめてぶっちぎってやろうじゃねぇか!!

 

俺はその場で上を向いて,膨れ上がったやる気を吐き出すかのように空に向かって吠えた。

 

 

っしゃーー!! やってやらぁ!!!

 

 

「「……うるさい(です)」」

 

信の突然の咆哮に、副長2人は耳を塞ぎながら声を揃えて抗議の声を上げた。




次回から主人公による侵攻が始まります!
原作にない戦いを長々とするのもあれなので,3話くらいのでスピード重視でまとめ……たいなぁ(願望)

それではまた!('ω')ノシ
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