魔女に魅入られた幼女は天使になりたい   作:もいもいん

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VSアイズ

 

 

見守る者は己の主神唯1人。

静けさが支配するファミリアの庭園を戦場に変え、2人の訓練は幕を上げた。

 

開戦の初撃は、アマネの突進。

幼児とはいえ、ステイタスを得たことで激情した『力』を全開にして黒剣を()ぐ。

暴食(グラトニー)】の効果で強敵を目前に出力が爆増しているため、アビリティオール0とは思えない破壊がアイズの腰に迫った。

黒が空間を断絶する。

 

「……それじゃ、ダメ」

 

「うっ!」

 

アイズの鞘が容赦無く黒剣を弾き、返す鞘でアマネの手首を打つ。

鈍痛に顔を歪めながらも、アマネは一度後方へ大きく跳んで距離を取る。

しかし、今度は金色の突進が襲いかかる。

彼我の距離を瞬で(ぜろ)とし、無言の圧と共に振り下ろされる鞘を、逆袈裟に切り上げた黒剣で真っ向から迎え撃つ。

速く、それでいて重い一撃。

徐々にアマネの身体が地面へと押し込まれていく。

 

「……冒険者になったばかりの人は、自分のステイタスを過信する」

 

「っ……?」

 

鞘で黒剣を只管に押し付けながら、アイズは続ける。

 

「でも、それだと、本当に強い敵と闘う時、絶対に勝てない……今みたいに」

 

アマネが押し返そうと躍起(やっき)になって隙だらけの右脇腹。

そこにアイズは左足の回し蹴りを叩き込む。

眼前の鞘に集中していたために、意識外から跳んできた(えぐ)るような一撃にアマネは容赦無く吹き飛ばされた。

 

「あぐっ……げほっ、けほっ!」

 

脇腹に走る鋭い痛みにアマネは思わず(うずくま)ってしまう。

蹴撃の張本人は瞳にさっと心配の色を覗かせたものの、一度の瞑目でそれを完全に打ち消した。

追撃することはせず、数秒前の台詞を引き継ぐ。

 

「ステイタスだけで倒せるのは上層……よくて中層のモンスターまで。それ以降の怪物や、()して人間相手には通用しない」

 

目に涙を浮かべながらも、呼吸を整えようと努めるアマネが質問を投げかける。

 

「はぁ、はぁ……。じゃあ、頭を使って闘えばいい、ってこと?」

 

「そう。大事なのは『技と駆け引き』。そして、それは闇雲に突っ込むだけじゃ絶対に学べない。……相手の技を肌で体感して、自分の想像力の全てを注ぎ込んで漸く得られるもの」

 

「……想像力」

 

「アマネにはそれが出来るだけの力があると見込んで、私はこの特訓を持ちかけた。……勝手な期待というのは分かってるけど、それでも、アマネの才能の片鱗を私に見せて欲しい」

 

戦闘に関することだからか、常日頃よりも饒舌(じょうぜつ)なアイズ。

そのアドバイスを、憧憬からの期待を、アマネは唾液と共に嚥下(えんか)する。

結局のところ、闘い方が分からないという事実は変わらない。

ただ、闇雲に突っ込むのが正解ではない。それだけは分かった。

正解不正解に関わらず、自分の頭も稼働させること。

戦闘の初歩に気づいたという点で、この日アマネは一歩前進した。

 

「……いつでもいいよ」

 

開戦の初撃を再現させるかのように、又も攻めを譲るアイズ。

先程同様、自然体であるのに隙のない姿勢でアマネを見つめてくる。

ただ、ここで考えを放棄して突撃しても、先刻の二の舞いに終わると理解していること。

それだけが数分前との差異であった。

 

(でもどうすればいいの……?今の僕は無い無い尽くし。基礎も無い、力も無い、知識も無い。……じゃあ、逆に何があるの?剣を深く理解しているアイズちゃんですら想像出来ない、僕だけが持ってる固有の武器。それを想像力で爆発させれば、……あ)

 

