~麃然視点~
——ザザバァン!
「「「セイッ! セイッ!」」」
「よォし! 全船この速度を維持しろォ! 常に船列を乱さぬよう気を張れィ!!」
「「「オオウッ!!!」」」
跳ね上がる水しぶきの音と周囲に飛び交う男たちの怒号が俺の聴覚を支配する。
そして目の前に広がるどこまでも続いている水の道と,その上を埋め尽くしながら数多の船が進んでいく光景が俺の視覚をも釘付けにしていた。
そうした刺激に包まれていると,突然近くから聞こえたドタドタという大きな音に意識を引き戻され,そちらに顔を向ける。
「いやはや,まっこと壮観ですなァ! 麃然様!!」
するとそこには,船べりから大きく身を乗り出しながら飛び跳ねてはしゃぐ満羽がいた。
そして周りでは部下たちが必死にその体を支えていた……なんかお疲れ様です。
「……確かにそうだな。あと落ちても引き上げんから気を付けろよ」
「お,向こうで魚が跳ねましたぞ! 凄い迫力ですなァ!」
……ダメだこいつ。ちっとも話を聞いてない。それに飛び跳ねるお前の巨体のほうが余程迫力があると思うが。
俺が謎の活力に満ちた満羽に呆れていると,もはや定位置のごとく俺の側に立っていた慶舎が話しかけてくる。
「……これまでに見慣れたつもりでいましたが,商品,人,そして戦をも運ぶ……これが"長江"のもう1つの姿ですか」
「ああ,そして今回の戦では俺たちに勝利を運んでくれることを願うばかりだ」
俺はそう言って大きく息を吐き出した。
俺たちは今,南方征伐に向かうべく,中華が誇る二大河川の1つとして秦国の南方に横たわる長江を船で下っていた。
計画の上ではこのまま東に進んだ後に支流に入り,そのまま敵の懐である牂牁まで一気に南下する予定だ。
因みに,後に起こるであろう五か国合従軍との戦いを見据えて俺が突発的に提案した今回の戦だが,特に反対されることもなく親父や同僚たちに受け入れられた。
それは皆が戦に飢えているのもあるだろうが,そう遠くないうちに夜郎どもと雌雄を決する時がくることになると薄々感じていたのかもしれない。
そこまで考えたところで,俺はまた船の周囲に視線を動かした。
周囲に浮かんでいる船団は,俺を含めた約5万人もの将兵を乗せている。
それだけに,今回のために用意した船の数は千隻近くにもなり,このような大船団が出来上がってしまった。
今回は敵の性質上,船を使った水上戦が発生する可能性は低いと考えていることから,船種の構成としては改造した"走舸"のような小型の高速船から"川ジャンク"などの中型船,更には俺が乗る"楼船"のような大型船など多種多様だが,それらは全て装甲を薄くする改造を施すことで守りを犠牲にする代わりに速度を向上させ,積載のためのスペースも増やしている。
そのせいで船の防御力は低下しており,敵船襲撃用の"蒙衝"などの船も用意していないが,問題はない。
それは,この船団の主目的はあくまで兵士と兵糧,馬などの輸送だからだ。
馬に関しては連れてきた頭数はあまり多くないが,俺の愛馬も含めて西方から来た種の流れを汲む名馬ばかりであり,中華南部の馬は品種の関係か北や西のそれと比べると体格が良くない場合が多いため,十分に活躍してくれるだろう。
さらに,今回のような大規模な侵攻戦には中途半端にも思える5万という数の兵をわざわざ船で輸送しているのにも理由がある。
「……陸路から先行した千斗雲軍の動向も気になります。この地では本当に何が起こるか分かりませんからな」
慶舎が今言ったように,今の俺たちは軍を2つに分けて侵攻を行っているのだが,それぞれが異なる役割を持っている。
簡潔に言えば,向こうは囮と占領のための軍でこちらは決戦のための軍となっているのだ。
これは,陸路からは千斗雲軍が大々的に侵攻することで敵の目を引き付けるとともに道中の占領と兵站拠点の確保を担い,俺たちは彼らを囮として利用しつつ素早く密かに川を通じて敵の本拠地を急襲することで戦争の早期終結を狙うという作戦のためだ。
千斗雲には役割の都合上こちらの倍である約10万の兵を預けており,更には陸路による侵攻なので,それだけでも当然のように船を使う俺たちよりも進軍速度が遅い。
そのため,確かに彼らを囮として機能させるために俺たちは遅すぎても早すぎてもよろしくないのが難しい部分ではあるな。
