魔女に魅入られた幼女は天使になりたい   作:もいもいん

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金色の庭

 

 

「ふみゅ~……」

 

窓から差し込む白みを帯びた光が(まぶた)の隙間から入り込み、アマネは目を覚ました。

早朝の六時過ぎ頃。

見慣れない天井や、今まで感じたことの無かったベッドの温もりを味わいながら、少女は昨日までの記憶を寝ぼけた頭で整理し始めた。

脳内精査の結果、昨晩ベッド上で【ステイタス】用紙を喜々として眺めていたところ、いつの間にか眠ってしまったことをアマネは把握する。

何者かの気配を感じた少女は、ちらりと視線をベッドの外に送ると、そこではロキが椅子に腰掛けて茶を(たしな)んでいた。

主神も低い位置から注がれる視線に気づいたのか、アマネの方へ顔を向ける。

 

「お、アマネもう起きたんかー。おはようさん」

 

「ん~。おはようロキー」

 

「朝食まではもうちょいあるし、二度寝してもええんやで?」

 

「うんにゃ。話してるうちに頭も()えてきたし、そろそろ起きるよ」

 

アマネは両手を頭の上へとぐーっと伸ばすと、身体に吸い付いてくる寝具の魔力に抗うように勢いよく起き上がった。

 

「小さいのにえらいなー。こんな早起きして何かしたいことでもあるんか?」

 

「うーん、特にやりたいことはないけど。でもこれから頑張るって宣言もしたし、あとは【ステイタス】なんて見ちゃったら、身体を動かしたくなっちゃうのが冒険者の(さが)でしょ!」

 

軽快なステップを踏みながら元気良く答えるアマネに、ロキも笑みを(にじ)ませた。

『恩恵』を得て何かしら冒険者らしいことをしたい、と考えているのが見え見えな幼女に親心が刺激されるロキ。

「それやったら」と女神はカップを置き、人差し指をぴん、と立てた。

 

「うちが庭まで案内しよか」

 

「庭?昨日この館に入る時に通ったとこかな?」

 

「うちはそん時は一緒におらんかったけど、館には一つしかないからそれやなー。門と邸宅の間のスペースが庭園になっとる」

 

アマネは記憶の中から、色とりどりの花々が綺麗に整えられた庭園を()び起こした。

確かに美景であったことには違いないが、これから外出するに伴って幾らでも目に入れる機会はある。

何か意図があるのか、とでも問いたげな視線を少女は己の主神に投げかけた。

下界の住人の心を読み取ることが出来る神は、その考えを見透かしつつも、へらへらと笑って脚をぶらつかせる。

 

「まあまあ、ええからええから。きっとアマネちゃんの見たいもんが見れる、ってのは約束するで」

 

「へ~、それなら付いてくよ!身体を動かすといっても、走るくらいしか思いついてなかったしねー」

 

「決まりやな。ほなはぐれないようにお手々繋いでいこかー」

 

「ん!」

 

ロキが伸ばした手を何の躊躇も無くアマネは掴む。

その光景に大感激&大衝撃のロキ。

主神による数々のセクハラ行為が原因で、今の【ロキ・ファミリア】の女性冒険者は、既に皆ロキからのスキンシップを拒むようになってしまっていた。

細かいことは気にしないティオナにすら避けられることからも、他の団員の対応など推して知るべしだろう。

しかし、入団したばかりで事情を知る(よし)もないアマネからしてみれば、神=ファミリアにおける親のような存在、と認識しているわけで。

しかも、アマネは現時点でもとびきり美少女だが、スキルによって更なる美貌が約束されているわけで。

ロキはこの無垢な少女からの好感度だけは、どんなことがあっても下げないようにしよう、と固く誓うのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