脳内を駆け巡る電撃。

己の右手が握りしめる黒剣に目を()った。

殆ど何も持っていなかったからこそ、直ぐに気づけたアマネの武器。

世界を喰らい尽くす可能性を秘めた、暗黒の魔力。

気づいたのならば、懸ける以外に道は無かった。

 

「今日、生まれて初めて……僕は自分の可能性を信じる。だからお願い、力を貸して【暴食(グラトニー)】……」

 

瞑目(めいもく)し、小声で黒剣に囁きかける。

深呼吸。周囲の情報を遮断。

ただ只管にアイズの……打ち倒すべき相手の存在を暗闇で感じる。

 

開眼。

 

「いきます!」

 

大地を蹴飛ばし、仕掛けるのは先程同様突進。

開幕の一撃を再現するかのように、黒剣を水平に振るう。

しかし、アイズの神速の斬り上げに又も弾き上げられるアマネの剣。

返す鞘で再び右手首を打つ――

 

「!?」

 

その直前、黒剣が大きく変形し、拳全体を黒波が覆う。

黒波が衝撃を完全に吸収し、アイズに手応えを感じさせない。

伸縮自在な【暴食(グラトニー)】だからこそ可能な対処。

アマネの想像力が、確かに先程とは異なる景色を見せた。

 

「まだまだ、ここから!行くよ【暴食(グラトニー)】!」

 

アマネが右の拳を広げて前方に突き出す。

宿主の声に呼応したように、魔力が掌の先で球状に収縮する。

 

発射。

 

暴食を冠した一条の黒き波動が、一直線にアイズへと走る。

空気を破り尽くすエネルギーの咆哮。

庭であるために、避ける選択肢が元より無いアイズは鞘で迎撃する。

 

「……ふっ!」

 

「!」

 

僅かな拮抗の後、爆散。

アイズの斬り払いが黒い波動を霧散させる。

ただ、アマネは魔力の消滅を待たない。

先程飛び退いた時とは一転して、()()

再び右手に黒剣を携え、身体の(ひね)りも速度に加えた最高速の刺突を繰り出す。

 

「突き技は……開けた場所や、複数の選択肢が相手にある場合には、空振る危険性が高いよ」

 

アイズは右に旋回することで突き技を回避し、がら空きの左半身へと鞘を振り下ろす。

衝撃。

アマネを弾き飛ばすが、肉を捉えたにしては硬質な音が響く。

 

「……!」

 

「えへへ、【暴食(グラトニー)】を展開できるのは右手だけとは言ってないもんね……まあ僕も知らなかったんだけど」

 

アイズの視線の先で、アマネは唇を吊り上げる。

左手に構えるは黒盾。

右手の剣同様、スキルの出力を硬度へ変換させた盾は生半可な火力では通らない。

しかしそれはアイズがより速く、より苛烈に攻めざるを得ないことを意味する。

アイズは目を細め、身体の正面で鞘を構えた。

 

「……行くよ」

 

今まで常に守勢に回っていた第一級冒険者が、初めて攻めに転じた。

アマネがここまで大立ち回りを演じることが出来たのは、【暴食(グラトニー)】という相手にとっての未知を押し付けて優位を確保していたからに他ならない。

大凡の効果が露見した以上、ここからは正真正銘アマネ自身の性能(スペック)が物を言うことになる。

 

金の髪が揺れたとアマネが知覚して間もなく、又も二歩三歩で埋まる両者の距離。

アイズの鞘が虚空に藍色の軌跡を彩る。

小さな己の体躯を活かし、敢えてスキルに頼らず(かわ)し続けるアマネ。

そしてアイズが僅かに右脚を踏み込んだ瞬間。

アマネはその軸足を黒剣で斬り払う。

 

「……いい狙いだよ」

 

アイズは称賛を送りながらも、左脚で黒剣の腹を蹴り上げる。

その威力に、握った剣ごと身体も僅かに浮き上がり、空中で無防備な姿となるアマネ。

鞘一閃。

アイズの蹴撃で黒剣を持つ右手が浮き上がっていたため、防御が間に合わない。

上段からの振り下ろしが痛烈にアマネの右肩を殴打し、地面へと強制的に叩きつけた。

 

