全ての呪いを背負いし灰に   作:あるあ〜る

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更新リズムががが……申し訳ありません


第7話

5分ほど棒立ちして皮が凍り始めてようやく『呪術の火』で『発火』すれば乾かせることに気づいた。

あれも熱には違いないのだから乾かすことは出来よう。敵を火達磨にすることにしか使っていなかったので盲点だった。

 

短剣(愚者派生)で集中力を回復させながら組合に戻る。

 

中に入れば先ほどのようなレベルではないが、幾らか警戒されているように感じる。ほどほどに強い位の者らが過剰に反応している、といったところか。

素人たちはこちらを見てはいるが、怖がるか困惑したような顔。クリスほどの実力者は意識は向けているがあからさまではない。

 

知性のない『亡者』と比較できるかわからんが、上から順にハルバード持ち、盾なし、平民服といった感じだろう。どの者も一対一で勝てない相手ではないが、数で来られると容易く殺される。先の小人(ゴブリン)よりも頭は回るだろうし、敵には回したくない。

 

視線という針の筵にされながら受付に歩いていき、近場にいた女性に声をかける。

 

「すまない、依頼の報告をしたいのだが、ここであっているだろうか?」

 

「は、はい!」

 

声は震えて上擦っていて、顔は青白く、体は時折震えている。明らかに声をかける相手を間違えたようだ。

あたりを見回し他にいないかと探すが、残念なことに職員全員がスライム並みの速度で遠ざかっていく。彼女のための白霊や太陽霊はいないようだ(貴公、『青教』をつけたまえよ)

 

「貴公は体調が優れないように見える。また後ほどの方が良いだろうか?」

 

「いっいえ、もん、問題ありませんご用件を!」

 

問題ないとは言うが、小声で「大丈夫大丈夫よアリシア私は王都のエリートなのよ引いちゃダメ引いたら殺される!」とぶつぶつ言っているのが聞こえてくる。

加えて、背中に刺さる針の数が増えていく気がするのだ。

 

「……ボルドーを呼んでいただけると私としては助かるのだが。先日受付にいた大男だ」

 

後ろでガタッという物音が聞こえ、敵意にも似たような何かが混じり始める。

何故だ?怒らせるようなことはしてないはずだが。

 

「そ、それは、貴方の用件を聞くのに私では不足ということでしょうか」

 

む。

その言い方は少々困るな。

 

「そうではない。ただ……その体調では普段通りの力は発揮できないだろう」

 

「なっ……い、いえ!できます!ほら早くお願いします!」

 

何か、違った意味に取られたような気がするが、まあそこまでのやる気があるのならこれ以上私が言う訳にはいかないだろう。

 

「ならば、これだな」

 

『ソウル』から1つの袋を取り出す。小人共(ゴブリン)の耳を集めた物だ。何度か『黒火炎壺』で焼いたせいで焦げているものもあるが、その数は約50。依頼の数として十分だろう。

 

「小人、ああ小鬼(ゴブリン)と言うんだったか。それの討伐依頼を受けていてな。数は足りると思うが確認して欲しい」

 

「……あ、はい。大丈夫です」

 

袋の中身を覗いた彼女は、中身を取り出すことなく横に置く。

 

「数の確認はいいのか?」

 

「えっ、あ、その。……鉄等級の小鬼(ゴブリン)討伐は上限が10匹なので。あと、追加報酬も出ません」

 

そうだったのか。数をこなせばこなすほど良いと思ったのだが。

今回は複数依頼を受けたが、見つけたのはコイツだけ。報酬を得られるのもこれだけか。

 

「そうか……複数依頼を受けていたんだが、今日はこれしか達成できていない。見つけたら持ってこよう」

 

「はっ?あ、いえ分かりました……こちらが今回の報酬です」

 

「感謝する」

 

彼女から報酬の銅貨数十枚を受け取り、『錆びついた金貨』とないまぜに仕舞う。

 

「では、これで失礼する。迷惑をかけたようで申し訳なかった」

 

穏便にすませようと思ったのだが、どうにもうまくいかないな。

 

 

 

組合を出て、沈みかけている太陽を見てため息をつく。

今回も『篝火』を立てられず野宿になりそうだ。

 

