全ての呪いを背負いし灰に   作:あるあ〜る

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内容書くより後書きのアイテム説明文考える方がむつかしい……


第5話

 

倒れ伏す白狼(クソ犬)の首元にロングソードを突き刺し、引き抜く。白に朱が混じり、花を咲かせた。

横から飛んでくる氷の礫を弾き、そのまま盾を構えて突撃する。

魔術を諦め飛びかかってくるのを、腰を屈め盾でいなしながら無防備な下腹部を切り裂く。深く入った。亡者なら問題なく動くが、生者には致命傷だ。

先ほどと同じように首を突き刺して殺す。

 

「KYA!Uuu……」

 

ちなみに『ボルドの大槌』は『ソウル』からすぐにでも出せるようにしているが、数が多く小柄な敵が多い今回はお役御免である。

 

「……これで3度目か」

 

あたりには4匹の死体が転がっているが、街を出てから襲撃された分も含めると15匹は殺している。こいつらは絵画世界の奴らと違って遠吠え(リンチ)はしてこないから楽ではあるが、目的の奴らではないのが難点だ。

 

「ここを彷徨っている時は小人共(クソチビ)も猿も見かけたはずだが、ここまで見つからんとは」

 

おそらく私のソウルの臭いに釣られたのだろうが、それはそれは死ぬほど多かった。重量軽減のために盾を外していたものだから、ロングソードと『ボルドの大槌』だけで何とかする羽目になった。

 

ロングソードを振って血を払い、盾の状態が問題ないことを確認したら再び歩き出す。『ボルドの大槌』はともかく、ロングソードや盾は耐久が低かったり酷使するため丁寧に扱わなければならない。

 

鎧の方は傷一つついていないが、生命力を大きく削る攻撃を受けた時は念入りに確認する必要があるだろう。『修理の光粉』は20個しかないし、受けるダメージはできる限り減らさなければな「ッグ……ァ!?」

 

喉に違和感。痛み。声が出せない。世界が傾いて、いや私が倒れている?

 

「GYA」

 

「GYAGYAA?」

 

「GYAA!」

 

何かの声か?人ではない、酷い濁声。

足が見える。毛皮から見える色は緑。子供のように細い。人外。

 

敵。

 

見える近場の足を掴み、体勢を崩して転ばせる。

 

「GYA?!」

 

予想通り、軽い。立ち上がり両足を掴んでデブ天使のように回転して振り回す。

 

「GAAAAaaaa……!」

 

「GYAGYA!?」

 

……1、2匹。片方は弓兵。あとは槍持ちの軽装。

ぐったりと力の抜けた小人を弓兵に向けて放り投げ、『ソウル』からロングソードを取り出す。『ボルドの大槌』はまだお預けだ。

 

「GA……GUA!」

 

目の前の槍を持った小人が腰から角笛を取り出す。

仲間を呼び出すものだろう。だが、止めはしない。擬態する闇霊を見つけるより、正面から打ち合う方が楽で慣れている。コイツらは数が多いが、犬どもより脆く、犬どものような機敏さは無い。

 

角笛の空気を揺らす野太い音が辺りに響いていく。周囲からは雪崩の様な足音が聞こえだす。

 

「……この量は想像していない。が」

 

役目を果たした小人の首を下から貫く。上段に掲げた槍は一合も防ぐことなく手から離れた。

地に落ちる前にそれを拾い、矢をつがえようとする小人に向けて投げる。胸の中心を貫いた勢いをそのままに木の幹に突き刺さる。

 

この間30秒もなかったが、増援はもう姿を現している。

首元の矢を抜き指輪を『貪欲な銀の蛇の指輪』から『太陽の女王の指輪』に付け替える。見た目は重症だが、この世界の攻撃は不死には効きづらい様だ。不思議なことにな。

 

「ふっ、踊り子よろしく芸人にでもなるか?」

 

ロスリックでは亡者か不死相手に剣を交える単調な芸しかできなかったが、人の世であれば幾らか達者な芸も叶うだろう。

 

「なれば芸の練習をする必要があるな」

 

盾を構え、ロングソードは下段腰のあたり。

柔らかく、数が多く、動きも機敏ではない相手に大剣(特に『ファランの大剣』は素晴らしい)は有効だが、強引にすぎる。大剣を自由自在に振り回す芸など、闘技場くらいでしか流行らないだろう。