「うぐぁっ!?」

 

「……隙を隙と判断出来るようになったのは、良い成長。でも、対人だと敢えて隙を見せて、そこに誘い込むこともよくあるから覚えておいて」

 

「うっ、はぁ、はぁ……。はい!」

 

静止した状態で、助言を与えるアイズ。

肩を駆け巡る痛みに意識が向かうものの、アマネは歯を食いしばって、アイズの助言を一言一句聞き漏らさんと集中する。

 

(教えるの、楽しい……)

 

その一方で、アイズはアマネへの指導に楽しさを見出していた。

派閥幹部ではあるが故に、レフィーヤ(大ファン)を除けば、アイズと気安く会話出来るのはフィンやリヴェリアのような同じ第一級冒険者のみ。

従って、アイズは誰かに指導した経験など皆無であった。

そんな折に現れたのは、言葉少ない自分のアドバイスを何倍にも膨らませて表現出来る、才気に満ちた冒険者の新芽。

アイズが教育の楽しさを覚えるのも至極当然だった。

心の中の幼いアイズも眼鏡をすちゃっとかけ、剣を振り回してはしゃいでいる。

 

「……まだ、やる?」

 

「お願いします!」

 

(まなじり)を決してアマネが跳ぶのは、()()

伸ばした両手の先にそれぞれ魔力を収縮させ、同時砲撃を敢行する。

片方は頭、もう片方は足元。

砂埃を巻き上げながら爆進する二条の波動を、アイズは大きな円弧を描く鞘の一振りで撃墜。

その結果を見届けることなく、何度も何度も黒波を放射するアマネ。

 

黒連爆撃。

 

右肩と左脚。左肩と右脚。頭と丹田。

少しでもアイズに不利を押し付けようと、身体の構造上同時対処が難しい部位へとそれぞれ同時に黒波を撃ち続ける。

訓練を持ちかけた本人として、弟子の不手際は指導者たるアイズの失態。

故に庭が破壊されてしまったら、それはスキルの使用を制限しなかったアイズの責任となるため回避は不能。

反則気味な地の利を活かして、アマネは休む間もなくアイズへ黒砲を撃ち込む。

この光景を見て、ロキが「あわわ……リヴェリアに怒られる~」と顔を青ざめさせていることには触れてはいけない。

 

「……離れた位置から攻撃しても、私には届かないよ」

 

「勿論、そんなことは分かってるよ」

 

そう言って、アマネは片頬を吊り上げた。

黒連爆撃によってフィールドが変化する。

立ち込める砂煙。

視界が制限された環境でこそ、変幻自在・伸縮自由の【暴食(グラトニー)】は更なる効力を発揮する。

アマネは両の手に魔力を集中させ、機を伺う。

黒渦から迸る轟音が辺りに響き渡った。

 

「視界が悪くても、アマネのスキルは音が凄いから……分かるよ」

 

「でも剣のように硬質化させれば音は出ないし、音が出ていても何を作ったかまでは分からない、でしょ!」

 

砂煙が立ち込める中、アマネは返事と同時に突撃する。

右手を突き出し、まずは黒波の砲撃を一発。

先刻同様、アイズは鞘で弾き飛ばす。

それを待たずに、アマネは背中に隠していた左の掌を天に向け、発射。

舞っていた砂埃を貫き、蒼穹へ至らんと黒砲が天を駆ける。

ファミリアの団旗に届き得る位置まで到達したところで、爆発。

一条の黒砲が幾重にも分裂し、流星のようにアイズへと降り注ぐ。

 

「……!」

 

「いっけぇぇぇえええ!」

 

流星着弾。

 