今朝起きた場所に向かって座り込む。

どこも同じ路上であるが、同じ場所の方が居心地いいのだ。ほんの僅かではあるが。

 

ローブを取り出してそれに包まろうとした時、人通りの中に見知った顔を見かける。

無精髭の生えた中年顔の男。グランだ。

誰かを探しているようであたりをキョロキョロと見渡している。

 

ああ、そういえばグランに酒を奢る約束をしていたのだ。すっかり忘れていたが、初仕事も終えたのだから良い機会かもしれない。

ローブをしまいグランの元に向かう。

 

「グラン」

 

急に鎧姿の男に声をかけられたためか、僅かながら警戒している。

 

「私だ、アッシュだ」

 

口を開けたままつま先から頭まで視線を彷徨わせ、身につける装備が燃えているのを見て合点がいったように額に手を当てる。

 

「ああ!お前か!随分と……あれだな、変わったな。前のはどうしたんだ?」

 

「あれは目立ちすぎるようだったのでな。ここに仕舞ってある」

 

『ソウル』から『ロスリック騎士の兜』を取り出して見せる。

 

「嘘だろ、保管庫(インベントリ)持ちかよ……仮身分証もそこに入れてるのか?」

 

「そうだが、何か不味かったか?」

 

グランは「あー」と一拍置いて、頭を掻きながら躊躇いがちに答える。

 

「できれば常に身につけて貰えると助かるというか、困るというか、なぁ?」

 

なぁ、と言われても、私としてはそれこそ困るのだが。

 

「よくわからんが、ここから出しておいた方が良いのだな?」

 

『ソウル』から仮身分証を取り出し、袋の一つに仕舞う。

 

「悪いな……理由は聞かないのか?」

 

「ああ。貴公はその方がいいのだろう?」

 

「……まぁな」

 

恐らく『ソウル』の中では発動せず、身につけることで機能するものがあるのだろうが、近くにあると呪いが溜まって石になったり(大書庫の本)スライムの一撃で死ぬようになったり(厄災の指輪)亡者を引き寄せるようになる(頭蓋の指輪)訳でもないのだろう。

 

ならばあまり変わらんだろう。『ソウル』から取り出すのも、腰の小袋から取り出すのも手間はさほど変わらんのだ。

 

「ああ、それで誰かを探していたようだったが、少しだけいいだろうか?一言二言話したいだけなのだが」

 

「ん?あぁ……丁度今、見つかったところだから大丈夫だ」

 

グランはニヤリと笑い、こちらを指さした。

探される所以(ゆえん)などない……いや、つい先程まであったか。

 

辺りを見回す。厚着をしてカラフルな服装をした人々がそこらを歩いている。似ている服などはあるが、どれも完全に同じものはなく、所々アレンジしながら使われているのだとわかる。

だが、多種多様な服装の中に全身血塗れの鎧はない。

 

客観的に見れば、私の姿はあまりにも場違いだっただろうな。

 

「他の人から知らせを受けたのか」

 

「ああ。全身血塗れの傭兵が恐ろしげな気配で組合の方に入っていった、てな。まさかと思ったら案の定お前さんだった訳だ」

 

また迷惑をかけてしまったようだ。これは酒の1本や2本じゃ足りなさそうだな。

 

「それはすまなかった……詫びとして、私の愛飲している酒を渡そうと思うんだが、どうだろうか?」

 

酒、と言った辺りからグランは満面の笑みを浮かべ、肩に手を回してくる。

 

「おいおいアッシュてめぇよぉ……気が利くじゃねぇか!」

 

「ぐはっ」

 

背中をどんと叩かれる。

これはもう攻撃と言っていいのではないだろうか?聖堂騎士のヤツらに地面とキスさせられたことを思い出すぞこれは。

 

「いい酒場を知ってんだ。一杯やろうじゃねぇか」

 

そのまま引きずられるかのように酒場へ連れていかれる。

私は案外強い力に抑え込まれながら、仕事はいいのだろうかと訝しんだ。

 

 

 

ドランカーズ・サン(酔っ払い達の太陽)」はそこらの店よりよほど賑わっていた。傭兵組合に併設された酒場も賑わってはいたが、あそこは閉鎖的で傭兵ではない者は利用できない雰囲気だった。

