火を絶やしたくない男   作:ヤチホコ

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6話になります! どうぞ!


6話 出陣

~麃然視点~

 

 

「では皆の者! 出陣じゃァァ!!」

 

「「「オオオオオ!!」」」

 

 

軍勢の先頭に立った親父が出陣の号令をかけたことを確認した俺は,側にいた慶舎に声を掛ける。

 

「さて,俺たちも行こうか」

 

「……御意。麃然軍も出陣するぞ!!」

 

「「「はっ!」」」

 

あれからしばらく経ち,秦国上層部はここから東に位置する魏国の城である"滎陽"の奪取を目的とした軍を起こし,その総大将に親父を任命したうえで俺たち麃公軍に出陣を命じてきた。

 

この命令は俺たちにとっては予想されていたことでもあり,親父はこれに対してすぐさま軍を編成して出陣の用意を整えた。

 

この軍には親父の副将として俺と紫詠が付き,領地からの兵に加えて途中で合流する者たちも合わせると合計で15万人にも及ぶ大軍勢となる予定だ。

 

また,これと同時に俺たちは以前から戦を仕掛けてくる気配があるとの情報を得ていた南方の夜郎への備えとして,南の国境沿いへ満羽を総大将として副将に千斗雲を付けた合計5万人からなる軍勢を派遣した。

 

南の方はあの2人に任せておけば問題はないだろう。

 

……ちなみに,それぞれの軍への将の割り振りはくじ引きによる公正な選出結果であることをお伝えしておく。

 

兎にも角にも,遂にここで原作において信の初陣として描かれる蛇甘平原の戦いの序章が幕を開けたのである。

 

俺たちはそのまま成都を後にするべく城内の道を進んでいく。

 

多くの将にとっては,こういった大戦の前には王都咸陽で任命式をするなりしてそこから王都の民の歓声を受けながら出陣するものなのかもしれないが,俺たちは基本的に直接戦場まで向かう。

 

……ちなみにその理由は大したものではなく,ただ単に親父にとっては咸陽まで行くのが面倒だからである。

 

戦後の論功行賞もほとんど俺が代理として出席しているので,今の王宮に勤める人々で親父の顔を知ってる人って結構少ないのでは……?

 

原作では合従軍編のような緊急時にはちゃんと登城していたが……大丈夫? 流石にその時は自分で行くよね? あんな空気の場所なんて俺は絶対に行かないからね!!

 

……まぁそれは今は関係ないか。

 

話を戻すが,もしかすると一部の軍は今回も咸陽で色々とやっているのかもしれないが,俺たちには関係ない話だ。

 

というかそもそも――

 

「どうかご武運をー!!」

 

「秦国に勝利を!」

 

「麃公軍ばんざーい!」

 

「「「ワアアアアア!!」」」

 

ここで受ける歓声も中々のものだ。

 

今俺たちが通っている城門の近くでは,出陣する俺たちを見送るために領民が集まっている。

 

この都市は最近の景気や治安も良好で,俺たちもなんだかんだで戦に勝ち続けているので領主である親父の人気はかなり高い。

 

戦争なんだから全員が生還できるなんてありえないが,それでも多くの領民が戦争に乗り気なのは,領地を任されている者の視点で見るとありがたい。

 

彼らが親父に肯定的であることは,統治のしやすさだけでなく兵の士気にも大きく影響するからね。

 

決して親父の戦好きに領民が感化されたわけではないと信じたい……。

 

俺がそう考えていると,慶舎が隣から話しかけてくる。

 

「……今回の戦,やはり魏火龍が動きますか?」

 

おっと,雰囲気的に真面目な話か……。

 

魏火龍……正確には"魏火龍六師"とは、魏国が誇る6人の大将軍たちである。

 

ちなみに原作では"魏火龍七師"だったが,紫詠がいないことで7人も集めなかったようだ。

 

ただ,ここでは慶舎の質問のポイントはそこではないだろう。

 

「ああ,間違いない。報告によると趙から亡命した廉頗は魏国上層部の信頼を獲得できていないようだ」

 

元・趙国三大天……廉頗。

 

彼は,秦国では既に伝説的存在になっている秦国六大将軍とライバル的関係にあったとされる趙国三大天の筆頭格とも言われており,中華全土に名前が轟く大将軍である。

 

しかし,今の趙王である"悼襄王"が即位したと同時に更迭されそうになったことをきっかけとして,魏国に亡命したのだ。

 