そして,夜郎はここしばらく俺たち以外の周辺地域への拡大を進めており,現在も西の邛という勢力を併呑するための戦を行っているという情報が入っているため,防衛が比較的手薄である可能性を期待できる時期の侵攻というのもこの兵数の理由の1つではある。
あちらは文化圏が異なるために密偵を送り込む難易度が高く,情報の入手も一筋縄ではいかなかったが,実際に軍が動くのを確認したようなので,信憑性は高いだろう。
勿論,船で輸送できる限界を考慮しての数というのは言うまでもないが。
……そして,慶舎の口から出た何が起こるか分からないという不安も理解できる。
これは恐らく1度目にして前回の南征の失敗による影響だろう。
あれは俺の戦への意識を大きく変え,戦術的勝利が戦略的勝利に直結しないことを深く刻み込む出来事になった。
あの時は親父も含めた全軍でもって陸路から一気に南方へ進軍し,待ち構えていた敵との平野部での決戦にも勝利できたのだが,ある要因で撤退せざるを得なくなったのだ。
それは——環境だ。
慣れないものの気候までは気合でなんとかなっていたが,道中では現地調達した食料が体に合わず体調を崩す者が続出し,更には疫病が蔓延したことで兵の多くが戦線離脱する事態が起こった。
先の通り幸いにして決戦には勝利したものの,とても敵への追撃と本拠地の制圧によってとどめを刺す余裕はなくなってしまった
あれは俺たち指揮官クラスは無駄に体が丈夫なせいで異変に気が付くのが遅れたのが被害の拡大を許してしまった原因の1つでもあるが,何より侵攻前の時点から未知の土地へ赴くことに対する兵士のストレスを考慮していなかったのがマズかった。
この時代の南方地域は,当時のいわゆる中華圏に住む多くの人々にとって別世界に等しい場所であり,冗談抜きで怪物や妖怪がいてもおかしくない,なんならいると信じられていたようだ。
時代のせいと言えばそれまでだが,まだまだ神秘的な思想が一般的だったというだけでなく,この時代の情報の伝達はもちろん人づてなことに加え,物理的距離のせいで伝わっていくうちに数多くの噂話が混じることもあってそういった話は広く信じられていた。
多分,誇張があるかもしれないが,俺の感覚で例えるなら前世の世界で一般人が宇宙に戦争しにいく感じだったのかもしれない。
戦国七雄と呼ばれる国同士はなんだかんだで心理的距離も近い中華圏であり,さらに言えばその間での移動であっても兵士にとっての不安があるだろうに,その外に関しては言わずもがなである。
……そういった意味でも,秦の西に広がる山々に住まう山の民と同盟を結んだ今の秦国大王は傑物だよな。かつての秦王である"穆公"の時代に親交があったとはいえ,それは数百年前の話だからな。
話が逸れたので戻すが,そういう理由もあって一度大きな問題が起こると士気が急速に低下し,更には敵の残党からもゲリラのごとき散発的な襲撃が続いたことで,退却の際にその時点で占領していた土地の大部分も放棄することになってしまった。
言い訳になるが,俺にとって当時は今以上にこの世界の人々に対して逞しいイメージが強すぎたので,そういった懸念点を完全に見落としていたのだ。
総括すると,俺含めた自軍の全員がこの地への侵攻戦を舐めていたということになる。
その反省から,戦後は領地南部への移民を継続的に行い,調子に乗って逆侵攻してきた異民族たちに対して地道に勝利を重ねることで領内の兵に奴らとの戦いとその土地の環境に慣れさせる方針を執ってきた。
夜郎との戦で王を心服させようと捕縛と解放を行ったあの行動も,あの土地を強引に支配することに対する俺の恐れのようなものも交じっていたりもする。
……仲間たちは面白半分でやっていると思っているのかもしれないが。
今回の作戦も陸路と川路という2種類の道を用意することで輸送と連絡の線を複数確保するという目的もあるため,前回と比べるとかなり慎重な計画となっている。
だからというわけでもないが,今回は千斗雲にも副官の満童とよく相談して迂闊なことをするなと言い含めてあるし,問題はないはずだ。
「心配するな。千斗雲はふざけた男だが……この大役を任せるに足る男だ。あいつには部下の言葉を聞き入れる度量と兵を惹きつける魅力,そして何より逆境を跳ね除ける運がある」
……決して先日の会議で居眠りしたうえに『俺は睡魔って強敵と戦ってたんだ』などとふざけたことを抜かしたあいつへの罰として任せたわけではない!