 

「「「「GYAAAAAA!!!!」」」」

 

雄叫びを上げながら迫る小人の大群。しかし、何の感情も湧くことはない。やることはいつもと変わらないのだから。

 

「皆殺しにしてやろう」

 

開戦の合図は斬撃ではなく、背を向けた不死が投げる『黒火炎壺』によってなされた。

小人の火だるまショーならばきっとこの世でも受けるだろう。

 

 

 

具体的な時間はわからない。少なくとも数時間は経っただろうか。

辺りは赤く染まった深雪(しんせつ)と焼け焦げた死体で埋め尽くされている。

 

「GYAa……a……」

 

足元にはなかなか趣味のいい服装の小人がいる。焼け死んだ他の小人と違い立派な武器を持っていたが、この者はその武器に見合った精神の持ち主ではなかった様だ。

頬は引き攣り、人よりも大きく丸い瞳は見開かれて大粒の涙を流している。

 

「何を泣く必要がある?貴公らは殺したのだろう。人を。殺されもするだろう」

 

その左腕(小人からしたら右腕だ)を切り飛ばす。老婆のような絶叫が血臭漂う森にこだまする。

 

私は今、自覚できる程度にはイラついている。確信できる理由はない。

だが、予想するに羨ましいのだ。死を前に恐怖できるこの者が。

 

「私は貴公らに親しい者を殺されたわけでも、殺されそうになったわけでもない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

不死にとって死は日常だ。

 

戦う必要があった。その途中で死ぬことがあった。

最初は死なないように戦った。だが死ぬ時は死ぬ。だからできる限り気にしないようにした。死んだが、今生きている。本当の意味で死んだわけではないのだ、と。

そして死ぬことが気にならなくなった。

 

「a……aa……」

 

「……八つ当たりだったな。それを持ったまま、死ぬといい」

 

刃先を首に押し込む。脳は傷つけないため、即死はしないだろう。

ゴポゴポと自身の血で溺れて死ぬ。私もあまり経験しない死に方だ。

 

やがて、その小人は苦悶の表情で死に絶えた。

 

 

 

その日は組合の日常そのものだった。

この時期は寒い。魔物と相対する傭兵でも寒さに凍えて、組合に入り浸っては他愛もない噂話を肴に酒を飲む。

傭兵がこんな有様なので仕事の数も少ない。今日の午後の受付は私一人で、彼らの話を聞きながら書類に目を通すのだ。

 

「偽騎士、ですか?」

 

「そうそう、ニセモンの騎士サマさ」

 

騎士とは貴種の尊称であり、彼らの名誉そのものだ。その偽物というのは少々、いやずいぶんと失礼だ。

貴族ならば許されざる侮辱だと思い、言い出した者を不敬罪で処刑しようとするだろう。それがなされていないということは、偽騎士という人物は貴族ではないのだ。

何となく自分の知識で折り合いをつけながら続きを促す。

 

「見た目はほんっと騎士みたいでさ。紋章の入った全身鎧着て、喋り方も古臭いってか、「貴公、感謝する」って言うらしいよ?こりゃもう騎士よりも騎士らしいじゃん」

 

目の前の傭兵は腹を抱えて笑い出す。私としては面白いより恐ろしい。不敬罪で処刑されそうで。

ゴールドランクの傭兵にとっては貴族など恐ろしくないということなのだろうか。傭兵はいつでも国外に行くことができる。でも、できたとしてもしない私にはわからない。

 

「その、大丈夫ですか?」

 

「ん?気にすんなよアリシアちゃん。君だけは絶対守ってやっからよ」

 

健康的な白い歯が覗く、いい笑顔だった。でもそういうことではない。

 

「そうですか、ありがとうございます。……その偽騎士についてもっと教えていただけますか?」

 

「ぐっ、受け流された……でもアリシアちゃんの頼みなら何でも叶えちゃう!」

 

この街に着任してから結構経つが、軟派な人だと思う。相当な女好きのようで、出会う女性全てにそんなことを言っている。

本人は純愛と嘯くが、日頃の行動が軟派なので誰も(無論、私も)信用しない。でも顔はいいので引っかかる初心者傭兵の多いこと。組合職員としては傭兵への指導を請け負ってくれるのでありがたいのだけれど、個人としてはお付き合いを遠慮したいタイプだ。

