火を絶やしたくない男   作:ヤチホコ

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今週は何事もなくアニメが放送されて良かったです! 桓騎軍は威圧感が感じられて格好よかったですね! ということで5話になります! どうぞ!


5話 束の間の平穏

~麃然視点~

 

「ふ~,やはり平和が1番だな」

 

俺は風呂上りに屋敷の廊下を歩きながら呟いた。

 

実はこの屋敷には大浴場が設置されており,その日の疲れを汚れと共に洗い流すことが出来るのだ。維持に金はかかるが,俺以外でも使えるしなによりお金なんて使いに使って経済回すためのシロモノだから別にいいでしょ!

 

ここに帰還してからしばらく経つが,その間は比較的平和な日々が続いているので俺ものんびりと内政に励むことが出来ている。

 

そうは言っても俺は別に前世の知識で色々とやって内政無双したりしているわけじゃない。正直なところ今のままでも困っていないので,そういったことに手を出す必要性を感じていない。必要なことを必要なぶんだけやれば豊かなこの土地は勝手に栄えてくれるのさ。

 

……それにもしも下手に結果が出たせいで今より忙しくなるのはまっぴらごめんだしね!!

 

「平和が1番のう……いったいどの口が言っておるんだか……」

 

「……いえ先生,もしや今の一言にも何か深い理由が――」

 

因みに今の俺の横には一緒に湯に浸かっていた寿胡じぃと慶舎がおり,3人並んで歩きながら駄弁っているところだ。

 

それにしてもあまりにも酷い言われようじゃない?

 

「生憎だがそんなものはないぞ……そもそもそこまでおかしな話でもないだろう」

 

俺はそう言ってただの本音だと伝えるが,それに対して2人は微妙な顔でこちらを見てきた。

 

「戦場での若の暴れようは聞いておるわ……それでいてよく言うわい……」

 

「……これは戦が近そうですね」

 

……物騒なことを言うのはやめてくれ,それに別に野郎にそんな目で見つめられても俺は嬉しくないぞ。

 

そもそも別に戦場でも親父と比べればそこまで暴れてないでしょうに……基本的に自分たちが勝てそうなぶつかり合いしかしてないしさせてないよ俺は!

 

まったく……麃公軍内で俺ほど平穏を愛する者もいないだろうにこいつらはわかってない……わかってないなー。

 

そんな不満を抱きながらも会話を続けていると,角を曲がって廊下の反対からやってくる人影を見つけた。

 

「……ん?あれは――」

 

その人物は派手な格好をした若い男で,向こうも俺たちに気が付いたのか,手を振りながら近づいてきた。

 

「おっ! お久しぶりです麃然将軍! いや,将来の義兄さん!! いや~やっぱりこの辺りは都会だけあって華やかですよね~!」

 

また性懲りもなく来やがったなこの蒙家のチャラ男が……。

 

「"蒙恬"……お前まさか……」

 

「ア,アハハハ~」

 

俺からのジトっとした視線を受けた蒙恬は頭の後ろで手を組みながらこちらから目を逸らした。

 

……俺の可愛い妹を誑かしに来たと…どうやら死にたいらしいな。

 

「慶舎……」

 

俺は横にいた慶舎に手の平を見せながら俺が愛用する矛を持ってくるようにジェスチャーで指示する。

 

「……はっ!直ちに「ちょっと待って待って!? 降参!降参! それ麃然将軍が言うと洒落になんないですって!!」

 

慶舎が動き出そうとした瞬間にその派手な男,蒙恬が慌てたように両手を上げてそれを止めた。

 

この蒙恬という男は史実では咸陽から北にあるオルドス地方の征服や秦の中華統一後に万里の長城の建設の指揮を執ったことなどで有名な男で,この世界では主人公である信の同世代としてライバル的ポジションの1人となる男である。

 

前世では,かの有名な司馬遷の『史記』で単独の列伝が用意されており,このあたりの時代で同じ扱いを受けているのは軍神と呼ばれた"楽毅"や現在もウチの大王様とバチバチやりあっている右丞相の"呂不韋"を始めとした中国史における大人物たちなのだが,目の前のこいつは俺にとっては妹に近づくただの悪い虫だ!