2人は館の玄関から外に出た。

アマネの記憶にある通り、赤や白、紫など多種多様な花々が鮮烈に、しかし全体の調和を崩さない絶妙なバランスで己の存在を主張している。

しかし、記憶と唯一異なっていたのは、その景観の中で最も目を()く黄金の輝きの有無。

植栽や花々が植えられていない、人が通る為の空間。

周囲に誰もいないスペースで只管(ひたすら)に剣を振り続けるのは、女神にも劣らぬ美貌の持ち主でありながら、何処か鬼の如きオーラを纏う剣士。

アマネが再開を願ってやまない人物――アイズ・ヴァレンシュタインがそこにいた。

 

「わぁ……」

 

「な?見たいもん、見れたやろ?」

 

「うん……」

 

アイズの素振りに心奪われ、ロキの自慢げな問いかけにも生返事しか出来ないアマネ。

2人は剣士の邪魔にならないよう、植栽の影からただひっそりと見つめる。

そうした中で、少女は昨日フィンの前で理想を語った時に頂戴した、彼の言葉を思い出していた。

 

『それならば君はこのファミリア、いや世界中の誰よりも研鑽(けんさん)を重ねなければならない。それも、相当に長い期間、もしかしたら死ぬまで続く可能性もあるだろう。果たして君に――その覚悟があるか?』

 

自分がベッドでぬくぬくと眠っている間にも、努力している人間がいる。

その事実を目の当たりにして、初めてアマネはフィンの言っていたことを真に理解した。

今こうしている間にも、世界の何処かで誰かが精進している。

夢に向かって、理想を叶えるために力を注いでいる。

『世界中の誰よりも研鑽を重ねる』

口にするのは簡単だったが、そのあまりの難易度の高さにアマネの身体は思わずぶるりと震えた。

 

「ロキ……と、アマネ?」

 

鍛錬が一段落ついたのか、将又(はたまた)2人の存在が気がかりだったのか、アイズが両手を下ろしてロキ達の方へ振り向いた。

構えを解いた途端先程の剣のように鋭い雰囲気は霧散し、昨日出会った時のような穏やかな気配を纏うアイズ。

アマネは胸をどきどきさせながらも、植栽の影からふわりと飛び出し、憧憬の元へと歩み寄った。

見上げれば出会った時同様、感情に乏しくも清廉な美貌が目に入る。

口下手なアイズ、一回りの年齢差、ほとんど初会話というトリプルパンチでやや気まずい空気が流れた。

どのように会話の口火を切ろうかと考えた時、まだお礼を言えていないことにアマネは思い至る。

 

「え……っと、あ!昨日は拾ってくれてありがとうございました!」

 

「……ううん。私がやりたくてやったことだから」

 

「でもお陰で新しい人生を踏みだせました。僕も、アイズさん達の力になれるように今日から頑張ります!」

 

「うん。一緒に頑張ろう」

 

「はい!えへへー。実は僕、スキルが2つ発現したんですよ。片方は戦闘で使えるスキルなので、今お披露目してもいいですか?」

 

「……!うん、見たい」

 

それまで僅かに穏やかな表情を(のぞ)かせていたアイズだが、『スキル2つ』という言葉を聞いた途端瞳に戦士の色が若干浮かび上がる。

アイズのスキルは非常に強力ではあるものの、数としては1つのみ。

中身がわからないとはいえ、冒険者成り立てながらLv.5のアイズを上回る個数というのは、強さを求めるアイズからしたら興味をそそられるものがあった。

 

「えへへ~。じゃあ行くよー」

 

アマネは2人から距離をとり、右手を持ち上げる。

そして、顔前でその拳を握りしめた。

 

「来い、【暴食(グラトニー)】」

 

瞬間、拳から(ほとばし)る黒の奔流。

嵐のような轟音を響かせながら、彼女の右手を起点にしてとぐろを巻く。

顔のない大蛇を連想させるエネルギーは、液体と気体の中間の密度を保ち、捉えた獲物を決して逃さない性質を持つ。

アマネを舐め回すように(うごめ)く黒波に少女本人は特段怖がる様子も驚く様子もなく、わくわくした表情を浮かべている。

 

「おー、なんか強そう!それに、初めて使ったとは思えないほどしっくりくるかも。スキルってこういうものなのかな?」

 