しかしここには多様な身分、種族、職種の者が入り混じっている。

汗まみれの労働者が高価なアクセサリーを身につけた商人と同じ卓を囲んで酒を飲み、青色の制服に身を包んだ兵士がみすぼらしい姿の浮浪者と賭け事を楽しむ。

 

「……いい場所だ」

 

思わず、溢れた。

 

「おぉ、話がわかるじゃないか。嬢ちゃん、いつものとこ空いてるか?」

 

「はい、空けてありますよ!お2人のようですから、椅子を持ってきますね」

 

両手に空のジョッキを持ったズボン姿の女性はそう言うと、カウンターの奥に向かう。

……何故あの女性は左右に揺れるような、妙な歩き方をしているのだ?

 

「アッシュは尻が好みか?俺はやっぱ胸だなぁ」

 

私は「うーむ。上品な色気もいいが下品なもんもそそる」などと言っているグランに対し首を傾げ、すぐに「ああ」とこぼす。

 

久しく……本当に久しく聞かなかった話題だったな。それが出来る者がここにはいくらでもいるのだったな。

 

「……お前さん、マジの尻好きか」

 

「まぁ、どちらかと言えばな」

 

そのような欲は既にないが、前か後ろかと言われれば後ろだろう。

前に立てば双剣(冷たい谷の踊り子)によって殺されるのだ。

 

しばらく彼女の消えて行った方向を見ていれば、グランの声が聞こえないことに気づいた。横を見れば、口元を半開きにしたまま私を見ている。

呆れのような、驚きのような色んな感情を混ぜた表情だが、なにかおかしな事をしただろうか?

 

口を開こうとし、戻ってきた彼女の声が聞こえたため閉じる。

 

「すいませーん!椅子通りますよー」

 

「……よーし、行くぞ」

 

ぶつくさ言っているが……なんなんだ?

 

「よし、お待たせしました!ご注文は?」

 

麦酒(ビール)2つと、なんか肉くれ」

 

酒場の隅の方の丸机に向かい、用意してもらった椅子に座ったところで、意気揚々とグランが答える。

 

「はい、麦酒2つとお肉ですねー」

 

彼女はグランから代金を受け取ると立ち去っていく。

 

「勝手に頼んだが、良かったか?」

 

「それはこちらのセリフだな。私は何も要らなかったのだが」

 

『不死』には飲み食いは必要ない。飲まず食わず、不眠でも死ぬことなく動き続けられる。精神的な疲労は溜まるには溜まるが、『篝火』でいくらか休息していれば消える。

娯楽的な意味で捉えても、そもそも私には味覚がない。『不死』は皆そうなのかは知らない(いや、苔やらを食べているのだから皆そうかもしれない)が、少なくとも私はそうだ。

 

つまり、食べれなくもないが意味がないのだ。

 

「いいのか?金に困ってそうだったから奢ってやろうと思ったんだが」

 

「それほどでもないからな。消えるばかりならば困るが、稼ぐ当てができたならばこれ(食事代)位は払える」

 

先の代金を見るに、依頼で得られた料金で十分支払える。

 

とまで考えたところで気づく。必要ないからと言って食べなければ『不死』とバレるかもしれない。

 

……人のいないところ、依頼中にでも食べてることにしておくか。

 

「腹が空いたら自分で食べるとも」

 

「……そうか。あ、ならいくつかいい場所を教えといてやろう。1番いいのは大通りのーーー」

 

グランから色々な料理店の名前と場所、それぞれの特徴を教えて貰いながら待つこと少し。

 

「お待たせしましたー!麦酒2つと雪狼(ホワイトウルフ)の煮込みでーす」

 

「おーきたきた、美味そうだなぁこれ!」

 

机に運ばれてきたのは底の深い皿によそられた煮込み料理。

エストスープに肉を詰め込んだようなものかだろうか。

 

グランは木製のスプーンとフォークでそれらを口に入れ、麦酒で流し込んでいく。

 

「ん……んぐ……ぷはぁ!うまい!」

 

実に美味そうに食べる男だ。きっと玉ねぎ戦士(カタリナ騎士ジークバルト)は気に入るだろうな。

 

それを見ながら私も麦酒を傾けるが、やはり味もしなければ酔いが回る感覚もない。

 

それでも私の視線は動かず、手は杯を掴んだままだった。

 