俺が慶舎の不安に対して返答すると,慶舎は一度目を瞑ったかと思えば,こちらの目を見ながら口を開いた。
「……それを本人に直接伝えれば大層喜ばれるでしょう」
「死んでも言わん!!」
「…………」
俺はその戯言に即答すると,なおも見つめてくる慶舎を無視しながら咳ばらいを1つ挟んで話を変える。
「それに……俺たちの方ものんびりとはしておれん。モタモタしていれば東から楚軍が出張って来る可能性もある」
そう,俺たちの側の最大の懸念の1つに楚軍による妨害というものがある。
秦国の宿敵というと趙国と言われることが多く,実際長平の戦いなどの影響もあって両国の因縁は深いが,俺たちからすると楚国も宿敵である。
そもそも,俺たちが領地としている蜀の地を秦国がかつて征服した理由が楚国に対して地理的優位を取るためだからな。
更に言えばこれから俺たちが攻めようとしている牂牁は数十年前までは楚国の影響力が及んでいた土地とされているし,なにより今の夜郎王族はそっち方面の血を引いているという話まである。
その話によると,どうやら秦国の東方への勢力拡大によって分断された現地の勢力が拡大した結果として今の夜郎たちがいるらしい……まぁ,本当のところはわからないが。
しかし,そういう話がある以上,楚国にはちょっかいをかけてくる動機は十分にあるということだ。
加えて楚国は秦国の隣国だが,この時代は砦や城といった点同士を線で結ぶような支配が行われているため,国境線がひどく曖昧な場所が多い。
特に秦楚のように中華の端にある大国は異民族の領域に接続していることもあって軽い領土侵犯は日常茶飯事だったりするとはいえ,今回の俺たちは大きく東回りで侵攻しているので楚国を刺激する可能性は十分にあるのだ。
なるべく目立たないように準備してきたつもりだが,楚国も秦国に負けず劣らず国土が広いので隠れた軍事行動の多い国だ。
遅かれ早かれ警戒の軍が出張って来るだろうことは容易に想像できるし,それがいつになるか確かなことは分からない。
楚国にもこちらの息がかかった者はいるが精々が城主クラスであり,尚且つ俺たちはかなり警戒されているようなので,情報封鎖されると入ってこなくなる情報も多い。
だから俺たちは楚軍に捕捉されないうちにこの辺りは急いで進まなければならないのだ。
実は先に言った船の軽量化改造もその辺りの事情が絡んでいたりする。
船の守りを半ば捨てるという大きなリスクを負ってまで速度を上げる工夫をした点に覚悟の度合いが見えると思う。
……そのせいで出費が嵩んだので俺の懐は大打撃を食らったがな!
領地が長江に近いこともあって以前から自前の水軍を育成・運用してきたので船を用意するのは難しくなかったが,それらを短期間で改造するのに金がかかってしまった。
ただでさえ兵糧の調達を含めて莫大な戦費がかかっているのに,これのおかげで先の昌平君からの護衛依頼の謝礼と昨年の領内の鉱山採掘による利益が吹き飛んでしまった。
それもあって今回の戦は金がかかっており,もし再び失敗でもしようものなら次の侵攻は何年後になるかわからないため,今回の戦は必勝を期して臨まなければならない。
「まぁ,楚軍に関しては代わりに親父たちが割を食う可能性はあるが……」
俺たちが遠征に出ていると知って逆に親父たちが詰めている国境部の何虎塁に楚軍が押し寄せる可能性もあるが,念のために紫詠を親父に預けてきているので大丈夫なはずだ。
……なお,親父の直下兵の一部を俺が借りてきているのは考えないものとする。
何より親父なら戦の機会が増えたと喜びそうなものだし,負けないのならば向こうで戦が発生しようとあまり問題ない。
俺がそんな言い訳を色々と考えていると,隣で慶舎が顎に手を当てて顔を険しくしているのに気が付いた。
「どうした?」
「……いえ,改めてあの国は油断ならないと考えておりました。なにより……奴らは以前の暗殺者の件に関して裏で糸を引いていた最有力候補です」
その言葉を聞いて,俺も目を細めた。
以前の暗殺者の件というのは蚩尤による襲撃の話だろうが,あの後その雇い主は結局確定できないままになっている。
……しかし,大まかな予測は立てられる。