彼はこれまで周辺諸国に多くの被害を与えてきたことも関係してか,亡命先の魏国もその扱いには慎重になっているようで,それを判断するべき今の魏王である"安釐王"も体調が芳しくないと聞くので今回の戦に出てくることはないだろう。

 

原作知識を信じるならば彼の出番はまだ先だとわかっているが,それでも少し怖いよね。

 

余談だが,列国の中でも彼から特に大きな被害を受けたのは燕国だろう。

 

あの白起による40万人生き埋めでお馴染みの"長平の戦い"の後に,廉頗は燕国の首都である"薊"……前世で俺が生きた時代で言うところの"北京"を囲むほどに攻め立てている。

 

そんな活躍もあり,ネームバリューで言えば廉頗は今の中華でも5本の指に入るだろう男なので,ひょっとしたら慶舎は戦ってみたかったのかもしれない。

 

時々忘れそうになるが,彼の祖国も趙国だからね。

 

それにしても趙国か……。俺的には幸いなことだが,俺は彼ら趙国三大天との交戦経験がほとんどない。

 

理由は色々とあるが,そもそも俺たちの軍は北に位置する趙国と戦う機会が少なかったのだ。

 

ただ,この世界で俺が戦った趙国の原作キャラの中で最も印象深いのは,あの楽毅の一族として有名な大将軍である"楽乗"だ。

 

その時の戦はなんとか俺たちが勝ったのだが,俺があと少しのところで討ち取り損なったこともあって記憶に残っている。

 

あとここだけの話だが,この世界では廉頗の亡命劇で彼があと1歩のところまで廉頗を追いつめたという耳を疑うような報告があったりする。

 

兵力差だけを見るなら逃がしている時点で問題なのだが,原作の展開を知っている身からすると驚かざるを得ない。

 

……こ,これは俺のせいじゃないよね!?(震え)

 

俺が内心で震えていると,俺の発言を聞いた慶舎は何食わぬ顔でこちらに言ってくる。

 

「……残念でしたな」

 

……いやさらっと共感を求めてくるな。別に廉頗がいなくても残念じゃないし,むしろありがたいわ。

 

俺はそう思いつつも,話を変えるべく慶舎に話題を振る。

 

「そうでもないがな……ところで慶舎は魏火龍との戦の経験はあっただろうか?」

 

「……いえ,ございませぬ」

 

まぁ慶舎がウチに来てからは韓や楚との戦が多かった気がするのでこれは仕方がないだろう。

 

「そうか……奴らも国を背負う大将軍たちだ。決して油断することのないようにな」

 

別に慶舎が魏火龍を舐めているわけではないとは思うが,念のためにそう言っておく。

 

とはいえ,俺もできれば原作の展開を考えると"霊凰"や"凱孟"といったメンツ以外と戦いたいものだ。

 

……もしやそういった余計なことを考えている時点で,俺も頭のどこかで油断してしまっているのだろうか?

 

いかんな……気を引き締め直さなければ!

 

俺はそんなことを思い浮かべつつも,自身が乗った馬の足を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

――数日後

 

「おお,2人ともやっと来よったか」

 

領地を発ってからしばらくした日の夜営中,呼び出しを受けてやってきた俺と紫詠を迎えたのは,自分の天幕の前に置かれた机の前で椅子に座る親父だった。

 

俺たちはあれから進軍を続けてしばらくして,とある地点まで到着していた。

 

とある地点というのも,ここは俺たちが次の動きに入るポイントなのだ。

 

秦国には対魏国のための前線拠点となる城が3か所あるのだが,ここから先の俺たちは軍を分けてそれぞれの城に入るために動く。

 

そこから各々の軍を整えたり,遅れてやってくる歩兵を待ってから侵攻を開始するわけだ。

 

よって明日からはそれぞれが別々に動くことになる。

 

ちなみに俺の軍はその3つの中でも北に位置する"丸城"に入る予定だ。

 

そんな中,紫詠が親父に向かって尋ねる。

 

「殿,なんの御用でしょうか……」

 

「恐らく情報の共有のためだろう?」

 

俺がそれに続くようにそう言うと,親父は鼻を鳴らした。

 

「フンッ,そう話を急ぐでないわ……まぁいいじゃろう。そなたの見立てでは,丸城に対して魏国側は先手を打って仕掛けてくると言っておったがそれはどうじゃ?」

 

「その件に関しては早くともまだ先のことだろう。それに……左慈を先行させて備えさせているんだ……万が一の場合も問題はない」

 

俺は親父の質問に対してそう返した。

 

ちなみにだが,この左慈という男は原作の王弟反乱編でボス格として信の前に立ちはだかったキャラなのだが,この世界では色々とあって俺のところに所属している。

 

出会いのきっかけだが,ある時に戦場で血の気が多すぎる問題アリの奴がいると噂で聞いて『ならウチに向いてるのでは?』と思って軽い気持ちで会いに行ってみたら,話をするなり襲い掛かってきたので,そいつをボコして無理やり引っ張ってきたらそれが左慈だったというオチである。

 

その後は戦場に連れまわしたり色々とこき使ったりしていると,なんだかんだで頼れる男に成長して今に至る。

 

いや~,意外と世間は狭いね!