アイズの元に30は下らない黒星が襲来する。

1つ1つを、神速の振りが描く鞘の軌跡で撃ち落とすアイズ。

神速の閃きに巻き込まれないようアマネ自身は大きく後退し、アイズから距離をとる。

両手を伸ばし、今度は魔力を一点に集中させ、1つの大黒球を生み出す。

片手で生成するよりも遥かに大きなエネルギーが、その余波で空気を震わせた。

 

「やぁあああ!」

 

これまでで最大の砲撃がアマネの両手の先から放たれる。

上空と地上からの挟撃。

アマネは勝ちを確信して唇を吊り上げた。

 

「え!?」

 

――が、これで終わる程第一級冒険者の肩書は安くない。

アイズは降り注ぐ黒星を正面から撃墜するのではなく、鞘をもって星の側面を滑らせるように()()()

流水に(さら)われるように星の進行方向が変化し、アマネが放った大黒波と衝突する。

轟音と共に、再び巻き上がる砂煙。

しかし、結果としてアイズには黒流星の一条も届くことは無かった。

 

「いい、攻撃だったよ」

 

「あ、はは……、流石アイズちゃん。やっぱり凄いなあ……」

 

一度言葉を切り、俯くアマネ。

(おもて)を下げたまま、空気を振動させない程度の音量で囁いた。

 

「――でも、まだ終わってない」

 

「――っ」

 

砂煙を掻き破り、2つの物体がアイズに向かって黒の軌跡を描く。

僅かに油断しつつも、それに気づけたのはアイズの冒険者としての蓄積。

視界が捉えたのは飛来する黒のブーメラン。

それは先程砂煙が立ち込めた時、予め突撃の直前にアマネが投げていたもの。

自身の策が破られることを見越して放っていた、第二の刃。

迫りくるその2つを、アイズは鞘の一閃で弾き飛ばさんと狙う。

藍色の孤がブーメランに触れる直前。

 

炸裂。

 

アイズの眼前で飛来物が内側から爆発したように破裂し、黒き衝撃波を辺りに散らす。

流星が止み、静寂が戻っていた戦場に再び轟音と爆風が舞い戻る。

迅風に勢いよく流され、宙に踊るアイズの身体。

アマネは、その絶好の機会を待ち望んでいた。

 

暴食(グラトニー)】は、現状アマネの身体を起点に発動することが分かっている。

ただ、その身体の定義は本当に腕だけなのか。

果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

アマネにとっても初の試みであったが、このスキルは不思議なほど己によく馴染む。

その感覚を、信じることにした。

 

「喰い破れ、【暴食(グラトニー)】」

 

「!?」

 

アマネの足元の地面が()ぜ、先端が鋭く尖った逆杭(パイル)が打ち出される。

その数、二本。

吹き飛ぶ身体の姿勢制御を制限するように、アイズの右肩と左脚に黒杭が襲いかかる。

しかし、アイズもこのまま好きにやらせるつもりは毛頭無い。

超速の反応で低空飛行する逆杭(パイル)を垂直の振り下ろしで叩き折り、返す鞘の閃きで右肩に迫っていたもう一本を破壊せんとす――。

 

「うそ……!?」

 

そのタイミングでまたも炸裂。

肩に迫っていた黒杭が先程の再現かのように、内側から爆発し、衝撃波を生む。

上向きに迫っていた逆杭(パイル)の炸裂は強い上昇気流を生み、更にアイズの身体を天高く放り投げる。

今やその高さは館の二階に届き得るほど。

花々や植栽、驚愕の面持ちをアイズに向けるロキも一望出来る。

しかし、第一級冒険者の視力は相対するアマネの表情を、その瞳を、明瞭に捉えていた。

 

――殺意に濡れた、闇より(くら)い瞳を。

 

(――『殺せ』)

 

数刻前のアイズを吹き飛ばした時までとは違い、現在のアマネの頭はふわふわしていた。

まるで暗い海の底に沈み続けているかのように、意識が無意識へ入れ替わっていく。

五感がはっきりとせず、周りの景色も、鈍く痛みを発していた身体も、そして己に驚愕の眼差しを向けるロキの表情にも、何一つ意識が向かない。

 