そのうえで有力な候補として挙がったのが,秦の呂不韋と楚の春申君だ。
趙国も近頃密偵への警戒が強まってきており入って来る情報が減ったことで少し怪しかったが……あの国には強い動機がなさそうだからな。
まず,我が国である秦の呂不韋一派に関してだが,彼らは実際に政敵——大王派閥の要人の暗殺を行っており,呂不韋からの勧誘に靡かない俺たちが危険分子と見られている可能性は十分にある。
俺が蒙武や昌平君といった呂不韋四柱の一部の面々と個人的に友誼を結んでいるとはいえ,呂不韋の最側近にして暗殺などを主導している李斯は必要と考えれば躊躇いなく命を狙ってくるだろう。
ただ,俺個人としては呂不韋がそれを許す可能性は低いと考えている。それは,呂不韋と言う男の器に対するある種の信頼でもある。
彼は先代の秦王に取り入ることによって実際今まさに大国秦における人臣を極めんが如き存在となっているように先見の明があるだけでなく,例として秦国六大将軍の1人であった摎などと共にかつては中華で覇権を握った周国にトドメを刺し滅亡させたことなどの業績もある。
心情的にも大王と敵対する彼と手を取り合う未来が訪れる可能性は低いが,彼の能力はこの時代においてまさに傑物と言わざるを得ないものがあり,秦への貢献も凄まじい。そして,結果論になるが彼なしでは史実の秦が天下統一を成し遂げることが出来なかっただろうとも考えている。
そんな男が俺たちを全面的に敵に回しかねないリスクを飲み込んでまでこのようなことをさせるとは思えない。
そして,そう考えた時に最有力候補となったのが,原作では後の合従軍を率いる総大将を務めることにもなる楚の春申君だ。
楚で宰相を務める彼とは満羽や千斗雲を取り込んだ件のこともあって俺も面識があるが,あれは明らかに大分俺のことを嫌っている。
それ以前に秦国を嫌っているのかもしれないが,なにより楚国にとって俺たち麃公軍は目の上のたん瘤的存在だろうし,俺たちとはハナから仲が悪いので,向こうにとっては睨まれたところで痒い程度だろう。
そして,あの男はそう言った手段を厭う性格ではない。
そういう背景もあって,俺たちの中で楚への警戒度はあれ以来さらに上がっているのだ。
「そうだな……ふむ,それにそろそろ斥候として放っていた彼女も戻ってくる頃か…………ん? おお,噂をすれば」
俺はつぶやきの途中で視界の端に白い何かが映り込んだのを確認すると,その話を切り上げた。
そしてそれに気が付いた慶舎と2人揃ってそちらに顔を向けると,右側の対岸の方から船の上を次々と飛び移りながら近づいてくる人影があった。
それを見た俺はその場で口を開く。
「ご苦労だった。それで,楚軍の接近はあるか」
俺がそう言うや否や,その直後に目の前に降り立った人影——羌象は報告を始める。
「はいっ! まだ距離はありますが東からこちらに向かう楚の軍勢を確認しました。このままの進軍速度であれば追いつかれることはないでしょうが……念のため急いだほうがよろしいかと」
羌象はやはり疲労が溜まっているのか肩が上下に大きく動いているが,息はあまり荒くなっていないように見えるのは素直に凄いと感じる。
「そうか,とりあえずこれでも飲んで休んでいるといい。……うーん,少し面倒だがあいつに相談しにいくか……」
俺は羌象に懐から取り出した竹の水筒を渡すと,そのまま唸りながらそう言って目的の人物がいる後方にある船楼に向けて歩き出そうとすれば,その方向から特徴的な笑い声が聞こえてきた。
「フハハハハ!!! 話は聞かせてもらいましたぞ!!!」
それを聞いて声の主を確認すると,それは俺の目的の人物だった。
「……ならば話が早いな"青忠",それでどうだ? やはり難しいか?」
俺がその人物,今回の侵攻における影の主役とも言える麃家水軍の長を務める青忠にそう尋ねると,彼はただでさえキマッた目をさらにかっぴらいてこちらに近づいてきた。
「笑止! 我ら麃家水軍の力を甘く見てもらっては困りますぞ!! ようやく今日の水の流れに慣れ始めたところ!!! それに丁度もうすぐで支流に入ろうという瞬間!!!! なーによりィィィィ——!!!!!」