 

ちくせう……何年も前に"蒙驁"大将軍のところに遊びに行った際に紹介されたのをきっかけに,将来を見据えて味方に付けようと色々と良くしてやったせいで,突然変異としか思えないほど輝かしい我が家の宝が狙われるハメになるとは…見抜けなかった……この麃然の目をもってしても!

 

蒙恬の実家である蒙家は元は斉国にルーツがあり,彼の祖父である蒙驁の代で秦国に移ってきた家なのだが,蒙驁はこの国で親父と同じく大将軍の位を得るまでに出世し,その息子で蒙恬の父である"蒙武"は呂不韋の側近である"呂氏四柱"の1人として将軍の地位を得ている……何より彼は原作知識によると将来は新六大将軍の第1将になるだろうとされる人物で,そういった錚々たるメンツが揃う名家なのだ。

 

蒙武は顔が怖いし会うたびに喧嘩売って来るから苦手だけど,蒙驁大将軍には色々と良くしてもらったから恩はそこそこ感じている。

 

だからこの男を無理やり追い出したりするのも小心者な俺的には少し怖いんだよね……。

 

……というか今聞き捨てならんことが聞こえた気がする。

 

俺が言うと洒落にならないだと~? 俺は麃公軍で唯一の良心だぞ!

 

「何を訳の分からないことを言っているんだ……流石に半分は冗談に決まっているだろう?」

 

「……え?」

 

……ん?

 

俺が意外と近くから聞こえた声の方に素早く視線を動かすと,そこには何食わぬ顔で前を向く慶舎がいた。

 

……しかし俺の目には一瞬だけお前が驚愕の表情を浮かべたのが見えていたからな!まさかお前まで俺のことをそんな風に思っていただなんてびっくりだよ!!

 

その一瞬のやりとりの間に俺が密かに落ち込んでいると,今度は蒙恬の声が聞こえた。

 

「……いや半分でも本気だったんですか!?」

 

そうそう!こういうツッコミこそが本来あるべき姿じゃないのか!?君も見習いたまえ慶舎くん!!やっぱり蒙恬はこういうやりとりが出来る稀有な人材だね!流石は秦国の軍総司令である"昌平君"の弟子だけある。

 

……妹はやらんがな!!

 

すると,それまでこのやり取りを傍観していた寿胡じぃが蒙恬に声を掛ける。

 

「しばらくぶりじゃな蒙武の倅よ……それにしてもいつの間にこの屋敷に来ておったのだ?」

 

そうだよね! なんだかノリで普通に対応していたけどこっちは連絡受けてないんだが!?

 

「お久ぶりです寿胡王様。そのことでしたら,街にいた麃公将軍に伺ったら許可がもらえましたので……」

 

親父ー! 娘の危機だぞ! ……まさかもう陥落しているのか!? そうだとすれば蒙恬恐るべし!!

 

……というかなんで俺には様付けしてないのに寿胡じぃにはしてるんだよ! くぅっ……これが年長者を敬わせる儒教の力なのか……!

 

俺が儒教のパワーに戦慄している間も蒙恬の話を聞いていたらしい寿胡じぃは,やがてため息をついてから呆れたように言う。

 

「おぬしといい"王"家の跡取りの坊主といい……やれやれ,若者に大人気じゃのこの城……」

 

「えっ? 王家の跡取りって"王賁"のこと? ……まさかあいつも同じ目的で!?」

 

蒙恬が何やら馬鹿なことを言っているが,そんなわけないだろうに…。

 

ちなみに王家と言ったが王様という意味ではなく,俺のところでいう麃家みたいな家名のことだ。

 

そしてこの王賁という人物も蒙恬と同じく原作主人公である信のライバルの1人で,原作ではその3人が若手の出世レースを争っていくことになるわけだ。

 

ちなみに信だけ他2人より1歳年下だったりするのも面白いところだね。

 