 

 

「……うし、じゃあそろそろ出してもらおうか」

 

麦酒を飲み干し、料理を少し残した辺りでグランは口を開いた。

なんのことかは言うまでもないだろう。

 

「いいだろう」

 

そう言って『ソウル』から『ジークの酒』をひとつ取り出す。

グランはそれを興味深げに見ている。

 

「秘蔵の酒、という訳でもないが、私のお気に入りだ」

 

「ほー、てっきり蜂蜜酒(ミード)の中でも高級な奴とかが出てくんだと思ったが……言っちゃ悪いが普通だな」

 

確かに蓋の付いた樽のような容器では、酒場の奥に置いてあるような色鮮やかな瓶のものと比べて安っぽいかもしれない。

 

「とある同輩が作ったものだからな。見た目まではこだわれていないが……飲んでみるといい」

 

グランの空ジョッキに半分ほど注いで差し出す。

グランはそれを手に取って、傾けて中を見たり匂いを嗅いだりしている。

 

「ふーむ、色は麦酒と似ているが……なんか臭くないかこれ?」

 

「そうなのか?」

 

生憎と嗅覚もほぼないからよく分からない。

『ジークの酒』の製法は知らないが、おそらく『エスト』が使われているのだろうから味は『エスト』とさほど変わらないはずだが。

 

グランはその臭いからか躊躇いがちにジョッキを持ち上げ、その液体に口をつけた。

 

「ッ!……うぅむ」

 

そして、一口飲んだあたりでいろんな感情が混ざり合ってどんな顔をしたら良いかわからないような複雑な表情で飲むのをやめた。

 

「どうだ?」

 

「くっそ不味い。馬の小便(しょうべん)みたいな味だ」

 

食い気味の返答であった。

そうか、小便の味がするのか。股から出るあの。

 

 

……小便かぁ。

 

 

「……実を言うと私は味覚が全くない。だから、それほど酷い味だとは思わなかったのだ。悪かった」

 

「さりげなく重いのぶっ込んでくんなお前さん……ま、気付け薬には丁度良い。死にそうなやつらなら喜んで飲むんじゃないか?」

 

さりげないフォローが胸に刺さる。

たとえ死にかけの者でも小便は流石に飲まないだろう。人が飲む物ではないのだから。

 

グランにだけ飲ませるのは良くないだろうと思い、私も容器に口をつけて飲む。

とは言っても味覚が蘇るとかはなく、いつも通りの無味無臭。そして僅かな熱が全身に広がる。

 

「この話聞いて良く一気にいけるな……」

 

「小便だと言われても味は感じないからな」

 

「いやでも、小便だぜ?」

 

「無論、良い物ではないのはわかっているとも。もう小便を人に飲ませはしない」

 

「いやぁ……死にかけの奴にはその小便飲ませても良いぞ?」

 

「小便なら逆ではないか?生きている者より死んでいる者に飲ませた方が合っているだろう」

 

不死者(アンデッド)にか?じゃあそりゃ聖水だな!小便だけに!」

 

「あまり意味がない気がするが。それならばーーー」

 

この会話は下品だと言われて給仕の女性に叩き出されるまで続いた。

 

 

 

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【ジークの酒】

カタリナのジークバルト謹製の酒。

樽のジョッキに満たされた旅用の品。

 

HPを回復し、一時的に冷気耐性も高める。

 

本来、不死人が酒を楽しめるはずもなく、

ジークバルトは何らかの工夫を凝らしたのだろう。

不死の時はあまりに長く、酒と謳歌が欲しいのだ。

 

「かの灰が愛飲していた酒。

製造元も製造者も不明であるため貴重な品ではあるが、

味はまるで人の小便のようで非常に不味い。

 

かの灰には味覚がないことといくら酒を飲んでも酔えないと言う話は有名だが、それでも灰を飲み会に誘う者は絶えず、灰もそれを拒みはしなかったと言う。

 

『不死』は人とは異なるが、人に近づこうとしていたのだ。

その行動は尊い物であると言えるだろう。

しかし、その決して実らぬ想いはかの灰にとって自身が『不死』であることを再認識させるのみであった。」

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『エスト』の味は調べたところ人間の尿の味のようです。公式に明言されているところを見た訳ではないですが。
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