するとそこで一度ためを作ると,今度は天に向かって右手の人差し指を突き上げた。
「先ほどから感じるこの追い風の気配! キテおりますぞ!! 五つの風が吹き渡ろうとしておりますぞォォォォ!!!」
先ほどから呆気にとられる俺たちを意に介した様子もなくこの男はさらに続ける。もう止まらないようだ。
「天祐! これぞまさに天が我ら麃家水軍の活躍を歓迎している証ッ!!」
そう言うと今度は船首の方に駆けだしていき,そのまま忙しなく動き回る兵たちを押しのけ船の最前に辿り着くと,自身に注目を集めるかのように船団全体に響き渡る大声で叫んだ。
「これより更に速度を上げるゥゥゥ!!! 明るい内にまだまだ進むぞ! 腕が動かなくなろうが気合で漕ぎ続ろォォォ!!!」
「「「ハハァッ!!!」」」
そうして青忠と兵士たちの割れるような叫びが響き渡ると,船の揺れも大きくなり始めた。
その揺れのおかげで俺が狂っていた調子を取り戻していると,いつの間にか背後にいた満羽が笑っていた。
「ハッハッハ! 相変わらず騒がしいですなァ! まぁ,あの者もこれほど大きな出番が回ってきたことで昂っておるのでしょう」
「……確かにこれほどの船団を動かす機会など中々ありませんからな」
慶舎も納得したようにそれに頷いた。
先ほどの青忠という将は原作では鄴攻め編において趙国を攻める秦軍に黄河経由で兵糧を輸送する任務を任されたが無念にも失敗してしまった哀れな男である。
俺が蜀への領地替えに際して水軍の将を探していた際に見つけたのだが,強い野心があったのかわざわざ中央から遠い地に来る話に乗ってくれたのだ。
後宮に送り込んだ趙高もそうだったんだが……成り上がる野心がある奴はウチの空気に感化されやすかったりするのだろうか? 最初は両者ともそこまでハジけた奴ではなかったのに……。
俺が心の中で密かに嘆いていると,満羽がさらに話しかけてくる。
「いやぁ,此度の戦も待ち遠しいですな! 未知に満ちた土地でどのような戦ができるのか楽しみだ!」
戦に対してどこからそのワクワク感が湧いてくるのか俺には理解しがたいが……ロマンなら少しだけ感じなくもない。
どれほど可能性があるかはしらんが,南西にある程度の進出が叶えばその先の地域との交易が実現するかもしれない。
広州だけでなく,インドシナ半島やインド亜大陸への道が開けるかもしれないと考えるのは楽しくはある…………考えるのはね!
それに,あのあたりは史実でも秦の天下統一後でも支配が及んでいたか怪しい土地だ。中華王朝の支配領域に完全に組み込まれるのは確か早くて秦より後の漢の時代になるはず……。
そう考えると,なにやら偉業に挑んでくるようで高揚しなくもない。
「なるべく戦わずに済むのが嬉しいが……まぁどこかで決戦を行う必要はあるだろうな」
これまでの下地を活用するためにも夜郎王とは俺が一騎打ちでもして白黒つける必要があるだろう。
これは,これまでに俺たちとの戦に負け続けているにも関わらず未だにその地位を追われていないあの王の異常な人望があれば,彼を従えられれば混乱なく戦後もあの地を治められるはずだという思惑によるものだ。
慣れない土地でイチから支配体制を組み上げるような苦行はしたくないし,本国での戦に集中したいから今回の軍事行動を起こしたのに余計な手間が増えてしまっては本末転倒である。
個人的には準同盟くらいの緩い支配でもいいと思っているのだが,それは向こう次第だな。
今言えるのは,早く決着を付けるためにもあまり多くの兵が敵の本拠地に残っていないことを願うしかないというだけだ。
俺がそう考えていると,船団が大きく進路を変え始めた。どうやらここから南下していくようだ。
いよいよか……気を引き締め直さなければ!
そこで俺は近くで水筒の水をチビチビ飲んでいた羌象の肩を掴むと,微笑みかけながら言った。
「よし! では今度はこの先の偵察を頼んだぞ!!」
「あっ…………え゙!?」
ハイ,前話で言ったようにあと2話じゃぁこの戦が終わらなさそうな予感がします(汗
次回は麃公の様子と侵攻を受ける夜郎側の様子についての話になると思います!
更新頻度も上げていかないとですよね……頑張ります!
それではまた!('ω')ノシ