「阿呆……そんな目的でわざわざやってくるのはお前くらいだ」

 

俺がそう言うと蒙恬は露骨に安堵したような顔になる。

 

「なら良かった~。でもそれにしてはなんの目的で?」

 

「どこかで紫詠のことを聞きつけたのだろう。今の秦国であいつ以上の槍使いはいないだろうからな」

 

「なるほど……。確か王賁も槍を使うんでしたっけ?」

 

「ああ……まぁ紫詠も他人に教える気はないようで門前払いされているみたいだがな」

 

紫詠も別に悪い奴ではないんだが他人への警戒心が強いところがあるからな……。

 

ちなみに愉快な什虎組2人は他の城を任せているためこの城には普段はいない。彼らにはここより南の前線に近い危ない場所を見張る大事な役目を任せているのさ!

 

すると俺の言葉を聞いた蒙恬は笑いながら返答してくる。

 

「アハハ! いや~,でも曲がりなりにも秦国でも有数の名家である王家の跡取りを門前払いして許されるのなんて流石ですよね~」

 

許されているというか無視されているというか…でもウチは腫れもの扱いとまでは言わないけど少し複雑な立ち位置だから変な干渉が少ないのは良い点だよね。というかそれを名家である蒙家のお前が言うのかよ。

 

俺がそう考えていると,寿胡王が髭をさすりながら言う。

 

「あそこの家の当主である"王翦"と若にも色々とあるからのう……」

 

……それも確かにあるかもしれない。王翦というのは王賁の父親なのだが,一時期しつこく俺のところに勧誘・引き抜きの打診を仕掛けてきたからウチのメンバーにはあまり好かれていなかったりする。

 

彼は実際に会って色々と話をしたこともあるが……凡人の俺には彼の話が難し過ぎて気が合わなさそうだったよ!彼も将来の新六大将軍だしね!

 

それに自分の国を造りたいとかいう危険思想を持っている疑惑もあるから付き合いにくいのもある。

 

「あ~なるほd「蒙恬様~~!!」…げっ! じィが来ちゃった!」

 

そんな中,蒙恬の話の途中で廊下の奥から大声を上げてやってきたのは蒙恬の教育係を務める"胡漸"という男だった。

 

「ハァ……ハァ……こ,これは麃然様お久しぶりです! 蒙恬様が何かご迷惑をおかけしておりませんでしょうか……?」

 

恐る恐るそう聞いてくるが……うん! 凄い迷惑です! 早く連れて帰って下さい!

 

「……ああ,それはもう酷くかけられたよ」

 

俺が肩を竦めながらそう言うと胡漸は顔色を悪くして蒙恬に詰め寄った。

 

「蒙恬様! 火遊びもほどほどにとあれほどー!!」

 

蒙恬の方をガッシリと掴んで揺さぶりながら胡漸が大声を上げる。

 

「いやいやこれは遊びじゃなくて本気だって~!」

 

そしてそれを受けた蒙恬はそう言いながらそこから抜け出すと,こちらに背を向けて逃げ出した。

 

しかし彼は1度だけ振り返って――

 

「あっ! 今日一緒に食べたお菓子も美味しかったって伝えておいてくださ~い!」

 

ファッ!? まさか既に目的を遂げていやがったのか!

 

「蒙恬様ー!? そ,それでは私も失礼いたします! お待ちくだされ蒙恬様~!」

 

俺が驚いている間に2人はいつの間にか視界から消えていた。

 

ぐぬぬ……流石は未来の名将恐るべし!