――否、()()()()()()()()

 

見据えるはただ一点。

打倒すべき金色の戦士のみ。

心が叫ぶ。

背中が灼熱する。

 

『あの人間を、殺せ』と。

 

誰に何を言われずとも、アマネはやるべきことが分かった。

宙より見下ろすアイズに背を向け、己の()()に黒球を現界させる。

その大きさ、この戦闘訓練史上最大。

発されるエネルギーに、風が叫喚し、空気が(いなな)いた。

110C(セルチ)弱のアマネを呑み込まんばかりの黒球が、今にも破壊を(もたら)さんと胎動する。

 

「ちょ、ストップストップや!アマネ!」

 

流石にまずいと慌てたロキは、この訓練の中止を告げる。

が、止まらない。

アマネの耳には入らない。

 

「――()たばれ」

 

その台詞に込められた殺意に見合わない軽やかさで、アマネは背中から地面に倒れ込むように、右脚でふわりと跳んだ。

同時に予め上げていた左脚を強く振り下ろし、その反動を活かして軸としていた右脚が黒球を全力で蹴り上げる。

神々の間では、この一連の動作をこう呼ぶらしい――

 

(『呼べ、この必殺の名を』)

 

「バイシクル・ソード」

 

――バイシクルシュート、と。

 

黒爆。

 

轟音が鳴り響き、黒球が巨大な黒剣と化してアイズを刺し貫かんと豪進する。

神であるロキに、まるで巨人が握っていた武具のようだと思わせるほどの大剣。

【暴食】を冠するに相応しく、空気も音も、全てを食い破りながら、最終目標まで止まることのない大罪の剣。

アビリティオール0に有るまじき破壊が、瞬きの間にアイズに襲いかかった。

 

 

「……ちょっと、やりすぎちゃった?」

 

空中で一連の動作を見守っていたアイズはアマネの才能に内心で拍手を送ると同時に、訓練とはいえ入団二日目の幼児相手に二発殴ったことで、初の弟子にいきなり嫌われたのではないかと内心で冷や汗をかく。

 

(……でも、先ずはこの暴走を止めないと、だよね)

 

「訓練だからステイタスを抑えてたけど、ちょっと解放するね」

 

アイズは鞘を大上段に構え、胸中に溜まっていた息を吐き出す。

非常に強いスキルだと、心の底からアイズは称賛した。

使いこなすことが出来れば、格上をも喰らえるだろう、と。

でも今はまだ、扱うには精神的に未熟だと判断せざるを得ない。

強すぎる力には代償が付き物なのだと、黒い炎を心の内に飼っているアイズこそ他の誰よりそれを理解していた。

 

(私にも成し遂げなければならないことがあるから――だから、ごめんね)

 

突き上げる暴食の大剣に向かって、アイズは音速で一閃を見舞った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「――って感じでステイタスの制限を解いたアイズたんが、アマネちゃんのスキルをぶっ壊して訓練は終わったんや」

 

時は巻き戻って、再び朝食時の大食堂。

リヴェリアに訓練の理由や経緯を問われたアイズに加え、口下手な彼女の補佐としてロキがいきさつを話していた。

主神によって締めくくられた話を聞き終えた一同は、長編物語を読破した後のように一度瞑目して、深く息を吐く。

ただ1人――英雄譚とはまた違うとはいえ――こういったお話を聞くのが大好物であるティオナは、興味津々といった様子でことの結末を尋ねた。

 

「それでそれで?その後はどうなったの?」

 

「……アマネが精神枯渇(マインド・ゼロ)になって気絶しちゃったから、それでおしまい」

 

「そうじゃなくても、あんな豹変したアマネちゃんに戦闘を続けさせるなんて無しよりの無しやったからな~」

 