 

それに対して親父は納得したような顔で言う。

 

「なるほど……あ奴であれば大丈夫じゃろうな」

 

こんな風に親父からの信頼もあるくらいには俺の軍でも古参になる。今思えば随分と馴染んだものだ……。

 

……戦好きなところもな!!

 

 

――トタトタ

 

 

しかし俺たちがそんな会話をしていると,不意に近くから足音が聞こえてきた。

 

その場にいた全員が音のした方を一斉に見ると,そこにはいつの間にか人間サイズのミノムシのような謎の生き物が暗闇の中に佇んでいた。

 

「ただいま戻りました麃然様」

 

更にその生物はゆっくりとこちらに近づきながら話しかけてきた。

 

「おお,そうだ……な……プッ! ククク!」

 

……だが俺はそれを見て笑いをこらえることが出来なかった。

 

「な……なんで笑うんですかー!!」

 

すると,そのミノムシも先ほどのミステリアスさがどこへいったのかと思えるほど大きな声を上げた。

 

いやはや,この衣装は原作の河了貂で見慣れていたつもりだったが思いのほか破壊力があるな!

 

「ははは! すまんな"羌象"よ! それにしても随分と様になっているではないか! 似合っているぞ!」

 

「そんな言い方じゃ嬉しくないですー!」

 

そう言いながらミノムシが自身の頭の部分を開くと,そこからは頭の両側に変わった髪飾りを付けた少女が頬を膨らませた顔が出てきた。

 

彼女は名を羌象と言い,伝説の暗殺者"蚩尤"を排出することもある"羌族"の一員で,原作主人公である信のヒロイン候補である"羌瘣"の姉貴分でもあるキャラだ。

 

彼女がミノムシ衣装を着ているのは不思議かもしれないが,このミノムシ衣装は梟鳴族独自の衣装で,実は彼女の登用のきっかけは俺が意図してのものではなく,俺の下にいる梟鳴族の功績なのだ。

 

今の俺は諜報のために2つの集団を用いており,主に秦国内を任せているベッサ族と国外を任せている梟鳴族がいる。

 

なぜか以前に俺たちが蚩尤の襲撃を受けたことから,梟鳴族に蚩尤について調査を命じた際に偶然にも敵地で拾ったらしい。

 

俺としては彼女を見つけることが可能なくらい相手のテリトリー深くまで赴いていたことに驚いたのだが,それで無事に戻ってきたのだから何も言うまい。

 

相手も流石はプロと言うべきか依頼主の情報に関して確かなことが得られなかったが,どうやらウチの愉快な仲間たちがその蚩尤を倒してしまったせいで次代の蚩尤を決める殺し合いである"祭"が行われてしまったことはわかった。

 

……な,なんかごめんね。

 

俺がそう考えていると親父は興味深そうに羌象を見ながら尋ねてくる。

 

「ほう。その小娘……中々の武の気配を漂わせておるではないか。その装いを見るに,そやつも梟鳴の者か?」

 

「さぁどうだろうな? お前はどう思う羌象よ?」

 

だが俺はその答えを本人に丸投げした。

 

「……じゃ,じゃあ羌族と梟鳴族が半分ずつです!」

 

羌象はそう言いながら手を挙げた。モエー。

 

「……だ,そうだ」

 

「ワハハ! 相も変わらず変わった奴を拾って来よるのォ!」

 

それを聞いた親父がそう言って笑い出したところで,紫詠が口を開いた。

 

「ところで,何か報告があってやってきたのでは……?」

 

おお,確かに紫詠の言う通りだ。そうでもなければここまでこないだろうしね。

 

俺は羌象に向かって尋ねる。

 

「ここで聞ける話か?」

 

「はい,偵察の成果を……」

 

「では,報告を聞こう」

 

すると,彼女は最初のような仕事モードの雰囲気になった。

 

「はっ! まず敵軍を率いるのは魏火龍"呉慶"で間違いないと思われます。更に同じく魏火龍の"太呂慈","晶仙"が後詰に向かっているとのことです」

 