 

「……やられたな」

 

俺がそう呟くと側にいた2人が反応する。

 

「……そう仰る割に楽しそうですな」

 

「それは若も随分とおちょくって遊んでおったからであろうが……さて,予想外に時間を取られてしもうたが我らもそろそろ行こうかの」

 

まぁほんの少し楽しかったのは否定しないが,遊んでいたつもりはないんだけどな……それにしても寿胡じぃはドライだな~。

 

そう頭では考えつつも,寿胡じぃの言葉に続くように俺たちは再び歩き出したのだった。

 

 

 

~~蒙恬視点~~

 

「モグモグ……お兄様に認めてもらうためにはどうすればいいか…ですか?」

 

目の前で俺が持ってきたお菓子を美味しそうに頬張っているのは麃家のお嬢様の"明"ちゃんだ。

 

「ああ。どうすれば認めてもらえるかな?」

 

俺がそう聞くと彼女はゆっくりとお菓子を飲み込み,腕を組んで一生懸命に考えてくれている様子が可愛らしい。

 

何を認めてもらうのかとか具体的なことは言っていないが,彼女はこう見えて凄く勘が鋭いから聞いてみたくなってしまったのだ。

 

「う~ん。……!! そうだ! 私が良いことを思いつきました!」

 

こちらを見て凄いでしょとでも自慢するかのような顔に思わずこちらも笑顔になってしまう。

 

「本当かい? 俺も気になるな~」

 

俺がそう言うと,彼女は話し出した。

 

「以前にお父様が仰っていたんです! お兄様が――と言っていたと! だから蒙恬様もそうなればきっと――」

 

!!

 

その話を聞いた俺はあまりの衝撃に固まってしまった。

 

限りなく難しいことではあるが……それなら確かに……。

 

「……蒙恬様?」

 

こちらの反応がないことで不安になったのだろう。明ちゃんが顔を覗き込んできたことで,俺はようやく我に返った。

 

「あ,ああごめんね。でも……そうだね。なら俺も目指してみることにするよ! ――ってやつを!」

 

 

 

 

 

「ふ~。いやー参ったね! アハハ!」

 

麃然将軍たちと別れ,屋敷から脱出してじィの説教もうまく流した後にこの言葉を発すると,息を切らせたじィが少し困ったように言ってくる。

 

「ハァ,ハァ,参ったではございませぬぞ蒙恬様! かの勢力は今の秦国でかなりの力を持っているのはご存じのはずです! いくら蒙恬様といえども粗相が過ぎれば大事に繋がりかねないのですぞ!!」

 

じィは俺のことを純粋に心配して言ってくれているんだろうし,その気持ちもわかるけどこればっかりは難しいかな?

 

「ハイハイ,わかってるよ」

 

そう言って、いつものように軽く返事をする。

 

「ふぅ…本当ですか? それに麃家のご息女の件は実際のところはどうなのですか?」

 

「そりゃあ本気も本気だよ! じィもいつも一緒なんだから知ってるでしょ? ……それにウチと麃家が繋がれば家も安泰だと思わない?」

 

まぁ家の繋がり云々は建前でしかないけどね。

 

だけど、それを聞いたじィは感激したようにこちらを見てきた。

 

「蒙恬様がそこまでお考えでしたとは……! このじィ! 力の限り応援させて頂きますぞ! ……ですが、麃然様は蒙恬様のことをあまり気に入っておられないようですが……」

 

確かに最近は少し距離がある気がするけど,それも俺をただの子供じゃなくて1人の男として見てくれるようになったからだと思ってる。

 

そもそもあの人のことだから,本当に嫌われてるんだったら俺は既に死んでるだろうし,なんだかんだで昔から優しい人なんだよ。

 

それに恥ずかしいから本人には言えないけど,あの人には小さいころから良くしてもらってるから会う度についつい甘えちゃうんだよね~。

 

とはいえ――

 

「まぁロクに戦歴も重ねてない子供が男として認められるわけないよね……でもだからって俺も諦めたわけじゃないよ」

 

俺だっていつまでも今の状況に甘んじるようなことはしたくない。

 

「だからね,じィーー」

 

そこで顔を引き締めてじィに向き直る。

 

あの人のお眼鏡に叶うような男になってやる!

 

「1人前の男だって認めてもらうために……俺も目指してみようと思うんだ――

 

 

 

 

 

――天下の大将軍ってやつを!」




もしかすると明ちゃんはもう出てこないかもしれない…。
次話,蛇甘平原の戦いへレッツゴー!の予定です。

それではまた!('ω')ノシ
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