「あれでまだ意識があったら、アイズたんに意識を刈り取るようお願いするつもりやったし」と、目玉焼きに(かぶ)り付きながら述べるロキ。

自分の眼が映した光景に加え、実際に剣を交えたアイズ達の話を材料とし、フィンは己の中で仮説を立てる。

突然の豹変、そしてアイズへの甚大な殺意。

爆発的な魔力――破壊力の上昇。

これはフィンが見抜いたアマネ本来の性格とはかけ離れているし、アマネの語った理想についてはロキも神の眼から嘘でないと断言している。

つまり、これは外的要因に依るもの。

アマネのスキル【暴食(グラトニー)】はアイズの【エアリエル】同様、自らの魂が形となったものではない、と聡明な長は暫定的に結論づけた。

 

「……うちに来る子達は、皆一癖も二癖もある子ばかりだね」

 

フィンは苦笑混じりに独り言つ。

隣で愛しの男の吐露を聞いていた唯一の女(ティオネ)は、その発言の真意を探ろうとフィンに質問攻めをするが、彼は笑顔でやり過ごした。

(その際にフィンにくっつくのが目的であり、発言の真意が聞けなくても特に問題はないティオネだからこそ通じる策ではある。)

賑やかになってきた食卓で、場を締めるようにリヴェリアが咳払いをする。

 

「何にせよ、今後暫くはアマネのスキルには制限をかける必要があるな。そもそも庭で魔法――ではないが、スキルを全開で飛ばすなど言語道断だ」

 

「……ごめんなさい」

 

「いや~堪忍な、リヴェリア!うちもアマネちゃんの全力が見たくなってしもたんやー!」

 

「はは、まあまあリヴェリア。今回はアイズも初の指導だったし、大目に見てあげようじゃないか」

 

「まったく……お前も見逃した側ということは忘れてないからな」

 

眉根に皺を寄せ、嘆息するリヴェリア。

対象的に朗らかな笑みを浮かべるフィンは、若い実力者が集まるこの卓で1つの提案を持ちかけた。

 

「それで君達に提案……というよりも、頼みがあるんだ」

 

「団長のお願い事なら、何でもやります~!」

 

「はは、助かるよティオネ。というのも、アイズを含めた君達には引き続きアマネの指導にあたってほしいんだ」

 

「アイズだけじゃなくて、私達も?」

 

「ああ。知っての通り彼女は5歳で、まだまだ教育が必要な年頃だ。だけど今の話を聞いても分かる通り、正直な話、彼女には冒険者としての類稀な才能がある。君達以外に任せると、その事実が団員の戦意や向上心を失わせてしまうかもしれない。だけどアイズ達ならそうはならないだろうし、何より後輩からの刺激に奮起してくれるだろう、君達は?」

 

「そうだねー!私も負けられない、ってなると思うな~」

 

「はは、頼もしいね。それに君達も若いとはいえ派閥幹部だ。そろそろ他者を教え導く経験があってもいい頃だろう。そう考えた時、アマネは絶好の育成対象になる。素直で意思も強く、何より多少の指導の(あら)は才能が補ってくれる。君達も、教える楽しさを味わうことが出来るはずだよ」

 

フィンがそう締めくくると、ティオネがいの一番に立ち上がって宣言する。

 

「お任せください!わ・た・し・が!即遠征に連れていけるくらいにビシバシ鍛え上げてみせます!」

 

「うん、ありがとうティオネ。でも流石にそれはやめてくれよ?」

 

「よーーっし!燃えてきたーー!私、久々に上層を色々見て回ってくるー!」

 

「え、えー!?今からですか、ティオナさぁぁあん!?」

 

「……私が、一番の師匠。負けない」

 

「アイズさんも凄いやる気になってるー!?」

 

「ははは!期待しているよ」

 

空いた食器を各々片付け、今後の予定を話し合う声や、ダンジョン探索の打ち合わせで賑わう大食堂。

その中でも一際大きな声で、意志で、アマネの育成を誓う女達。

普段の少女たちの行いをよく知るリヴェリアは、空回りしなければ良いが、とその光景に内心で嘆息する。

何も知らずに今も眠っているアマネに悪いことが起こらないようにと、王女(ハイエルフ)は黙祷を捧げるのであった。

 

 

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