全ての呪いを背負いし灰に   作:あるあ〜る

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ストックが……切れただと……?
できるだけ頑張ります

感想、誤字報告ありがとうございます。モチベが上がりすぎて作家の方が感想を求める理由がよく分かりました。
誤字報告が意外と多くてもう二度と誤字を馬鹿に出来ない……


第6話

井戸の水を汲み鎧と体を洗い流しながら待っていると、草臥(くたび)れた様子の青年が来た。先程裏手に回れと言ってきた男だ。背中には弓を背負っている。

 

『竜騎兵の弓』に似た形状。持ち手や矢羽を見る限り、なかなかやるようだ。

 

「あー、すまん。……血は流れたか?」

 

「お陰様でな。随分楽になった」

 

沼に飛び込んだり(ファランの城塞)池のような場所(生贄の道)に全身を浸からせたことはあったが、有毒か生臭い匂いを強めるだけで非常に不快だった。

それに対してこの井戸水は非常に心地よかった。

身体中から変な匂いがしないのだ!

 

「……お前もしかしてそのまま浴びたのか?」

 

「なにか可笑しいか?」

 

彼は口を開け目を見開いたあと、息を思いっきり吐きながら顔を覆う。

どうしたのだろうか。『人の膿』を初めて見たかのようなリアクションだ。

 

「よーし、よし。おーけー了解無問題(もうまんたい)。俺はクリス、ゴールドランクの弓使いだ」

 

強いと思っていたが、ゴールドか。大先輩だな。

 

「私は(アッシュ)と言う。今日傭兵になった新人だが、よろしく頼む」

 

頭を下げようとして(『貴人の一礼』)、手で制される。

 

「ああやめろやめろ、野郎にそんなのされたきゃねえよ。して貰うなら助けたお姫様がいい」

 

姫、火防女(ひもりめ)のような者だろうか。

……結局、最後まで彼女を助けるどころか助けられるばかりだった。

 

「……ああ、そうだな」

 

そう答えると彼は黙り込んだ。目を向ければ怪訝そうな顔をし、悩むように眉を顰めている。

 

右手は下げられ、左手は腰の位置。弓矢には手を掛けてはいない、か。

 

「お前、なんなんだ?」

 

ふと、彼が口を開く。

なんなんだ、とは。世界が違えど不死に対する問いは変わらんというわけか。

 

「その問いに対して貴公に話せることはあまりないが、端的に言えば新人傭兵だ。今日プレートを貰った」

 

首元から鈍色のプレートを取り出して見せる。

 

「そんなことは知ってんだよ。俺が聞きてぇのは、てめぇの前職が何かって事だ。声から察するにおんなじくらいだろうが、20代じゃねぇだろ。その程度であの威圧感は出せねぇ。

お前、何やってた?」

 

ほんの短い問いかけ。しかし、少しでも誤魔化せば射抜くという意思、いや明確な殺意を感じる。

誤魔化せそうにはないな。

 

「……職と言えるほど立派なことは何もしていないとも。ただの、化け物を殺していたにすぎん」

 

人の成れ果て。理性を失った化け物。かつての同僚であり、自分の未来の姿。

 

「……出身は?」

 

「この世界にまだあるのかも分からん。見た目だけ立派で、その内実は色んなものが混ぜに混ぜられ境目が無くなっていた」

 

ある時思った。この『世界』はどうなっているのだろう、と。

断崖絶壁に聳える城(ロスリック城)眼下に見える森(ファランの城塞)聖堂(深みの聖堂)地下のカタコンベ(カーサスの地下墓)と抜けた先にある美しき暗月の都市(冷たい谷のイルシール)

 

これだけでも既におかしいのだ。

ほんの少ししか移動していないのに環境が変わり、その全てが『城』を取り囲むように存在している。

その間にあったもの全てを消し去ったかのように。

 

「貴公、使命は持っているか?或いは持っていたか?」

 

「……そんなもん、あるわけないだろう。こちとらただのゴールドランク傭兵だぞ?強いて言うなら、この世の女の子全員にモテる事だ!」

 

女の子全員にか。なかなか大変、どころか夢物語だな。

話が通じる人間と心を通ずることすら難しいというのに。しかし、

 

「そうか。夢物語だが、いい使命だ」

 

