Primary information   作:長財布

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Case1

「ホントに来ちまったんだなぁ…」

 

 

俺、鳴滝万里(なるたき ばんり)は流れる車窓を眺めながら呟く

乱立するビル群は宇宙まで続いているのではと錯覚してしまうほどで、その隙間を縫うように整備された都市高速道路は血管のよう。

 

先月名古屋に引っ越してきたが、見るもの、触るもの全てが初めてばかりであった。

 

窓を少し開けると車内に初夏の少し涼しい風が流れ込んでくる。

 

だがそこに森の匂いも潮風も忌々しい花粉も感じない。

 

少し遅れて柑橘系のさっぱりした香りを感じた。

 

それは俺の隣でハンドルを握る藤堂由梨(とうどう ゆり)監視官からだと気付く。俺が4月から配属された名古屋市公安局刑事課一係所属で俺の職場上の先輩にあたる人だ。

 

俺の視線を感じたのか、藤堂は俺の方を向いた。

 

 

 

「新しい環境にはもう慣れたかしら、鳴滝監視官?」

「えぇ、少しは…」

 

「そう、知らない所に引っ越してきたばかりで初めてだらけだけど、何かあったらすぐ相談してね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

藤堂はニコッと微笑み、ショートボブの青髪をかき上げながら視線を戻した。

 

容姿端麗、頭脳明晰であることは言うまでもない、まさに「完璧」を体現した人物―――

 

「事務仕事ばかりで退屈してたでしょう?そろそろ外での仕事を教えなきゃって思ってたから丁度良かったわ」

 

「…不謹慎では?」

 

 

時折、発言にデリカシーがない時があるが…

 

 

 

 

 

車はインターチェンジを抜けて都市高速を降りる。

 

市内中心部、庁舎や名古屋城を南に望む名城公園に入ると車は停車した。

 

すでにドローンによる規制線が張られ、人払いは完了しているようだった。内部は慌ただしく動き回る捜査員と操作用ドローン、それと1台の大破したSUVがあった。

 

車を降りると中年の男性二人が俺達の方へ駆け寄ってきた。

 

 

「お疲れ様さん、藤堂監視官」

 

 

一人が藤堂に声をかけ敬礼する。もう一人もそれに倣って敬礼した。

 

 

「お疲れ様です。鳴滝君、紹介するわ。刑事課三係の小笠原監視官と有馬監視官よ」

 

 

小笠原と有馬はこちらに向き直る。

 

 

「三係の小笠原洋二(おがさわら ようじ)だ。こちらは部下の有馬孝彦(ありま たかひこ)。よろしく頼むよ」

 

「有馬です。よろしくお願いします」

 

「4月より刑事課一係に配属となりました。鳴滝万里です。よろしくお願いします」

 

 

俺は手帳を開き二人に敬礼した。

 

 

「早速だが事件当時の映像を転送する。見てくれ」

 

 

小笠原が手首のデバイスを捜査してデータを送る。自分のデバイスから転送された映像が投影された。

 

 

「うぉっ!?」

 

「…どうした?」

 

 

デバイスから投影されたホログラム映像に驚く俺をみて彼は不思議そうな顔をした。

 

 

「彼、まだこういったモノに慣れてないんです」

 

 

すかさず藤堂がフォローを入れる。

 

 

「そういえば地方の出身らしいな…まぁいい、すぐ慣れるさ。再生するぞ」

 

映像の場所は今立っている名城公園だった。

 

広場にはステージが設置され、近く行われる予定の知事選挙の街頭演説だろうか、立候補者がマイクを持って話している。

 

周りには立候補者の関係者であろうスーツ姿の男性が数名、反対側には大勢の見物客が見える。熱の籠った演説が終わると見物人が大きな拍手を送っていた。

 

 

このまま滞りなく終わるかと思ったのも束の間、見物人の誰かが叫んだ。

 

 

「おい!あれはなんだ!?」

 

 

カメラが左を映すとSUVが猛スピードで此方へ向かってきていた。

 

逃げ惑う見物人をよそにSUVはステージに向かって突進、セットや音響機材をなぎ倒しながらSUVは背後のコンクリート壁に衝突してようやく停止した。

 

ドアが開き中から男が一人、ゆっくりと降りてきた。頭から流れる血が衝撃の大きさを物語っている。

 

 

「お前が知事になったら大勢が職を失うことになる!同じ過ちを二度も繰り返す気か!?報いを受けろ!」

 

 

男はそう叫んだ。そして覚束ない足取りで奥の森へと消えていった。

 

そして映像は真っ暗に、再生が終了した。

 

一瞬の出来事だった。

 

 

「ステージに居た人は全員無事が確認されています。ステージに突っ込む直前に壇上から退避できたそうです。間一髪だったそうですが…見物人もけが人が数名居ますが命に別条はありません、医務室で手当てとメンタルケアを行っています」

 

 

有馬からの報告を聞いて俺は安心した。

 

 

「ですので我々は現在、逃げた男の行方を追っています。一係の皆さんにも男の捜索に協力していただきたい。外の街頭スキャンには引っかかっておらずまだ敷地内にいると思われます」

 

「現状の報告以上だ。藤堂、よろしく頼むぞ。そっちの若いのもな?」

 

 

小笠原は俺と藤堂の肩を軽く叩く。

 

 

「ちょっとぉ!私は若くないっていうの!?」

 

「若いもなにも、お前もうアラサーじゃねぇか。これからどんどん体が言うこと聞かなくなってくるぞ?まぁせいぜい頑張るんだな…」

 

「失礼します」

 

 

小笠原と有馬はそう言い残して捜索を続ける捜査員に合流していった。

 

 

「いつもああなのよ、あのおっさんは…まぁいいわ、こっちも捜索を開始しましょう。ちょうど向こうも着いたことだし」

 

 

俺たちが乗ってきた車の横に並ぶ形でトラックが停車した。厳重な造りの荷台部分とPOLICEの文字、公安局の護送車両である。

 

油圧が抜ける音とともに後部ハッチが開く、公安局のドローンと4人の男女が降りてきた。

 

 

「あれが…」

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