「ホワイト!」
「やってマスよ」
ディレクターと話し合った後にコアルームに訪れた時にはホワイトは作業に取り掛かっていた。
本番環境でゲームが止まっている――その知らせを受けたのはつい数分前のこと。
ディレクターには状況確認依頼を飛ばしてもらい、俺はコアルームに急いだというわけだ。
ホワイトは管理端末のディスプレイを見て、頷いてみせた。
「本当に数十万規模でアクセスが来たみたいデスネ。単純にその処理に時間がかかっているだけデス」
「大丈夫なのか?」
「ワタシを誰だと思っていマスカ? 問題ありませんヨ。遅延が起きたのは不本意ですがハングだけは絶対にしまセン」
今は念のため保険を掛けているところデス、と彼女は言った。
なにやらPCで入力している。
「ノーメンテでいけるのか?」
「問題ありまセン。というか、そんな下手な作りにしてないデス」
「さすが」
サービス直後にメンテナンスなんて印象最悪だからな。
俺も正直なところ、こうしたオンラインゲームには関わったことはなかったから不安だった。
……インディーズでちょっと売れただけの俺が携わるプロジェクトじゃないんだよな、ほんと。
ホワイトが横目で見てきた。
「それより」
「ん?」
「ちゃんと手配は済んでいマスか? 段階的なコンテンツ開放」
「もちろん。ディレクターには話は通してあるから、あとは現場で本番確認してもらいながら実際に処理してもらうだけだ」
「なら良いデスが」
その後も今後のことを話し合っていると、また扉がけたたましく開けられた。
……ここに入れるのは俺とホワイト、そしてもう一人しか居ない。
「ふたりとも居る!?」
「社長、もうちょっと静かに」
「無理デスよ。命華にそれは無理な相談デス」
一ツ葉命華。俺たちの上司であり、トップだ。
俺よりも年下の女性でありながら、一大企業グループ「一ツ葉グループ」を率いる現代の女傑。
そして、なぜだか俺を見出してこんな巨大プロジェクトを任せてきた良くわからないお人でもある。
多忙を極めるはずの彼女だが、随分とこのプロジェクトには入れ込んでいるみたいで、
しばしばこのコアルームに訪問してくるのだ。
……無理もない。このプロジェクトは文字通り世界を変えかねない。
「それで社長、今は忙しいんですが」
「その忙しい状況を聞きに来ているのよ」
「あぁ、なるほど」
俺がホワイトのところに足を急いだのと同じ理由だったらしい。
「ま、絵麻なら万が一もないだろうけれど」
「問題ないヨ! 今丁度保険もかけ終わったところ」
「そ。なら良いわ。私も100万人までは余裕よって言っちゃったからねぇ」
「ワタシがそう言ったんだから、その点命華は悪くないですヨ?」
「そういうわけにもいかないのよ。ま、絵麻を信じてるからそのまま言ったんだけど」
普通ならもうちょっと控えめに言って逃げ道作っておくからね、と彼女は苦笑した。
「直接聞けてよかったわ。ついでだから今後の計画について聞いておこうかしら」
「それについては犬神サンがよく知ってマスかね?」
「まぁ、そうだけれど、AI周りはホワイトの担当だろ?」
「もちろん2人から話を聞きたいわ」
だよな。
◇ ◇ ◇
「なるほどね。以前聞いていたところから大きな変更はないか……」
「そりゃあそうです。ずっと詰めてきたところだし、今更変わることはないですよ」
「オーケーオーケー。んじゃこの情報を元に行ってくるわね」
この点も、社の特色なのだろう。
目の前の社長は知名度抜群の広告塔で、良くユーザーの前に顔を出す。
サービス開始を告げる人間として、彼女以上の適任は居ない。
……ただし、しばしば暴走するが。
「余計なことはしないでくださいよ?」
「もちろん♪ あ、ただ」
「?」
「あなた達はこのルームで待機しておいてほしいわ。何かあった時に対応して欲しいの」
嫌な予感しかしないな。
「何かあった時、ね」
【警告。オーナーは無駄なことを指示しません。何かは100%起こる、あるいは引き起こすものと推測】
「……だよな」
「あら失礼しちゃう。私ってAIにも信用されていないのね」
「ある意味信じていると言えマスヨ」
そういえば、Irisの初披露も一緒に行うんだったか。
「Iris。社長が暴走した時は頼んだぞ」
【私にそう言われましても。単に紹介されるだけの予定なのですが】
「それはそうなんだが、どうせ予定通りに行かないからな……」
【なるほど。心配という感情に繋がるシチュエーションと推測します】
「そうそう。まさにな。なにかしでかさないか心配ってやつだ」
全く。どうなることやら、だ。