潜在犯
話には聞いていた。シビュラシステムの賜物、そして闇…
個人の精神状態を分析し、適正、思考、能力をすべて数値化、人生におけるあらゆる選択をシビュラに任せることで人は最適で幸福な人生を手に入れたとされている。
しかしその反面、各パラメータの数値次第では自身の行動が制限されることもある。
特に犯罪係数という項目、数値が閾を超え、回復の見込みが無い者は潜在犯と呼ばれ、罪を犯していないにも拘らず世間では犯罪者と同じ扱いを受ける。
いま目の前にいる執行官と呼ばれる人達も潜在犯の中からシビュラが適正があると判断した人間を執行官として公安局の捜査員、端的に言うと俺の立場上の部下となるのだ。
そして今回が初めての顔合わせ、事前に資料は貰っていたがいざ実際に見ると…
「そんなに緊張しなくていいわよ。彼らも人間、何の問題もないわ。それにこんなことで色相が曇る人はそもそも公安局に就職なんてできないんだから。でも、あまり肩入れはしないこと」
男性3人と女性1人、細かく言うと左から男性50代前後と30代、20代、女性の方は藤堂と同じ、20代後半だろうか。
4人が俺と堂島の前に並ぶ、確かに外見だけ見るに俺達と何ら変わりない。
「彼が新しい監視官?」
女性の方が俺の方を見ながら藤堂に尋ねる。
「そう、鳴滝万里監視官よ」
「私は千々岩宇美(ちぢわ うみ)、よろしく、新人さん」
千々岩は俺に右手を差し出す。一瞬の迷いの後、俺はその手を握り返した。
ブロンドのロングヘアを後頭部で纏め、ポニーテールにしている。キャリアウーマンを体現した藤堂としがって妖艶な顔立ちと相まってモデルに見えなくもない。
「使えるんすか?彼は…」
「これから分かる事よ。詳しい紹介はまた今度、資料は目を通していると思うから早速捜索に出るわ。鳴滝君は宇美とおっちゃん、前城先輩と嶋宗君は私と一緒。じゃぁ行くわよ」
藤堂は運搬ドローンからドミネーターをとって2人を連れ森へ向かった。広場には俺達3人だけとなった。
2人はすでにドミネーターを手に準備完了といった様子だ。
運搬ドローンから自分のドミネーターを引き抜く。
『携帯型心理診断鎮圧執行システム、ドミネーター、起動しました。ユーザー認証、鳴滝万里監視官、名古屋市公安刑事課所属。使用許諾確認、適正ユーザーです』
指向音声が聞こえ、UIが視界に表示される。
訓練で使用したことはあるが実践では初めて。それに今は2人の指揮を執らなければならないのだが…
何が何やら…
そう思っていると一人が俺の方へやってきた。藤堂がおっちゃんと呼んでいた人だ。
「糸長勝爾(いとなが かつや)だ、ブリーフィングは済んでいる。俺たちは東側から森を捜索、実働は俺たちに任せてほしい、鳴滝監視官は俺達の監視だ」
言うや否や二人は森の方へ駆けていく。
「そういうことだから万里君、私たちの後についてきてね」
「わかりました」
俺は二人の後を追った。