「あー、まあ神の『恩恵』っちゅうのは、子供たちの中に眠っている力をちょいっと呼び起こしてあげる引き金みたいなもんや。だから、初めてでも身体に馴染むってことは確かにあるわな。……にしても、」

 

「……うん。世界を平和にする人が使う能力にしては、ちょっと、怖い?」

 

「あはは、確かにねー。でも力ってどんな能力か、じゃなくて誰が使うかが大事だと思うから。怖い人が使えば誰かを傷つけるし、優しい人が使えば誰かを助けることが出来るはず、ってね。一見怖そうなこのスキルだけど、僕は愛を持って接していくよ」

 

(うね)る黒波と戯れながら、笑みを滲ませるアマネ。

アイズは少女の達観した物言いに瞠目する。

若しこの身体で今も(くすぶ)っている黒い業火が目の前の子供に宿っていれば、正しく、そして優しい方向に御することが出来ていたのだろうかと。

そこまで考えて(かぶり)を振る。

お互いのスキルはお互いの魂に根付いたものであるからして、意味のない仮定だとアイズは考えることを止めた。

 

「でも、思ったより色々出来るかも。よーし……」

 

アマネは何かを思いついたのか、にやりと唇を吊り上げた。

右腕を前方に突き出し、何かを掴むように掌と指で筒状の空間を作る。

 

「おお!」

 

「……!」

 

黒波がアマネの手中を埋め尽くすように、小さく収縮した。

掌中で球状になって渦巻く奔流が、天を貫くように上へと細く高く伸びる。

それはまるで――

 

「……剣」

 

「すごいやん!アイズたんの愛剣(デスペレート)を小さくしたみたいな形やなー」

 

「へへー。さっきのアイズさんの素振りを見て思いついたんだよね。試しの一発だけど、上手くいったよ~」

 

「かっちょええな~。試しに振ってみてほしいわ~」

 

黒剣に盛り上がるアマネとロキを傍目(はため)に、アイズは思考を巡らせる。

スキルを2つ発現させる才能、そして何より子供らしい柔軟な発想力。

特に後者においてはLv.5となって格上と闘う機会が少なくなってきた現状だからこそ、必要なものであると確信する。

しかし相手から何かを貰う以上、自分も何かを返さなければならない。

そこまで考えたアイズは、しばらく「うーん……」と首を捻っていたが、そこでぴこーん!と一つの脳筋案に思い至った。

アイズは未だ元気に戯れている1人と1柱の方へ視線を向ける。

 

「……アマネ?」

 

「うん?アイズちゃんの感想も聞かせてほしいな、僕のスキ――」

 

「私と訓練……しよ?」

 

「「……え?」」

 

乏しい表情ながらも、何処か気合が乗っているように見えるアイズ。

そんな彼女の耳は、ロキとアマネの零した呟きを風のように右から左へと流してしまうのであった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「この大馬鹿者が!!」

 

朝食を摂らんと団員達が詰めかける大食堂。

それぞれが自らの分の料理を取り、椅子と椅子の合間を縫って移動していく中。

ただでさえ混雑している通路を封鎖するように、アイズは食堂のど真ん中で正座をさせられていた。

しかしそのような愚行を周囲の者たちは気にしない。いや、正確に言うならば気にすることが出来ない。

若し介入したならば、ファミリアの副団長にして、(本人は認めないが)派閥の(ママ)である大妖精からの落雷が此方に向くかも分からないのだから。

 

「アイズ、今一度お前の考えを聞こう。何をどう考えたら、入団二日目の5歳児と剣を交えるという発想に至るのか。至らぬこの身に是非ご教示願おうじゃないか」

 

「……ごめんなさい」

 

「アイズ?私は謝罪が欲しいのではなく、ただ理由が聞きたいだけなんだが?」

 

「ま、まあまあリヴェリア~?アイズたんも見ての通り、反省してるみたいやしな~?」

 

「黙れ。どうせ面白そうだと思って許可したのだろう。同罪だ馬鹿神」

 

「ひぶぅ!?」

 