「ああん?舐めてんのかお前。こちとらこれに命かけてんだ。騎士サマにはわからんってか、ええ?」

 

「いや、揶揄うつもりは無い。私の使命は殺すことだったから、それより何倍もいい使命だと思っただけさ」

 

ただ1つだけの命をかけられるというところもだが、言う訳にはいかないだろう。

 

「……そうか。悪かったな」

 

「いい。もう終わったことだ」

 

そう答えて木の桶を井戸に戻す。

彼は何も言わずにこちらを見つめる。私も何も言わずに鎧のところどころに入った水を抜き、装備を付け直す。

しばしの沈黙が流れ。

 

「なあ」

 

ふと彼が口を開く。

 

「怪我してんなら南の方に教会がある。治療してもらったらどうだ?」

 

唐突にそんなことを言ってくる。

 

「怪我はしていないが、治療してもらえる場所があるのか」

 

「ああ。貞淑でお美しいシスター様たちが優しく、な」

 

彼は若干ニヤニヤと、少し気持ちわるい笑みを浮かべる。

……何か見覚えがあるかと思えば、ラップだ。『不屈のラップ』のイラつく笑みに少し似ている。

 

「はぁ、私は行かないぞ。怪我の治療くらい一人でできる」

 

連戦にならなければ指輪(太陽の王女の指輪)で回復できる。そうそうお目にかかる機会はないだろう。

そもそも治療が必要な怪我なら『エスト』で治してしま……いや、今はそれが貴重だ。利用を検討した方がいいだろうか?

内心思案していると彼が、

 

「ほーん、そうか。ま、そんならいい。邪魔したな」

 

と言い、こちらに背を向けて歩き出す。

 

「ちゃんと水拭いてから戻れよー、ギルドを濡らしてもらっちゃ困るからな」

 

後ろ手に手を振りながら、建物の角に姿を消していく。

 

なかなか愉快で、強そうな男だったな。

ここで見た中なら3か4番目(グランとボルドーが1か2。貴族らしき男の連れの騎士が3番だ)に強いか?話した相手の中では下の方かもしれないが、昨日酒場にいた傭兵達と比べればトップクラスのように見えた。まだ若いが、経験を積めば私でも苦労しそうな相手だな。

 

そんなことを考えながら、水が自然に乾くのを待った。

 

 

 

角を曲がり、(アッシュ)の目線から外れても歩幅は一定に、後ろは振り向かずに歩く。そのまま裏口から組合に入り、ドア横で佇む大男に振り返る。

 

「しっかり会話してきてやったよ、くみちょーサマ」

 

「おう。しっかり聴いてたぜ」

 

地獄耳の熊親父。城塞都市ノースエンドの傭兵支部で組合長をするボルドー=ボルーノは、ふざけた韻を踏んだふざけた名前だが、実力は体格と肩書きに見合った男だ。

 

「意外と話がわかるやつだろぉ?」

 

「ま、そうだな」

 

そっけなく返せば、ニンマリと笑みを浮かべるボルドー。

濃密な殺気を纏わせたアッシュを裏口に追い出した後、俺は2階にある組合長の部屋に向かい「アイツはなんだ」と問いかけた。その時もボルドーは同じように笑って、

 

「言ったじゃねぇか。達人が持ってる抜き身の魔剣、ってな。周りにその脅威をばら撒きはするが、触れなきゃ斬られねぇし不用意に振り回して関係ねぇ奴を斬り殺すこともねぇ。つまり、そんな危険な奴じゃねぇってことだ」

 

思わず、そんなわけないだろ脳筋野郎と言いそうになるが、言い合っても負かされるか無駄な言い合いが続くだけだと思い飲み込む。

 

顎で続きを促す。

 

「無害とまではいかねぇ。でも、話し合えない魔物と同じではなかったろ?」

 

理性はその通りだと言う。魔物は知能があるやつもいるし、言葉を使うのもいる。だが、必ず他種族に敵対的だ。出会えばいつどこでも殺し合う。

ま、言っちゃえばうちの国(汎人国家)獣人(多種族)と敵対的ではあるが、交渉もするし協力も時にはするからな。

 

「その基準に合わせればアイツは魔物じゃない。だが、妖精種でもないと言い切れるか?」

 