 

「と言っても知ってることはそんなないんだよねぇ。傭兵になったのは昨日だし、急に出てきたからその前はどこで何してたとかわかんね」

 

「そうなのですか?全身鎧を持っている方ならある程度噂になってそうですが」

 

少々意外だった。鎧は高い。特に全身鎧なんかは。

それを買えるほど稼いでいるならば噂にもなるはずだ。

 

「くみちょーが聞いた感じじゃ、拾い物らしいよ?昔は元探索者(トレジャーハンター)らしいし。噂は……田舎だったんじゃね?」

 

なるほど、と僅かに頷く。

それで全身鎧も噂話になっていない説明もできる。噂話の方は推測に過ぎないけれど、そもそも情報がないのだから仕方がない。

 

「くみちょーではなく、組合長です」

 

「あの人がいいって言ってんだし、よくね?」

 

「ダ・メ・で・す!」

 

組合長はその街の傭兵全てに対する命令権を持つ。そんな方が傭兵にあだ名で呼ばれるなど、あってはならない。

私はそう考えるが、目の前の彼はそうではないようで、めんどくさそうな表情で溜息を吐く。

 

「アリシアちゃんは硬いねぇー、オリハルコン並の頑固さだよ。実は耳長族(エルフ)だったりしない?」

 

「祖父母両親ともに純血の汎人(はんじん)です」

 

「じゃあ、もうちょい気楽にしたほうがいんじゃね?そうしないと押しつぶされちゃうよ」

 

「はぁ、そうですか」

 

私はその言葉を本気で聞かなかった。軟派な彼なことだ、辛かったら夜に相談しに来いとでもいうのだろう。

 

「絶対行きま……え?」

 

それは突然だった。

一瞬で騒がしかった組合は静まり返り、傭兵たちは入り口に視線を向ける。

傭兵たちは3つに分けられていた。困惑したように先輩傭兵の様子を見る素人。

脂汗を滲ませ各々の武器に手を伸ばそうとする覚えのある者。そしてさまざまな感情を持ちながら静かに臨戦態勢をとる者。

 

張り詰めた空気の中、ついにその扉が開いた。

 

見えたのは鎧姿の男。全身が血に塗れ、尚もその両足で立っていることからそれらは全て返り血なのだろう。何よりも悍ましいのがその身に纏う空気。

地獄から這い出てきたかのように、肉が焼け焦げた匂いを濃厚に身に纏っている。

 

ただ恐ろしかった。その者に今すぐ殺されるのではないかと思うと声が出てこない。同時に恐ろしくて叫び出したい。矛盾する反応に意識が遠のいていく。

 

「すまない、組合の人間はいるだろうか?」

 

そんな死の宣告が聞こえて、意識が闇に沈んでいった。

 

 

 

「アリシアちゃーーーん!?!?」

 

「おい待て揺らしやるな!担架持ってこーい!」

 

「こいつも気絶しやがったぞ!?」

 

「回復の奇跡使える奴呼べ!若手が教会にいんだろ早くしろぉ!」

 

どうやら、何かやらかしたらしい。()せんが。

 

「あ、偽騎士野郎!裏手回れ裏手!ついでに井戸でその血洗ってこい!」

 

「承知した」

 

 

 

 

 

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【ロングソード】

標準的な直剣

バランスに優れ、ひろく使われる武器

 

効果の安定した標準属性の攻撃に加え、攻撃力の高い刺突攻撃を持つ

 

戦技は「構え」

構えからの通常攻撃で、盾受けを下から崩し、強攻撃で踏み込みからのかち上げ突きと状況に応じて使い分けられる

 

 

「かの灰が使っていたロングソード。

 

見た目は鉄で作られた量産品の剣だが、性能はそれにそぐわない魔剣の一種である。

業物と打ち合って折れない耐久性と、フルプレートアーマーを貫く鋭さを兼ね備える。素人でも扱える稀有な魔剣であるが、熟練者が手にすれば比べものにならない力を発揮するだろう。

 

凡庸なるものを並ならぬものに変える神の奇跡は、えてして祝福にも呪いにも姿を変える。共通するのは、どちらも人の手に余るということだろう。」

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殺気オサエテオサエテ
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