リヴェリアからの鬼詰めにただただ身体を縮こませるしかないアイズ。

ついでにロキも撃墜されたところで、それを見かねたフィンが近づいてきた。

 

「落ち着いてくれ、リヴェリア。君の怒りで、他の団員達まですっかり恐縮してしまっているよ」

 

「む、しかし……いや、すまない。熱くなっていたようだ」

 

沸騰していた己の頭を冷やすように、リヴェリアは息を細く長く吐きだした。

その光景を遠巻きに眺めていた他団員達は漸くほっと胸を撫で下ろすと同時に、内心でフィンを褒め称える。

 

「先ずは僕達も席に着こうか。幸いにも……ティオネが席を確保してくれているからね」

 

「……はい」

 

「僕のご飯は彼女が取ってきてくれてるから、アイズも自分の分を取ってきなよ。話はそこでしよう」

 

フィンが苦笑しながら親指で己の背後を指差す。

そこには両の指を絡ませ、愛しの団長が来るのを今か今かと待ちわびている女戦士(アマゾネス)の姿がはっきりと確認できた。

アイズは小人族の提案に頷き1つで返し、立ち上がる。

 

 

「遅いよ~、アイズー!」

 

「うん……ごめん」

 

「ティ、ティオナさん!アイズさんは今の今までリヴェリア様から、えーと……お叱りを受けていたんですから」

 

「団長~!ささ、こちらのジュースを――」

 

「うん、ティオネ。僕の目と鼻がおかしくなければ、これは酒に思うのだけど?」

 

ティオネ、リヴェリア、フィン、ティオネ、レフィーヤ、ロキの6人が待つテーブルにアイズが着席する。

お腹ぺこぺこであったティオナが料理に手を付け、周りもそれに(なら)って暫し経ったタイミングで、厳格な声が先刻の話題を掘り返した。

 

「さて……アイズ、私ももう無闇に怒る気はない。お前の発案とはいえ、訓練をする際に本人に了承は取ったのだろうからな」

 

「うん……」

 

「ただお前は人に何かを教えた経験が無い。行動力は見上げたものだが、先ずは私達に助言を求めるべきだった。それは分かるな?」

 

「はい……」

 

「なら一先ず説教は終いだ。今もロキの部屋で寝ているアマネには悪いが、訓練に怪我は付きものでもある。今回は互いに良い教訓になっただろう。……さて、私が聞きたいことは先程言った通りだ」

 

先程の説教とは異なり、手のかかる娘に言い聞かせるような声の調子で一言一言丁寧に諭していくリヴェリア。

どんな雷が落ちてくるか戦々恐々としていたアイズは、自身とアマネ両名のことを深く慮ったリヴェリアの発言を受け、真に己の先走った行動を反省した。

 

「……私が特訓をしたいと思ったのはアマネの柔軟な発想力を引き出して、見習うところがあれば分けてもらいたい、って思ったから。最近強敵と闘う機会が少なくて、失われつつあった気がして……」

 

「ア、アイズさん……それなら剣を交える以外にも()り様はあったんじゃ……?」

 

「何かを貰うなら返さないとって思ったけど、私に返せるものは剣しかなかったら……」

 

「何というかアイズ、あんたも私達(アマゾネス)に負けず劣らずの脳筋よね」

 

アイズの真意を聞き、どこか呆れたような空気が漂う一同。

珍しく周囲の感情を鋭敏に察知したアイズは、居た堪れなさげに縮こまった。

 

「まあまあ、細かいことはいいじゃーん!女の子らしい恩返しとかはあたし達が教えてあげればいいんだからさー」

 

「そ、そうですよアイズさん!また一緒にお出かけに行きましょう!今度はアマネちゃんも連れて!」

 

「……うん」

 

心なしかしょぼーん、と頭の上に文字が見えるアイズ。

そんな親友・憧れの先輩に対してティオナとレフィーヤが優しい言葉をかけ、場をほんわかと和んだ空気が包み始めたところで、再び翡翠の妖精が場を締める。

 

「んんっ。お前たち、話が逸れているぞ」

 