人を惑わし、騙し、絶頂から地の底へと叩き落とされて絶望する人間を笑いながら食い殺す餓鬼。

基本は羽の生えた女の小人だが、姿形はあいつらにはどうだって変えられるものだ。共通点は信用したときに裏切られるという点のみ。

 

「あいつの燻る火は水を被っても消えない。魔法の火ですら弱まるのに、だ」

 

「ほぉう。そりゃ気になる話だ」

 

ボルドーはさらに笑みを深め、続けるように促す。

肩透かしを食らった気分で、嫌になる。温厚そうに見えてその中身には筋肉しか詰まってない戦闘狂。

なんでこんな奴が支部長やってんだか。

 

「……しかも、あいつの首元には矢の跡があった。鎖帷子を貫いてな」

 

親指で首の横を指す。

俺でなくとも毎日のように弓を使って戦ってる奴には分かるだろう。あれは確実に致命傷だ。なのに奴は平然と歩き、水を浴び、痛がるそぶりすら見せなかった。

 

尚も表情を変えないボルドーを睨むように見つめながら言う。

 

「あいつは危険だ。俺はゴールドランクの傭兵として、奴の追放を提案する」

 

わずかだが、ボルドーの表情が変わった。俺がどれだけ本気か伝わったのだろう。

明文化もされない強制力のない提案だが、支部長として高ランクの傭兵からの意見は無視できないはずだ。

ボルドーはそれに対して即答する。

 

「却下だ。傭兵は身分が不確かでも誰だってなることができる。それを覆すことなどできん」

 

「なっ!」

 

予想とは反した結果。再び怒鳴りそうになるのを拳を握り込んで止める。

傭兵は誰だってなれる?そんなものは建前だろう。子供は原則認められない、問題を起こしかねない奴は追放される。それくらい分かってるはずだ。

なんせ、俺の目の前でそうして見せたのだから。

 

「どういう、ことだ」

 

「お前も知ってる通り、そんなもんは建前。だが路頭に迷った奴がうちの門を叩くくらいには効力のある言葉なんだ」

 

傭兵組合の支部がある場所は治安がいい。それは傭兵が自警団じみた依頼を受けるからじゃない。犯罪者になるはずだった者が傭兵になるからだ。

 

「何やらかすかわからんバカより、何かはやるがその中身が分かってる奴の方がいいだろ?それと同じってわけだ」

 

「……つまり、あいつは何をしでかすかわからないとは思ってるんだな」

 

「そりゃそうだろ。俺ぁ初見の相手に対して油断するバカじゃねぇんでな」

 

何をやらかすかわからないから危険。だからこそ、手元に置いて監視した方が良いってことか。

 

「ま、妖精種だとしてだ。アイツらは信用が得られるまでは動かねぇ。つまり、お前さんが疑い続ければ本性を明かすことはないわけだ」

 

「俺に監視を任せるってことか?」

 

「俺ぁ必要ねぇと思うが、不安を広めたいわけじゃないんでな。お前以外にもいろんなとこから既についてるらしいが、うちも保険をかけとくってだけだ」

 

ボルドーはそう言うと歩き出す。

 

「俺ぁそろそろ戻るわ。王都からの新米ちゃんにお小言は貰いたくないんでな」

 

あの子怒るとおっかねぇし、なげぇんだよなぁ、と反省なんてしてないようなことを呟きながら消えていく。

 

監視、か。

 

「見極めてやるよ。あいつの本性」

 

 

 

 

 

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【竜騎兵の弓】

渇望の古王に仕えた、竜騎兵の長弓。

 

古王は衛士である竜騎兵に力を求めたといい、尋常な筋力ではこの弓を引くことすらできない。

 

力ある者だけが、必殺の威力を手にするのだ。

 

戦技は「強射」

大きく引き絞り放たれた矢は威力を増し、また盾を貫く。

 

 

 

「かの灰が所持していた武器のひとつ。

 

長弓としては異常な重さと張りの強さを持ち、放たれた矢は直射で3人の騎士を板金鎧ごと貫いたと言われている。

 

大いなる力にはその分の責任が生まれる。

その力を振るうべき場所はどこなのか、と。

 

故に、それを見誤った者には死という結果が待っているのだ。」

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カッコイイけど手が出ない弓。最初は大弓かと勘違いして、試射したら軽くてびっくりした思い出。
バリスタ君はスルーするから周回してるうちに存在を忘れる。
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