太呂慈と晶仙か……これに関しては懸念していた2人が来なかったことを喜ぶべきか,大将軍のおかわりは苦しいと嘆くべきか複雑だな。

 

……もはや原作から乖離しているのは今は意識的に考えないようにしている。

 

「そうか……敵の動きは?」

 

「麃然様の予想通り,丸城を奇襲し秦軍の出鼻を挫いた後に蛇甘平原での決戦に持ち込む計画であるとの情報を得ております」

 

この辺りは原作通りと……まぁそうでないとこちらの計画にも大きな影響が出てしまうのでこれは朗報だな。

 

俺がそう考えていると,親父が突然笑い出した。

 

「バッハッハ! 狙うべき首が3つに増えるか……これは好都合じゃのォ!」

 

そう言いながら椅子から立ち上がり,唐突に大声を上げた。

 

「では全員! 盃をだせィ!」

 

俺はそれを聞くと,ほぼ反射で懐から盃を出した。

 

すると親父はその場のメンバーの盃に酒を注いでいく。

 

今親父が注いでいる酒はお金を積むだけじゃ飲めない類の上等なものであり,俺たちでも飲めるかどうかは親父のきまぐれなので俺や紫詠は盃を携帯しているのだ。

 

俺は注がれた瞬間にそれを口に運んでチビチビと飲み始めた。

 

あ~! うめぇぜよ~。

 

「……む? 小娘は持っておらんのか。ならば然の分から酒を分けてやれィ」

 

ぐぅっ!? 確かに羌象がいるのを忘れていた! この中なら俺の部下にあたるだろう……ちくせう!

 

俺は親父たちがのんびりと飲んでいる横で,泣く泣く羌象に酒を渡す。

 

「……残りはお前が飲むといい」

 

部下の信用を無くしたら終わりだ! こういう時はケチケチしてはならんのだ!

 

「えっ!? ……こ,これってかん,かかか!」

 

……お?すぐ受け取らないのを見るに,ひょっとして回し飲みアンチか? これは望みが出てきたぞ!

 

「……無理強いはせんが?」

 

頼む! 断って俺に残りを全て献上してくれ!

 

「い,いえ! 頂きます!」

 

彼女はそう言って俺の手から盃を奪い取った。

 

ガーン。

 

そこで少しの間だけ逡巡したあと,それを一気に飲み干した。

 

「……お,おおお美味しいですね!」

 

挙動不審になりながらそう言う様子からは,なんだかあまり美味しそうには見えないが……。

 

それに飲み切った後の羌象は早くも顔が赤くなっている……ひょっとして酒に弱かったのでは?

 

え,これじゃあ俺がアルハラしたみたいじゃない!?

 

ガーン。(part2)

 

ちくせう! これじゃ酒も信用も失っただけじゃねぇか!

 

俺が内心でそう落ち込んでいると,親父が満を持したように話し出す。

 

「よし……飲んだな。ではお前さんたちには此度の戦で大将軍首を1つ以上挙げることを義務付ける! これを果たせなんだ者は今の酒の代金を払ってもらうとするかのォ!」

 

ガーン。(part3)

 

……いや待て! 羌象がいるのを忘れちゃいけないよ親父~!

 

「わ,私もですか!?」

 

そうだもっと言ってやれ! 彼女も困っているぞ!

 

「ワハハ! お前さんのは当然ながら然の分とみなすから心配せんでも良い! まぁ首の件に関してはお前さんも狙うのは自由じゃがのォ!」

 

……孔明の罠だーー!!

 

俺が衝撃を受けていると,親父はこちらに背を向けて,眼下に広がる兵たちの様子を見ながら言う。

 

「今回も激しい戦になりそうじゃのォ!」

 

それを聞いた俺たちはそれぞれ親父の横に並ぶと,順に口を開いた。

 

「当然のように勝たねばならんがな」

 

「我ら麃公軍に敵などございません……」

 

「私も頑張ります!」

 

俺たちの言葉を聞いた親父は高らかに笑った。

 

 

「バッハッハ! そうじゃな…! では皆の者よ――

 

 

――武運を祈る!!」

 

 

「「「はっ!」」」

 

俺たちはそれに対して拱手と共に答えたのだった。

 




【おまけ~くじびき~】

――出陣命令が来た直後

千斗雲「っし」
満羽「フー」
紫詠「……」ゴキゴキ
麃然「……親父」

麃公「これを引けィ! よいな!」
一同「「「「ハ!!」」」」     ……結果は本編の通り!


次回は原作主人公登場の予定です!

それではまた!('ω')ノシ
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