「はは。仲(むつ)まじいのは良いことだけどね。……それで、」

 

フィンが両手を顔の正面で組み、碧眼を細める。

 

「どうだった?()()は」

 

フィンが敢えて名前を呼ばないということ。

それは、『可愛い後輩』、『生まれて数年の子供』。

そうした甘い感情を排した冒険者としての評価を欲しているということの表れ。

眼前の首領の意図を明確に汲み取ったアイズは、一度瞑目(めいもく)した後、口を開く。

 

「凄かった」

 

「へえ?」

 

「あの子は……アマネは、私と同じくらい、もしかしたらそれ以上に強くなるかもしれない」

 

「「!?」」

 

「ンー、そうだね。結構な音が聞こえてきたから僕も途中から覗いてたけど、アイズと概ね同意見かな。轟音で目覚めた他の見物客達も、きっと簡単には否定出来ないと思うよ」

 

アイズによる少女への圧倒的評価に、驚きを隠せない一同。

しかしこの場で唯一、アイズとロキ以外で現場の状況を把握していたフィンだけは首肯する。

流石に本当かどうか疑わしくもなるが、強さに対して誰よりも真摯な女剣士の言葉に加えて、団長のお墨付きまであれば嘘ではないことは明らかであった。

それでも俄には信じがたいリヴェリアは、ロキに発言を促す。

 

「ロキ。お前の眼にも、そう映ったのか?」

 

神としての意見を求められたロキは、朱い後頭部を掻きながら口をへの字にする。

 

「うちから見てな~。……ま、素質とか才能があるかは自分等で確かめてみい。アマネちゃんとは、これからたっくさん一緒にいる時間があるんやからな。……ただ、うちから言えることは1つ」

 

面白いくらい前傾姿勢で食い付いてくる子供達をロキは愛しく思いながら、最後の一言を満面の笑みと共に発した。

 

「アイズたんがステイタスの制限を解除してなければ、アマネは第一級冒険者に()()()()()()()()。本気の勝負ではないとはいえ、これは純然たる事実や」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

時は(さかのぼ)って朝食前。

アイズからの訓練の提案に、アマネは結局飛びついていた。

ロキは、「まだちょっと早いんちゃうか?」「リヴェリアに怒られるわ~」と何とか2人を止めようとしていたが、徒労に終わったため大人しく植栽の影から見守ることにしている。

口ではそう言いつつも、ロキ自身もアマネの才能に大いに関心があるのは確かなのだ。

 

「……アマネ、準備はいい?」

 

「う、うん!」

 

草花の無い空間で構えを取って向き合う黒金の少女達。

片やアマネが操るのは【暴食(グラトニー)】で形成した黒剣。

片やアイズが握るのは愛剣(デスペレート)の鞘。

しかし相手が真剣でないとはいえ、黒髪の剣士が勝つ光景を思い浮かべることが出来る者はいないだろう。

背丈や構えの出来。そういった時間や鍛錬に依る差異もあるが、圧倒的に実践を積んだが故のオーラが、器の大きさが見るからに異なっていた。

 

「……いつでもいいよ」

 

アイズから剣士としての風格が噴出する。

5歳に子供が受けるにはあまりに重い重圧に、アマネの喉が鳴った。

緊張で汗が吹き出し、身体も震える。

これが冒険者なのだと、嫌でも脳裏に刻み込まれる。

ただこれを超えなければ、訓練ですらまともに剣を執れないのならば、大言壮語を語る資格など断じて有りはしないことも幼いながらに理解していた。

目を閉じ、息を吐く。

それだけで、不思議と『精神が安定』するのが分かった。

 

剣を握ってまだ数分のアマネには、攻撃を仕掛ける時機など分からない。

どの道基礎も何もない今では、どれだけ考えても正解になど辿り着けはしない。

 

「行きます!」

 

だからこそ、一陣の風が自らの背を押すように吹いた瞬間大地を蹴る。

少しでも追い風が自身を加速させてくれるようにと。

右手に携えた剣を中段に構え、憧憬へと一直線に駆け出した。

 

 

 

 

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